ガーデンパーティーの、余興とは?!
私はランチタイムに、招待状をアーテル君に手渡した。
ラランジャはパーティーが近いせいで、ローザ様にこき使われているのか、まだやって来ていない……大変そうだな。
「アーテル君、あのね、これ。……ルージュ様から、王子様のパーティーの招待状なんだって預かってきたの。来週までに王子様に返信してって言われたよ。」
「……ルージュのヤツ、ちゃんと自分で渡せってーの。僕のジョーヌちゃんをパシリに使うなよな……。ん。分かったよ。ありがとう、ジョーヌちゃん。……そうだね、今後の為にも返信用の手紙の書き方を教えるから、帰ったら一緒にやろうか?……他には何か言ってた???」
えーと……。
忠告された件は、誤解がすごすぎて言いにくいなぁ……。
でも、あんなに2人は心配してたんだし、言っておくべきだよね……?
「あとね……。私が王子様に目をつけられないように、あまり目立つなってのと、アーテル君と仲良くしすぎるなって言われたよ?……あまり仲良しだと、私がアーテル君の弱点だって思われて、何か意地悪されちゃうかもって……。」
なるべくマイルドに言ってみる。『溺愛』とか『恋に溺れてる』とか妙なキーワードはナシな方向で……。でもつまり、要約したらこういう事だよね……???
みるみるうちに、アーテル君の顔が厳しくなっていく。
「えっと……。さすがに王子様がアーテル君をいくら嫌ってても、まさか庶民まがいの男爵令嬢の私なんかに、意地悪なんてしないとは思うんだよね……?」
ルージュ様とリュイ様はすいぶん真剣に心配していたが、冷静になってみたら、私なんてたいした存在ではない訳で……アーテル君絡みだとしても、一国の王子様が、身分の低い女の子をわさわわざ虐めたりするだろうか……???
「いや……する。」
「え???す、するの???」
「ヴァイスが僕に勝ててたのは、立派な婚約者がいるって事くらいだったんだ。……ま、性格のクソ悪いローザだけどさ。……でも、それはヴァイスにとって優越感を覚える所でもあったんだよね?僕はヴィオレッタと婚約を破棄してから、まるで話が纏まらなかったから……。なのに、僕にもジョーヌちゃんという立派な婚約者が出来てしまった。メッキなら馬鹿にもできたろうが、ジョーヌちゃんは男爵家とはいえ国王に認められた立派な貴族の家の娘だ。しかも魔力はローザよりも高い。性格も良くて無駄にエロい胸まで付いてる。……悔しがるに決まってるよ?!」
はぁっ?!……胸の事は言わないで欲しいんだけど?!
本当にコンプレックスなんだから、そーゆーの言われると、嫌いになっちゃうからね?!
それに……。
「私、性格なんて、そんなに良くないよ?……泣き虫だし、甘ったれだし、ビビりで弱虫だし……。」
「でも、いつも頑張ってる……。僕は、ジョーヌちゃんのそういう所、すごく素敵だと思うよ?学園だって、不安だったろうに、家族の為にちゃんと来た。魔術も社交界も分からないのに、学園でもずっと頑張ってる。……ビビっても泣いても逃げないジョーヌちゃんは立派だよ……。」
「あ、アーテル君……!!!」
アーテル君が優しく笑って腕を広げ「おいで。」って言ったので、思わず抱きつく。……私なりにだけど、頑張ってきたのを分かってくれてて嬉しい……!!!ギューっと抱きしめられると、涙が溢れてくる。
「アーテル君のおかげだよ……!」
不安でいっぱいだった学園でなんとかやっていけてるのは、アーテル君のおかげだ。……魔力を感じる練習だって、痛いのに毎日付き合ってくれた。困ったら助けてくれるし、分からない事は教えてくれる。……逃げ出さずに済んでいるのは、アーテル君がいてくれてるからこそだよ!!!
