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王子様たちの、帰国?!

テストが終わり、クリスマスパーティーも終わると、学園は冬休みに突入した。


いつもなら、社交で目まぐるしい忙しさになるアーテル君なのだが、今年は王子様が戻ってくる年明けまでは、お暇らしい。


そんな訳で、またしてもアーテル君は我が家で入り婿体験をしているのだ。……今回はヒミツ君付きで。


他の猫がいるとリッチーは怒るので、リッチーとエイミは兄さんの彼女さんが預かってくれている。……まあ、それを良い事に兄さんは彼女さんの家に入り浸っているので、兄さん的には「アーテル君、ヒミツ君、ナイス!」って感じらしい。さっきも、リッチー達が心配だからちょっと見てくると、帰ってくるなり行ってしまった。


父さんと母さんは、今夜は今日は遅くなるらしい。


実は姉さんが抜けて、アマレロ商会はちょっと大変な感じになってしまい、母さんが姉さんのポジションに返り咲いたのだ。……私たち兄妹が小さな頃は、母さんが商会を仕切ってましたからね?そんな訳で、姉さんが居なくなって、適当に父さんがつけていた帳簿を、母さんが絶賛見直し中なんだって。



「ただいま……。あれ?お父様たちは?」


帰宅したアーテル君を出迎えると、アーテル君が不思議そうに言った。


「おかえりなさい!……アレ?聞いてない?帳簿を確認するから、遅くなるらしいよ?」


「そうなんだ。……今日は僕、ノランさんのお店を手伝ってたから、聞いてなかったよ。」


アーテル君からバッグとコートを受け取ると、玄関脇にあるクロークにコートをしまう。


……ヒミツ君のヤツは、アーテル君が帰って来たのを知ってるハズはずなのに、リビングでぬくぬくしていて出迎えには来ない。……玄関、ちょっと寒いからね。


リッチーやエイミより数段上の薄情さだよ?ヒミツ君!!!


「あれ?……でも、兄さんは先に帰って来たよ?」


「あー……。今日さ、彼女さんが少し風邪気味らしくて、少し早めに帰ったんだよね?そうしたらノランさんは、ソワソワしちゃって……。だから僕が、売り上げ計算して店を閉めてときますって言ったら、『アーテル君、サンキュー!』って、先に帰ったんだよ。」


……兄さん、なんてヤツ!!!


こんなんで、彼女さんに『働き者でしっかりしている』アピールできてるのかな?!?!プロポーズするんだよね?!


「そうなんだ、ごめんね?……疲れたよね?お夕飯出来てるよ!……私、ステラさんと作ったんだよ?!」


ステラさんは、母さんが忙しくなって、家事を出来なくなってしまったので、新たに雇った、通いの家政婦さんだ。すっごいお料理が上手なので、商会のお手伝いに行かない日は、お料理を教えて貰っている。


「へえ、楽しみだな。」


「さ、早くリビングに行こう?……玄関は寒いよ?」


「ん?……あのさ、ジョーヌちゃん何かお忘れでは?……おかえりなさいのキスがまだみたいなんだけど?」


「ええっ、やっぱりするの?」


「やっぱりするんだよ、入り婿体験なんだから、しなきゃダメでしょ?」


……うーむ。

まあ、母さんたちはやってるもんなぁ???


私は屈んでくれたアーテル君に、チュッと軽いキスを送った。


「おかえり、アーテル君。」


「ただいま、僕の可愛い奥さん。」


アーテル君はそう言うと、ふわりと笑った。


……はぁ、やばい……。

なんか、めちゃくちゃ幸せで、本当に新婚さんになったみたい。



「そうだ、ジョーヌちゃん、来週はシュバルツ家に帰るよ?!」


「え、そうなんだ?」


夕食を終えて、リビングのソファーに並ぶように座りお茶を飲んでいると、アーテル君が思い出したかのように言った。


ヒミツ君はアーテル君の膝の上でスピスピと眠ってる。……お迎えにも行かなかった癖に、ご飯を食べ終えたら、サッサと特等席に座ってるのだ!……ズルいし、ちょっと羨ましい。


