新学期の開始と、学園祭に向けて?!
休暇が終わり、新学期が始まった。
みんな色々な過ごし方をしてきたらしく、ルージュ様は野外で活動しまくったのか、やたら日焼けしていたし、リュイ様は室内で過ごす事が多かったそうで、真っ白になっていた。ラランジャは少し太ったと騒いでいたが……もともとがスレンダーなラランジャだ。正直、どこがだろう?と言う感じだけど……本人は気になるのだろう。
アーテル君との再会は、やっぱり嬉しくて、感激してちょっと泣いてしまった。……アーテル君には、先々週に会ったばかりだよね?って笑われたけど……嬉しかったから仕方ない。
国外に行っていたからって、可愛らしいキーホルダーをお土産だよって、渡してくれた。以前、彼氏とお揃いのキーホルダーを付けたいって言ったのを覚えていてくれたのだ。
……アーテル君は、彼氏じゃなくて婚約者だけど。
それは、見た事のない鮮やかな鳥の羽を使ったキーホルダーだった。鳥の体の部分が金属で尾っぽに飾りとして、本物の鳥の羽が付いている。
どうやら、その国にしか生息していない、珍しい鳥の羽を使っているそうだ。
その国のシンボルらしく、美しい羽が幸せを招くと言われてるんだって。風切羽を使用した、とても貴重なモノなんだと、その国でお世話してくれた人(ガイドさん?外交官?そんな感じ。)に説明されて、欲しくなって買ってきてくれたそうだ。幸運を招くからって。
お揃いで鞄に付けて、なんだか嬉しかったけど……。……ある日、王子様の鞄にも同じのが付いているのを発見し、慌てて外して、2人で笑ってしまった。
だってさ、王子様ともお揃いなのは……ちょっとね?
「どうやらヴァイスは、幸運が欲しいらしい。」って、アーテル君はゲラゲラ笑ってたけど、おちょくりには行かなかった。……アーテル君なりに、大人にはなってきてる……みたい?!
仕方ないので、幸運の鳥のキーホルダーは、鞄じゃなくて部屋の鍵に取り付ける事にした。
……お揃いで。
ま、……そんな感じで、最初の週は、お互いに再会を喜び合ったり、休暇中の思い出話をしたりして、なんとなくユルユルっと過ごしたが、本格的に授業が始まると、徐々にいつもの生活に戻り始めた。
◇◇◇
「リュイ、ジョーヌ、もうすぐ学園祭だけど班ごとに何かやらなきゃならないが、俺たちはどうするよ。」
教室を移動中に、ルージュ様にそう言われ、私とリュイ様は顔を見合わせた。
「あの、ルージュ様、リュイ様。私、魔術学園の学園祭とかまるで知らなくて……どんな事をするんですか?」
「あ、そうだよね、ジョーヌさんは何も知らないんだものね。……そうだなぁ、やっぱり魔術を披露するのが多いかな。でも、1年生は楽器を演奏したり、ダンスや歌なんかを発表する事もあるんだよ。……やっぱり魔術だと上級生にはかなわないからね。」
「へえ……そうなんですね。」
楽器やダンスねぇ……。魔術も自信ないけど、更に自信ないや……。
「そうだ!……俺もリュイもピアノなら何とかできるし、3人で連弾とかどうだ?」
「あ、いいかもね!見た目も派手だし、みんなで弾けば怖くない的なね!そうしよっか!」
ルージュ様が良い事思いついた!みたいにそう言うと、リュイ様もニコニコと賛同する。
「え……えっと。何で私が、ピアノが出来る前提なんですか?」
「え……?出来ない、のか???」
「ジョーヌさん、ピアノ、弾けないの?!」
ポカンとした感じで2人にそう言われるが……出来ませんが、何か?!
