花壇の完成と、王子様のパーティー?!
アーテル君たちが取ってきたお花は、ルージュ様がこの学園にしか咲かないと言っていただけあって、本当に見たことのない花?だった。
「これが花……。」
どう見ても、草からカラフルな卵が生えている。
「まだ蕾らしいね。咲くと鳥みたいな花が咲いて、歌うんだって。図鑑にはそう書かれている。」
アーテル君も初めて見たらしく、図鑑を片手に解説してくれる。
「鳥は?……枯れる時、鳥はどうなるの?」
図鑑を覗き込むと、可愛らしい鳥が歌っているらしい絵が描かれている。だが、これは草花だ。そう長くは咲いていないだろう……弱って死んで?しまうのだろうか。だとしたら悲しすぎる……。
「んー。……あ!綿毛になるんだって。鳥の部分がだんだんフワフワになってきて、綿毛になって飛んで行くんだって。……可愛いね。」
へえええ……。
「じゃあ、この花をメインにして、周りに私やリュイ様が買ってきた花をバランスよく植えて行きましょうか……?」
「うん、そうしよう。……でも……ルージュとリュイ、遅いね?昨日はずぶ濡れになってたけど、馬鹿だから風邪も引かずに授業には来てたろ?……どうしたんだろ?ラランジャさんも来ないね……?」
確かに、アーテル君と違い、嵐の中でお花を摘んできた2人は酷い事になっていた。アーテル君の部屋のテラスに花を置きに来ていて(アーテル君の部屋のテラスは中庭に面しているから、ドロドロなので中庭から花を搬入してきたのだ。)、ビショビショでガタガタ震えており、「早く着替えましょう!そのままじゃ風邪をひくって!」ってラランジャが思わず叫ぶ程だった。
よく分かってないルージュ様は「クソ、アーテルの買ったメーカーのカッパにすれば良かったな!」と悔しがっていた。アーテル君は意地悪そうに微笑んで「僕のカッパは最高級だからね!」と言ったので、ルージュ様はカッパの性能の差で違いが出たと思っているみたいだった。
リュイ様が「ルージュ、あれはアーテルの巧みな魔術が施されているって意味での、最高級カッパって事だよ……。」と疲れた顔で説明すると、ルージュ様はメチャクチャ悔しがっていた。
その後、2人ににメイドさん達が、お風呂と着替えを用意してくれて、温まってから帰って行ったはずだ。1人でお風呂に入りたいリュイ様と「寒いから一緒にサッサと入っちまおーぜ!」って言うルージュ様が揉めたのは言うまでもない。
そんな事はあったが、今日は普通に授業には出ていたし、「放課後に早速、植えようぜ。」ってルージュ様は言ってた。リュイ様も「苦労したんで、最高の花壇にしよう!」って意気込んでいた。
お昼は私とアーテル君とラランジャで食べて、ラランジャも手伝いに行くって言っていたのに……。
どうしたんだろう???
「何か用事でも出来たんですかね?ほら、2人はあんなですけど王子様の側近だし……。」
「ジョーヌちゃん……『あんな』って、酷くない?まあ、事実あんなだけどさぁ。……うーん、ヴァイスの用事かぁ。あるかもね。……あ!そう言えば今度、ヴァイス主催でクラスの親睦パーティーをするらしいよ?!それでかも?」
「えっ。この前の晩餐会みたいなの?」
思わずゲッとなる。
また無視されたり、エロいドレスを着せられたりするのだろうか???