「うん。ヴァイス達が帰国するから、それで報告会やらパーティーなんかもあるんだよ。……で、ジョーヌちゃんも来て欲しいんだけど、大丈夫かな?」


「それは……かまわないけど。」


ラランジャとも久しぶりに会いたいし……。


『忙しくて帰国する準備も出来て無かったから、大変なんだよ!年明けには戻れると思うよ!』っていう短い手紙を最後に、先々週くらいから、手紙が来ていない。


本当に忙しそうだし、出立の日は決まっていなそうだったので、返事を書いても帰国した後になっちゃうかもって思って、私も手紙を出せずにいたのだ。


「よかった。嫌だって断られちゃうかと思った。」


「えっ、なんで?!」


「ん?……僕が帰りたくないからかも。なんか、入り婿体験、幸せなんだもん。ちょっと疲れて帰ってきたら、可愛い奥さんが『おかえりなさい』って言ってキスしてくれて、美味しいご飯があってさ……。」


アーテル君がそう言いながら、私を引き寄せた。


「アーテル君……。」


抱きすくめられて、心臓がバクバクしている。


「ジョーヌちゃん……。……今は、僕の奥さん……。だいすきだよ。」


アーテル君は瞳を揺らすと、そっと唇を私に重ねた。……ゆっくりとアーテル君が私に体重をかけて来て、そのままソファーに私たちは沈み込んで……。


「ウギャッ!!!」


……え。


「痛いっ!!!……痛いよっ!……僕が挟まってるんですが!!!」


ヒミツ君が抗議の声を上げた。

あっ!……確かに、私とアーテル君の間に……挟まってますね、ヒミツ君……!!!


「ヒミツ……ねぇ、あっち行って?」


「え、ヤダ。寒いから。……大丈夫、僕……ここで大人しく見てるから、おかまいなく……。」


ヒミツ君はスルリと私たちの隙間から抜け出すと、ソファーの背もたれの所に香箱座りをして、ジーッと私とアーテル君を見ている。


それはもう、ジーーーーーーッと。


……。


非常に、やりにくい。


「えーっと……。ヒミツ?続けにくいんだけど?」


「気にしないで。僕、ただの猫だから。」


ただの猫はしゃべりませんよ?!


「……何しようとしてたか分からなくなるからさ……。」


「大丈夫、僕が分かってるよ。アーテルはね、とりあえず、ブチューッっていって、胸くらいは揉んどくつもりだったよね?!わかる、わかりますよ。ジョーヌちゃんてば、デカいしねぇ……。……ほらぁ、早くしないと、ジョーヌちゃんのご両親も戻ってきちゃうよ?!さあさあ、はじめて?!」


ヒミツ君はそう言って、目を輝かせる。


……。

……。


私とアーテル君は無言のまま、顔を赤くして起き上がった。


「ええっ?!……ねぇ、続きは?!……アーテル?!ジョーヌちゃん?!やろうよ、続き!あっ、照明落とそうか?……大丈夫、僕、猫だから!暗くてもバッチリ見えるから!!!」


ヒミツ君は背もたれの上の部分でそう言っているが……。


絶対に嫌だ……!!!


きっとこの気持ちはアーテル君も同じなんだと思う。色っぽいムードは霧散しましたよ。


だってさ……ヒミツ君って、猫っていうより……完全に覗き見がしたい、おっさんだよ!!!しかも、暗くてもバッチリ見えるとか……おっさん猫、恐るべしだって!!!




◇◇◇




翌週、私とアーテル君は、王子様たちの無事の帰還を祝う為に王宮を訪れた。


数日後にはパーティーもあるが、アーテル君は王子様のスペアでもあるので、挨拶だけは戻り次第しておかないといけないとらしい。


私は行かなくても良いんじゃないの?って言ったのだけど、どうやらルージュ様やラランジャ、ローザ様にヴィオレッタ様とシーニー様にリュイ様も呼んだ、ちょっとしたお茶会みたいになるらしく、行こうよって押し切られてしまった。


ラランジャには会いたかったし……ま、いっか……。



会場は、王宮の奥にある王族専用の庭に面したサロンだった。温室も兼ねた作りになっていて、すごく素敵な場所だ。


入り口で出会ったシーニー様とヴィオレッタ様と一緒に案内されて入っていくと、王子様とローザ様、ラランジャとルージュ様が重々しい雰囲気で座っていた。ラランジャは捻挫でもしたのか、足に包帯を巻いている。


ん???


