魔術の勉強方法と、ドレスの事情?!
学園祭が終わると、魔術の授業は更に難しくなった。
「はぁ……最早ついていけてない?」
授業でやった小テストを見つめ、溜息を吐く。
50点かぁ……。せめて60点は取りたかったなぁ。結構、頑張ってるのになぁ……。
みんな子供の頃から学習してきてるんだ。そう簡単に追いつけない事くらい分かってたし、腐らずに頑張ろうって思ってたけど……なんだか挫けそう。
テストを鞄にしまい、カフェテラスのテーブルに突っ伏した。もう見たくない……。
明日はお休みだし、もう、やる気が出ない……。
「ジョーヌ、お疲れだね?お待たせ。」
「あ、ラランジャ。……なんかさ、魔術が難しくて。はうー……。ラランジャは魔術を勉強しはじめて数年でしょ???何かさ、こう……勉強する上でのコツみたいなのってある?」
「うーん……コツかぁ。」
今日は授業が半日で終わりだし、アーテル君は図書館のボランティア活動の日だから、ラランジャとカフェテリアでお茶でもして帰ろと話し、待ち合わせていたのだ。……学園祭の誘拐事件?の後、王子様が直々にラランジャに、なるべく私に付いている様に……との指示を出したってのもある。
そんな訳で、ローザ様やヴィオレッタ様とのお付き合い(という名のパシリ)が減り、ラランジャはたいそう喜んでいる。最近ではラランジャからも、『奥様』って呼ばれそうな勢いだ……。
「そうだなぁ。……私もさ、最初は訳が分からなくて……。特に古代語とか。」
!!!
ラランジャも、やっぱりそこで躓いていたんだ?!思わず身を乗り出す。
「それで?!それでどうしたの?!ラランジャ、今や魔術の成績は真ん中より前にいるよね?!」
リュイ様によると、ラランジャは天才型だと言っていたが……やっぱり苦労はしてたんだ?!
なんとなくホッとする。数年で真ん中より前に行くって、ラランジャがすごすぎる気はするけど、ちょっと希望が見えた?!
「うん。だからね……もう考えるのはやめたの。とりあえず、丸暗記だよね。」
「え?……考えるの、やめた???丸暗記???」
「そう。……いくら考えても考えても分からないから、分からなくていいやって割り切ってさ、ひたすら丸暗記したんだよ。ただただ、こういうモンなんだって割り切ってね?」
ラランジャの言う事は分かる。……で、でも???
「ラランジャ、それだとさ、一時的には成績は上がるかもだけど、応用は効かないよね?理屈が分からなきゃ、本当の意味では出来るようにならないんじゃない?」
「うん。そうだよね。そう思うよね。……でもさ、私はさ丸暗記でも良いやって思ってやる事にしたの。だって、分からない理解できないって言って、立ち止まってられないでしょ?」
まあ……。確かに。そうなんだけど……。
「あ、ジョーヌ、すっごく不服そうな顔!……でもね、この話には続きがあります。」
「……続き?」
「そう。……あのね、私さ沢山の魔法陣を沢山書いて、沢山丸暗記したのね?……そうしたら、ある時さ……あれ?もしかして、この場合、こうしたら良いのかも?って気付く様になったの。自分で書いた魔法陣も、こうした方がいいのかも?とか、なんか違和感があるから、どっか間違えてるのかも?ってね。」
「え???」
「ジョーヌ、あのね。丸暗記って、意味もわからずにやってて、馬鹿みたいかもだけど、続けていくと、ある時、頭の中でその丸暗記同士が繋がるんだよ?……あ、そうだったんだ!って理解できる様になるの。……ダンスなんかもさ、最初はひたすら真似するでしょ?きっとそれと同じで、体で覚えるって感じなんだと思う。」
……。
……。
「なんとなく、言ってる事は分かる気がする。」
そう言われてみると、外国語なんかも、最初はひたすら書き取りをしたり、読んだり話したりして身に着けていった気がする。私の場合『外国語を身に着けたい!外国に留学したい!』って気持ちも強かったから、それを無意味とは思っていなかったけど……挨拶や定型文は理屈より先に、丸暗記だった。そうして、それから文法なんかの理屈がついてきたって気がする。
「……ジョーヌはさ、ちょっと魔術を深く考えすぎなんだよ。……ま、アーテル様の手前、焦る気持ちも分かるんだけどさ、もっとじっくりでいいと思うよ。……それと、チラッと見えたよ小テスト。」
「はへっ?!」
げ。見られてた?!?!
