学園祭は、大成功?!
私たちの班の模型を使った出し物は大成功だった。
自分で器用だと言っていただけあって、リュイ様指導の下に作った学園の模型は精密で素晴らしい出来だったし、だからこそ、それを怖ろしい魔物から私たち3人が魔術を使って守る!っていう設定が受けて、発表は大歓声に包まれた。
多くの人から、「見せ方が良くて素晴らしかった!」「模型がリアルで思わず引き込まれた!」と褒めていただき、私たち3人は陰でハイタッチして成功を喜び合った。
その後、私たちは3人で、アーテル君たちのお花を降らせる魔術を見に行く事にした。ルージュ様とリュイ様は王子様の側近なので、特別に席があるらしい。そこに私の席を無理矢理作ってくれると言ってくれたのだ。
中庭にいくと、観客席も生徒の席も人で溢れていた。
「凄い人ですね。」
「まあ、ヴァイス見たさに来てる奴らも多いからな?……わが国のイケメン王子だし。」
「降らせたお花は持って帰っていいらしいし、すごい魔術だから、みんな興味深々なんだよ。」
特別席で始まるのをワクワクと待っていると、しばらくして、キラキラしい衣装を着た3人が、何故か歌いながら出てきた。
「え……。なにあれ。何でアーテル君たち歌ってるの?魔術の発表、だよね???」
思わず驚いてリュイ様に聞く。
「あ、なんかヴィオレッタがプロデュースした演出らしいよ?シーニーがやたら張り切ってた。アイドルのコンサート風?らしい。」
……へ、へぇ……。
アイドル……ねぇ。
キャーキャーと黄色い声が上がり、みんな必死で手を振ってるけど……。衣装は、やらたらとヒラヒラでキラキラしていて、胸元がやたらと開いている。
……う、うん……。
王子様は好きそうだし、シーニー様はヴィオレッタ様のプロデュースだからまぁ分かるとして、アーテル君……よく着たな……。あれ……。
「……良かった、僕、あんな格好しないで済んで。」
リュイ様が隣でボソッと言った。
よく見ると、アーテル君は笑顔を振り撒いているが、目がまるで笑っていない。むしろ死んでいる。……きっと2人に押し切られたのだろう。
「いや、カッコいいだろ?!あの衣装。……シーニーはもっと鍛えたら、さらに衣装が似合うのになぁ。」
?!?!
ルージュ様があっけらかんと言う。
「……ルージュって、やっぱり安定の脱ぎたい系男子なの?……いるよね、すぐ上半身を脱ぐヤツ……。」
「いますね、そういう男性。……鍛えてると見せたくなるんですかね?見たくないですよね……?」
私とリュイ様でコソコソとルージュ様を悪く言った。
「はあっ?!お前らが少数派なんじゃねーの?!……ヴァイスたちはキャーキャー言われてるじゃんかよ。……俺もさっきの発表で脱げば良かったかな?」
「ええっ?!やめてよ!……ジョーヌさん、僕らが先に発表で良かったね。じゃなきゃ影響されてルージュのヤツ、発表の時に脱いでたかもよ?」
「うわぁ……。嫌ですね。あの発表で脱ぐとか、意味不明すぎて、評価が下がっちゃうとこでした。」
私たちが嫌な顔をでそう言うと、ルージュ様は溜息を吐いた。
「俺らも、ヴァイスたちの班みたいに、女の子にキャーキャー騒がれたかったなって話だろ?せめてリュイは同意しろよ……。俺が変態みたいだろ……。」
「いや、いきなり脱いだら変態だよ。」
「女子に騒がれたいなら、私がいますよ?!……脱がなくても無料でキャーキャー言います!」
「ジョーヌじゃなぁ……。お、始まるぞ?!」
3人は歌いながら中央までやってくると、自己紹介を始めた。
「こんにちは!ヴァイス・アルブスです!今日は見に来てくれてありがとうございます!……メンバーを紹介しますね!こちらが、アーテル・シュバルツで、こちらは、シーニー・ブラウです!どうぞ、よろしくお願いします!!!」
王子様がそう言うと、観客席は歓声に包まれる。
3人は、まるで仲がよさそうに、笑顔で繋いだ手を上げて歓声に応えた。
……うわぁ。
なんだか休暇で我が家にアーテル君が来た時に、疲れ切っていた理由が分かる気がするよ……。これは……辛いわ。
王子様も、いつもの顰めっ面ドコ行った……。
「では、私たちの魔術を見ていって下さい!」
王子様がそう言うと、アーテル君が真ん中に行き、なんだか凄く難しい魔法陣が書かれているだろう、大きめの羊皮紙を握りグッと魔力を込め、それを放出させる。
そのタイミングに合わせるように、両脇にいる2人も魔法陣に魔力を込め、放出した……。
ブワッと風が起こり、沢山の花が空に舞い上がる。……黄色のいろいろな種類の花か空から降りてくる……。
「うわぁ……。すごい!!!綺麗!!!」
みんなは空を見上げて、落ちてくる花に手を伸ばす。
「うわぁ。全部、黄色の花にしたんだ……。」
「さすがアーテル、バカップルの彼氏だな……。」
2人が呆れた様に呟いていたが、私は落ちてくるデッカい向日葵をなんとかキャッチしようと必死だった。
アーテル君たちの発表も、大成功に終わり……私たちは、最後にしてメインイベントである、騎士団との練習試合に、闘技場へと向かった。
◇◇◇
剣術の練習試合は、メインイベントにふさわしい盛り上がりをみせていて、実際に見ると興奮するのが分かるほど迫力があった。
アーテル君とルージュ様は危なげなく勝てたが、リュイ様がかなり苦戦して、アーテル君とルージュ様と3人で必死に応援し、なんとか勝っていた。
そうして……私の番がやってきたのだが……。
「黄色い魔物め!お前を倒してやる!」
「?!?!」
キーシー君と私の試合が始まってすぐに、キーシー君は私にハリボテの剣を向けると、そう叫びながら突進してきた。
ひっ、ひえっ?!
