ジョーヌ、はじめての魔術?!
「ふわぁ、よく寝たぁ!」
あまりにも爽やかに目覚めた私は、アーテル君の部屋のソファーで眠っていた事に気付き、驚く。
……えーと???
昨日、アーテル君にワインを勧められて飲んで、きっとそのまま寝ちゃったんだ……。途中から、なんだか記憶も曖昧だ。
……ああ、そうだ。逃亡計画をゲロってしまったのでした。
なんか気まずいよね……。
あ、あれ?そういえば、いつも朝はスッキリ爽快!なアーテル君がいない……?!
ふと、足元にあたたかい塊がある事に気付いてギョっとなる。
……え?
アーテル君……床で寝てる……。
い、いいの?
公爵家のご令息が、床で寝てて……???
きっと、昨日の夜、アーテル君もワインを飲み過ぎて、床で寝ちゃったのかな?……お酒が弱い父さんも、商売人の集まりで飲み過ぎて、帰りに道で寝てたっけ……。いつまでも帰ってこないの!って母さんが心配して、兄さんが探しに行ったら、路地横で寝てたんだよね……。
実はお酒、弱いのかなぁ???
酔っ払ってた?……うーん、記憶が無い……。
それにしても、昨日はあんなにルージュ様を、貴族としてダラシない!!!って責めたのに、自分は床で寝てるって、どーなの???……こっちも非常にダラシないよね?
「アーテル君、床で寝るなんてダメだよ?おはよ?朝だよ、起きて???」
ユサユサと揺すってみるが、アーテル君はスイッチが切れたみたいに深く眠っていて、起きる様子がまるでない。
……飲み過ぎ、なのかな?
「うーん。私じゃベッドまで運べないし、メイドさんにお願いしようかな?……て、わっ!!!もうこんな時間!……お花の水やりしに行かなきゃ!」
私はメイドさんにアーテル君をお願いすると、慌てて準備して花壇へと向かった。
◇◇◇
「昨日はすまん!!!」
私と会うなり、ルージュ様が頭を下げた。
そもそもの元凶はコイツだけど……なんかまあ、いっか。
なにせ今日の私は、なんだか絶好調だからね?!
「ルージュ様、うかつ過ぎです!……完全にバレちゃいましたよ?……まあ、まだ先の事だし、別に良いですけど。」
「……アーテル、怒ってたか?」
「うーん???よく覚えてないです。お酒を飲んで、自分で全部話しちゃいましたんで……。……ま、逃亡計画は、また卒業間近になったら考えます。……ルージュ様は秘密が守れないタイプなんで、リュイ様と。」
私が笑いながらそう言うと、ルージュ様から昨日の話を聞いていたらしいリュイ様が、カラカラと笑う。
「僕もそう思う。……ルージュには直前にお願いした方が良いかもね?……さ、とりあえず水やりしよう。」
「なんだよ、もうバラさねーよ?……た、多分???」
「多分って何ですか、多分って。……さあ、昨日、ルージュ様に教えてもらったやり方で、魔術を使ってみますよ!」
3人で談笑しながら、私は作ってあった魔法陣をキュッと握る。なんだかピリピリしてるけど、魔力がいっぱいになったらピリっとするはずだよね?まだ何もしてないのに誤作動かな?
……これを、あたためる感じで……そうして……ちょっと待ってから……離す!!!
えいっ!!!
魔法陣を手放すと……花壇には……ドーっという爆音と共に、ゲリラ豪雨が降り注いだ。
えっ???
あ、あれっ???
な、なんでー?!
「ジョ、ジョーヌ……ちゃん?!」
ひどい惨状に、リュイ様が震える声で、私を呼ぶ。
……あまりの勢いの水に、花は潰れ、花壇の土も抉れてメチャメチャになってしまった。
え、え、な、なんで??!
