悪役な令嬢ヴィオレッタのお茶会◇ヴィオレッタ視点◇
【短編を読んでいない方に解説】
ヴィオレッタは転生者で、この世界が乙女ゲームを元にした世界だと知っています。推しのアーテルルートを目指していましたが、色々あってただ今シーニールートを爆走中。見た目はご令嬢、中身は口が悪く残念な仕様になっている、癖の強い女の子です。
「ヴィオレッタ?今日の昼には、船に乗るというのに、いまだにメイドに帰省の準備をさせていないのですか?」
部屋でのんびりとお茶を飲んでいると、シーニーがやって来て、顰めっ面で言った。
「ええ。シーニーにやって貰おうと思って。」
「……あの……。何故です?」
ええ……何故ってさ、シーニーはやる事が無いと纏わりついてうざいんだよ……とは言えない。
「シーニーは私を籠の鳥にしたのでしょう?なら、責任を持って私のお世話するべきだと思うの。」
私がそう言ってニッコリ笑うと、シーニーは溜息を吐いてトランクを引っ張り出してきた。
「今からでは、だいぶ慌ただしいのですが?!」
「大丈夫よ。シーニーはデキる男だから!……じゃ、よろしくねー。……私、ローザとお茶を飲んでくるわ。」
ソファーから立ち上がり、部屋の出口に向かおうとすると、シーニーが私の腕を掴んだ。
「ヴィオレッタ?……あんまりではないですか?」
「あんまりじゃないわ?……私、シーニーの為にローザと仲良くしているのよ?」
不満げなシーニーの腕を取り、ソファーに座らせると、シーニーにしなだれかかる様にして座った。……シーニーは実にチョロい男なので、こういうのが大好きなのだ。……ヤンデレだけど。
「どういう意味です?」
うーん。まだ微妙に不機嫌だなぁ。
仕方ないので、シーニーの腕を無理やりに私の腰に回してみる。
「ローザは未来のお妃様じゃない?シーニーは未来の宰相様でしょう?だから、将来を考えて仲良くしているのよ。全部、将来のシーニーと私のためなの。」
「……ヴィオレッタ……!」
シーニーの腕に力がこもった。
あはははは。
……今世の私、マジ悪役かも。
「本当なら、今日はシーニーと一緒に荷造りしたかったのよ?……でも、昨夜のダンスパーティーで、ローザに何かあったらしくて、機嫌が悪いらしいのよ。……慰めて差し上げないと、ね?」
上目遣いでシーニーを見つめると、シーニーがそのまま顔を寄せてきたので、グッと手で押し返す。……色々はじまったらシーニーはしつこいし長いから、ヤメー!!!
……昨夜のダンスパーティーで、ローザに何かあったらしいのだ。あのぶりぶりっ子ローザをムカムカさせる様な何かが!!!……もうね、私ったら聞きたくってたまらないんですよ!
「ヴィオレッタ、手が邪魔です。」
「シーニー、シーニーが邪魔です。……そういう訳で、私はローザを、お慰めして来ますから、続きはまた今度ね?」
ちょっと不服そうにだが手を緩めてくれるシーニーが、ちょっと可愛い。……ヤンデレてない時のシーニーは極めて犬っぽい。……つまり尊いって事だ。
「シーニー、荷造りお願いね?……では、行ってきまーす。」
私はそう言うと、足取り軽くローザの部屋へと向かった。
◇◇◇
「ヴィオレッタ、聞いてっ!!!あのジョーヌって子、めっちゃあざといのよっ!!!」
私は慌ててお茶を飲み下した。
ヤベー、あと一歩で吹き出すとこだった。
あざといの権化たるローザにあざといって言わすって、どんだけだよ、ジョーヌ・アマレロ?!
「ええっと、何をされたの?」
「アーテルと腕を組んだらさ、あのジョーヌって子がハラハラと泣いちゃって、それを見たルージュが私が悪いみたいに言ったのよ?!……ルージュとアーテルで、必死であの子ばかり取りなして、誰も私をフォローしてくれなかったわ……。」
「へ、へぇ……。」
なんだそれ?!?!めっちゃ『ざまあ』じゃん?!
いつも私にローザがしてた事を、まんまされただけじゃん?!
くっそー!!!良いとこ見逃した感がすごい……。やるじゃん、ジョーヌ・アマレロ!!!
