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詐欺師な令息アーテルと婚約破棄騒動・前編◆アーテル視点◆

お待たせしました。連載再開します。

「あれ?どうしたの?……何でローザが泣いてるの?!」


遅れてやって来たリュイの声が、沈黙を破った。


「リュイ……その……ヴァイスがローザとの婚約を破棄すると……。」


シーニーが狼狽えながら、そう言うと、ローザは声を上げて泣き崩れる。


……ローザは、性格もあるだろうが、お妃教育もあって、あまり人前で感情的になる事は少なかった。だから、その様子は、あまりローザを好意的に思っていなかった僕からしても、とても痛ましく見えた。


「あの……シーニー?悪いけど私とジョーヌで、ラランジャさんとローザから、何があったのか聞こうと思うの。……何故ヴァイスがそんな結論を出したのかは知らない。だけど、ローザの言い分も聞いてあげなきゃじゃない?……ローザは、とりあえず落ち着こうか?感情的になると、みんなローザが悪いみたいになっちゃうから、ね?」


ヴィオレッタが冷静にそう言って、僕らは少し驚いた。


こんなでも、未来の宰相様の奥さんには、意外に相応しいのかも知れない。まあ、非常時ではなく、その冷静さを普段に活かして欲しいとこだけど。


シーニーが、無言で頷いた。


ヴィオレッタは、気遣わしげにローザを支えると、ラランジャさんとジョーヌちゃんを従えて、部屋を出て行ってしまった。



「で、一体何があったのですか?……突然、ローザと婚約破棄したいなど、なんて厄介な事を……。」


女性陣が退席すると、シーニーが呆れたようにヴァイスに言った。


ヴァイスは幼馴染の男性メンバーだけになると、けっこう容赦がない。……口調は丁寧なままだけどさ。


「色々とあったんだ。……な、ルージュ。」


「ああ。……悪いが俺もヴァイスの意見に賛成だ。……見たろラランジャの怪我。あれはローザのせいなんだ……!」


ローザ大好きクラブの会員であるはずのルージュが、苦々しげにそう言った。


言われてみると、ラランジャさんは足に包帯を巻いていたし、少し足を引き摺って部屋から出て行ったな……?


あれ、ローザにやられたの???


いやいや、暴力女のヴィオレッタならともかく、ローザがそんな事をする?……ローザは誤解させるような発言をして、不快な思いをさせたりはするが、暴力を振るったりはしない。ごくごく普通のご令嬢だ。


「ええっ???ローザがラランジャさんに怪我をさせたって事???」


リュイも疑問に思ったのだろう、目を丸くしてルージュに聞いた。


「正確には違う。……だが、ローザのせいでトラブルに巻き込まれて怪我をしたんだ。……ラランジャがローザと出かけると聞いたとき、俺が付いて行くか、止めればよかった。あいつは、人がイイからローザを庇って……それで。運良くあの程度で済んだが、下手したら死んでいたかも知れないんだぞ?!ふざけるなって感じだろ……!!!」


ルージュはそう言って、悔しげに唇を噛む。


「ルージュ……。しかしですね、ラランジャさんは、側近として留学された側面もありましたよね?……その、未来の王妃を守る為には仕方なかったのではありませんか?もちろん、あなたの大好きなラランジャさんが怪我をして、悔しい気持ちは分かります。しかし、ローザを恨むのはお門違いでは?」


……シーニー、意外とブッ込むね。

『あなたの大好きなラランジャさん』とかドサクサに紛れて言ってるし。


でもまぁ……ローザを恨むのがお門違いは、正論だよね?


だって、ローザが何者かに襲われそうになって、それをラランジャさんが庇ったって事なんだもんな?


恨むならローザでなく、襲ってきた奴の方では???


僕としても、ラランジャさんが怪我したのは残念だと思うよ?


だけど、未来の王妃を守ろうとした心意気は素晴らしいし、咄嗟に動ける勇敢さも称賛にあたいするよね?


僕なら、是非ともジョーヌちゃんの側に置きたいって思うけど……?それに、ヴァイスだって手放さないかもしれない。凄いレポートを書いたみたいだし……。頭を下げるって、相当だし。


でも、どっちにせよ、ラランジャさんの目論み通り、もう彼女をメッキだなんて、誰も悪く言えなくなるよね?怪我はしちゃったけど、たいした事はなさそうだし、彼女的には、留学は大成功なんじゃないかなぁ?

