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脳筋と、臆病者?!

2人は、アーテル君が居なくなっても、態度を豹変させたりはしなかった。


「とりあえず、自己紹介をしよう。俺はルージュ。ルージュ・ロッソだ。……船では、いきなり掴んですまなかった。あそこは王家専用の部屋だったから、侵入者なのかと……。おれはヴァイスの護衛役も兼ねてるから……。」


ルージュ様は、すまなそうに頭を下げた。


「あ!いえ……。私、何も知らなくて。アーテル君に早い者勝ちだよって言われて。……こちらこそ、すみませんでした。」


拘束された理由が分かり、私も恐縮してしまう。


確かに、部屋のプレートに『ロイヤル』って書かれていた……。本当は王子様が休まれる部屋だったんだ……。そりゃ、護衛役としては、部屋に侵入していた不審人物を捕まえるのは仕方ないだろう。


……乱暴な人って訳じゃなかったんだ……。

よ、良かった……。


「まぁ……アーテルは微妙な立ち位置だから、あの部屋を使うのはアリなんだけど……。僕たち、初めて君を見かけたから……カップを持ってたし……まさか備品泥棒?!って思ったんだ……。あ、ご、ごめんね。僕の名前はリュイ。リュイ・ベルデって言います。」


「い、いえ……。父さんが社交界を無視しまくってたので、そう思われても仕方ありません。……ジョーヌです。ジョーヌ・アマレロです。よろしくお願いします。」


まぁ、見知った顔ばかりな筈の船内に、知らない女の子がいて、棚を漁ってたら、そう思われちゃうかもなぁ……。


「……晩餐会の時もすまない。……なんか、みんなピリピリ、ギスギスしてて、挨拶できなくて……。無視するなど、確かに男として、格好悪かったよな……。」


「……晩餐会の時はさ、ヴァイスもだけど、ローザもヴィオレッタもシーニーもすごく機嫌が悪くてさ。……ま、ルージュもだけど。」


「お!俺は!!!……晩餐会に、ラランジャをエスコートしたく無かったんだ!それに、学園に来たら、寮の部屋も繋がってたり、色々とストレスで……。だから、ついイライラしてて……。リュイこそ臆病で、みんなが不機嫌だから、黙ってたんだろ?」


「うん……そう、だけどさ……。」


えええ……???


私以外はみんな楽しそうに話しているようにしか見えなかったけど?!あれ、みんな不機嫌で、そんなにギスギスしてたの?!

……身分の高い人たちは、あまり感情を表に出さないって聞いたけど……。貴族って、やっぱり怖い……。


「……。ヴァィスは、アーテルが大嫌いなんだ。あいつは、魔王になるって噂以前に、魔力が高くて要領よく何でも出来て、飄々としていて嫌味で、煽るのが得意だから……。ま、俺たちもなんだけどさ。それでアーテルが絡むと何でも不機嫌なんだよ。……ローザとヴィオレッタは知らん。どうせ、ローザにヴィオレッタが難癖つけたんだろ?ヴィオレッタはか弱いローザに時々キツく当たるんだよな。……シーニーはヴィオレッタ関連で何かあったんだと思う。あいつ、嫉妬の塊だから。」


……そ、そうなんだ。


まあ、アーテル君がイイ性格してるってのは、分かるかな……。なんか王子様が意地悪してくるのを『面倒くさいけど面白い』とか言っちゃってたし……。

2人の事も煽ってたもんね。結局、頭は下げてくれたけどさ……。


「あ、あのさ……悪いんだけど……。僕たち、班の中だけしか仲良くは出来ないと思う。……僕ら別にジョーヌさんに恨みは無いんだ。たださ、僕たちヴァイスの側近だからさ、立場ってのもあって……。」


リュイ様が、オドオドと言う。


……ま、それは……そうかも……。


私もリュイ様の立場だったら、あまり仲良くして王子様のご機嫌を損ねたくはない。……アーテル君曰く、王子様はドSらしいし。


「あ、はい!それで大丈夫です!……あの、他の人がいて、話にくかったら無視で構わないんで、班の中だけでも仲良くして下さい!……私は、そ、それで充分ありがたいんで!!!」


私がそう言うと、リュイ様はホッとした笑顔で頷いてくれた。ルージュ様は黙ってたけど、なんとなく空気が緩んだ気がする。


……うん、この班なら、なんとか頑張れる気がする……。


一応、頭を下げてくれて、ありがとね、アーテル君!!!



