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ジョーヌ、キスの味の意味を知る?!

リュイ様を見送って、パタリとドアが閉まったと同時に、私はそのまま床にしゃがみ込んでしまった……。


なんて事……。

私はどうやら、酔ってキス魔になっていたらしい。

最悪すぎる……。


そうだよね……。


アーテル君から魔力を奪う方法なんて、よく考えたら分かる事だ。……この間、私はそれで眠ってしまったのだもの。あれは濃かった……。


しかも、アーテル君が翌日も起き上がれない程って……ど、どんだけ執拗にしたの、私???

そ、そりゃ、アーテル君に、どうやって魔力を盗ったか聞いても、教えてくれない訳ですよね……。


その上、さっきなんて「才能あってごめんね?」なんてドヤってしまった……。うわああああ……穴があったら入りたい。いや、むしろ、穴を掘って埋まりたい!!!


「えっと……ジョーヌちゃん、大丈夫?」


アーテル君が、ドアの前でしゃがみ込んで悶絶する私の側にやって来て、心配そうに尋ねた。


「うがっ!!!……アーテル君……ご、ごめんね……?!私……酔うとキス魔になる、しょうもない性質を持ってたみたいです。……もう、お酒は飲みません……。」


……酔うと変になる人がいるってのは聞いた事がある。酒乱とか言うやつだ。……執拗なキス魔で、しかも覚えてないって……酷すぎるだろ、私っ!!!


早速ですが、泣けてきました……。


「確かにジョーヌちゃんは、あまり人前で飲まない方が良いと思う。アルコールに弱いみたいだし、あんなになるんじゃ危ないって思う。……どうしても飲まなきゃいけない時は、僕が側にいる時だけにして?」


真剣な顔で、言い聞かせるように言われ、ウッとなる。

……やっぱり、相当なモンだったんですね、私……。一体、どんな失態を……で、でも、詳しくなんて聞けないっ!!!


「は、はい……。そ、そうします……。」


アーテル君がいても、お酒は絶対に飲むの止めよう……。お酒って、そんなに美味しく無かったし、一生無縁で生きていける!もう絶対に飲まない……!!!……私はこっそりと心に誓った。


「あ!そうそう。とりあえずさ、寝たからだいぶ戻ったんだけど、ジョーヌちゃんが根こそぎ持ってったから、僕はまだ、とてもダルいんですよね?」


!!!


そ、そうでした!!!

魔力が切れてくると、体がダルくて重くて、動かなくなってくるんでした。


「ご、ごめんね?!体、大丈夫?……お夕飯、お部屋に用意してもらおうか?……それとも、もう少し横になる?」


「……んー。そうだなぁ……。でも、今日は一日中寝て過ごしちゃったし、さすがに、ご飯くらい食べに行きたいかなぁ?」


「で、でも、まだダルいんだよね?」


アーテル君の気持ちは分かる。一日、寝て過ごしたら損した気分になるよね?でも、体が辛い時は無理しない方が良いと思うんだけど……?


「……だからさ、返して?」


「へっ?」


「僕の魔力、返して欲しいな?」


アーテル君はそう言うと、ニッコリ笑って私に顔を寄せ、後頭部に手を回した……。


!!!




◇◇◇




「ところで、明日はお休みだけど、ジョーヌちゃんはどうしたい?」


復活したアーテル君と私は食堂にやってきた。


アーテル君はスッキリした顔になったが、私はなんかメンタルがボロボロにやられました。……ちなみに、魔力が出ていく感覚ってのは、やっぱり良く分かりませんでした。……てかさ、色々とパニックでそんなの感じてる余裕なんて、無いですからね?


ただ、いつもよりチョコレートの味が薄かったので、魔力が減ってるってのは、感じたけど……言えない。そんなん、言えませんよね?!


