◇泣き虫ジョーヌは公爵夫人◇前編
お久しぶりです。
「おまけ」として、公爵夫妻編をスタートします!
ジョーヌ編が2話、アーテル編が1話の全3話で、リクエストをいただきました、ヒミツの帰還がメインなお話になっています!
どうぞよろしくお願いします。
その日は、息子たちの乳母が休みの日で、私は二人が庭で遊びまわる様子を、テラスに置いてある椅子に座って一人、眺めていた。
長男は4歳。次男は2歳……。
早いものだなぁ……。
◇
あ!……えーっと。
なんで私がシュバルツ家のお屋敷に住んでいるのかっていうと、留学後にこちらの国に戻ったアーテル君が、公爵様に返り咲いてしまったから……なんだよね。
だってね、私が生んだアーテル君との子供は……白い色を持った子供……だったんです!!!
だから、もう公爵様に戻るしかなかったらしい。
ほら、この国では白い色持ち=王族だから、やっぱり市井で暮らすのは難しいらしくて……。
……それにしても、1人目の子、セフィドが生まれた時は、ホント驚いたよねぇ……。ええっ?!な、何で?!って……。
だって、アーテル君は黄色になったし、私だって魔力なしになったはずじゃない?それなのに白くて魔力たっぷりな子供が生まれてきたんだよ?!……そりゃー驚いちゃいますって!
だけど、アキシャル国の遺伝学の先生に聞いたら(悪魔うんぬんってのは、もちろん省いたよ。信じてもらえないからね?)、後天的な移植なんかで変わった部分は、遺伝子が変化した訳じゃないから、子供には引き継がれないって言われて……。
つまり、遺伝子的にはアーテル君には白い子供が生まれる可能性が残ったまんまで、私は魔力があるまんま……だったんだって!!!
そんな訳で……。
私ってば、いつの間にやら公爵夫人をやってます。
あ、あれ〜???って感じだよ。
しかも、次に生まれた2人目の子……ブランも白い色持ちの男の子だったりする……。
もう!!!
なんで次から次へと、「いかにも王族!」な子供ばっかり生まれるのかな?!私の黄色い遺伝子ドコ行ったの?!?!
思わずそう叫んだら、アーテル君が教えてくれました。
どうやら魔力が強い方の性質を、子供は受け継ぎやすいらしい……!もちろん、どちらかと言えば……って感じではあるらしいけれど。
で。
ココで新事実が判明です。(……てか、なんとなくもしかして?とは思ってたけど。)
実は我が家……母さんも魔力持ちだったんです!!!
父さんと同じか、それ以上の。
だから、姉さんと兄さんは母さん似で……唯一、私が父さん似……だったんですねぇ……。
つまりは、実は姉さんと兄さんも魔力があるらしい。
そして二人は、なんとなーく、「あれ?私たちも魔力あるかも?」って気付いていたけど、バレたら面倒になりそーだからって、黙っていたんだってさ……。
ちなみに、パールス侯爵家に嫁いだ姉さんは、姉さんそっくりの子供(もちろん魔力たっぷり。)を産みました。モーヴ様は首をすごく傾げてたらしいですけど……そりゃ、そうです。モーヴ様の遺伝子に勝つって、つまりはそういう事なのですから……!
……。
それはさておき、話を戻しましょう……。
実はちょっとだけ……。
いや、かなりかな……?
私は、この先の子供たちの将来が不安でたまらない、今日この頃なのです。
……。
実は、王子様とローザ様のところにも、少し前に男の赤ちゃんが生まれました。
王子様は、お父さんである国王様の反省を活かし、1人目は魔術を使って男の子にしたんだって。(ちなみに、私とアーテル君はそういう事はしてません。なのに2人とも男の子って?!)
そこまでは良かったんだけど……。
ローザ様は、思った以上に難産で、危うく死にかけてしまったそうなんです。
そしたらね、王子様は怖くなってしまったんですって。
それで「もう、子供は作らない!」って言い出したそうで……。
まあ、分かる。
分かりますよ。
色々とあったけど、ローザ様と王子様は元々仲が良い。
幼馴染だし、付き合いも長くて、社交の場では以心伝心だ。お互いを上手にフォローし合い、プレッシャーのかかる次期国王と王妃という関係を支え合う、運命共同体でもあるんだよね?
だから、ローザ様を失う可能性がある出産を、もうニ度とさせたくないという気持ちは、よーく分かる。
もちろん、潔癖気味の王子様が側妃なんて娶る訳もなく……。
つまりは、ひとりっ子王子が爆誕なんだよ?!
そしたらさぁ……。
「アーテルがジョーヌに予備を2人も生ませているんだから、もう良いだろ?!」
なーんて、言い出しちゃったんだよねぇ……。
ちょっと!!!
ウチの子、予備扱いやめて!!!
