魔王の花嫁は、それに相応しく邪悪?!
「……なあ、班の出しもの、どうするよ?ヴァイスに大人しく楽器でもやっとけって、ドヤされちまったぞ?」
ルージュ様が深刻な顔でそう切り出した。
「まあね……確かにこの間のウサギとハトは、側近として大失敗だったよね……。」
リュイ様も困った顔でそう言う。
「でも、楽器が出来ないから、変わった魔術をやろうって話だったじゃないですか?……どーしたら良いんですか?!?!」
謹慎明けに、私たち3人はまた集まって、班の出し物について、相談しているのだ。
「ヴァイスのところは、アーテルもいるし、すごい魔術をやるつもりらしいよ。……どうやら花を降らせるんだって。ヴァイスの部屋で謹慎している時に、チラッと聞いた。」
「派手だし、すげーな……。」
ルージュ様が目を丸くする。
「アーテルが花を出して、ヴァイスとシーニーで舞上げて降らせるって計画らしいよ。中庭全体に降らせるのに、量を計算してた。」
へえぇ……。ぜったいに見に行こう!
きっと素敵だ!!!
「……しっかし……。俺らはどーするよ?ラランジャんとこは、異国の舞をやるらしーぜ。あいつ、リズム感いいし、運動神経もいいかんな。……ずっと練習してたぞ?衣装も凝ってるらしーぜ……?」
ルージュ様はそう言うと、体をクネクネさせた。
ラランジャさんのやる踊りの真似?らしい。なんだかちょっとエキゾチックで、カッコいい動きだ。
うわぁ……!それも見てみたいな。
ラランジャは手足が長いから踊りが映えそうだよねぇ……。
「……もうさ、僕たちは模型作ろうよ。学園の模型。僕たち何も出来ないし、地味であまり評価されないけど仕方ないって……。僕さ、器用さには自信あるし……。」
リュイ様が投げやりに言った。
「ならさ、ショボい基礎魔術でも披露する方がマシじゃねーか?」
「ええっ?!……それ、恥ずかし過ぎない?何の工夫も無いしさ、頑張った感もゼロだよね?……精巧に作れば模型の方が評価されるって……地味だけど。」
う、うーん……。
「それはそうだけど……ヴァイスの側近なのに、地味すぎねーか?」
2人はそのまま黙ってしまった。
でもなぁ、派手にアピールできる楽器やダンスは出来ないし……。
これじゃ、答えが出ないよねぇ。
ん……?!
そうだ……。
「あ、あのっ、学園を魔物が襲ってる模型にしましょうよ!!!」
私は良いアイディアが閃き、2人にそう提案する。
「……さすが、アーテルの嫁。めっちゃ邪悪だね。」
「ああ、魔王より魔王だな。学園への恨みが凄い。」
「ちょ、ちょっと、違いますって!!!……あの、ですね。魔物に襲われそうな学園を私たちが、ショボい魔術で守るってストーリーで、模型に魔術をプラスするんです。……ルージュ様が火で魔物を燃やして、私が学園は燃えないようにすぐに水で消火して、リュイ様が魔物の残骸を吹き飛ばす……。どうです?パフォーマンスできるし、ストーリーもあるから、見応えもありますよね?……ただの展示より良くないですか?」
「「!!!」」
「すごいな!ジョーヌ、お前、天才だな!!!」
「それ、いいね。ショボいけどショボく見えない!」
……そんな訳で、私たちは模型作りをする事になった。
◇◇◇
「ところで、剣術の対戦はどーなってるんだ、ジョーヌは?騎士団との練習試合があるだろ?」
放課後、コツコツと3人で学園の模型を作りながら、ルージュ様が私に聞いた。
「……それがね、騎士団に断られちゃったんです。」
あまりの内容に、リュイ様がカシャンとハサミを落とした。
「ええっ?!断られた?!……そんな事、あるの???」
「う、うん。あるんですね、コレが。……剣術の先生によると、私が下手な上に女の子だから、誰も相手をするのが嫌なんですって……。勝っても女の子相手じゃカッコ悪いし、下手すぎる私に負けるのも騎士団としては困っちゃうんですって……。」
「「あー……。」」
まあ、言われてみるとその通りで……。
今までは女の子でも剣術を嗜んでいて、上手い子しかいなかったから、多少手加減しつつ、肉迫した試合に見せて、勝たせてあげていたらしい。
でも……まあ、ね……私の場合、下手すぎて、それもね〜って感じなのだそうだ。確かにド素人に負ける騎士団も、ド素人を負かす騎士団も、どっちもカッコ悪すぎる。
騎士様は街のヒーローだもんねぇ……。
「じゃあ、出ないのか?」
「あ、いえ……。単位の関係で出ない訳にもいかないらしくて……。」
「えっ?じゃあさ、どうするの?!」
……はあ、言いたくないな。
……。
ギリギリまで黙ってるつもりだったし、アーテル君にも言ってないんだけど……。
「……あ、あのね……。騎士団のマスコットキャラの、キーシー君と戦うんです。……私もキーシー君もハリボテの剣で戦うから、危なくないし、王子様たちの試合前の客寄せと余興になるからって言われてて……。すごく嫌だけど、単位は欲しいし……。」
キーシー君とは、いわゆる着ぐるみだ。騎士団のお祭りなんかに登場する、犬で鎧を着ていてハリボテの剣を持っていて、ちょっとお茶目な動きをするピエロ的な役割のやつだ。
「はあっ?!……キーシー君と戦うのか?!……ある意味すごいな、それ!……花形騎士と戦うヴァイスを食っちまいそうだな。」
「う、うん。……僕もそう思う。ヴァイスとイケメン騎士の出来試合より、キーシー君vsジョーヌさんのガチンコ泥試合が見たいよ……!どうせヴァイスが勝つって決まってるし、どっちが勝つか分からないジョーヌさんの試合の方が、気になるし笑えそう。」
……。
……。
ええ……。なにその笑えそうって……。更に嫌なんだけど。
「おっ!そうだ。キーシーの弱点はシッポの設定だから、そこを狙え?」
「シッポ?」
「そうなんだよ、キーシーはシッポを触られると『ああんっ!』っなっちゃう、お決まりのお色気設定があるんだよね?」
ええっ……。何それ。
可愛い犬のマスコットにお色気ぶち込むとか……どうなの?
