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ファーストキスは、何の味?!

「は……い???」


思わず、アーテル君を見つめる。

……今、お嫁さんになってもらうって言った???


「えーと……???私、アーテル君のお嫁さんになるの?」


「え?!ダメ?!……僕ら、割とお話は弾んでるよね?」


「え???えっ???……ど、どうして?いきなり???」


「いきなりじゃないよ。僕はさ、船着場でジョーヌちゃんを見つけて、あ!いい子がいた!僕のお嫁さんにしよう!って思ったんだ。」


???


「えっと……な、何で???」


こう言ってはナンだけど、私ってば、特に一目惚れされるような容姿ではないよね?母さんみたいな美人なら分かるけど?しかも、船着場で父さんと情けなくグズグズと泣いてただけだし?言っちゃーなんですが、私と父さんは泣き汚い事に定評がありますからね?


そもそも、アーテル君みたいなイケメンさんなら、お嫁さんなんか選り取り見取りなんじゃないかなぁ……?アーテル君ほどじゃないけど、ちょっと美形な私の兄さんにだって「嫁さんにして!」って女の子が押しかけてくる位だし。


「実はね、僕らの学年には、女の子はキミを含めても7人しかいないんだ。……だけど、これでも今年はすごく多い方なんだよね。」


え???


そう言われて見ると、船着場でも、女の子は殆ど見かけなかった気がする……。


「女の子、少ないんですね?」


男性の方が生まれる確率はやや高いと聞くが、普通だと、だいたい半分は女性になるはず……。魔法学園は確か、ひと学年が20人くらいだって『入学のしおり』に書かれていた。だから、10人前後は居ないとおかしいから……ちょっと少ない気がする。


「そうなんだよ!……どの家もさ、どっちかって言ったら跡取りになる男の子が欲しいから、貴族たちが魔術で出生をコントロールした結果がこれなんだ。そうしたらね、この国の貴族の女の子が、すごーく少なくなっちゃったんだよね?……王子様のヴァイスが生まれた事で、未来の王妃狙いで、僕らの学年だけは、わりと増えたけど、直ぐにローザって言う侯爵家のご令嬢が内定しちゃったから、また男ばっかに戻っちゃってるんだよね。魔術学園全体でも女の子は15人しか居ないんだよ……?!って訳で、ジョーヌちゃん。僕と婚約して結婚しませんか?!」


「は、はいっ?!」


アーテル君がニコニコと私の手を握る。


「だってさー、目ぼしい子はもう、売約済みなんだよ。僕ってほら、魔王になるとか意地悪言われてるしさぁ、家格は良いのに、お嫁さんが決まらないんだよね?……それに僕だって好みはあるし、やっぱり気にいった子にしたいんだよね?……だから、どーしよーかなーって悩んでいたんだ。ほら、学園に入っても、社交界と同じメンツだし、新たな出会いなんか無いと思ってたからさぁ。でも、そんな事を考えながら、船着場にやってきたら、なんとラッキー!キミがいた!……一応、キミだって魔力持ちで貴族の子だろ?ちょっと男爵家ってのは格下すぎるけど、これはこの際仕方ないからね。何より僕はジョーヌちゃんが気に入ったし、問題無いんだ。……だからね、僕と結婚して、子供を産んでくれない?……ね?いーでしょ???」


な、な、な、なんですか、それ???


「い、嫌ですよ。まだ私、アーテル君をよく知らないし……。」


「えー?自己紹介したじゃん。……それにさぁ、手っ取り早く僕と婚約しちゃった方がおすすめだよ?ほら、中には無理矢理って奴もいるし?特に上の学年にいくほど、お嫁さん候補や婚約者のいない崖っぷちな奴らばっかりだからね。貴族はだいたい20歳くらいで結婚するんだけど、今は男ばっかり余ってるの。……お家の存続の為には、どーしたって魔力有りの子供が必要だから、みんな切羽詰まってるって訳!……その為には、魔力持ちの貴族の女の子と子供を作るのが1番なんだけど、相手がいなきゃ始まらないからね?」


「しょ、庶民にもいますよね?魔力持ちの女の子がっ!」


色々とブッ飛んでいて、何だか涙が出てきてしまう。


アーテル君は、貴族だけど話しやすくて、お友達になれそうだなーって思ってたのに、私をお嫁さんにして、子供を産ませる気だったの?!


なんか、怖いよぉ……。


「いるよ、もちろん。……だからさ、最終的にはそういう女の子をお妾にして、子供を作ったりするんだけどさ、まあ馬鹿にされちゃうんだよね?そうやって出来た子は『雑種』って一生馬鹿にされちゃうし、それって可哀想だろ?……あとは魔力ありの女の子を養子にして、それからお嫁さんにしたりね。そっちはそっちで、『メッキ』って馬鹿にされてるんだよ?女の子もだけど、結婚した旦那さんや生まれた子供もね。嫌な感じだろ?……一応、僕の家はさぁ、名家だから、どっちも無理なんだよねぇ……。」


「わ、私も庶民みたいなモンですよぉ……!!!魔力も微々たるもんなんですぅ……!!!」


泣きながらアーテル君に訴える。


我が家は数年前まで、庶民でしたし!魔力有りって言われましても、ミジンコ魔力しか無いんですし!たいしたモンじゃありません!!!