私はそう思いましたよ!……アーテル君も、そこはすごーーーく怒った。
だけどね、アーテル君はアーテル君なので……。
「ならばウチの子を予備じゃなくて本命にしちゃおう?!ヴァイスより優秀だった僕と、女子で最高の魔力持ちだったジョーヌちゃんの子だよ?!ヴァイスたちの子供の方が予備になっちゃうんじゃない?」……なーんて言い出したのだ。もちろん、王子様とローザ様の前で……。
そんな訳で、なんだかジョーヌは、これから先の子供たちがとっても心配だし、胃が痛いんです。
確かにね、長男が生まれた時に、「この子は宿命に翻弄されちゃうんじゃ……。」って不安そうになったアーテル君に、「なんとかなるって。どんな事になっても、私たちが子供を愛して、力になってあげるしかないよ!」……なーんて、能天気に前向きな事を言っちゃったけど……。
王子様に喧嘩売れなんて……言ってないよ?!
あ……。
ちなみに、グライス先生は結婚したけど、少し前に離婚されてしまった。
原因は、性格の不一致ってヤツだ。
新婚当初から二人は、汚部屋メイカーの先生とキレイ好きな奥さんとで、「勝手に大切ものを捨てられた!」「汚い物をとっておかないで!気持ちが悪いの!」……そんな戦いを繰り広げ、仲直りしてはまた喧嘩してを繰り返してたのだけれど……。
とうとう、三行半を叩きつけられてしまったのだ。
奥さんは……「キスマークを冷やかされるけど、実はコレ、ダニなのよ!痒いし……もう限界よ……!」なんて言ってました……。
まあ、分かる……。ダニ……嫌だよね。
◇
そんな事を思い出しながら、遊ぶ子供たちを眺めていると、私の頭上から悲鳴が聞こえて来た。
え……頭上?!?!
「うわあぁぁぁ!!!……受け止めてぇ……!!!ジョーヌちゃん!!!」
驚いて見上げると……え、ええっ?!
ヒ、ヒミツ君?!
ヒミツ君が、空から私めがけて落ちて来ている。
う、嘘っ?!?!
「いくら猫だって、この高さから落ちたら死ぬーーー!!!ジョーヌちゃん早く!!!キャッチしてっーーー!!!あっ!!!やっぱり危ないからダメっ!!!避けて、避けてーーー!!!」
どっちなの?!ヒミツ君?!
でも、あの高さだ。
猫だからって、怪我しちゃうんじゃないの?!
私は慌て椅子から立ち上がると、ヒミツ君に手を伸ばした。それと、ほぼ同時にヒミツ君がドンッと私の胸に飛び込んで来た。
うぎゃっ!!!
胸にすごいスピードでヒミツ君が当たり、私は「ガフッ!」っとへんな音が口から漏れた。かなり痛い……。
いつもは嫌で仕方ないけど、今日ばかりは胸があって良かったかも知れない……。
そしてその衝撃で、ヒミツ君を抱いたまま、ヨロけて後ろにあった椅子にポスンと座り込む。
セーフ……かな???
「ジョーヌちゃん?!大丈夫?!」
慌てた声でヒミツ君が私を見つめる。
「う、うん。何とか……。でも、び、びっくりしたよ。」
「ホントにごめんね?!……まさかジョーヌちゃんが黒い子供を妊娠中だとは思わなくて。こそっと上から様子を見に来たら、お腹の子にグイッと引き寄せられて……落ちちゃったんだ。……ああ!!!よかったぁ……赤ちゃん、無事だ……!」
ヒミツ君はそう言うと、私のお腹あたりにフカフカの手を当てた。
んんん???
「……に、妊娠???」
「あ、あれ?もしかして、ジョーヌちゃん、まだ気付いてなかった?……お腹にいるよ、アーテルみたいな魔を封じる力のある、黒い色の赤ちゃんが。」
「……う、うそ?!」
「嘘じゃないよ。この子が僕の悪魔の力を封じたから、空から落ちちゃったんだもの!……って訳で、またお世話になりまーす!」
ヒミツ君はそう言うと、私の腕からピョンと飛びおり、ぺコンと頭を下げた。
「えっ、でも、悪魔さんは?!」
「大丈夫だよ。『ちょっとアーテルとジョーヌちゃんの子供を見に行ってきます。』って、ちゃんと置き手紙してきたから!」
……ええ……。
大丈夫かな、それ……???
悪魔さん、あんなに大切そうにヒミツ君を抱えて帰ったし、暫くは手放さないかと思ってたけど……?!
でもまぁ、ここに来てるのは分かるし、そのうち迎えに来るかも???