私たちの班のボランティアは「花壇の水やり」に決まった。リュイ様によると、魔術でやるからトレーニングにもなるんだよ?って話だった。


「だから、朝は少し早めに登校しよう。……ジョーヌさんは、それでも大丈夫?」


「あ、はい。……毎日、5時にアーテル君と起きて、一緒に走る事になったんで、大丈夫です!」


私がそう答えると、2人が固まる。

え???……変な事、言ったかな???やっぱり5時起きは、ちょっと早すぎるよね???


「……お前ら、本当に仲がイイんだな?……アーテルとは会ったばかりだろ?……何でそんなに仲良しなんだ???」


「僕もそう思う。……そもそも、あいつが僕らに頭を下げたのが、ビックリだし。」


「……え?私たち、……仲、良いの、ですかね???」


毎朝のジョギングは、アーテル君が私を立派な婚約者に仕込む為の、体力づくりの一環であって、仲良しだから『一緒に走ろうね?!』って訳じゃない。そもそも、5時に無理矢理アーテル君に起こされ、戦闘可能メイドに強制お着替えさせられて、ジャージで外に放り出されるんだ。……仲良し要素は皆無、では???


「だって、アーテルだぞ?……あいつ、ヴィオレッタにもスゲー塩対応でさ……。そりゃ、シーニーに取られるよな……って感じだったんだぞ?」


「そうそう!……なのに、婚約破棄になった時も、『シーニーは、僕からヴィオレッタを取ったつもりかもだけど、自分の大好きな婚約者が、大っ嫌いな僕のお古って……ねえ?どんな気持ち?』って、ケラケラ笑って散々シーニーを煽ってさ……。ヴィオレッタにも『シーニーに唆されて、こんな事しちゃうって、ヴィオレッタって、やっぱりアホの子だったんだね?……可哀想に。主に頭が。」とか言って、ヴィオレッタを泣かせたらしくて……。」


……アーテル君が、みんなに嫌われてる理由が分かる気がします……。


「とにかく、アーテルがジョーヌを気に入ってるのは確かだな……。こんなの、どこが良いのかは知らんが……。」


ルージュ様が、ちょっとバカにしたように、そう言うとリュイ様がすかさずフォロー?する様に言ってくれた。


「でも、ジョーヌさんは、魔力も凄く高いし、一応は貴族だから、それなりに価値はあるんじゃない???……そ、それに……気も使ってくれるし、我儘じゃないしさ……。僕は良い子だなって思ったけど……。」


「ま、まあな……。ジョーヌは嫌なヤツでは無いよな……。出しゃばりじゃねーし。いい子だなっては俺も思う……。」


……。


別に私、そんな性格が良いって訳じゃないと思うけど……?

意地悪ではないと思うけど、性格自体は普通か、ちょっと悪いと思う。……甘ったれの泣き虫だし。


あ、あれか。貴族の女の子は数が少ないから、みんなからチヤホヤされてて、我儘な子が多いんだっけ???あー。……だから、かな?


「と、とにかく、明日から花壇の水やり頑張ろう!……ところで、ジョーヌさんは、水やりに使う魔法陣って知ってる???」


「……お前、庶民みたいなモンだったんだろ?……もしかして、学園に来るまで、家庭教師とか居なかったんじゃ無いか?」


ルージュ様が、またしても馬鹿にした様に言うんで、今回はちょっとカチンときてしまう。……あのねぇ、商売人あがりの男爵だからって、ナメないで欲しいな?父さんは、私たち兄弟をかなりイイ学校に行かせてくれてたんだよ?!