「あ。あの……お花を……。めちゃくちゃにしちゃった花壇に植えるお花を買いに行きたいです。ルージュ様とリュイ様と、3人で手分けして買って来る事になってて……。」


「うーん。……そうなると、対岸の街に行く方が良いだろうな。ショッピングエリアにある花屋は、切り花がメインだから……。」


「えっ!……島って出ても良いんですか?!」


てっきり私は、長期休暇以外はこの島から出られないのかと思ってた。


「……もちろんだよ。島から出れなきゃ、ここで働いてる人とか、困っちゃうだろ?……平日も朝晩と、休日は昼間も数本だけど船が出るよ。……ただ、船で街まで1時間はかかるし、海が荒れるともっとかかるだろ?最悪だと欠航になるからね?対岸の街にはいい宿がないから、そんな事になると悲惨らしいよ?だから、面倒で行かない奴が多いってだけなんだ。……そんな魅力的な街でもないしね。」


ふーん……そうなんだ。


「街は魅力的じゃないの???ショボいって事?……お花屋さん、あるかな???」


父さんと母さんに送ってもらった時は、船着場から少し中心が離れていた対岸の街には寄らなかった。船着場から見える感じだと、そこまで小さい街だとは思わなかったけど……?


「あははは。……さすがに、学園のショッピングエリアよりは、色々なお店があるよ。魅力的じゃないってのは、庶民向けのお店が多いって意味なんだ。海に面しているから、漁師街って感じなんだよね?……学園の子は貴族ばかりだから、高級嗜好で、あまり喜ばないんだ。……そんな街だけど、行ってみる?」


「えっ!!!むしろ行きたい!……私は庶民みたいなモンだから、そっちの方がお買い物しやすいかも!……で、でも……アーテル君が嫌じゃ無かったらだけど……。」


学園のショッピングエリアにあるお店は素敵なんだけど、入店すると担当の店員さんが付き、その店員さんに言ってから商品を見たり、買ったりしなくてはならない。好きにアレコレ手に取って見たりする感じではないのだ。……やっぱりヤメ!とかも言いにくいし、何も買わないでお店を出るのは更に居た堪れない感じになる……。


だから、普通のお店がある街に行けるのは嬉しいけど……。でも、アーテル君はこう見えて、深窓のご令息だ。庶民向けのガチャガチャしたお店など、嫌かも知れない。


「僕は嫌じゃないよ。じゃあ、明日はお買い物に行こうか!デート、だね?」


「!!!……デ、デート……。」


降って湧いた憧れの初デートに、私はちょっとだけ胸がドキドキとしてしまった。




◇◇◇




翌日。


「アーテル君……あの。何で、みんなも行くのかな?」


早めに起きて、お気に入りのワンピースに着替え、アーテル君の部屋に行くと、アーテル君の後ろには戦闘可能メイドさん達が私服に着替えて、ずらりと並んでいた。


「僕とジョーヌちゃんの安全のためだよ?……それに沢山のお花の苗を買うんでしょ?その木箱は誰が持つんだい?」


確かに、優雅な立ち居振る舞いのアーテル君が、泥だらけの重い木箱を私と一緒に運んでくれる想像はできないし、アーテル君は子供の頃から何度も暗殺されかけてると聞いた。そ、そうだよね。言われてみれば、そうだ。……安全は大事だもの。


デートって聞いて、普通のデートを想像して、ちょっと浮かれちゃってたけど、貴族だとこっちが普通なのかも知れない……。街で見かける貴族たちにも、お付きの者がいた気がする。


仕方ないって分かるけど……なんかちょっと残念?だなぁ。


「ジョーヌちゃん、そのワンピース素敵だね?」


でも、ニコニコと笑いながらエスコートする手を差し伸べられ、お気に入りのワンピースを褒められたら、嬉しくならないはずはない。


「ありがとう。アーテル君のシャツもお似合いだよ?」


「ん。ありがとう。……そろそろ行こうか、船の時間だからね?」


アーテル君の腕をとり、船着場まで歩く。

後ろからゾロゾロと戦闘可能メイドさんたちが付いてくるから、ちょっと変な感じだ。


ちなみに、メイドさんは交代でお休みなどをとるため、全部で6人いるそうで、今日はそのうちの4人が付いて来てくれている。皆さんベテランという雰囲気のメイドさんばかりで、いつも程よく私たちから距離をとっていて、いざとなるとササッと登場し、助けてくれる、本当に有能な方ばかりなのだ。


アーテル君には私の部屋にも2人くらい置こうか?と言われたが、アマレロ家にはメイドさんなんて居なかったので(通いの家政婦さんと言うか、お手伝いさんはいたんだけどね。)、メイドさんがずっと控えてるってのに耐えられないからと言って、遠慮させてもらっている。


ちなみにメイドさん達は私を「奥様」と呼んでおり、それも遠慮した一因となんだけどね。……なんか四六時中「奥様」なんて呼ばれてたら、洗脳されちゃいそうじゃない???