だって、それが目的でもあったんだし。


僕がそんな事を考えていると、ヴァイスが静かな声で話し始めた。


「……違う、シーニー。……ルージュが怒るのは尤もなのだ。ローザが未来の王妃として狙われて、それでラランジャ嬢が庇ったのなら、ルージュだって怒りはしない。しかし、ローザは、下らない痴情の絡れで狙われたんだよ。……どうも、あちらの国で婚約者がいる男と懇意になっていたらしい。男はローザに夢中で……ローザが帰国するとなって、彼は婚約者と別れ、自分と婚約して欲しいと迫ったそうだ。……そして、長年の婚約者だった女からローザは恨みを買い、階段から突き落とされそうになったんだよ。それをラランジャ嬢が助け、逆にラランジャ嬢が階段から落ちて怪我を負ってしまった……。彼女は、頭も打ってしばらく意識が無かったんだよ……。」


「ああ!!!そうなんだ!!!狙われた理由が理由だ、さすがに許せなくて……!俺は、ラランジャがこのまま目を覚まさなかったらって思うと、本当に苦しかった。こんな下らない事で、何でラランジャがって思って……。……しかも、ローザの奴は、その男など好きではないとか言うんだ。自分はヴァイス一筋で、そいつはただのオトモダチだって……。酷すぎないか?!」


……。


確かに……それは……。


うーん……。


シーニーもリュイも、顔を顰めている。


「ローザが、浮気していたという事なのでしょうか?」


こういう言いにくい事をズバッと聞けるのは、さすがシーニーだと思う。


「いや、それは違うらしい。……あくまでオトモダチだそうだ。手くらいは握らせたかも知れないが、『キスだってする訳がない、本当にただのオトモダチだもの!それ以上なんて、ありえないわ!』と言っていた。……あれだ、いつものスキンシップ過多で、相手に誤解されたのだろう。」


「ちょ、ちょっと待ってよ、ヴァイス!……確かにローザはスキンシップ過多だよ?でも、それって僕たち幼馴染限定だったじゃないか?子供の頃からだから、ついって……。なんでそんな誤解されるような事を、その男とはしたのかな?……それ、ローザ、本当の事を言ってるの?本当は……浮気していたんじゃない?」


ローザ大好きクラブの会員のはずのリュイも、疑わしげにヴァイスにそう言った。


……確かに、ローザは男性に良く愛想を振りまいていて、クラスの奴らからも人気が高かった。


だけど、ベタベタと親しげに触れてくるのは兄弟みたいに小さな頃から一緒に育ってきた、僕たちだけだった。そんな事をしても許されるし、ヴァイスに誤解されないと知っているからやっていた事で……それを赤の他人にするって……。


シーニーも疑惑が湧いてきたのだろう、難しい顔になる。


「ああ、もしかすると、そうなのかも知れないな……。」


ヴァイスは素っ気なくそう言うと、溜息を吐いた。


「……とにかく、私はローザには愛想を尽かしたんだ。……コレは決定打ではあったが、その前からローザの態度に疑問は感じてはいた。……成績は悪く無かったが、ローザは、あちらの学院で馴染めなかった様だ。ほとんど不在だったラランジャ嬢はともかく、忙しい私やルージュにもしつこく付き纏い、悪口や文句ばかりを言っていた……。私は、ウンザリしてしまっていたんだよ……。」


「ああ、そうだ。俺やヴァイスだって、自分の学部で授業についてくのに必死だったし、新しい付き合いもあったんだ。だから、休みのたびにローザの愚痴にばかりに付き合ってられなかったし、もっと馴染む努力をすべきだってアドバイスすれば、メソメソ泣くだけで……。」


確かに……。

浮気してたかはともかく、休みの日に、愚痴ばかりでメソメソされてたら、なんか面倒くさくなるかもなぁ。ヴァイスとルージュは、それなりに楽しく学んで来たみたいだし。


「私のいた学部の女性達は、もっと自立していてカッコ良かったんだ。……だから、泣いて愚痴ばかりで私たちになんとかしろと言わんばかりのローザが、とても情けなく思えてしまったのも事実だ。……挙句にこんなトラブルを起こし、ラランジャ嬢まで巻き込んだ……。とてもではないが、王妃に相応しいとは思えない。そういう事なんだ。」