「んー。でも本当の父親に爵位が有ると無いのでは、雲泥の差なんだよ。ガン無視男爵でもさ、君のお父さんは『男爵に相応しい、貴族に相応しい』って王様から認められたって事になるからね?貴族にとっては体面とか、血筋とかって、すごーく大切なんだよね。……それに、そこまで黄色くて、微々たる魔力って事、ないでしょ。」


え……???

黄色いって……この髪の事???


「微々たる魔力って判定されましたよ?!」


「そんな事ないよ。王子様の取り巻き見たろ?魔力が強いヤツらは派手な髪色をしてるんだって。……君も男爵も、かなり魔力が有ると思うよ……?……あー……分かった。何で微々たる魔力なのか。」


アーテル君が私の頬に触れて、ボロボロ溢れる涙をすくい、ペロリと舐める。


ひ、ひえええ……。

な、舐めた。私の涙、舐めたよ、アーテル君!!!


「泣くから、出ちゃってるんだよ……これ。」


「え???」


「すごく濃い、魔力の味がする。……魔力ってさ、体液に浸み出すんだ。ジョーヌちゃんは、ピーピー泣くから、いつも魔力が出てっちゃうんじゃないかい?船着場でも、さっきも泣いてたよね?魔力判定の時、泣かなかった?」


そ、そうなの……???

泣いた、泣いたけど……。


自分の頬に残る涙をすくって舐めてみる。


……???


……塩辛い??


涙が塩辛いのは、普通では???コテンと首を捻る。


「……あの、ジョーヌちゃん?自分の匂いが自分で分からないように、自分の魔力も自分じゃわからないよ?」


「な、なる程???」


不意にアーテル君の顔が近づく。


……?


「ジョーヌちゃん、キスしよう?……僕の魔力の味を教えてあげる。」


私はズサササっと凄い速さで後退った。


「け、結構です?!」


「結構ってのは、了解って事だね?」


な、な、な?!さ、詐欺師?!詐欺師みたいな事、言ってますよ?!アーテル君!!!


「えっ、遠慮します!!!」


「遠慮は要らないって、ほらさ……。」


あっという間に壁際に追い詰められてしまった。


「だ、ダメなんです!!!……わ、私、ファーストキスは、結婚する人とって決めてますから!!!」


ピタリとアーテル君の動きが止まる。


あ、あれ……。

もしかして、わかってくれた……???


そっとアーテル君を見上げると……。え……笑ってる???


「じゃあ、絶対にキスしないとだね?……責任とって、僕が必ずジョーヌちゃんと必ず結婚するから……僕にちょーだい?!ジョーヌちゃんのファーストキス!!!」


ひ、ひえっ……!!!




◇◇◇




「グスッ……グスッ……。う、ううう〜。」


「泣くなよ〜。旦那様とのファーストキス、素敵だったろ?はちみつレモン味じゃなかった?」


ソファーの下で体育座りになり、足に顔を埋めて泣く私の背中を、アーテル君はソファーに座って撫でながら言う。


確かに、ファーストキスははちみつレモン味だったな……って、それ、私があげたカップケーキの味じゃん?!

さっき、アーテル君がカップケーキを食べたから、そんな味がしただけで……。


……アーテル君の魔力の味はどっちかって言うと……チョコレートっぽい……。


い、いや、ダメ。


思い出さない!!!


あんな、しつこいベロチューは、憧れのファーストキスとは認めない……。


「酷いです。……ファーストキスだったのに。」


「んー……。でも、未来の旦那様だし?……ほらぁ、また泣いたら、僕があげた魔力も出ちゃうじゃん。」


泣くよ、こんなの普通に泣くってば……!

身を固くして、蹲る。


「……ジョーヌちゃんあのさ……。下のフロアに女の子はいたかい?」


……え?


思わず顔を上げる。……いた?いたかな?船着場では見かけた気がするけど???


「あのね、女の子たちは今、みんなこのフロアにある個室で婚約者か兄弟と過ごしているんだ。……他のヤツに取られたり、無理矢理に既成事実を作られたりしない為にね。」


「そんなの、犯罪だよ!!!」


「ん……確かに犯罪だよ。だけど……家の格によっては泣き寝入りしかないんだ。それに、相手も遊びでそんな事をするんじゃない。本気でお嫁さんにする気だから、責任は取ったって事になっちゃうんだよねぇ……。」


目の前が真っ暗になる感じがする。

知らなかったとは言え、なんて怖い所に来ちゃったんだろう……。


「だからね、男爵家でコネも兄弟もいなくて、なのにそんなに濃い魔力持ちで、女の子なジョーヌちゃんは、たいして可愛くはないけど、学園の中で1番狙われちゃうだろうね。」


「た、たいして可愛くないは余計です!!!」


ひ、酷い!!!

無理矢理にファーストキスを奪っておいて、それはあんまりだ。そこはお世辞でも『僕には可愛い』くらい言うべき!!!


「んー……でも事実だから。あ、でも、僕的にはアリだよ?僕って、容姿に関してはストライクゾーン広めだしね?……君は魔力も美味しいし、その顔も何だか落ち着く系で悪くないって思うんだ。……それはさておき……ねえ、学園にいる間だけでも僕と婚約しない?……本当にジョーヌちゃん、このままじゃ危ないよ?」


アーテル君は囁くようにそう言うと、ニッコリと微笑んだ。




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アーテルの元婚約者、ヴィオレッタが主人公の前日譚はこちら↓↓↓
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