「鞄にしまってたけど、それ、どーするつもり?……闇に葬るの???」
ラランジャの目が鋭く光る。
「う……うーん……。頑張ったの。頑張ったんだけどさ、50点しか取れなかったし……もう見たくないなぁって思って。アーテル君になんて見せられないし……。」
「あのさ。……ルージュ様が算術のテストでそんな事したら、ジョーヌ先生はどう思う?テストって何の為にあるって思うの?」
あ……。
そ、そうだ……私、あまりにも『いい点数』を取りたくて、肝心な事を忘れていた……。
「そうだね、ラランジャ……。テストは分からない所を確認するためにやるんだよね。いい点を取る為にやるんじゃない……。」
「さすが、教養科目の優等生!……そうだよ?テストで大切なのは、正解できた所じゃなく、間違えた所なんだよね?間違えた所が理解できてない……取り組むべき課題って事なの。かつ、テストに出たってことは重要なわけ。……つまりジョーヌがやるべき事は???」
「この小テストで間違えた所を、徹底的に覚える。」
「正解!……そうやって、少しずつ苦手とか分からないとこを潰していくんだよ。分からない、出来ないって悩むなら、不正解だったところを正しく10回でも書き取った方がいいの。そうでもしなきゃ、10年以上魔術を習ってきてる子になんて、近づけないんだよ。」
ラランジャって……すごい!!!
「うん!頑張る!ありがとう!めげてる時間が勿体ないね!」
「そう!だから、気を取り直して……ケーキ、食べない?!今週、疲れちゃった。息抜きも大切だし?!」
ラランジャが真剣にそう言ったので、私は吹き出してしまった。
◇◇◇
「そういえば、再来月にダンスパーティーがあるって、ジョーヌ知ってる?」
頼んだケーキを食べつつ、ラランジャが聞いてきた。
「え???ダンスパーティ???」
「ほら、再来月はまた試験があるでしょ?その後にクリスマス休暇に入るじゃない???その前に、学園でもパーティーがあるんだよね?」
……えっと……そうか、また試験があるのか……。
しかもその後、ダンスパーティ?!?!
「なにそれ……どっちも嫌ぁ……。」
「えええ???何で???試験はともかく、パーティ素敵じゃない?アーテル様と踊るんだよ???張り切りなって!私もさ、ルージュ様と踊れるの、楽しみなんだ!」
ラランジャはそう言うと、下着の王子様とのダンスを夢見てウットリと顔を緩めた。
「ラランジャはダンスが得意だからそう思うんだよ。私はダンス嫌いだし、試験もあるから、気がズーンって重いよ。」
アーテル君とたまにダンスは練習してるけど……アーテル君が上手いから何とかなってるだけで、あんまり好きじゃない。足とか踏んじゃうのも、申し訳ないし。……それに、体が密着しすぎてるのも、なんだか気恥ずかしい。
「うーん。そっか……。あ!でもさ、ドレスは?ドレス、仕立てるんでしょ???……そういうの、ワクワクしない???」
「えええ……。ドレスかぁ……。ドレス嫌い……。」
忘れもしない、晩餐会のエロドレスに、ガーデンパーティーで着せられた妊婦ドレス。
ドレスには良い印象がまるで無いのだ。
「そうなの?!……普段はお買い物好きじゃん???」
「好きだけど……ドレスはいい印象が無いもん。まるで似合う気がしないし……。」
「ええ???一緒に見に行こうよ?……なんかね来週、王都から仕立て屋さんが何軒も来て、受注会があるんだって!みんな仕立てるから、学園にある仕立て屋さんだけじゃ間に合わないらしくって。有名店もくるらしいよ?」
「ドレスは一番値段が安くて、エロくないのでいいよ……。」
私が投げやりにそう言うと、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「……それはダメだって。」
振り返るとアーテル君が苦笑している。
「アーテル君?!もうボランティア終わったの?」
「まーね?お茶飲んでくるだけだし。そうそう、ヴァイスに『幸運の壺』渡してきたよ?『なんだこれは?!』って言ってたけど『この間のお礼。幸運の壺だよ。僕も持ってる。成績が上がったのはこれのおかげかな……。』って遠い目をして言ったら、大切そうに持って帰ってた。」
……さすが詐欺師。
『幸運の壺』は誘拐事件のお礼にと、姉さん経由で姉さんの彼氏にお願いして取り寄せてもらった眉唾ものの壺だ。姉さんも彼氏も『これ、詐欺に使うものじゃないかな……?』って言ってたけど、キラッキラでいかにも効果がありそうな感じがイイ!とアーテル君が気に入って王子様へのプレゼントとして買ったのだ。もちろん姉さんの彼氏経由なので、格安で。
