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◇泣き虫ジョーヌの留学生活◇中編

「だからさー、マゼンタさんはメイドだってば。」


私たち3人はアーテル君の部屋のアパートで、ソファーに掛けて話をしている。アーテル君とマゼンタさんが並んで座り、正面に私という感じで座っているのだが……。


「……メイド……。」


私はアーテル君の言葉を噛み締める様に繰り返した。


「そう。メイド。」


「メイドはさ、主人と同じソファーになんて座らないよ?」


私は、並んで座るアーテル君とマゼンタさんを睨んだ。

……アーテル君が首を傾げる。


「んー?……僕もさ、最初はそう思ったんだけど、それってラジアン国の場合だろ?この国は使用人と主人は、フラットにお付き合いするんだってさ。……ほら、アウルム王子達もさ、なんだかそんな感じだったろ???」


アーテル君がそう言うと、隣に座るマゼンタさんが勝ち誇ったように、首を縦に振って、アーテル君にしなだれかかった。


「ええ、そうよ?……この国はあまり身分にはとらわれてないの。」


「……ほーら、ね?」


そう……なんだ。


だ、だけど、やっぱりメイドさんは、そんなに寄り添って座らないと思うんだけど?!?!これ、どう見ても、そっちがカップルで、メイドは……あれ、まさかの私???


私はなんだか、ムカムカしてきて、顔を顰めた。


「でも、マゼンタさんって、看護学部の子じゃなかった?」


「うん。そうらしいね。……でも、生活が厳しいからアルバイトを探していたんだって。……僕ってほらさ、生活力無いでしょ?掃除も洗濯もした事がないし。だから、グライス先生のアパートみたいな汚部屋になったら嫌だなーって思って、洗濯や掃除をしてくれる子を探していたんだよね?……そしたら偶然にもマゼンタさんと、需要と供給がマッチしちゃったって訳なんだ!」


あっ!!!


た、確かに……。


言われるまで忘れてましたが、アーテル君てば、ものすごいお坊ちゃまで、深窓の御令息で……そんな事をした事、ありませんでしたね!!!


我が家でチョッピリお手伝いした……くらいでした!


「そのくらい、言ってくれたら、私がやったよ?!」


思わず悔しくて、アーテル君を睨んでしまう。

そんな人に頼むなら、私がやってあげたのに……!!!


「いやいや、それこそ何で?……僕はさ、奥さんにする子にそんな事はさせたくないよ???……ジョーヌちゃんは僕の使用人じゃないでしょう?」


アーテル君に驚いた様にそう言われ、私は軽く目眩を覚えた。


……アーテル君って……。

貴族は辞めたけど……中身はまだまだ生粋の貴族なんでした!!!


……。

……。

……。


マゼンタさんも、アーテル君の言葉に違和感を感じたのだろう、「ん???」って顔をしてアーテル君を見つめる。


「あの……アーテル、今の……どういう意味?」


美人とは顔を顰めても美人だ。

そして、とっても迫力がある……。


マゼンタさんは、アーテル君に詰め寄った。


「え?意味……???……マゼンタさんは使用人って意味しかないよ?だから、お金を渡して働いて貰ってるんだよね?……ジョーヌちゃんは、僕の奥さんになる人だから、何もさせたくないんだ。そもそも、ジョーヌちゃんは、この国にはお勉強をしに来たんだよ?僕の面倒なんか見させるべき人じゃないでしょ?それに、僕の部屋の掃除や洗濯なんかする暇があるなら、素敵なデートがしたいんだ。だから、僕たちは今からデートに行くんだよ……。で、留守中に掃除と洗濯、よろしくね、マゼンタさん。」


アーテル君は悪気なく、爽やかにマゼンタさんに言ってのけ、立ち上がると、私にエスコートする手を伸ばした。


だけど、私は勝手に青ざめてしまう。


だ、だって……きっと……。


マゼンタさんさ、お金なんて……メイドなんて……テイだと思ってたんじゃないかな???だってさ、この雰囲気、どう見てもアーテル君が好きだから、世話を焼きに来てたっぽいよ???


「……アーテルは、私と付き合うんじゃないの?」


「え?付き合う……???……あのさ、さすがに自分の使用人に手を出すのはちょっと主人として、どうかと思うよ?……遊ぶにしても、色々と後腐れあって面倒だし、僕は絶対にしたくないな。……なんで、僕が君と付き合うの?」


マゼンタさんは、アーテル君をキッと睨むと、パンッとアーテル君の頬を打って出て行ってしまった。


……えーっ……と。


アーテル君……最低???

だけど、雇い主としては最低ではない???


あ、あれ???良く分からないや……。


考え方が違う……そういう事???


「もー……。痛いなあ!なんで叩かれるの、僕!……これからデートなのに、腫れたら最悪じゃん。しかも、帰っちゃったよ。なんか困った人だよね?……あー、もう別のメイドさん雇わなきゃなのかなぁ……。面倒くさいなぁ。」


アーテル君は、そう言って困った顔で私に笑いかけた。


えええ……。


……これ、放っておいたら、ダメなヤツでは???



「ねえ、アーテル君。メイドさんが必要なら、もっと普通の、我が家にいたステラさんみたいな、年配の方とか、……その、アーテル君に好意を寄せて、近づいて来ているような女の子に頼んじゃダメだと思うよ?」


私は、アーテル君の頬を冷やしてあげつつ、諭すように言った。


この国にそこまでの身分差がないのなら、ラジアン国みたいなメイドさんのイメージで仕えてくれる人は難しいのかも知れない。アーテル君の部屋にいた、若いけどキリッとしてて、余計な事に口を挟まない、完璧なメイドさんなんてのは無理なのかも。


……そうなると、我が家に来てくれてた家政婦のステラさんみたいな、気の良いおばさんとかを雇うべきじゃないかな?