「あ、あのっ、ルージュ様、今のって、魔力込めすぎだったんですかね?……昨日、教えてもらった感じだと、あのくらいの時間でしたよね?」
慌ててルージュ様に確認する。
「あ、ああ……。ジョーヌはおれより魔力がやや弱いから、俺と同じくらいの時間魔力を込めれば、普通に水が撒けるはずだと思ったんだが……???」
「そんな事よりさ、この花壇、どーすんの?!……学園のシンボルなのに、メチャメチャだよ?!」
リュイ様の言葉に、私とルージュ様はハッとする。
「……な、直すしかないだろ。……俺たちのせいだ。何でジョーヌの魔力が暴走気味だったかは知らんが、連帯責任だろう。……先生に謝って、放課後に花を植え直そう。」
「そ、そうだね……。明日は休みだから、放課後はショッピングエリアにでも行こうかと思ってたけど……仕方ないよね。」
「2人とも、すみません……。でも、何で???」
「さあ……?……魔法陣に不備があったのかもな。アーテルが手本は書いたんだろ、後から聞いてみるしかない。……そろそろ、みんな登校してくるし、職員室へ報告に行こうぜ……。」
私たち3人は、トボトボと職員室へと向かった。
◇◇◇
「あれ?アーテル様、お休みなの?……昨日は元気っぽかったけど、風邪?」
午前中の授業が終わると、ラランジャ様がやって来て、私に聞いた。
……そう。
寮に置いてきちゃったアーテル君なのだが、授業が始まっても登校してこなかったのだ。
……多分、二日酔いってヤツかも。
父さんが道で寝てた翌日、「頭が痛いし気持ち悪くて動けない。俺、死ぬのかも……。」ってベソベソ泣いてて、母さんが「ただの二日酔いですよ?!」って諌めてたし、アーテル君もそうなんだと思う。
「よく分からないけど、お疲れが出たんだよ。ほら、私って何も知らないから、世話がかかるし。」
「ふーん?……じゃあさ、お昼一緒に食べない?」
「えっ?!いいの?……ラランジャ様はローザ様やヴィオレッタ様と食べてるんじゃない?」
確か、ラランジャ様はあの2人と食べてたはず……。
「うん、そうなんだけどさ、もういいかなーって。……だってさ、昨日の夜、ジョーヌさんとご飯食べて、すぐに悪いとこ、指摘されたじゃん?そしたらさ、こぼしたりとから口の周りについたりとか、減ったんだよね。そういうのさ、ローザ様もヴィオレッタ様もきっと気付いてたはずなのに、今まで言ってくんなかったって事でしょ……。ルージュ様なら気づいてないってのも、なんか分かるけどさぁ、あの2人は違うよね。頑張って仲良くしなきゃって思ってたけどさ、なんか一方通行なんだなって、思っちゃってさ……。だから、普通に仲良くしてくれそうなジョーヌさんと、ご飯食べようかなって……。ジョーヌさんが嫌じゃなければだけど……。」
……!!!
「嫌じゃないです!すごく嬉しいです!わ、私で良かったら!……私もラランジャ様と仲良くしたいです!」
「ラランジャでいいよ。私もジョーヌって呼びたいし。……じゃ、ランチ行こ?」
「はい!!!」
私たちは笑いながら、ランチに向かった。
◇◇◇
「あれ?……ルージュ様とリュイ様だけでご飯食べてるの、珍しいね?」
食堂に行くと、ルージュ様とリュイ様がいつものど真ん中にある王子様の特等席じゃなく、端っこで隠れるようにご飯を食べていた。
「ほんとだ。……ルージュ様、どーしたんですか???」
積極性のあるラランジャが、ルージュ様に聞きに寄る。
「あー。ラランジャ。……あんまデカい声出すな。ヴァイスに気付かれるだろ?」
「ラランジャさん、あのさ、僕たちヴァイスとシーニーから逃げてるの。……朝、花壇をめちゃくちゃにしたのがバレて、側近として恥ずかしいってご立腹なんだよ。」
3人の遣り取りが聞こえてきて、思わず駆け寄る。
「……それ、私のせいだよね。」
「ジョーヌ……。」