「いやいや、もっと気楽な奴だよ。昼間にやるガーデンパーティーじゃないかな?一応さ、僕たちの学年は全員が王子様のご学友って事になるから、何かしておきたいんじゃない?」
「まったく友達じゃないですよ?……なのに、ご学友???」
「ジョーヌちゃん……。本当にラランジャさんか言うように、君もなかなか煽るよね?……友達じゃなくても、学年が同じだとそう言われるんだ。それを笠に着る奴もいるし……。ヴァイスとしても、どんな奴がクラスにいるか、早めにチェックして、把握しておきたいんだろうね。」
なるほどね。……王子様ってのもなかなか大変なのね。
私たちがそうやって話し込んでいると、ルージュ様とリュイ様が慌ててやって来た。
ルージュ様によると、アーテル君が言った様に、やっぱり王子様が主催で来月の半ばにパーティーをするらしい。その打ち合わせで遅れたんだって。ラランジャもそれ関連でローザ様にお手伝いを頼まれたらしく、今日は来れないかもって話だった。
◇◇◇
その週末に花壇は完成し、頑張った甲斐があって、学園の先生方からも前より素晴らしい花壇になったと、褒めていただけた。
あれから、ルージュ様とリュイ様は忙しそうになってしまったが、毎朝の水やりにはちゃんと来てくれて、「疲れたよ。」とか「やる事が多いんだよな。」って算術や外国語を教えつつ、愚痴に付き合わされていた。王子様のパーティーは、やはりガーデンパーティーらしく、学園の中庭を借りてやるそうで、色々な手続きやら予約と準備に追われているらしかった。雨の場合も考慮して、ホールも予約したんだって。(なら最初から、ホールでやりゃいいんじゃ?って私は思うんだけど?)
忙しいのはラランジャも同じらしく、ランチの時に「絶対にジョーヌはアーテル様と結婚してね?じゃないと私、一生、ローザ様のパシリだよ……?!」って涙目で訴えるようになり、それをアーテル君が「ジョーヌちゃん、親友の為にもここはひとつ早い決断が必要だよ?!」と受けるのが、お決まりになってしまった。
……。
なんか、まだ学園に入ったばかりなのに、やたらと結婚に追い込まれてるんだけど……?こんなんで、3年間、強い意志を持ち続けられるだろうか……。流されそうで、なんか怖い。
……そうそう、それから、私の水やりも随分上達してきた。
リュイ様方式で、アーテル君と毎日練習する事で、なんとなくだけど、魔力ってのが分かってきたのだ。
上手く言えないんだけど、魔力はよーく意識すると自分の中にあたたかい何かがあって、それが体から湧いてるイメージなんだよね???
魔術を使う時は、それを意識しながら魔法陣に行き渡らせて、溢れる前に止めて、魔術として放出させるって言えば良いのかな……?
うーん、意味不明だよね。……私もそう思う。
要するに、魔力ってのは、すごく感覚的で、抽象的な感じなのだ。しかも音痴な人が上手く歌えないみたいに、こうしたいって思っても、上手く行かなかったりする。
そして私は、アーテル君に魔力を流すってのをメインで練習してきた為に「魔力の出しすぎ=アーテル君が痛い」って構造が出来てしまってて、今や魔力を絞りすぎてしまう傾向になっている。……花壇破壊の衝撃もあるかも知れない。
つまり、水やりは、普通に出来る事もあるけど、ポタポタしか水が出なかったり、ミストが発生するだけみたいな、ショボい方向への失敗が多いのだ。……まあ花壇を破壊したり爆破させるよりは、安全で良いんじゃない?ってアーテル君には言われてるけどね……。
◇
そんなある日、花の水やりに行くと、すでにルージュ様とリュイ様が来ていて、ルージュ様が私に2通の封筒を差し出した。銀色の箔押しがされた、高級感のある封筒だ。
「……なんですか、これ?」
「ヴァイスのパーティーの招待状だ。これは、アーテルとジョーヌのぶんだ。1つはアーテルに渡してくれ。出欠は来週までにヴァイス宛に返送して欲しい。」
「あ!あの準備していたパーティーの招待状が出来たんですね!ありがとうございます!……でも、実質は強制参加で拒否権無いのに、出欠の確認って……???しかも毎日教室で会うのにわざわざお手紙で返信するんですね???……王子様にどうしても行けない人だけ直接断った方が早そうですけど、面倒ですねぇ……???」
「……さすがアーテルの『奥様』だな。……お前も煽りキャラなのか。」
「確かに。ラランジャさんが言う通りだね。夫婦は似てくるらしいし。」
……何だろう???
