休日デートで、一歩前進?!
「あ、あのさ、魔力って人によって、そんなに違う味なの?……アーテル君って、他の人がどんな味か知ってたり……するの……かな?」
思わず変な事を聞いてしまい、ハッとする。
な、なにを聞こうとしてるの。私!!!
「んー?……魔力ってさ、それなりに無いと、ハッキリとした味では感じ無いんだよ。普通は、なんとなく甘い気がするなぁってくらいじゃない?……魔力のない人だと、まあキスの味だよね。そうだな……学園でも、味で感じられるとしたら、ラランジャさんくらいまでじゃないかな?……なーに?ジョーヌちゃん、他の人の味が気になるの???」
アーテル君に訝しげに聞かれて、慌てて首を激しく横に振る。
「いや!私が身を持って知りたいとかじゃなく、そんなに違うもんなんだなーって、ただ気になっただけだよ!!!」
うん、ただ気になっただけ!!!
だって私が蜂蜜味で、アーテル君がチョコレート味なら、他の人はどんな味なのかなーって気になっただけだよ?!確かにジョーヌは酔っ払うとキス魔になるのかもですが、もうお酒は飲みませんし、他の人とそんな事をしたいって訳じゃないですからね?
そ、それに……。別に、アーテル君は元婚約者のヴィオレッタ様の味を知ってるんじゃ……?とかって思って、ついつい聞いたって訳でもないですよ!……断じて!!!
「ふーん。……なら良いんだけどさ?……あ、そうだ、僕さヴァイスとルージュの味なら知ってるよ?!」
「へ……?……何で、ヴァイス様とルージュ様……?ヴィオレッタ様じゃなくて???」
「ん?……ヴィオレッタとそんな事する訳ないよ?シーニー怖すぎだし……。それに、ヴィオレッタって野心家でさ、僕を国王に育成する気だったんだよ?僕の事なんて好きでもないのに、ローザ憎しでね?……下らない私情で僕を、クーデターの要にする気だとかさ、ドン引きだろ?だから、絶対にそっち見ないくらいの勢いで避けてたんだ。お嫁さん欲しさに思わず婚約しちゃったけどさ、内心は、かなり後悔してたんだよね……。だから、シーニーにパス出せて良かったーって思ってるんだよ?」
……そ、そうなの???
確かに、クーデターとか、怖いわ……。そんなの企んでて、首謀者ってバレたら、さすがに捕まっちゃうよね???
「そ、それは怖いね。」
「だろー?……それに僕さ、クーデターなんかして、ヴァィスが居なくなったらちょっと寂しいなーって思うんだ……。」
「アーテル君……。」
アーテル君ってこう見えて、それなりに王子様を大切に思ってたんだね……。思わず、従兄弟の絆に感心してしまう。
「ん……。僕、どっちかっていうと、長く楽しみたい派なんだよね?だから、ヴァイスのスペアとしてアイツの側でずーっとアイツをイライラさせる方が、魅力的だなーって思うんだ!」
……。
……。
え、えっと……こ、これはどうとらえるべきか……。
「それに、王様になったら、ジョーヌちゃんは僕と結婚してくれないんでしょ?……だから、最低でも結婚するまでは、そんな気は起こさないからね?!」
……えっと。
なんか、迂闊に返事するのやめとこう。これで変な返答をすると、例の『結婚に前向きでありがとう!』ってヤツになるに決まってるからね。私だって学んでますよ……?
「……あ!……そういえば、何でヴァイス様とルージュ様の味を知ってるんですか?アーテル君は、2人とキスしたの?!」
「えー。その言い方、やめてよ。キモいだろ?……ま、キスしたけどさ。……2人が魔力切れで倒れそうになったから、僕があげたの。僕たちさ、魔術の先生が同じで、たまに一緒に練習してたんだ。まさかルージュが魔力を感じて無いアホだとは知らなかったけど……。始めたばかりの頃ってさ、加減が分からずに使い過ぎてよくへばっちゃうんだよね……それで。」
あー……。そういう事……。
でも、あの二人なら「アーテルからの施しは受けん!」とか言いそうだけど……?
