テストの結果と、すれ違う2人?!
はぁ……やっぱりダメだったかぁ。
私は、廊下に貼り出されたテストの成績を見て溜息を吐いた。
【総合順位】
1位 アーテル・シュバルツ
2位 ヴァイス・アルブス
3位 シーニー・ブラウ
4位 ローザ・コルデホーザ
5位 ヴィオレッタ・パールス
6位 リュイ・ベルデ
7位 ……
8位 ルージュ・ロッソ
9位 ……
10位 ラランジャ・オランジュ
……
……
……
15位 ジョーヌ・アマレロ
……
……
……
アーテル君にあんなに教えてもらったけど、総合成績は15位。20人中だから……後ろから数えた方が早い……。
はぁ……。
私なりには頑張ったつもりだけど、魔術は難しすぎる……。魔術って言っても、実技の他に、魔法陣の方式や理論、歴史なんかもあるし、古代語も必須だし……。
特に古代語に、私は苦戦中なのだ。
何故なら外国語と違い、古代語には文法らしき文法が無い。……いや、実際には文法はあるのだが、無視しても魔法陣として成立させてしまえるから、無視されてる事が多いのだ。どうやら陣に上手く組み込むってのか、ポイントになるらしく、正しい文法でグダグダと文章を長くするより、ある程度、言葉は省いてシンプルにバランスよく配置するのが大切なんだって。
そのあたりはセンス……らしいのだが、センスって言われてもねぇ……としか言えない。だって、結局は何処が必要で、何処なら省けるの?!ってなってしまうのだ。単語だけ書いても、意味が通じないと魔法陣にはならないそうだし……。
とにかく、今のところは、古代語に関しては、訳が分からないってのが実際だ。……アーテル君には、ひたすら色々な魔法陣の書き方を真似していくうちに、わかるようになるんだよ?って言われてるけど……。それっていつになるのだろう……。
ちなみに、学園での成績は、魔術→礼法(剣術とかダンスにマナーみたいな貴族っぽい授業。)→教養(算術や外国語みたいな普通の授業。)という順で評価されるようになっているから……いくら算術と外国語が出来ても、あまり順位は上げられなかった。
ついでに言うと、今回の総合順位の1位のアーテル君は、2位の王子様をかなり引き離して、ぶっちぎっていた。ほぼ私のテスト勉強に付き合って、かかりっきりだったのに……。
ちょっと自信のある算術と外国語は、商人の意地を見せてやる!って、1位を取るべく、こっそり夜中まで頑張ったのに、それすらアーテル君には軽〜く抜かれてて、うん、凹んだよね……。
アーテル君、そんなに勉強やってる様子、無かったのになぁ。
王子様も頑張って勉強していたっぽくて(テスト前は目の下のクマが酷かったし、フラフラしてた。)、なんとなーく『その気持ち分かります……。』って肩を叩いてあげたい気分になってしまった……。
「はぁ……。こんなんで、秀才キャラになれるのかな?」
「1年生の時は焦らず基礎を固めようって言ったし、十分だと思うよ。……15位、すごく頑張ったと思う。良く頑張ったね、ジョーヌちゃん!……おめでとう!」
弱音を吐いた私を、隣で一緒に順位を見ていたアーテルがニコニコしながら褒めてくれた。
「……でも、真ん中より下だよ?……アーテル君がずっとつきっきりで勉強を見てくれてたのに、なんだか情け無いよ……。」
「ん……。でもさ、魔術だけなら13位だし、悪くないと思うよ?この学年は王子様とその取り巻き一行がいるから、総じてレベルが高いしさ。……それに貴族の子は、みんな子供の頃から魔術も礼法も習ってきてるんだよ?ジョーヌちゃんは何もかも初めてなのに、この成績だよ。大健闘じゃないか!それに、教養はシーニーと同率の3位だろ?素晴らしいって僕は思う。……礼法が20位だったのも、剣術が足を引っ張ってるって感じだしさ……。」
……そう、なんだよね……。
剣術、まるでダメなんだよね……。胸は潰してみたけど、そういう問題じゃないっていうの……?
「アーテル君……。あ、あのね……。剣術の先生に、もう君は見学でも良いよって言われたの……。怪我させても面倒だからって……。……はぁ、こんなんじゃダメだよね……。」
そう、剣術の講師の先生に、あまりに授業についていけなさ過ぎて、見限られそうなのだ……。ルージュ様やアーテル君、王子様なんかが、かなり上手いし、それに刺激された他の生徒もやる気を出してるから、そのレベルに合わせたいらしい。
どのくらい、みんなと私のレベルが違うのかを簡単に言うと、みんなが走ってタイムを競ってるのに、私だけが、ハイハイしてるって感じだろうか……。……そりゃ、『見学で良いよ』って言われちゃうよね。
「……あのさ、ジョーヌちゃん……。僕、剣術はあまり頑張らなくても良いと思う。」
「え、何で?……剣術こそ、頑張らないとじゃない???」
だってさ、魔術は基礎が無いから、ジワジワ上げて行くしかなさそうだし、教養は頭打ち感が強い。手答えとしては、かなり頑張って王子様を抜けるかってとこだろう。アーテル君はかなり上にいるし、1位になるのは不可能に近い気がする。そもそも、加算点が少なくて頑張ったところで、旨みがあまりない……。……そうなると、簡単に総合順位を上げるなら、どうしたって最下位を貰ってる礼法……特に剣術になるよね?ここを底上げ出来れば、順位はもっと上に行けるんじゃないだろうか???