てかさ、婚約者の目の前でアーテルと腕を組むってさ……どんだけ嫌な女だよ、ローザ……。
ジョーヌ・アマレロもそんな事で泣くなよ?!って感じだけどさぁ……。でも、嫌な気持ちになるのは理解できる。私だって、目の前でローザがシーニーに絡みついたら、すごくイライラすると思う。その場で「汚物は消毒だー!!!」って叫んで火炎の魔術で吹っ飛ばしてやりたい程度にはムカつくと思うよ。……まぁ、実際はやらないと思うけど。………………多分。
「しかも、その話をね、ヴァイスとリュイにもしたら、ローザが悪いんじゃないのか……って。」
は、はぁ???
クソ王子とビビリ緑もジョーヌ・アマレロを庇ったの???
……やっぱ、胸か。
あいつら揃って巨乳好きなんかーーーい!!!
私の需要が無かったのって……やっぱ胸なのか???
「えーっと、ローザの、どこが悪いって言ったの?」
親身になるフリをして、ローザに優しく聞く。
本当は後学の為に、どうやってローザを陥れたのか、その手腕を教えていただきたい!
「あの子は、身分の低い子だから、嫌な思いをしても何も言えなくて、つい泣いちゃったんじゃないのかって。可哀想だよってまで言われたわ!」
……な、なるほど、その手があったのか……って、ただいまヴィオレッタは目からは、ウロコがボロボロと落ちております。……張り合うだけが能じゃないのね?!?!
確かに、いくらローザが優しそうな見た目とはいえ、身分の高いご令嬢が、身分の低い新参者のご令嬢を泣かしたら……いじめてる様にしか見えないっすね……。
ええ……こわっ!!!
私ってば悪役顔だし、あんまり身分が下の子にキツイ言い方すんの良しとこ。……ローザのやらかし、ためになるぅ!!!
しかもさぁ、ローザさんや……、ジョーヌ・アマレロってのが、さらに始末に悪いんだわ、それ。
クラスで見かける限り、アーテルとジョーヌ・アマレロはすごく仲が良い。貴族としてのマナー等に不慣れな面は少しあるけど、アーテルが丁寧にフォローしているから酷い失礼はないし、ジョーヌ・アマレロがアーテルの為にと健気に頑張ってる姿が良く見受けられているから、周りの好感度は高めなのだ。
嫌味ばっかりだったアーテルが丸くなったのは、ジョーヌ・アマレロのおかげ……なんてことも言われている。
非常識な子や、嫌われている子ならともかく、そんな健気な子を、泣くほど追い詰めてしまったのは……確かにマズイんじゃね……?
しかも、ルージュとリュイとは同じ班でお揃いのマフラーをしていた、仲良しトリオだ。学園祭でも協力して発表を成功させていたみたいだし、2人はジョーヌ・アマレロを信頼し、気に入っているのだろう。
特に、脳筋で親分肌のルージュは、何かあればジョーヌ・アマレロを庇う気がする。
「そ、そうなの。……嫌な感じね……?」
どうフォローすべきか分からずに、曖昧な事を言う。
……本来なら、もうローザはジョーヌ・アマレロにかまうべきではないと思う。だって全面的にローザが悪いし、ギャフンと言わせようとすればするほど、痛い目に遭いそうな予感しかしない。
まっ、私はフレミーだから、それを言ってやる気はないけどね!!!
ふはははは!!!
「ぶりっ子なんじゃないかしら?!あの子ってブスなのに、ちょっと調子に乗っているんだわ!!!」
うへぇ……。
ぶりっ子とか、お前が言うなよ!ってツッコミたくなるのを必死で我慢する。
「そ……そうね……。」
……ヤバかったが、なんとか同意の言葉を紡いだ。
私的には、ジョーヌ・アマレロはブスだとは思わない。……平凡な顔だとは思うが、それでも多分アレは可愛いって言われるタイプだ。
だって、男性は美人や可愛い子が大好きだが、残念ながらそれが全てではない。当たり前と言えば当たり前だが、いつもニコニコして優しい女の子だって好かれるんだよ!……そして、そういう女の子は、大概可愛いって言われてる。
その上、ジョーヌ・アマレロは乳がデカい!
……じゃなきゃ、こんなに美人の私が、シーニーにしかモテない筈がないだろーが!!!私の場合、極めて性格が悪いから、誰からも可愛いなんて言われないし、モテないんだよ!!!