「でもな、それが、めっちゃウケるんだ!」
「……この間のルージュ様みたいですね?シーニー様にシッポ触られてアンアン言ってましたもんね。ウケるってか、引きましたけど……。」
「ジョーヌさん……さすがアーテルの婚約者だ。なかなか君も煽るよねぇ……。」
リュイ様は感心した様に言う。
いやいや、そんなつもりでは……。
「あ……あれは、しょーがねーだろ?不意打ちだったんだよ!……と、とにかく!ジョーヌは、キーシー君をアンアン言わせて勝て!絶対に笑えるからな!……キーシー君の弱点を容赦なく攻める……さすが、アーテルの婚約者!邪悪すぎる(笑)ってな!」
……。
ええっと……。
秀才キャラはほど遠いのに、面白キャラは良いとこまで来てそうで……なんか辛い。
◇◇◇
そんなこんなで、学園祭がやって来た。
「つまらない……。父さんも母さんも見に来てくれてるのに、会えないなんて。ガッカリだよ。」
「仕方ないよ。今日の僕たちは、やる事が多いんだから。……警備の問題もあるしね?昔、学園祭の混乱で誘拐騒ぎが何度もあったからなんだ。……きっとご両親は君の活躍をちゃんと見ていて下さるって。」
朝食をアーテル君と部屋でいただきながら、不満を呟くと嗜められた。
そう、せっかくの学園祭は、両親が見に来てくれても、会ったりは出来ないんだって……。
……まあね、人出もすごいし、学園にいる=貴族の子供だけだから、どさくさに紛れて攫われたりってのを防ぐ為に、観覧できるとこと、私たちが動くエリアがキッチリ仕切られていて、面会も禁止なんだってさ。
まあ、色々とやる事もあるから、どうせゆっくり話したり出来ないのだけど、それでも「チェッ」って感じだよ……。
「よーし!舞台から父さんと母さんを探そう……。」
「緊張してそれどころじゃないんじゃない?」
「あっ!確かに……!」
アーテル君はそう言うとクスクスと笑った。
「僕も見に行くね?」
「私もアーテル君の試合と出し物、見に行くよ!……お花を降らせるんでしょ?楽しみにしてるね?」
「あははは。楽しみにしてて?変な格好はさせられちゃうんだけどさ……。でも!ジョーヌちゃんをイメージした黄色いお花を沢山出すからね!……剣術の試合も絶対に勝つよ!だから、ジョーヌちゃんも、頑張ってね?」
「うん、私も頑張る!……あっ、で、でも。剣術の試合は見に来なくていいよ?……たいした試合にはならないから……。」
結局、アーテル君にはキーシー君と試合する事を言い出せていないのだ。だって、公爵家のお嫁さんが面白キャラってのはダメだって言ってたし……。
「ええっ、何で?絶対に見に行くよ?……ヴァイスの前哨戦だろ?みんな見に行く試合だしさ。」
「はひっ?!……えっ?……そうなの???」
「当たり前だろ?王子様vs騎士団一の花形騎士はメインイベントじゃないか?だから、前哨戦があるんだよ。……最初は僕が前哨戦をやるはずだったのに、ジョーヌちゃんに代わったから、何をするんだろうって楽しみにしてたんだ。……最後の試合に向けて席取りがてら楽しむ、みんな見に来る試合の一つだよ?……『魔術あり』とかでやるの?」
え、ええ……?!
私の試合……そ、そんな感じなの?!
剣術の試合は、数が多いから複数を同時進行でやると聞いていた。もちろんメインの王子様だけは単独だって知ってたけど……。わ、私の試合も単独だったのーーー?!
完全にピエロ役じゃないですかっ?!先生っ!!!
……こんなのやらせといて、成績悪く付けたら、絶対に許さないですよ、私っ?!
……。
だ、だけど……とうしよう。
アーテル君に何て言えば……。
「あ、あの……。」
「ん?……ちょっとだけ、僕の魔力持ってく?……今日はいっぱい使うから、沢山はあげられないけど、少しなら大丈夫だよ?」
アーテル君が顔を近づけてきたので、グイッと押す。
「魔術は使わないから、大丈夫です!!!……そ、それに、ルージュ様から弱点は聞いているんで、そこを狙えばイイ感じなんだよね……?ある意味、出来試合みたいなモンかも???」
ううう……。キーシー君をアンアン言わせて勝つつもりなんて……言えない……。
「へえ……。的を狙うとかなのかな?」
アーテル君が目を輝かせて私に聞いた。
「あははは。……ま、的のようで的ではないよーな……あの……。」
だっ、ダメっ……!
期待のこもった目でこっち見ないで……。
ひえ……ん。
やっぱり、言えないよ……。
「お、お楽しみに……。」
私が消え入りそうな声でそう言うと、何も知らないアーテル君は、素敵な笑顔を投げかけてくれた。
う……。ま、眩しいよぉ……。