「あのさ、ジョーヌさん。確かにやったのはジョーヌさんなんだけど、僕とルージュも付いてた訳だろ?ジョーヌさんが素人だってのは知ってたんだし、僕らがちゃんと魔法陣を確認してやるべきだったんだよ。アーテルが確認したからって、見もしなかったし……。」
「で、でも。」
「魔力の込め方も、俺が適当に教えすぎたんだ。……ジョーヌは言われた通りにやってたし、悪くない。」
2人はそう言って、肩を竦める。
「え、あのメチャメチャになってる花壇、ジョーヌがやったの?」
「あ、ラランジャには言ってなかったね。……うん。朝の水やりでなんか魔術が暴走しちゃって……。」
「……怪我しなくて良かったね。」
ラランジャに心配そうに言われ、ハッとする。
確かに、近くに人がいたら大変な事になってたかも……。
「何だラランジャ、お前、ジョーヌと仲良くなったのか?……ローザとヴィオレッタのお付きはやめたのか?」
ルージュ様が揶揄うように言うと、ラランジャ様はあしらうように答えた。
「そ。やめたの。だって、いくら頑張ってもメッキはメッキだもん。……だから、友達になれそうな人と付き合っていこうって決めたんだ。せっかく学園に来たしね。それに、ジョーヌは、私なりに頑張ってるのを陰で笑ったりしないし。……ルージュ様的にはローザ様たちと仲良くして欲しいんだろーけど。」
「……。別にそれは好きにしたら良いんじゃないか……?ラランジャはラランジャが気が合うヤツと居たらいい。……あいつらとは長く付き合ってくことになるが、頑張って仲良くしなくても構わないって、俺は思うぞ。……俺の為に仲良くしてくれてたんなら、済まなかったな……。」
ルージュ様が尻すぼみにそう言うと、ラランジャは嬉しそうに笑った。
「なら良かった!……ジョーヌ、私たちはあっちで食べよ?……ルージュ様、リュイ様、早く食べて教室に戻った方がいいよ。さっきシーニー様がうろついてたから!」
「ルージュ様、リュイ様、ごめんね?……放課後、花壇、頑張ってなおそうね?!」
私とラランジャは、窓際にある席で女子トークに花を咲かせつつ、ランチを楽しんだ。
◇◇◇
メチャメチャにしてしまった花壇は、そう簡単にはなおせなかった。仕方ないので、今日は3人でスコップを使って、抉れてしまった土を平らにならしたところで日が暮れてきてしまった。……魔術でも出来るらしいが、また暴走したら怖いからって理由で、人力でコツコツと作業したのだ。魔術だと一瞬だったのに……。
私たちがヘロヘロになっていると、ラランジャが差し入れにお茶を持ってきてくれ、それを飲みつつ、これからの事について話をした。
「続きは、来週の放課後にしよう。……週末に俺、花を買っておくよ。」
「ルージュ、赤い花ばっか選ぶなよな。……僕も何種類か買ってくるよ。」
リュイ様が笑いながら言うと、ルージュ様は心外だとばかりにむくれる。
「なんだよそれ、赤い花、カッコいいだろ?」
思わず、ラランジャと私は顔を見合わせた。
「ルージュ様、花って綺麗とか可愛いって基準で選ぶんじゃないの?……私、カッコいい花なんて、知らないですよ?……私もお花、買ってきますね?」
「はあ?ジョーヌ分かってねーな?……薔薇とかカッコいいだろ?」
「いや、ルージュの方が分かってないって!この花壇に薔薇は植えないよ?ここは季節の草花の花壇なんだよ?!……ねぇ、ラランジャさん、週末は一緒に花買いに行ってあげて?じゃないとなんか酷いの買ってきそうだから……。」
リュイ様がそう言うと、ラランジャはコクコクと頷いた。
◇
何か、色々あったけど、1日でラランジャや、ルージュ様、リュイ様と仲良くなれた気がする!
そんな充実した気持ちで、ちょっと泥だらけになって寮に戻ると……。
何だか不機嫌そうなアーテル君が私を待ち構えていた。