今度は私のお腹の赤ちゃんがヒミツ君の悪魔の力を封じちゃったらしいから、ヒミツ君が帰るとなると赤ちゃんは魔力を取られちゃいそうだけど……。まあ、その時は、魔力を使ってない父さんか母さんから貰えばいいだろうし……うん、なんとかなるかな。
私たちが話していると、猫がいる事に気付いた息子たちが駆け寄って来た。
「あ、猫ちゃんだ!」
「にゃーにゃ!」
二人は猫が好きなんだよね。
まあ、大概の猫は子供が嫌いなんだけど……。
実家のリッチーとエイミも二人は大好きで触りたいんだけど、エイミは二人が遊びに来るとササッと高いところに逃げてしまい絶対に触らせてくれない。
リッチーは、兄さんに抱かれてる時なら物凄く我慢した感じで、数回だけ撫でさせてくれる……。
「やぁ、こんにちは。僕、ヒミツっていいます。」
ヒミツ君が話すと、子供たちは驚いた顔になる。
「お話、できるの?」
「ミミチュ?」
「ヒミツだけど、ミミチュって呼んでもいいよ。……僕はね、あくまで魔獣なの。だから、猫だけど猫じゃないから話せるんだ。……えーっとね、それに君たちのパパのお父さんなんだ。」
「パパのパパ?……ヒミツはおじいさまなの?」
「おじいさまかぁ。……うーん。僕はじーじって呼ばれたいかな?!……よろしくね?!……あ、そうだ。モフモフのしっぽ、触ってもいいよ。」
「「!!!」」
長男のセフィドが嬉しそうにヒミツ君を抱えると、次男のブランが怖々とヒミツ君のしっぽを撫でた。(前にブランはリッチーが大人しいのをいいことに、しつこく撫でまわして、カプリと噛まれた事があるのだ。)
「あ!そうそう、ヒミツ君。長男はセフィドで、次男がブランっていう名前なんだよ?……4歳と2歳なの!」
「そっかぁ……。二人とも可愛いねぇ……。」
ヒミツ君は嬉しそうにそう言うと、セフィドの腕の中で嬉しそうに目を細めた。
ああ、アーテル君、早く帰って来ないかな?!
ヒミツ君も戻って来たし、私のお腹には三人目がいるらしいし、きっとすごーく喜ぶと思うんだよね?
「そうだ!アーテル君にヒミツ君が来てるよって使いを出そうかな?確か今日は……学校の件で、グライス先生のところに相談に行ってたはず……。」
アーテル君は、薬師だけでなく医師や看護師を養成する学校を、なんとか開校にこぎつけた。だけど……まだ試行錯誤中なんだよね。
概ね好評なんだけど、市民が通うにはやっぱり学費が高めになってしまうのだ……。
……とはいえ、講師や設備にもお金はかかる。いい講師や設備にすればなおのこと。
しかも、ある程度は儲けもなくちゃ、新しい技術や設備が出てきても、導入できなくなってしまう。
医療の世界は日進月歩だしね……。
そんな訳で、現実的には授業料を格安にするのも、ましてはタダにするなんて、出来ないんだよ。
なのでアーテル君は、「特に成績が優秀な生徒」や、「卒業後に数年間、国の指定する僻地で医療を支える」なんて条件を付けて、国に生徒たちの授業料を負担して貰えないか?ってのを相談中らしい。
「ええっ、それなら四人で行こうよ。僕、グライスにも会いたいし!」
ヒミツ君がそう言うと、セフィドとブランが大喜びした。
特にセフィドは、以前ルージュ様に馬に乗せてもらって以来、お城で働く騎士に憧れているのだ。
グライス先生は離婚したばかりで、すごく元気無いし……ヒミツ君が会いに行ったら、喜ぶかも。
あっ、でも待って……!
「でもさ、ヒミツ君。さすがに四歳児と二歳児と猫まで連れてお城に行くのは大変だよ。……お城までは車を出してもらえるけど、入城手続きもいるし、セフィドもブランも、そろそろお昼寝の時間だから車で寝ちゃうかも。……さすがに一人で二人は抱けないし、ベビーカーを持参しても、一人抱いたらベビーカーは押せないし……とても無理だよ。」
私がそう言うと、セフィドは目に見えて落胆した。
そんなセフィドの腕をヒミツ君はポンポンと叩いて……そして私を見つめて言った。
「僕が手伝うから大丈夫だよ。みんなでお城に行こう?」
「だ、だからね?ヒミツ君がお手伝いしてくれても無理だよ。だって猫なんだもん。手続きの間、二人を危なくないように見ててもらうくらいなら出来るだろうけど、抱っこなんて無理だし、ベビーカーだって押せないでしょ?」
「もう!!!ジョーヌちゃん、忘れたの?!……僕の真の姿を……。」
「え???」
私はキョトンとヒミツ君を見つめる。
そういえば……ヒミツ君はヒトにもなれたっけ……。
「で、でも、力は封印されたんじゃないの?」
「まあ、そうだけど。でもさ、まだお腹にいる赤ん坊だからね?……生まれてきたら無理かもだけど、今ならまだ姿を変える事くらいは出来るよ。……だけど、例によって例のごとく服がいります。だって僕、今……全裸だからね!!!」
ヒミツ君はそう言うと猫のくせに、バチンとウインクをした。