いきなりすぎないっ?!
慌てて逃げ回る。
……ええっ?!何でキーシー君?!何でいきなり?!
いや試合、試合だからっ?!
着ぐるみのくせに、デカくて迫力があるし、スピードもあって、剣を抱えたまま半泣きで逃げ惑う。
キーシー君、見た目より凶悪すぎるよぉ……!
「ジョーヌ!シッポを狙えー!」
馬鹿でかいルージュ様の叫び声が聞こえてくる。
はひっ?!シッポ?!
振り返ってキーシー君を見るが……シッポって背中に付いてるんじゃん!回り込むなんて不可能だよ?!着ぐるみのくせに、すごい早いし!
アーテル君と毎朝走っててよかったよ。じゃなきゃサックリやられてました。
「いやぁーーーん。無理無理、ルージュ様!怖いしシッポなんか狙う余裕ないってぇーーー!!!」
思わず叫ぶと、会場からドッと笑いが起こる。
「黄色い魔物め!俺の弱点であるシッポを狙う気か!どこまでも悪いヤツだな!」
キーシー君は剣先を私に向けてそう言う。
ええっ!もーやだぁ。あんまり魔物扱いしないでよ……!
このままじゃ、なんか悪役にされちゃうし、ますますアーテル君が魔王とか言われちゃうじゃない?!
「キーシー君こそ、魔物なんじゃないの!!!……『この私、ジョーヌ・アマレロが学園を魔物から守る!お前など、返り討ちにしてやるわ!』」
私は思わずビシッと受けて立ってしまった。
ううっ……。さっき、魔術の発表で使ったセリフが思わず出ちゃったよ……。
ジリジリと私とキーシー君は睨み合う。
よ、よし……。そうしたら……。
キーシー君が突撃してくるのをヒラっと避けて、シッポをグサーってして、アンアン言わせて、私の勝ち……!
勝利の法則が見えたわ!!!
キーシー君が剣を構える。
ところで、どーでも良いけど、騎士団はサーベルを使っているのに、何でキーシー君は両手剣なの?!……まあ良いけどさ?
ふと、正面を見つめると……すでに目の前にキーシー君が居た。
「はうっ?」
『お、おい?!避けろよ?!』
キーシー君の中の人の焦った声が聞こえたその瞬間、私はキーシー君の体当たりを受けて、吹っ飛ばされてしまった……。
……。
……。
い、いたたたた……。
ヨロヨロと起き上がると、キーシー君が慌てて走ってくる。
や、やばいトドメを刺される?!焦るがあちこちが痛くて、なかなか起き上がれない。足も捻ってしまったようだ。
『……大丈夫か?』
キーシー君は近づいてくると、中の人が気遣わしげに尋ねた。
……。
……。
隙あり!!!
私はパッと立ち上がり、キーシー君の背中に回って、フサフサしたシッポに剣を突き立てた。
「ああぁーーーーーん!!!」
キーシー君が喘ぐと、会場から歓声が沸いた。
「勝者!ジョーヌ・アマレロ!」
審判さんがそう声を上げ、私の勝利が確定した。
◇◇◇
試合が終わり、ヒョコヒョコと足を引きずり控室に向かった。
試合で着た鎧モドキも脱ぎたい。……ドロドロだし足、腫れてそう……かなり痛い。
それに、完全にお笑いキャラだった。
帰ってからのアーテル君の反応が怖い……。
「おーい、ジョーヌ・アマレロ!……大丈夫か?!」
不意に声をかけられ振り返ると、灰色の髪に灰色の目の、少しヨレヨレっとしたオッサンが立っていた。……とは言え、なかなかのイケオジだけど。
「えっと……誰ですか?」
「あ、そうだよな?……俺がキーシー君の中身だ。……グライス・グラウという。……足、捻っていたよな……?見せてみろ。」
キーシー君の中の人か……。
グライスさんはズンズンと近づいてくる。
……あ、すごく背が高い……。
確かにキーシー君はデカかったなぁ。
「あ、あの……。不意打ちしちゃってすみませんでした。」
「いや、盛り上がったから構わないさ。とにかく見せろ。子供で、しかも女性を怪我させるとか、すごく気分が悪いんだ。」
グライスさんはそう言うと、いきなり私を抱き上げた。
?!?!
「え?!」
「痛いだろ?……控室まで行こう。ここでは椅子も無い。」
「ありがとうございます?」
だけどグライスさんは、その場で何かブツブツとひとりごと?を呟きはじめる。
……えーと控室、行くんじゃないのかな?
「ジョーヌちゃん、大丈夫?!」
アーテル君が慌ててやって来て、声をかけてくれた。
グライスさんは、私を抱き上げたまま、ゆっくりと振り返る。
「え……?!……グライス……先……生?」
アーテル君が驚いた顔で、グライスさんを見つめる。
「久しぶりだな!アーテル!……おっと、転移が始まったから、またな!」
グライスさんが笑いながらそう言うと、私たちは湧き上がる光に全身がつつまれ……気がつくと、控室に着いていた。
ポカンとした顔のアーテル君を残して……。