「グッタリ動けなくなってる2人に無理矢理に分けてあげるのが最高に楽しいんだよね?!……2人とも、動けるようになると、めっちゃ不機嫌なの。しかもルージュのファーストキスって僕らしいよ?ウケる!……でも、動けないままってのも困るから、不本意なのに『ありがとう。』ってお礼を言ってくるんだ。……面白いだろ?!」
……すさまじい性格の悪さですね。
なんとなく気づいてましたが。
「もう!仲良くしなきゃダメなんじゃないんですか?」
「えー?嫌われても僕は、別にいーんだけどな?でも、ジョーヌちゃんが仲良くしてって言うなら、考えとく。……ちなみにね、2人がどんな味かって言うと……。」
アーテル君がそう言いかけると、コンコンとノックの音が聞こえ、メイドさんが船が街に着いた事を知らせてくれた。
◇◇◇
「うわぁぁぁ!!!すっごい!!!」
船から降りてやって来た対岸の街は、とても賑わっている異国情緒あふれる大きな街だった。私はアーテル君の話から、勝手に小さな漁村を想像していたが、この街は漁師街というだけでなく、交易をする港もあるそうで、街はとても大きく異国のもので溢れていた。
「ジョーヌちゃん、あっちにお花屋さんがあるって。」
アーテル君に言われ、行ってみると、お花屋さんには見た事のない種類の、美しい草花の苗が、所狭しと並べられていた。あまりのボリュームと見応えに、目移りしてしまうし、見ているだけでも、すごく楽しい!
「うちの花屋は異国から仕入れているんで、珍しいものばかりでしょ?……この街ははじめて?」
キョロキョロとお花を見ていると、女将さんにそう声をかけられ、コクコクと頷く。
「はい。はじめて来ました。……あの、花壇に植えたいんですけど、おすすめありますか?」
「そうね、地植えにするなら……このあたりがおすすめかしら?お世話もしやすいし、長持ちするの。」
女将さんはニコニコとそう言って、お世話の仕方を教えてくれつつ、数種類を選んでくれる。どれも素敵なお花ばかりなので、それらをそのまま箱に詰めてもらう。
「ありがとうございます!きっと素敵な花壇になります!」
「ふふふ。また是非、買いに来て下さいね?……季節が変わると、お花の種類も変わるんですよ。……旦那さんも楽しみですね?奥様の作られる花壇が……。」
「ええ。たのしみですね。妻が張り切っているので、ここまで買いに来て良かった。……ありがとうございます、マダム。」
アーテル君がサラッと答える。
……えっと……戸惑う事なく妻にされてるんですが。
「さあ、ジョーヌ行こうか。」
えー……。
ノリノリだね、アーテル君。
木箱に詰めてもらったお花の苗は、メイドさん達が船まで運んでおいてくれるという。……まあね、メイドさん達は私を「奥様」って呼んでますし?誤解されても仕方ないよね……。花屋の女将さんに必死で説明するのも、変な話だし。
「はい。行きましょう、旦那様。」
私がそう言うと、アーテル君がウッとのけぞった。
……え?酷くない?!
「ジョーヌちゃん、いきなりヤメて?なんか心臓にクる。」
「えー?……私はいつもですよ?」
「ん?そうなの?……それはさて置き、せっかく来たし、色々と見に行こう?ジョーヌちゃんが行きたがってた、文房具屋さんもあるって。」
「ええっ!行きたいです!!!」
家族にお手紙を書くのに、素敵な便箋が欲しいんだという事を昨日、アーテル君に話してたのだ。……覚えててくれたのが嬉しい。
アーテル君と並んでのんびりと街を歩く。
「確か、こっちかな?」
街には沢山のお店がゴチャゴチャと並んでおり、ちょっと探検気分だ。……メイドさん達もついて来てくれてるけど、程よく距離をとってくれていて、なんか気分が盛り上がる。
「アーテル君、あそこ……何かな?」
ふと、奇妙な檻の看板を見つけて足を止める。
歪んだ檻に怖いギョロっとした目がついていて、ちょっと不気味な感じだ。……お化け屋敷屋さん?だろうか?