「い、いや……貴族の子供は、みんな少しはやるんだ。だから出来るもんかと……。」
ルージュ様が少し気まずそうに言う。
「……申し訳ないんですが、私はなんちゃって貴族なんで、楽器は何も出来ませんよ?だから連弾は無理です。」
「……う、うーん。そうしたらどうしよう?……ダンスはジョーヌちゃんもだけど、僕も壊滅的だし……。魔術もさ、上級生達がすごいのを発表する中で、僕らもショボいのをやる……?ルージュが火をつけて、ジョーヌちゃんが水で消して、僕が風で乾かすとか……?」
「い、いや、それはショボすぎてマズイだろ。国王やら親も観に来るんだぞ?さすがに……笑われないか?」
私たちは「うーん」と3人で唸ってしまった。
……我が家の親なら、私が魔術を使っただけで、大騒ぎで感激してくれそうだが、貴族だとそうはいかないのだろう。ご両親も学園の卒業生らしいから、魔術も使えるのが普通なんだろうし……。
「ジョーヌさんは、何か変わった特技はないの?」
「暗算と外国語なら、ちょっと自慢できます。だから計算の早解きとか、外国語での詩の朗読とかはどうです?」
「……俺が無理だ。算術は嫌いなのに、暗算で早く解くなんて無理に決まってるだろ。」
「僕も外国語はなぁ。詩の朗読とかカッコいいけど、発音にまるで自信がないよ……。」
う、うーん。
「そうだ!何か作るのはどうだ?!……模型とか作って展示するのはどうだ?」
「ルージュ、展示はバカにされるって!やっぱり何かパフォーマンスしないと……。」
「え?……そうなんですか?」
作品の展示は、ダメなんだ?
今から3人で作れば大作が出来そうだけど……???
「あー……、そうなんだよ、ジョーヌさん。僕ら貴族はさ、人前に出る事が多いでしょ?だから、やっぱりパフォーマンスが出来た方が評価されがちなんだよね。展示だと、評価は下がるよね……。」
なるほどねぇ……。
うーん。……ルージュ様もリュイ様も、王子様の側近で家柄も良いから、あんまり評価されないのはマズいんだろうしなぁ。
「そうなると、何かやらなきゃ……ですよね?……どうしましょう?歌います?……嫌ですけど。」
「歌かぁ。僕も歌は嫌だな……。それに、ルージュは酷い音痴なんだよね……。」
「ああ、そうだ!声がデカいから、更に救いがないぞ?!」
自慢げに言う事じゃないよ、ルージュ様……。
「うーん……難しいですね。……そうしたら、3人で何か変わった魔術でも練習して披露しませんか?!」
「「変わった魔術?」」
「えっと、そんなに難しくないけど、あまり知られてないのとか、使い所がないけど、見栄えだけが良い魔術を調べてやるのはどうでしょう?」
学園で習う魔術は実用的?なモノが多い。
2年生からは対魔物用の攻撃魔術とか、私がやりたいと思っている治療の魔術を習うし、1年生はさっきリュイ様が言ったような水を出すとか、火や風を起こすなんていう、基礎的なのを学習している。
難しいのではなくて、見た目が派手なだけの、例えばキラキラさせるだけみたいな、何かそういったのが、ないかなぁと思ったのだ。
思いつきで言ってみただけだが、2人は考え込んでしまった。
「……それ、いいかも知れない!……僕ら3人は魔力の量だけならかなりあるし、結構色々できるかもね?無駄に魔力がいるから、簡単だけど普通はやらないって魔術でも良いんだし!……授業で習わない魔術なら、自分たちで調べて頑張りましたアピールにもなるし、すごく良いかも!」
「ああ、そうだな……図書館で何か良さそうなのがないか調べてみよう!」
私たち3人は放課後に図書館に行く事にした。
◇◇◇
学園の図書館は、校舎とは別棟になっている。
歴史を感じさせる、クラシカルでカッコいいレンガの大きな建物だ。
授業を終えて図書館にいくと、ボランティアの日だったのか、アーテル君たちがいて、奥にある司書室で司書のお姉さま方とお茶を飲んでいるのがチラリと見えた。
「お。ヴァイスたちが来てる。……あれがボランティアって、ちょっと良いよな。」
「まあね。……花壇の水やりより楽しそうだよね……。」
確かに美人司書たちと、キャハハウフフしてて楽しそー……。ヴァイス様もだけど、アーテル君とシーニー様も囲まれてる。シーニー様は素っ気ない態度だけど、アーテル君は笑顔で受け答えしている……。
へえ……。
「お、ジョーヌ、旦那の態度にヤキモチか?なんか頬が膨らんでるぞ。」
「アーテルはモテるんだよねぇ……。表面的には愛想が良いからね…。」
2人がニヤニヤしながら、私に言う。
膨れてません!もともとの顔ですっ!