最近、みんなに煽りキャラ扱いされるの、ちょっと不満だよ?!ラランジャのやつ、言いふらし過ぎだし!……ルージュ様を下着の王子様って言ったの、実は根にもってるな?!
私がムーっと膨れていると、ルージュ様が真剣な顔で私に言い聞かせるように言った。
「とにかく、そういうのが招待状のマナーみたいなもんなんだ。アーテルに聞いてちゃんとやれ。……いいか、ジョーヌは変に目立つな。もし、ヴァイスに目をつけられたら厄介だからな?……それでなくても、ヴァイスはアーテルが目障りで仕方ないんだ。その気持ちはとてもよく分かるが、俺らはお前がとばっちりを受けるのは見たくない。分かるな?」
あまりにも真剣に言われて、素直に頷く。
ルージュ様が言うように、悪目立ちして王子様に睨まれるとか、おそろしすぎる……。
「わ、分かった。マナーにも気をつけるし、目立たないようにする……。」
「それだけじゃないよ、ジョーヌさん。あまり、アーテルに溺愛されているとこは見せつけない方が良いって僕は思う。」
へ……で、溺愛?!?!
「な、何を言ってるんですか、リュイ様?」
「そうだな、俺もあまりそういうのはヴァイスに見せつけない方が良いと思うぞ?……ほら、いかにもジョーヌが『アーテルの最愛の人で弱みです!』ってアピールしてるようなもんになるだろ?」
?!?!
えっ?最愛の人ぉ?!
「ル、ルージュ様?!な、何を言ってるの?!」
リュイ様は戸惑う私の肩をグッと掴み、神妙な面持ちで言う。
「あのね……いつもジョーヌさんが僕らに言ってる『私は、なりゆきで婚約者にされただけで、騙されたようなモンなんです。逃げたいんですぅ!』ってのと、アーテルの『僕はさ、条件に合うお嫁さんが欲しかっただけだよ?ジョーヌちゃんはお嫁さんだから大切なだけだよ?』っていう、いつもやってる『設定』を、今回こそは、ちゃーんと守った方が良いって言ってるの。最近、ボロが出すぎだからね?」
「リュイ様、それ……設定……じゃないよ。」
だってそれは、両方とも真実なんですが……?!
「ああ、じゃあ『小芝居』か。……とにかく、リュイも俺もお前の事は心配してるんだ。だって、ヴァイスがアーテルが恋に溺れてるなんて知ったら、ジョーヌに何かするかも知れないからな……。」
「ま、待って下さい!ルージュ様も!小芝居って?!……アーテル君と私は、本当にそんなんじゃなくって……?!心配はありがたいのですが……???こ、恋に溺れてるって、な、何を根拠にそうなって……?!」
な、な、な、何、これ?
何で私、アーテル君から溺愛されてて、恋に溺れてるって認定されてるの?!
……誤解、誤解だよ?!
「……ジョーヌさんあのさ、さすがにもう僕らは騙されないよ?」
「ああ。そうだ。……あの人の不幸を馬鹿にするのが大好物なあいつが、ジョーヌの為に嵐の中でも花を摘みに行ったろ?……俺はさ、これは愛だと思ったね。」
えええ……。結局、アーテル君は全然濡れなかったし、ビシャビシャの2人を見て、薄笑いを浮かべてたよね???……ルージュ様はさ、そんなのじゃなくて、ラランジャからの尊く深い愛に気付こうよ……?!
「それにさ、ジョーヌさんは、濃厚なキスをして、あの抜け目ないアーテルから、魔力を根こそぎ奪ってほぼ一日中寝込ませたんだろ?何度も暗殺されかけた警戒心のカタマリみたいなアーテルをだよ?!……間違いなく、溺れてるよ、それ。」
えええっ?!そ、それ?!
そのせいで、ものすごい誤解されちゃったの?!
酔ってアーテル君に執拗なキスをした私を殴りたいよ……。もう、絶対二度と、神様に誓って、ジョーヌはお酒なんて飲みません!!!
「「とにかく、ヴァイスの前では、いつもみたいにイチャつくなって事だよ???」」
2人に強くそう釘を刺されて、私はハハハ……っと力なく笑った。




