テストの結果と、誤解?!
テストの結果は11位だった。
15位からは大躍進ではあったけど、難しくなってきた事もあってか、魔術の順位は下がってしまった。……めげそうになるが、ラランジャの言うように、悩むなら間違えた所を覚え直そうって、心に決めた。
魔術の順位が下がったのに、成績が上がった理由は二つ。
一つはやっぱり剣術の評価が上がった事だ。これはかなり大きかった。……断ろうと思っていたけど、騎士団のお祭り、やっぱり出ようかな?って、思っている。ちょっとズルいけどね。
二つ目は、教養科目で、アーテル君に次いで、2位になれた事だ。
……あまり重要視されてない教養科目だが、王子様をギリギリだけど抜けたのは、ちょっと気分が良かった。
でも……実は教養科目、前回ほどは頑張っていない。
魔術や礼法が嫌で、気分転換になるし、そんなに難しくないから……って理由で、どんどん問題を解いていくうちに、苦手だと思っていた所が減っていくという……『得意な教科って何故か、問題を解いてるだけで、更に得意になっちゃうんだよね?』っていう、あるあるが発動した結果だと思う。
「……ジョーヌちゃん。今回も、素晴らしい成績だね!」
アーテル君は貼り出された成績を、見ながらニコニコとそう言ってくれた。
ぶっちぎりで1位を取り続けているアーテル君だが、決して偉そうにはせず、いつも嫌味なく、私の頑張りを褒めてくれる。……そういうアーテル君がいてくれるから、頑張ろうって思えるのかも知れないなって、最近は思っている。
「ありがとう、アーテル君。なんかもう……ジョーヌはやり切った感がすごいよ!……明日から休暇でもいい感じ。」
「いやいや、明日のダンスパーティー、楽しもう?僕はすっごく楽しみにしているんだ。」
「……足、踏んだらごめんね?」
「踏み返すから、ごめん。」
顔を合わせて笑い合う。
足を踏んだら踏み返すっていうアーテル君の作戦?はなんとなく成功した。緊張して踊ってて、思わずアーテル君の足を踏むと、アーテル君がニヤッと笑って軽くだけど、踏み返してくるのだ。なんだかそれがおかしくて、力が抜ける。
力が抜けると、アーテル君のリードに乗りやすくなって、音楽もちゃんと耳に入ってきて、授業としては、こんなんじゃ、まだまだイマイチって評価されるだろうけど、アーテル君と踊るのは、だんだん楽しくなってきた。
……まあ、相変わらず、ドキドキはしちゃうんだけどね。
このドキドキも、いつか慣れるのかな???
「……そういえば、クリスマス休暇はどうするの?アーテル君は、また我が家に来る?」
「うーん。魅力的なお誘いなんだけど、この時期はすっごく忙しいから無理かな……。お休みも短いしね?……我が家にご挨拶に来て貰うって話も、また今度で良いかな?慌しすぎて、ちょっと難しそうなんだ。……でも手紙、書いてくれたらすごく嬉しい。返事は必ずは書けないかもだけど、できるだけ書くから。」
……そうか。
確かにこの時期は、庶民でもクリスマスやら年末年始にかこつけたパーティーやら、集まりが多い。……そういうのが仕事?みたいな貴族たちは更になのだろう。
……シュバルツ公爵家へのご挨拶の延期はちょっとありがたいが、アーテル君とまるで会えないのは、ちょっと寂しなぁ……。
「うん。お手紙書くよ!あ、あとクリスマスプレゼントも送るね?」
「ありがとう!……僕もプレゼントは送る気だったよ?楽しみにしてるし、楽しみにしててよね???」
「うん!」
そう言って、私たちはお休み前、最後の授業に向かった。
◇◇◇
「おい、ジョーヌ!ちょっと来い!」
授業が終わり、荷物を纏めているとルージュ様が来て、そう言うなり、私を引っ張って、物置になっている部屋に連行されてしまった。
「ど、どうしたの?ルージュ様?!……教室じゃ話せない事?」
「まあな。あの……。」
……。
……。
ルージュ様はそう言うなり、俯いて話さなくなってしまった。
「ルージュ様?……どうしたの?どこか悪いとか?」
いつも遠慮なくズケズケとモノを言うルージュ様が、こうして黙ってるなんて……どうしちゃったのだろうか。
「あの……。ジョーヌは明日のパーティー、誰と行くんだ?」
「はへっ?……アーテル君だよ???」
散々、言い淀んで聞いてきた質問が、あまりにもあんまりで、思わず変な声が出てしまった。
「本当に、アーテルと行くんだな?!」
「う。うん、そうだよ?婚約者がいる人は、みんなその人と行くんでしょ?決まりみたいなモンだって聞いたよ?……ルージュ様だって、ラランジャと行くんだよね?」
……。
……。
ルージュ様は何も言わずに目をギュッと閉じた。
「あ、あれ?……もしかして、ラランジャと喧嘩でもしたんですか?」
もしかして、パーティー前に何か喧嘩になって、仲裁してくれとか、そういう事かなぁ???
「……いや。違う。……。」
「……???」
「……お前はラランジャと親友みたいなモンだろ。」
「まあ、私はそのつもりですが……?」
えーっと???何なんだ、まるで話が見えない。
「なら、ラランジャの為に身を引いてやってくれ!」
ルージュ様はそう言うと、いきなり私の両手をギュッと握った。
はい……?身を引く???
えーと、身を引くも何も、ルージュ様にはこれっぽっちも思慕を寄せてはおりませんが?……いや、嫌いじゃないですけどね???