ヴァイスとルージュが、そう話をしていると、突然、僕の背後から声が響いた。


「へえ、そういう事だったんだ!」


そこには、ローザを連れて別の部屋に行ったはずのヴィオレッタが、いつの間にか笑みを浮かべて立っていた。


「ヴィオレッタ?!」


シーニーが少し驚いたように、振り返った。


「私ね、向こうでローザの話を聞いてきたのよ。で、何だかムカついてしまって。……だから、こっちの話を聞きに来たのよ。なるほどねぇ。」


ヴィオレッタがニコニコと機嫌よさげに、こちらに近づいてくる。


「あの、俺さ、今更ながら気づいたんだけど、お前がローザにムカついてたの、なんか分かった気ぃするわ……。」


ルージュがそう言うと、ヴィオレッタが嬉しそうに笑う。


「とっても今更だけど、気づいてくれてありがとう、ルージュ。……そうなのよね、ローザってなんでも男頼りなトコ、あるわよねぇ……。あ!ところで、シーニー???」


「はい……。何でしょう……?」


「前に私が言った事を覚えている……?」


「ヴィオレッタが言った事???」


シーニーが首を傾げた。


「ええ、そうよ。……アウルム王子の暴挙を止めなかった側近は、程度が低いって言ったヤツよ。覚えてる?」


「ええ、言ってましたね?それが何か???」


困惑気味にシーニーが聞き返す。

なんでアウルム王子の話が出てきたんだ???


「つまり私はね、程度が低い側近にならない為に、今までローザに厳しく接してきたの。分かるかしら?」


「はあ……。」


シーニーがいつもの如く呆れた様に相槌を打った。


……。


……いやさ、ヴィオレッタ……。確かに君は今までローザにキツく当たってた。女性同士で上手くやれるよう、アドバイスしていたとギリ言えなくもないけど……。やっぱり、君の場合は、それを正当化してイイとは思えないんだよね???

口喧嘩で負けると、殴りかかろうとしてたしさ。


「ま、つまり、私は程度の高い側近なの。分かるかしら、ヴァイス?」


「え、私か???」


いきなり話を振られたヴァイスがキョトンとヴィオレッタを見つめる。


どうせアレだ。

『以前から、ローザがイマイチだと思ってた私って、凄いわよね?』とか、言い出す気なのだろう。


ヴィオレッタはニコニコ笑顔を浮かべながら、ヴァイスに近づく。


「ヴァイス、お前……歯ぁ食いしばれよ?!」


「はい?」


ヴィオレッタが低い声でヴァイスに話しかけたのと、華麗なパンチがヴァイスの横っ面に入ってたのは、ほぼ同時だと思う。


……誰も動けなかった。


ルージュも、シーニーも、リュイも、僕だって、パンチが決まって、ヴァイスが吹っ飛んでも……呆然とするだけで、動けなかった。


……だってさ、王子様であるヴァイスに、まさか殴りかかるなんて……想像できるか???……しかも、かなり綺麗なフォームだった……腰から回ってましたね。


「はぁ。……私って、マジで立派な側近だわ!!!」


ヴィオレッタは晴れやかにそう言った。

シーニーが慌てて、ヴィオレッタを後から抱き止める。


「ヴィオレッタ!!!やめて下さい!!!人を殴ってはダメなんですよ?!痛いんですからね?!……もう!何度も注意してますよね?!」


あの……シーニー……。


それはそうだけど、そんな事よりさ、王子様を殴っちゃダメじゃないかなー???


「うわあああっ!!!」


後ろにあるドアが開いた音と共に、僕のジョーヌちゃんの、可愛いけど間抜けな叫び声が響いてきた。


「……ヴィオレッタ様が、『ローザに酷い事をした上に、婚約破棄するなんて言い出した、ヴァイスの目を覚まさせてやるわ!』って飛び出して行ったから、慌てて止めに来たけど、やっぱり、殴っちゃってた!……ああっ!ど、どーしよう?!?!」


……???


え?


ヴァイスがローザに酷い事をした???


どーゆー事???








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