「そっか……気に入ってくれたなら良かったよ。……てかさ、『ダメ』って、アーテル君は何としても私にエロドレスを着せる気なの?!」
「そりゃー、ジョーヌちゃんにはエロドレスは着て貰わなきゃ困るよ?!君からエロドレスを取ったら何が残るの?!」
「酷い!!!」
「ウソ、ウソ、冗談だって。……安物はダメって事だよ?……あのさ、ジョーヌちゃんはシュバルツ公爵家の婚約者ですからね?安物を着てもらっては困るんです。」
アーテル君はそう言うと、私とラランジャが座っている席に腰を掛け、給仕さんにお茶をお願いする。
「でも!勿体ないよ?一度しか着ないんでしょ?」
「うーん。分かるんだけどさ、貴族って、そういうモンだからね。……それにね、今回からはジョーヌちゃんのドレス代は我が家で持つつもりなんだよ。仕立て屋も特別なとこに頼んでいるしね?……あ、うちのジョーヌがいつもお世話になってるし、ラランジャさんにもプレゼントしたいんだけど、どうかな?……メゾン『アルカンシエル』で頼むつもりなんだけど、嫌じゃなければ……。」
「え?!……メゾン『アルカンシエル』???……さ、さすが、シュバルツ家!嬉しいです!ぜ、ぜひお願いします!!!」
ラランジャが目を輝かせた。
「んんん……?そのメゾンなんとかって有名なの???」
「ジョーヌ?!知らないの?!みんなの憧れのお店だよ。もう新規の顧客は何年も取ってない、老舗の有名仕立て屋さんなんだよ!特に今の代はデザインも仕立ても素晴らしくって、そこのドレスを着るだけで100倍美しくなれるって言われてるんだから!……王室御用達で、ローザ様だって憧れているけど、そこのドレスは数枚しかお持ちじゃないの。本当に特別なお店なんだから!」
「へぇ……。そうなんだ。高そう……。」
「高くはないんだよ、ジョーヌちゃん。あの素晴らしい技術を持ってすれば、しかるべき値段なんだ。……とにかく今回から、ジョーヌちゃんのドレスはそこで作ってもらう事になってるの。……いろいろ準備できるからね?……今度、採寸に来てもらうから、ラランジャさんも、その時に呼ぶね?」
「はい!楽しみにしてます!!!」
ラランジャは嬉しそうに答えた。
……。
「あのさ、アーテル君???いろいろ準備できるって……どういう意味?」
何だか妙に引っかかって聞いてみる。
「……。ジョーヌちゃん、どんどんお利巧さんになってくね?……ほら、この先も、ドレスが必要になるでしょ???だからね???」
「……カードあるし、特別なお店なんでしょ?別に必ずそこに頼まなくても……。今回はラランジャも喜んでるし、せっかくだから甘えさせてもらおうかなって思うけど、安物がダメなら高いのを自分で買うよ?……ケチるなって姉さんには言われてるしさ……。私が貧乏性で安物で済まそうとしただけだし、お金が無い訳じゃないんだよ???」
私がそう言うと、アーテル君が急に焦って私の肩に手を置いた。
「ダ、ダメです。ドレス代は僕が出すんで、今後はこのお店で作って貰わなきゃ困るの!」
「だからさ、何で???」
アーテル君の目をジッと見つめて尋ねると、パッと目を逸らす。
なんだか……あやしい……。
「……その、我が家の仕立て屋は代々その店だから、ジョーヌちゃんの場合も、そこでお願いする事になるんだよね。……デザインから作製まで相当な時間がかかるから、ジョーヌちゃんの寸法やらイメージや好みを早めに把握しておきたいって言われてるんだ。だから、できるだけここで頼まないとなんだよね……。ほら一生に一度だし、気合入れたいだろ……。」
???
私が首を傾げていると、ラランジャがニッコリと笑って言った。
「成る程!!!ジョーヌのウエディングドレスは、メゾン『アルカンシエル』の製作になるって事なんですね?!うわぁぁ……素敵!!!……まさにロイヤルウェディング、ですね。」
!!!
はいぃぃ……?!?!?!
補足:短編をお読みいただけると分かるのですが、この世界は『乙女ゲーム』がベースになっています。その為、クリスマスもあるし、学園も4月始まりだったりまします。
本日は記念日なので(私が『小説家になろう』さんで、投稿をはじめて、ちょうど1年目になりました!)、今日は頑張って、あと2話更新する予定です!地味な記念ですが、お楽しみいただけたらと思います。