「ジョーヌちゃん、このまま逃げずに頑張っていこう?」
「うん……。頑張る……。」
「一生サポートするから、一生逃げちゃダメだよ?」
……。
……。
涙がピタリと止まった。
つい、父さんや兄さんに抱きつく感覚で流れるように抱きついてしまったが、これは失敗でした。
アーテル君の体をグーっと押して、身を離そうとする。
……ビクともしない。
「ジョーヌちゃんって猫みたい。猫も自分から擦り寄ってくるのに抱っこすると、グーって押して逃げるんだよね?ヒミツなんて特にそんなだよ。自分が満足したら終わりなんだよねー?」
……。
……。
私に猫要素はあまり無いと思いますが?
やってる事は似てるかもだけど、ヒミツ君と私は全然違いますよ?!
抱擁から逃れようと攻防戦を続けていると、頭上からラランジャの呆れた声が降ってきた。
「あのさ……。昼間からカフェテリアでイチャつくのはどーかと思いますよ、お二人さん……?」
振り返ると、ランチの乗ったトレイを持ったラランジャが、困り顔で笑っていた。
◇◇◇
「確かに、それは心配だね。……でもまあ、2人が自重しろってのは一理あるかもだけど……。」
アーテル君から話を聞いたラランジャは、ランチを食べつつそう答えた。なんかラランジャの視線が痛い……。
「ラランジャ?!……今のはね、ちょっと違うの?!」
「ジョーヌ?……昼間からカフェテリアでイチャイチャしてたのは事実じゃない?……ねぇ、アーテル様。」
「恥ずかしながら事実だよ。……思わず将来を誓い合ってしまったんだ。ジョーヌちゃんてば、僕の為に一生頑張ってくれるって……。嬉しかったけど、見苦しい所を見せてしまったね、ラランジャさん。」
「いえ、いえ。ジョーヌがアーテル様と一生を共にされるのは、私も大賛成なんで!!!……ですが……その話、ちょっと厄介な事になるかも……。」
不意に、ラランジャが顔曇らせて考え込む。
「どうかしたの?ラランジャさん。」
「あ、いえ。……今、そのパーティーの準備をローザ様経由でお手伝いさせられてるじゃないですか、私。……ローザ様はパーティーの余興を担当されてるんですけど……その余興がちょっとなって思ったんです……。」
「……余興?!」
ガーデンパーティーでの余興ってなんだろう?……ラランジャ達が歌ったりするのかな?
でも、厄介???うーむ……???
「……何でも、『かくれんぼ』をするらしいです。女の子たちが隠れて、男の子が探すらしいんですが……。」
ラランジャが真剣な顔でそう言ったので、思わずプッと笑ってしまった。
「なーんだ、『かくれんぼ』かぁ!小さな頃良くやったよ。中庭は広いから隠れがいがありそうだね?!」
あまりにも微笑ましくて、笑いながらそう言うと、神妙な面持ちのラランジャと目が合った。
あ、あれ???……なんか違うの???
「……ジョーヌ、あのね、それはそうなんだけどね……。隠れてる女の子を見つけた男の子が、パーティーの間は、その子のパートナーって事で楽しむんですって。」
「……???……それが?」
パーティーの間、一緒にいるって事だよね?誰と一緒になるかは分からないけど、女子の方が圧倒的に人数が少ないから、ボッチにはならずに済むし……。
やっぱり、それが???って感じだけど???
「まあ、そうだけど……。でもさ、ジョーヌ……あなた、王子様に見つかったら、ほぼ一日中王子様と一緒に居なきゃいけないんだよ?最後にはダンスもあるんだよ?……私は最初はそのルールを聞いた時に、どうせ婚約者同士で見つけ合う公開イチャイチャイベントなのねって思ったのね。……でも、アーテル様の話を聞いて思ったんだけどさ……。あの、アーテル様?……もしヴァイス様に一日中ジョーヌを独占されたら、どんなお気持ちになります……?」
アーテル君が、ものすごーく嫌そうな顔になる。
「すごく不愉快だね、それ。……ジョーヌちゃん、パーティーには迷彩服で行こうか。もしくは葉っぱのデザインで茂みに完全に紛れるようなのとか……。」
「アーテル様、残念だけど、それも出来ないよ。……ローザ様が女の子たち全員にお揃いのドレスを贈るんですって。自分にしか似合わない、ピンク色の可憐なやつをね……。」
「あ、あれ?ラランジャ???……なんか、ローザ様にイラついてる?」
あまりに嫌そうにラランジャが言うので、思わず聞いてしまう。
「うん……。ちょっとね。……今回、一緒にイベントのお手伝いをしてて、何となくヴィオレッタ様がローザ様にイラついてた理由が分かった気がしたわ……。……って、そんな事はどーでも良いのよ!!!ジョーヌ、王子様にアーテル様への嫌がらせで捕まったら、一日嫌な思いをして、下手なダンスを注目を浴びて踊らされた後に、ローザ様にも睨まれる……酷いパーティーになっちゃうわよ?!」
……!!!