「あー。あれかぁ。ちょっと見ていく?魔術学園が近いからあるんだろうね。……あれは、魔獣ショップだよ。」
「え?……ま、魔獣?!魔物って事?!」
魔物って、すごく危険なのでは?こんな街中にそんなのいて大丈夫?!
「ジョーヌちゃん、魔獣と魔物は全然違うんだよ?魔力が高い獣を魔獣って言って、珍しいんだけど、ものすっごく賢いんだ。人の言葉を話せるしね。……もちろん物凄く高価だから、訓練して働かせたりするんだよ。鳥だと飛べるから偵察させたり、犬は鼻が効くから探索に使ったりするんだ。話せるから重宝なんだって。でも、賢いから信頼関係が無いと逃げられちゃうんだけどね?」
「へえええ、魔獣ってすごいんだね?!……見たい!ねぇ、猫もいる?私、猫ちゃんとお話するのが夢だったんだ!」
「猫かぁ……。猫はさ不人気だから、ほぼ仕入れないみたいよ。」
ええっ?!あんなに可愛いのに?!
魔獣になると、可愛くなくなっちゃうのかな……?大型化してトラやライオンみたいになっちゃうんだったら、確かに飼える気はしない……。
「なんで?魔獣だと、可愛くなくなっちゃうとか?大きくなったり、凶暴化するとかなの?」
「違うよ。魔獣って言っても、見た目はそう変わらないよ?たださ、高額だし、お仕事をさせる用だから、言う事を聞いてくれる動物が人気なんだ。大型の鳥や、犬とか馬とかね。猫は可愛いけど……猫だからね?」
あー……何となく、言いたい事は分かる。
我が家のエイミだって呼んでもシッポでお返事するだけの事が多い……。リッチーはちゃんと顔を上げてくれるけど……。でも、2匹とも、まったりして寝てばかりだ。エサをちらつかせても、気分が乗らなきゃ見向きもしない。
「そっかぁ、残念。猫の魔獣に会いたかったなぁ。」
「そのうち会えるよ。……僕、飼ってるからね。」
「え?!」
「流石に学園に連れて来るのもなーって思って、置いて来たんだよ。まるで役に立たない奴だからね?……本人も学校なんか嫌だーって言ってたし。……ベージュのオス猫だよ?空から落ちて来たんだって。」
え???空から落ちた???
「な、なにそれ?飛ぶの、その猫?」
「知らないよ。本人がそう言ってるだけで、ある日、我が家の庭にいたんだ。『こんにちは!お話できる猫です。可愛い僕を飼いませんか?養ってくれるなら、このもふもふシッポに触ってもいいですよ?ウッカリで落ちちゃったんで、お迎えがくるまで置いて欲しいんだ。ダメ?』って、出会い頭に自分を押し売って来たんだ。で、それ以来、お迎えとやらは来ないし、ずっと家にいて、ただゴロゴロしてる。話せるけど、それだけ。眠いと話しかけても無視するし、やたらグルメだし……。」
「へえ……。なんてお名前?」
「名前は『秘密』なんだって。だからみんなヒミツって呼んでる。……でも……まあ、そんなヤツなんだけど、ヒミツがいたから今の僕があるんだよね?……ほら、僕ってさ、暗殺とか何度もされかけて、魔物が湧いたりして、そういうの悩んだ時期があったんだ……。でもヒミツに、そんなのはバカバカしいって言われたんだよ。悩むより、短い人生、可愛い女の子と遊んだ方が楽しいよ?ってさ。それに、僕を悪く言う奴なんかは、おちょくって遊んじゃえば?メソメソじめじめしてるより、きっとスカッとするし楽しいよ?って言われて……なんかさ、それで僕は目覚めたって感じ?」
……す、すごいネコだな。
でも、喋れたら猫って案外そんなかも???
「あ!で、でも!もう、女の子とは遊ばないよ?!ジョーヌちゃんと約束したからね?……今度さ、我が家に来たら、ヒミツに会わせてあげるよ。」
「うん、楽しみ!!!」
「僕もだよ!……僕の両親とジョーヌちゃんの婚約後の正式な初顔合わせだね!」
えっ!!!
あ、あれ……???
なんかまた私、結婚にひとつコマを進めちゃって……る???