「学校には行ってましたよ?!……商人の子供が行く感じの所ですけど。読み書きとか算術なんかと、国外との取引も出来るように、外国の言葉なんかも教えてくれる所でした!私、こう見えても、算術と外国語なら、得意なんですよ?!」


「……。えっとね、ジョーヌさん。水やりをする上ではどっちも必要ないかも……。僕がお手本を書いてあげるから、明日までに練習してきなよ、ね?……で、でも……良かったら、外国語は教えて欲しいな。僕……ちょっと苦手で……。」


「お、俺も……算術は聞きたいかも……。」


ルージュ様もおずおずと切り出す。


「そうなんですね。……私で良ければ、教えさせて下さい!お2人にはお世話になる事も多いでしょうし。」


私がそう言うと、ルージュ様がは渋い顔をしながら語り始めた。


「……俺とリュイは、ヴァイスやシーニー、アーテルと違って、教養科目が苦手で……。……でも、ヴァイスの側近として、恥ずかしい成績は残せないし、ちょっと悩んでいたんだ。……他の奴に聞くと馬鹿にしてきそうだし……。」


「わ、私、馬鹿になんてしません!……班のメンバーとして、少しはお2人の役に立ちたいです。」


「じゃあさ、朝の水やりの後、ちょっとだけ、お勉強会をしない?僕とルージュがジョーヌさんに魔術を教えるから、ジョーヌさんが僕らに外国語と算術を教えるの!……良いアイデアだよね?!」


リュイ様の言葉に、私とルージュ様は頷いた。




◇◇◇




「ジョーヌちゃん、何やってるの?」


授業が終わり、部屋に戻って勉強部屋でリュイ様に書いて貰ったお手本を見ながら、水やりに使う魔法陣の書き取りをしていると、またしても無断で部屋に入って来たアーテル君が私に聞いた。


「班のボランティアで花壇の水やりをするんです。それで、その水やりに使う魔法陣を教えてもらったんで、練習中です。」


……。

……。


あ、あれ???


いつもならポンポンと返事を返してくるアーテル君が、笑顔のまま動かない。


「……。……へえ、楽しくやってるんだ?」


「はい!おかげさまで、2人と、水やりの後、お勉強会もする事になりました!」


……。

……。


な、なんだろう。

会話が重い……?


不機嫌って感じはしないけど……?


「……。これ書いたの、リュイ?」


リュイ様が書いてくれたお手本を手にとり、アーテル君が言う。……さすが幼馴染、こんなミミズみたいな古代文字でも、筆跡で分かるんだ???


「はい。そうですよ?よく分かりましたね?……筆跡ですか?」


「んー……?いや、まさか。手紙ならまだしも、魔法陣じゃさすがに分からないよ。……ただ、無駄に長くてややこしくて周りくどい魔法陣だなーって。いかにも臆病で無駄に慎重なリュイって感じが出てるから。……水やりくらいなら、僕ならこーする。」


アーテル君は、リュイ様の書いた魔法陣を横に退けると、サラサラっとリュイ様の魔法陣より簡単なものを書いた。


「……あ、こっちの方が書くの楽そう……。あ、でも、せっかくリュイ様が書いてくれたからな……。」


そう言って、リュイ様の魔法陣に手を伸ばすと、アーテル君にパッと奪われてしまう。


え???


「リュイの魔法陣なんか覚えなくてイイよ。どっちだって同じく水やりができるんだし、時間の無駄だろ?……さ、これは捨てとくから、そっちを練習して?……そうそう、僕さ、そろそろ夕飯にしようって、呼びに来たんだよ。今日は疲れただろうし、部屋に用意させたんだ。……僕の部屋、行こう???」


アーテル君は笑顔でそう言うと、私を自分の部屋へと促した。





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