「別に関係ないです。……アーテル君は旦那さんじゃないですし!……魔術の本を探しましょう?その為に来たんですから!」
ちょっとイラついてそう言うと、2人は肩をすくめた。
……。
……。
マイナーな魔術の本は奥の方の棚にあった。
3人で埃っぽい棚から何冊か選んでパラパラとめくる。
「あ、これとかどうです?空に虹を出す魔術ですって!」
「あー、それ、わりと人気だ。……学園祭では誰かやるんだ。簡単な割に派手だからな。」
「うーん……これは???雪っぽいのを降らせる魔術だって?」
「うわっ、良さそうですね、リュイ様。」
「あっ……でも、すごく複雑で難しそうだな……。」
リュイ様が魔法陣の書き方を示したページをめくると、そのページいっぱいに、ものすごく複雑な魔法陣がビッシリと書かれており、ウゲッとなる。
「これ、すげー難しいだろ……。しかも『雪っぽい』って何だよ。何が降るんだ?片付けいるなら、面倒じゃねーか?……あ、これは?……ウサギかハトになれる魔術だって。」
「……ウサギかハト???何でウサギとハトなの?」
「あれだ。手品の一環で使う魔術らしい。アシスタントを箱に入れて、ナイフでグサグサ差して、開けるとハイ、ウサギです!もしくはハトです!っヤツだよ。……お、すげー簡単そうだ。」
ルージュ様が見ている本をリュイ様と除き込む。
「え、本当だ……。難しそうなのにね?」
「でも、一瞬で元に戻るみたいですよ?」
「うーん、……どんなのか、ちょっとやってみるか。」
ルージュ様はそう言うと本を真似して魔法陣をサラサラっと書いた。
「よし、これで魔力を流して……っと、リュイはハトになれ!」
「えっ?!僕なの?!?!」
リュイ様が驚きの声を上げたと共に、ボフンと……ハトになってない???
「あ、あれ???変わらねーな、どこ間違えた???」
ルージュ様は首を傾げ、もう一度本を眺める。
え、えっ?……で、でも、ま、待ってよ、これ?!
か、変わってるよ?!?!
思わずルージュ様の制服の腕の所を掴んで、リュイ様を見るように促す。
「「……!!!!」」
「……どーせ、失敗でしょ?僕、変わってないよね?」
「か、変わってます……。か、顔が……。」
「あ、ああ。中途半端にハトになってる。」
そう……リュイ様のスラッと通った鼻筋に……ハトのクチバシの上についてる、丸い鼻コブがついているのだ!!!
「アハハハ!すげー顔になってるぞ、リュイ?!」
「えっ?!ええっ?!……何だよ、それ?!どうなってんの、僕?!」
私はカバンから手鏡を出してリュイ様に渡してあげる。
「!!!ちょっと、ルージュ、何してくれてんだよ?!……じゃあ、ルージュはウサギになれっ!」
リュイ様はそう言うとすごいスピードで魔法陣を真似て描き、ルージュ様に投げた。
「うわっ!やめろっ!」
ボフンとなったが、何も起こらない。
……あ、あれ???
「あれっ?……ルージュ様に何も起きない?!」
「……心なしか出っ歯になったり……も、してないね?どうしたんだろう?完璧に書いたつもりなんだけど……?!」
リュイ様はそう言って、ふと私を見つめて青ざめた。
……ん???
その様子を見ていたルージュ様も、驚きの表示で私を見つめた。
「ご、ごめん……ジョーヌさん……。なんか君にかけちゃったみたい。頭からウサギの耳が生えてる……。」
え???
頭を触るとフンワリとした柔らかい耳が……生えていた……。
「わひゃ?!?!……4カ所から、音が聞こえてる?!?!」