「どうされましたか?……4人ともお疲れですか?」


シーニー様が不思議そうに尋ねると、ルージュ様が顔を上げる。その顔は、いつもの快活さが消え、歪んでいる。


「……シーニー。……その……色々あったんだ。」


「優秀な成績で帰還されたと報告を受けていますが???他に何か問題が???」


「あのっ!!!……私のせいなんです!!!私が、忙しくて……まるでフォローできなくて……それでっ!」


ラランジャは、そう悲痛な声を上げると涙をポロポロと溢しはじめる。


え???……一体、何があったの???

しかも……ラランジャ……怪我してるよね???


私はアーテル君とヴィオレッタ様と顔を見合わせる。

留学はすごく素晴らしい成績をおさめて来たって、聞いてきたけど……。


「違う。ラランジャは悪くないだろ?!……ほら、泣くな、な?お前が泣いたら、俺は辛い。」


ルージュ様はそう言って、ラランジャを慰める様にハンカチを差し出す。……あれー?なんかラランジャ達、進展してる?


「ヴァイス、何があったのです?」


「……。……ルージュとラランジャ嬢は、立派にアキシャル国でそれぞれに学問を修めてきた。特にラランジャ嬢は、あちらの国の薬師学部で、短期間にも関わらず、こちらの国で薬草の栽培を行う為に、具体的に何が必要なのかをまとめ上げた。」


「え。ラランジャ……すごい……。」


思わず、声に出すと王子様はコクリと頷く。


父さんが薬師なのにもかかわらず、薬をアキシャル国からすべて輸入しているのは、薬草の問題が大きいからだ。この国には薬草を栽培する技術がない。薬草自体は自生しているのだが、探すのが大変な上に数が少ない。……父さんは残念ながら、調合を専門にしていたらしく、薬草の栽培についてはチンプンカンプンで、どうしても輸入に頼る他無かったのだ。


「彼女は、自分の生まれ育った高地なら、その栽培が可能なのではないかと考え、地方の貧困の解決にも一役買えるのではないかとして、薬草の栽培技術を中心に学んできてくれたのだ。……ラランジャ嬢、ありがとう。貴女が留学してくれて、本当に良かった。」


王子様はそう言うと、軽くだがラランジャに頭を下げた。

シーニー様たちも、その様子に驚きを隠せない。


「ヴァ、ヴァイス殿下!!!私のようなものに、頭を下げるなど、そのような事は……!」


「いや、この国の王子として、貴女には、とても感謝している。あのレポートは今後、大変役に立つだろう。本当にありがとう。……そしてルージュ。ルージュも頑張っていたな。ルージュの騎士学部はなかなか大変な学部で、雪山に研修と称してこもったり、船で海に出る事もあったそうだな。……どんなキツい練習でもルージュは弱音を吐かずに明るく、騎士学部の連中と少しハメを外しながらも交流し、沢山の友情を育んだ。……最終日に、騎士学部の者たちが全員で、お前の為に剣でアーチを作って送り出したのは壮観だった。……私はとても誇らしく思ったよ。」


「ヴァイス……。でも、俺は……ラランジャを守れず、怪我を……。」


ルージュ様がそう言いかけると、王子様は首を横に振った。


「ルージュのせいではない。あんな事になるなんて、私たちは分からなかったんだ。……本当に軽い怪我で済んで良かった。」


???


ラランジャが怪我した事と、この重たい雰囲気は関係があるのかな?……王子様も苦しげにラランジャの包帯を見つめている。


「……そして私も、2人には及ばないかも知れないが、多くの事を学んだし、良い友人を持つ事が出来た……。……そして分かったのだ。」


王子様はそう言って、一息つくと、ローザ様を見つめた。


「……ローザ。……其方は王妃として相応しくない。」


……え。


私たちは王子様の言葉が理解できず、ポカンとその顔を見つめるしか出来ない。


「……婚約を破棄しよう……。」


王子様は静かにキッパリと言い切った。


……。

……。


あまりの衝撃に、誰も言葉が出なかった。


少しして、静かなローザ様の嗚咽が響いてくるまで……沈黙はこのサロンを支配した。







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