船着場まで来ると、もう船が到着していた。

私たちが学園に来る時に乗った船よりも、やや小さめの船だ。


「来る時に乗った奴より小さいんだね?」


「ああ。……あれは、王子様……ヴァイスがいるから、特別室がある船を出したんだと思うよ。まぁ、僕たちが占拠しちゃったけどさ。」


……。

……。


そうでしたか。

ルージュ様たちが怒ってた理由も頷ける。


「この船にも綺麗な個室はあるから大丈夫だよ?少し狭いけど、メイドたちは外で控えさせるし、ゆっくりしよう?」


そういう事じゃないんだけどな……?

ま、いっか……。


私とアーテル君とメイドさん達は船へと乗り込んだ。




◇◇◇




船の個室は確かに狭めだが、それでも充分に快適で立派なお部屋だった。来る時に使った船の部屋が桁違いに豪華だったという事に今さら気づく。


……無知って怖い。


「アーテル君。アーテル君は、庶民の街に行くの、はじめてだったりする?」


ソファーでくつろぎながら、本を読んでいるアーテル君に尋ねてみる。もしかすると、庶民の街になんかアーテル君は行った事がないかもって思ったのだ。


「ん。……そうだね、対岸の街に行くのはじめてだね。でも、王都では割と出歩いていたから、貴族のご令嬢みたいに街に行った事ないって訳じゃないよ?」


「へえ……そうなんだ。ねぇ、アマレロ家があるイースト地区にも来た事ある?」


「イースト地区かぁ……。王立の魔術研究所があって、王立図書館やら庶民の学校に病院なんかも多い、ちょっとアカデミックな地区だよね?……治安も悪くはないけど、そっちにはあまり行った事無いかな?……遊ぶとこあんまり無いし……。あ、でも、一度そっちにある有名な『パンケーキ専門店』には行った事あるよ?」


「えっ!!!それって『パンケーキisパラダイス』かなあ?」


『パンケーキisパラダイス』は地元では大人気のパンケーキ専門店だ。厚焼きパンケーキをなんと最高10段まで載せてくれ、たっぷりのオリジナルの蜂蜜をかけてくれる。パンケーキと言えばメープルシロップというお店が多い中で、蜂蜜なのがちょっと珍しいし、ここの蜂蜜は絶品なのだ。


「んー。そんな名前のお店だったかな?蜂蜜と山盛りのパンケーキの店だよ。……僕さ、パンケーキって言うより、蜂蜜が大好きなんだよね。」


「へー?……そうなんだ。」


蜂蜜好きかぁ。……そういえば、うちの母さんも蜂蜜好きだったな。アマレロ家のケーキが「はちみつレモン」なのも、それだからってのもある。


「家の母さんも蜂蜜好きなんだよ!」


私がそう言うと、何故かアーテル君がクスクスと笑った。


「……なるほど。そこまで似てるんだ。」


???


「どういう事???」


「……ジョーヌちゃん。君さ自分の魔力がどんな味か知ってる?……蜂蜜の味がするんだよ。……多分だけど、君にソックリなアマレロ男爵も……そうなんじゃない?」


ジョーヌ、16歳。……多感な年頃なのに、全くもって変なところから、父さんのキスの味を知ってしまった。


「なんか、すごく嫌ぁーーー!!!」


「いやさ、……僕の方がすっごく複雑な気分だよ?!」


……た、確かに……。




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アーテルの元婚約者、ヴィオレッタが主人公の前日譚はこちら↓↓↓
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