「剣術はさ、先生が言うみたいに、見学でもいいんじゃないの?……周りとのレベル差もすごいから、簡単に怪我させちゃいそうで、みんなジョーヌちゃんの相手するのも怖いだろうしさ……。」
え……。
アーテル君の言葉に、思わず固まってしまう。
「な、何で?……何でアーテル君まで、そんな事を言うの?……私、もうちょっと剣術を頑張ってみたいよ……?」
だって、剣術を頑張れば、総合順位は簡単に12位くらいにまで上げられそうなのだ。……アーテル君の婚約者として、せめて真ん中にはいたいし……。ローザ様やヴィオレッタ様に敵わないのはともかく、ラランジャだって10位にいるんだもん、私だって、その近辺にはいきたいよ?!
「怪我をさせたくないんだ……。」
「でも!剣術をやったら、みんな少しは怪我するでしょ?!それは覚悟の上ではじめたんだし……!」
なんとなくムキになってしまう。
確かに剣術はダメダメだけど、だからこそ、まだまだ改善の余地はあるんじゃないかな?!……だって、魔術や教養に他の礼法みたく、頑張ったとは言い切れないし……。
「女の子は、普通はやらない科目なんだよ?」
でもさ、だからこそ、普通に授業に付いていけるようになるだけでも、評価されるんじゃないかな?!初心者の女の子の割には頑張ってるなってなれば、努力が評価される気がするんだよね?
やっぱり、剣術を頑張るのが、順位を上げるには一番手っ取り早い気がする!!!
「……あっ!!!そうだ!!!アーテル君のとこの、メイドさん達に教えて貰おうかな?……体術がメインだけど、剣術も少しは分かりますよって言ってたし!!!女性同士なら、体型や体格も似てるから、動きも真似やすいだろうし、女性がやる上でのアドバイスも貰えるよね?……そうした授業ももう少しさ……。」
「絶対にダメだ!!!」
突然に怒鳴るように強く言われて、驚いてアーテル君を見つめる。
え……?
アーテル君は、怒ってるような、悲しんでるような、なんだか変な顔をしている。
「え。アーテル君……。ど、どうしたの……?」
急にアーテル君がそんな顔になってしまった意味が分からない。いきなりアーテル君が怒鳴ったのもはじめてで、私はオロオロとアーテル君の制服の端っこをキュッと掴んだ。
「あ……。ご……ごめん。ジョーヌちゃん。いきなり怒鳴ったりして。」
アーテル君は慌てて謝ると、言いにくそうに話を続けた。
「……だって……。……そ、その……ジョーヌちゃんが、剣術が得意になりたいのって、僕から逃げてアキシャル国に行く為だろ……。……そんなの、……面白くないに決まってる……。」
……え?
あー……。あったね、そんな設定。
「完全に……忘れてた……。」
「え……?」
そうだ、そもそもアキシャル国に行くのに、剣術習っといたら便利かもって、ルージュ様やリュイ様と話してて、剣術は始めたんだよね?……でもアッサリ企みがバレちゃった(バラしちゃったとも言う。)事で、そんなのはサラッと忘れてましたよ、私……。
「あ、あのね、アーテル君。私はね、早く総合順位を上げて、アーテル君と釣り合いの取れた婚約者にならなきゃって思ってるのね?いくら1年目だからって、最低でも真ん中くらいにはいたいじゃない?だから、明らかに足を引っ張ってる剣術が改善できれば、簡単に順位が上がるかもって思って、それでね……。」
顔を上げると、アーテル君が満面の笑みを浮かべている。
「あっ……!!!」
バッと顔に熱が広がる。
え?!?!ええ???私……?!?!
私ってば、さっきから『アーテル君の婚約者として、早く恥ずかしくない順位にならなきゃ!』とか必死に考えてて、しかも今まで『なんとしても相応しいお相手にならなきゃ!』って、すごい頑張ってしまってた……?!?!
超ノリノリで、順位を上げる事だけを考えてましたよね……私っ……?!
し、しまった!!!
私っ、3年で婚約破棄して街に戻るんでしたーーー!!!
必死に勉強に打ち込んでいるうちに、だんだん目的がズレてきて、何だかおかしくなってたんじゃないかな、これ?
……ヤバい……。
まさかこれも、詐欺師の手口?!?!
「ん……。そんなにやる気出してくれてたんだ?僕のジョーヌちゃんは。」
「あ、いや……。今の話は、アーテル君を欺く為の演技です!剣術の目的を忘れてたのも演技だよ!……いやー、15位、満足、満足!ジョーヌ、よく頑張った!」
なんだか目が合わせられない。思わず顔をそむける。
「へえー……。そっかぁ。ジョーヌちゃんってずいぶん演技力が高いんだねぇ。僕、騙されちゃいそう。……で、何で顔を逸らすの?……僕と釣り合いを取りたくて、必死に頑張ってくれてる婚約者さん?」
アーテル君が、逸らしたはずの顔を覗き込もうとする。
「!!!……やだっ!……違うって!頑張ってない!……それに、もう、意地悪言ったり、煽ったりはしないんじゃなかった?……アーテル君は、大人になるんだよね?」
「んー?別に意地悪も言ってないし、煽ってもないよ?……健気な僕の婚約者さんの顔が見たいなーって思っただけ。……何ていうの?嬉しくて、つい。」
「見なくていいの!!!……つまらない顔ですし。」
「つまらなくないよ。すっごく楽しい気分だもん、僕。……ねぇ、いいなら見せてよ。」
「いいって、そういう意味じゃないよ……?!」
……目を合わせる合わせないという、地味な攻防戦を掲示板の前で繰り広げているうちに、予鈴が鳴った。
あぶない、あぶない……!思ってる以上に私……流されてない、これ?!
……休暇中に、ちょっと気を引き締め直さなきゃな……。
私はそう思いつつ、授業の始まる教室へ足を向けた。