特に同じ学生同士だと、メイドとか、お世話して欲しいってのはお付き合いに進める口実なんじゃないかと思われるんじゃないのだろうか……。


「んー。……でもさ、学生課で相談したんだよ。僕、生活に自信が無いから、寮でメイドを雇いたいんだけど、どうやって求人を出すんですか?って……。」


「そう……なんだ。」


「そしたらさ、担当の人が笑ってね?……『学生は自分で自分の事はするんだよ。』って言うんだ。キャンパスには関係者以外を入れる訳にもいかないから、メイドを雇うのはダメなんだって。だから、『それが難しいから、人を雇いたいんです!』って反論したら……『じゃあ、同じ学生同士で彼女か女友達でもつくって、面倒見てもらったら?』っ言われてね……?」


な、なるほど……。


確かに、寮は校内にあるし、キャンパスに出入りするのには学生証を提示する必要がある。校内には高価な教材に機材やら高額の専門書なんかも置かれているから、誰でも好きに出入りしていい場所ではないのだ……。


「う、うーん……。じゃあ、私がやるよ?」


「だからさ、それはダメ!……ジョーヌちゃんは、この学院に何をしに来たのかな?僕の世話をする為じゃないでしょう?……それに、申し訳ないけれど、成績……そこまで良くないよね?僕の世話にかまけてる余裕なんて無いんでしょ?」


アーテル君に逆に諭されてしまい、返答に困る。

それはそう……だけど……。


「とにかくさ、そろそろ出よう?……舞台もだけど僕はさ、今日のデートをとても楽しみにしていたんだよ???」


アーテル君はそう言って話を終わらせると、私の手を引いて立ち上がらせた。


……う、うーん……。



デートはすごーーーく楽しかった。


舞台も素敵で夕飯も美味しくて、私とアーテル君は、それはもう良いムードで寮まで戻って来た。


女子寮は煩くはないが、時間で施錠されてしまうから、そろそろ戻らなきゃダメなのだ。


……とは言え、楽しいデートをすれば離れ難くもなる。


「ジョーヌちゃん、帰る……よ、ね?」


女子寮にゆっくりと向かいつつ、アーテル君が聞いた。


正直……帰りたくはない。

一緒にはいたい。でも……。


「……う、うん……。」


「あのさ……。何もしないから……。その、泊まりに来ない?明日も休みだしさ?男子寮は、そういうの平気だし……。ね?……僕、まだ一緒に居たいんだよ。」


アーテル君が私の手をギュッと握った。


好きな人に切なそうに言われて、気持ちが揺らがないなんてあるだろうか?


……こ、怖いけど……頑張ってみようかな???


だって……このまま拒み続けたら、いつか本当に浮気されちゃうんじゃないだろうか?


朝、マゼンタさんがいた時に、まず最初にそれが頭によぎった。


だって、アーテル君はモテモテでよりどりみどりなんだよ?私がこうして、ウジウジ・ウダウダしているうちに、誰かに掠め取られてしまうかも知れないよね……。


なら……私だって、勇気を出して、一歩を踏み出してみようかな???


私は心を決めて頷いた。


「アーテル君……。私……泊まりに行こうかな……。アーテル君になら……何かされても、いい気がする……。」


アーテル君がゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた気がした。



「……ねえ、アーテル君の部屋、何で灯りがついてるの?」


男子寮の入り口までやってきた私は、そこから見えるアーテル君の部屋の窓が明るい事に気付き、アーテル君に尋ねた。


アーテル君はしばらく首を捻り……そして「ああっ!」っと声を上げた。


「……メイドだ。」


「へ???……朝、マゼンタさんは怒って帰ったよね?あの感じだと、辞めたんじゃないかな?」


「うん。……だからきっとシアンさんだと思う。」


……シアンさんって……誰???


私が目を丸くしてアーテル君を見つめると、アーテル君は肩をすくめた。


「ほら、マゼンタさんにも学業があるじゃない?だからさ、メイドは日替わりでお願いしてるんだよね?」


え。


「……えーと……つまり、アーテル君のメイドは……まだまだいるの?」


「いないよ、そんな沢山いないって。……メイドは、マゼンタさんとシアンさんに交代でお願いしてたんだ。2人はキャンパスの近くでルームシェアして暮らしてるらしいから、きっとマゼンタさんが怒って帰ったのを見て、責任感の強いシアンさんが来てくれたのかも???」


……。


なんだろう、倒れそうになる程の目眩を感じましたよ。


「あのー……。こんな時間までメイドさんが部屋に居るのどうなのかな?」


「???……だけど、学園でも屋敷でもメイドは常に控えていてくれたろ?……まあ、今日は、ジョーヌちゃんと2人っきりでイチャイチャしたいし、さっさと帰すよ。… …さあさあ、行こ?」


アーテル君は私の手を強く引くと、イソイソと寮に入って行った。










明日も更新は夕方になりそうです。

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アーテルの元婚約者、ヴィオレッタが主人公の前日譚はこちら↓↓↓
短編「悪役令嬢に転生したけど、心は入れ替えねーよ。だってヒロイン、マジムカつく!」
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