ま、ちなみにだけど、私、性格をなおす気はないから。
ヤンデレルートでモテまくるとか、嫌なフラグしか立たないからね?!……別にコレ、負け惜しみじゃないかんな?!
それと……。乳が小さいからモテないんじゃね……とか思ったヤツ、表に出ろ。まとめて魔術でギッタンギッタンのボッコボコにしてやる!!!
「今はさ、あのメッキの子……ラランジャって言ったかしら?あの子の事もね、ジョーヌに付けてるから、気易く使うなってヴァイスに釘を刺されているの。……あの子、気が利くから便利だったのに。それも思い出したら、さらにムカついてきたのよね……。」
ラランジャ・オランジェ……最近、見かけないと思ってたら、あの子、ジョーヌ・アマレロに付けられてたの?
どーりで、ローザのヤツ、私に色々と頼んでくると思ってたよ……。私はさぁ、あんたのパシリじゃねーっての!!!って内心ムカついてたんだけど、そーゆー事でしたか。
……まあね、アーテルはヴァイスに次ぐ立場だし、将来的に奥さんになるだろう、ジョーヌ・アマレロに、誰かを付けとくのは分かるけどさ……。
……ん???
それ、本当に???本当にジョーヌ・アマレロはただアーテルの奥さんになるだけ、かな?
現在、乙女ゲームのヒロインであるローザはヴァイスルートだ。だからヴァイスが国王になる事に疑問を思って無かったけど……。
本当に、そうなのだろうか?
私はアーテルルートに入れなかった。(気付いたらシーニールートを爆走してたしね?)だけど、乙女ゲームでは、アーテルルートに入れば、アーテルが国王になるのだ。
……そのアーテルルートって、入るのはヒロインのローザじゃなきゃダメなのかな?今やジョーヌ・アマレロがアーテルルートに入っているよね……?
……。
へえ……なんだか面白い。
私は、雑にローザを励ますと、急いでシーニーの元へ帰った。
◇◇◇
「ねえ、シーニー。」
部屋に戻ると、シーニーは私のお洋服を丁寧に畳んで、スーツケースに詰めていた。
「早かったですね、ヴィオレッタ。」
「ええ。……あの、シーニー。……次の国王は本当にヴァイスなのかしら?うっかりアーテルになったりしない?」
私がそう聞くと、シーニーはピタリと手を止めた。
「ヴィオレッタ……何故そのような事を?」
乙女ゲームの知識があるから!……とは言えない。
「なんとなく……勘???かしら?」
「ヴィオレッタ、今のところはヴァイスです。……ただ、これは確定ではありません。今後、ヴァイスに何かあったり、問題が起きれば、国王はアーテルになるでしょう。以前は、いくらアーテルが優秀でも、それを渋る声は多かったので、よっぽどの事がない限り、ヴァイスでした。……しかし、最近のアーテルは、ずいぶんと変わりましたから……。」
ふーん……。やっぱりね……。
「ふーん。じゃあさ、私、アーテルの婚約者のジョーヌ・アマレロとも仲良くしといた方が、シーニーの役に立つかしら?」
シーニーが驚いた様な顔で私を見つめる。
「ヴィオレッタ何を企んでいるのですか?」
「ええ???企んでなんかいないわ?……ほら、ヴァイスなのかアーテルなのか知らないけど、シーニーはどっちが国王になっても宰相様になるでしょ???……だから私ね、ジョーヌ・アマレロにも優しくしとこうかなーって思って。」
私がそう言って微笑むと、シーニーは眉根を寄せた。
だってさ、万が一にもアーテル国王ルートがあるなら、ここはジョーヌ・アマレロにも良い顔しとくべきじゃん?
……あ、だからって、別にまだローザは切らないよ???たださ、ローザとのフレミー活動だけでなく、ジョーヌ・アマレロにも良い顔しといて、どっちが王妃になっても良いようにしとこーって思ったのよ。
シーニーと私の未来の為にね?
いわゆる二股ってヤツですよ。……ヤッベ、今世の私ってばマジ悪役。マジでコウモリ。
……人生2度目の、ズルい女でごめんよ?!
シーニーはほくそ笑む私を横目で見てため息を吐くと、粛々と荷造りを再開させた。