「アーテル君、私、見つけやすい所に隠れるから、速攻で見つけて?!」
「ダメだよ!……見つけやすい場所にいたら、簡単に見つかっちゃうだろ???……ヴァイスの事だ、もし、やるって決めたら他の男子生徒にも協力させるだろう。……ルージュとリュイはこの余興を知ってるの?」
「いえ、まだ知らないと思います。さっき決まったばかりなので……。」
「せめて、あの2人には協力してもらおう……。」
アーテル君はそう言うと、2人の元へ急いだ。
◇◇◇
2人は教室の端っこで談笑していた。
王子様の取り巻きとは言え、優等生な王子とシーニー様、なんとなーく残念なルージュ様とリュイ様の二手に分かれる事が多いらしい。
ちらりと確認すると、王子様はシーニー様の他に、ローザ様とヴィオレッタ様も交えて話し込んでいるみたいだ。
ラランジャが2人を廊下に引き連れて来て、アーテル君が余興の事を2人に話す。するとルージュ様とリュイ様は顔を見合わせてから私たちに言った。
「「ヤダよ。」」
「な?!何で?何で助けてくれないの?」
「ジョーヌ、さすがにお前が怪我をさせられたり、あまりに酷いイジメがあるなら、俺らだって止めたり助ける。……だがな、パーティーの話は……アーテルざまぁ!だ!」
「うん。僕も、もしヴァイスがジョーヌちゃんを探して?って言うなら協力する。……だってさ、別にパーティーの間、一緒にヴァイスといるだけだろ?ヴァイスはさ、アーテルより嫌味じゃないよ?」
どうやら2人はまるで協力してくれる気はないみたいだ。
「でっ、でもね、私ダンスははじめたばっかりだし……。」
「そうだよ!ジョーヌちゃんが可哀想だろ?!お前ら協力しろよ?!」
アーテル君もルージュ様に言ってくれる。
「ジョーヌ、大丈夫だ。ヴァイスは俺よりダンスのリードが得意なんだぞ?それに、これを期にアーテルがダンスもイチャつきながら教えてやれば良いだろ、ヴァイスと踊る為にだがなっ!!!……ハハハ!アーテル、その歪んだ顔がたまらん!」
ルージュ様が無責任にカラカラと笑った。
だから、イチャついてないって!!!
「ルージュ様、だけどね、そんな事したらジョーヌはローザ様に睨まれてしまうのよ?!」
とうとうラランジャが、しびれを切らし助け舟を出してくれた。でも、その言葉にルージュ様は首を傾げる。
「あのなぁ、ラランジャ。ヴィオレッタでもあるまいし、あの優しいローザがジョーヌに何かする訳ないだろ……?あ、ヴァイスがジョーヌを探すなら、俺がローザを探そっかなー!」
……!!!
「そうだよ。ローザはそんな子じゃないよ。ラランジャさん、ヴィオレッタに何か言われたの?……それはさ、誤解だと思うよ。ローザはちょっとおっとりしてるから、ヴィオレッタの気に障るんじゃないかな?……あっ、そろそろ時間だし、僕たちは教室に戻るね?」
2人はそう言って、さっさと教室に戻って行ってしまった。
「……な、な、な、なにあれ……。ム、ムカつくんだけど?!」
ラランジャが悔しそうに言う傍らで、アーテル君は「それがローザなんだよ。……でも、あの2人すら協力してくれないとなると、どうしよう……。」と悩ましげに呟いた。