「別にルージュ様をお慕いしてませんよ?」
「それは知っている。……だが、仕方ないんだ!!!」
えーっと、まるで意味が分からない。
「俺とパーティーに行こう。俺の婚約者になればいい。ジョーヌの事は嫌いじゃないし、それなりに大切にする。」
「はいいい???」
思わず握られていた手を払う。
意味が不明すぎて、ちょっと気味が悪い。なんでいきなりルージュ様は私を婚約者にしようとしてきたんだ???
怪訝な顔で見つめると、ルージュ様は気まずそうに目を逸らした。
……。
……。
「その……。……ラランジャが、アーテルを慕っているんだ。」
「はっ?!」
「アーテルもラランジャに気があると思う。」
「は……い???」
え、えーっと……それ、どこ情報???
確かにアーテル君とラランジャは随分と親しくはしているけど、そういう感じにはまるで見えないよ???……てか、ラランジャ自身から、ルージュ様を好きな事を聞いてるし???
「知ってるか?ラランジャのヤツは、アーテルから、パーティーのドレスを貰ったらしい。」
「えーっと、もちろん知ってますよ?……私も貰いましたしね?」
そう言うと、ルージュ様は急に怒りだした。
なんなの、今日のルージュ様ったら感情の乱高下が激しすぎない?!
「なんて事だ!……アーテルのヤツは、やっぱり、ラランジャとジョーヌの二本立てなのか!くそっ、そうなるとラランジャを側室にでもする気なのか?!……アイツ、すでに王にでもなったつもりか?!……アーテルのヤツ、モテるからって最悪だなっ!!!」
「……あのー?何ですか、それ?……アーテル君はラランジャを側室になんてしませんよ?!」
だって、アーテル君もラランジャがルージュ様を慕っているのは知ってるんだって。……主にお昼の女子トークで。
最近じゃ、ラランジャだってバレてるの知ってるから、延々とルージュ様ネタを話してたりするし。
……おかげで私とアーテル君はルージュ様のパジャマの柄まで知ってますよ。(下着でウロつくなってアーテル君に言われて、ラランジャにパジャマを買ってこさせたらしい。)
「あのな、男がドレスを贈る理由は脱がせたいからに決まっているだろう?!」
「は?……はあっ?!そんなの、ルージュ様だけですって!そんな不埒な考えでドレスを贈る人の方が少数派です!!!」
まあ、脱がすよりも、嫁にする為の準備としてドレスをくれるアーテル君の方がもっとブッ飛んでますけどね……。
「いや、父上がそうおっしゃっていた!!!間違いなどない!」
いやいや、どーゆー理屈よ。
……脳筋の親はやはり脳筋なの?!?!
「ルージュ様、落ち着いて下さい。そういうの、聞いた事がない訳じゃないですけど、今回はまるで違いますからね?……ラランジャに私がお世話になってるからって、みんな憧れてる仕立て屋さんだし、一緒にどう?ってなっただけで……。」
「あのな、ジョーヌ、悪いがラランジャは美人だろ。」
「はあ。……まあ、そうですね。」
「あんな美しいドレス着たラランジャを、もはや脱がせる以外に何をしろと?」
……。
……。
「あっ、あの!!!普通は、ダンスするんじゃないんですか?ダンスパーティーですよね?!……そういう、モヤモヤなエロ話は男同士……リュイ様とでもして下さいよ!!!ルージュ様のエロい妄想になんか、私は付き合いきれません!!!」
「いや、まあ、エロい妄想は失礼した。だがな、ジョーヌかラランジャかってなったら、ラランジャ一択だろ?……つまり、近々ジョーヌはアーテルに捨てられるんだ。それをわざわざリュイに言うほど、俺は意地悪くはないんだぞ?……俺はな、昔からラランジャの恋愛を応援してやると決めていたんだ。だから、しゃーない、ラランジャの恋の邪魔になるお前を引き受けてやるって、話じゃないか?」
え、えーっと???
……なんか、ルージュ様って、めっちゃ拗らせてる???
「ルージュ様、誤解ですって、ラランジャもアーテル君もどっちも違いますから!」
「ジョーヌ……お前がそう思いたいだけなんだよ。……ラランジャは美人で気も利いて、頭もいい。『メッキ』なんてバカにする奴もいるが、素晴らしい女性なんだ。ラランジャの良さに気づいたら、みんな好きになるに決まっているだろう?……可哀想なジョーヌ……相手が悪すぎた。美人なだけで性格の悪いヴィオレッタなら、お前を選ぶ事もあるだろうが、ラランジャは性格も良いからな?……アーテルも今はまだお前の方を大切にしているみたいだが、直にラランジャが良くなる……!」
ルージュ様はそう言うと、いきなり私をガシッと抱き寄せた。
「俺の胸を貸してやるから、泣いてもいいんだぞ……!少なくとも、俺は泣く……!」
な、なにこれ……。
完全に嫁に逃げられたダメ旦那じゃないですか?!?!
「う……。うう……。ラランジャ……。」
「えーっと、泣かないでくださいよ。ルージュ様。それは誤解なんで……ウグッ!!!」
励まして誤解だと伝えようとすると、さらにギューっと抱きしめられた。これはアレだ……泣きながら寝る時に、私が毛布にするみたいな感じ?!
痛い、痛い、痛いーーー!!!ジョーヌが折れちゃいますって!!!毛布じゃないんだから、潰れちゃうよ?!しかも、持ち上がってます!!!足、足が床についてないって!!!
「うう……。ラランジャ……。……ヒクッ。」
お構いなしにルージュ様は嗚咽を漏らし、私の頭に生暖かい涙をボタボタと落としている。
「ルージュ様、離して、ほんと苦しい……潰れるっ!!!」
そう言って、ジタバタともがいていると、ガラッとドアが開いた。
「……ジョーヌちゃん、いる?……え。」
振り返ると、アーテル君が驚いた顔で私たちを見つめていた……。




