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チビッコ王子の、テスト対策?!

姉さんの結婚式が終わり、学園に戻って少しすると、テスト期間がやって来た。


……。


あ!ちなみに今回、『安全・アーテル・プラン』への加入は、もちろんですが見合わせる事にしましたよ?!


ヴィオレッタ様とシーニー様までもが「え?なんで?入っておけば安心じゃない?タダなのよ???」「そうです!せっかくなので是非、ご加入を!無料ですから!」などと勧めてきたが……ジョーヌはそこまで馬鹿ではありません。


なにせ、私は商人の娘ですから、ちゃんと知っているんですよ?『タダより高いモノは無い!!!』ってのをね……。



「ジョーヌさんどうしよう。僕もう疲れたよ……。」


朝、花壇に水を撒いていると、リュイ様が情けない声で弱音を吐いてきた。


「リュイ様……。」


励ましの言葉をかけようとしたが、どうしたってその先の言葉が見つからず、私は無言で立ち尽くす。


……そう、リュイ様は……魔術がまるでちんぷんかんのチビッコ王子達に捕まって勉強を教えているのだが、4人ともかなり酷いデキらしいのだ。


「さすがに王子が最下位ってのはマズイと思うんだよね?……だけど、アウルム王子は側近3人組よりはるかにデキが悪くて……。そうしたら王子のヤツ、側近に『お前らが俺より悪い点数を取れば俺は最下位にならずに済むんだから、そうしろ!』とか言っちゃって、また3人組と険悪になっちゃうし……。3人もさ、魔術の理解度に関しては酷いモンなんだけど、一応は高位貴族の令息だし、国を代表して来てるから、最下位は嫌らしくてさ。昨日も喧嘩になっちゃってさ、それを諌めて終わったんだよ。……どうしよう、テスト……来週なんだけど、僕はまるで自分の勉強まで手が回らないっ!」


リュイ様は花壇の側にあるベンチに座り、頭を抱えて溜息を吐いた。


「……何でチビッコ王子達は、3年生の学年に留学したんですかね?魔術を知らないなら、それこそ1年生から留学して、基礎を学ぶべきだったのでは?」


今さら言ってもしょうがないが、そう思わずには居られない。


「それこそ、『蛮族の学問など、俺たちなら余裕だと思った!』とか言ってたよ……。でも、そんな事を言ってる割にさ……実は礼法も酷くて。」


「え?……てか、リュイ様……礼法まで見てあげてるんですか?!」


「う、うん……。まあ、成り行きで……。王子だし、高位貴族だし、礼法でカバーできればって思ってさ……。でも、やらせたらそっちも散々で。この国は、アキシャル国とマナーが違うんだ!って言い張ってるけど……そこまで違うものかな?」


「そんな事、ないと思う……。」


だって、父さん母さんはアキシャル国の貴族と王族で、この国の礼法なんか知らないはずだけど……この前の姉さんの披露宴では、堂々としたモンでしたよ???些細な所は違うのかもだろうけど、特に変な感じなんかしなかったし。


「それにさ、母国語のはずが、外国語もからっきしで……。」


え???

ちょ、ちょっと待った。


母国語がからっきしって、意味が分からない!


「え……何でですか???」


「その……アウルム王子って、どうやら正妃様の子供じゃないらしいんだよね?」


「えーっと?……それ、関係あります???」


まあ、あの感じだとそんなに期待されてない、王位継承順の低い王子な気はバリバリしてますが、母国語が得意じゃないのとソレ、関係ありますかね???


「あるんだよ!……どうやらね、そのアウルム王子のお母様は、方言の強い地方のご出身らしくて……。聞いた感じだと、その地方のかなり力のある家のご出身らしくてね?王子の乳母や使用人達は、すべてその地方から連れて来られた方だったらしいんだ。だから、側近達に言わせると……『アウルム王子の母国語は、めちゃくちゃ訛ってる。』……そうだよ。」


訛ってる……。

えーっと、この国でも、場所によっては少しイントネーションや語尾が変わるけど……???


「あ、その顔、ジョーヌさん、訛ってるって、語尾が少し変だったり、イントネーションが悪いくらいでしょ?とか思ってるよね?」


「う、うん……。」


「アキシャル国は物凄く大きな国だ。……どうもね、単語なんかも違うらしいんだよ。」


えっ!!!

それって、即ち別の言語では?!?!


「アキシャル国でも、そんなに違う言葉なら、通じないんじゃ???」


「うーん。それが通じるんだって。……たとえは『友達』って単語も、アウルム王子は『ツレ』って言うんだ。側近3人組によると、自分たちは使わないけど、なんとなく意味は分かるんだって。……どうも、その地方の人たちは有名人が多くて、方言を直さないのが一種のステータスでもあるらしんだよね?だから一定数は、その言葉を話す人がいて、その方言も市民権を得てるらしいんだ。……だから訛ってるけど、みんな意味が分かるし、通じるんだって。……でも、この国のテストじゃバツになるよね……。」


「そ、それは。……うーん……そうですね……。」


確かに、テストと実際に話す言葉は別だからなぁ。

正しい文法や言葉じゃなくとも、通じれば問題ないし、私だって、外国語では意識してるけど、母国語になると、会話を正しい構文では話してないよなぁ……。


「だからさ、外国語のテストも散々だし、算術もお嫌いらしくてさ……。僕もう……ハゲそう……。」


うーん……。疲れちゃうよね、それ。


しかも王子はリュイ様にしか懐いていないんだよねぇ。……算術なら私が……とも思ったけど、きっと「お前になど教わりたくない!あっちに行け、黄ブス!」とか騒ぐよね……。


あ、「黄ブス」ってのは、チビッコ王子が直々に命名してくださった私の渾名です。黄色い髪でブスだから付けたそう。

因みにアーテル君は黒イヤミ、シーニー様は青メガネだそうですよ。……側近たちのフォローになってないフォローによると、チビッコ王子は関心が無い人の名前は、まるで覚える気がないので、特徴を捉えた渾名で呼ぶ事が多いそうです。


「困っちゃいますね。」


「困ってるよ、マジで。……でもさ、まあ……今回だけだし、なんとか頑張るよ!頑張っても王子は最下位確定だけだろうけど!……でもさ、いくらなんでも、赤点を取らせるのは可哀想だから、それ回避を目標にして頑張らせるつもり!……ジョーヌさん、愚痴、聞いてくれてありがとね。……そろそろ教室に向かおうか。」


リュイ様はそう言って笑い、私たちは水撒きを終えて教室へと足を向けた。




◇◇◇




そんなこんなで、テストの結果が出た。


「え、えーっと……???」


アーテル君がポカンと貼り出されだ結果を眺めている。

隣にいる私も、声を出せずに結果を見つめていた。


……今回……総合の成績はアーテル君が1位じゃないのだ。


1位 リュイ・ベルデ

2位 アーテル・シュバルツ

3位 シーニー・ブラウ

4位 ヴィオレッタ・パールス

5位 ジョーヌ・アマレロ

……

……

……

17位 トーマス・アーオイ

18位 パーシー・ミドゥーリ

19位 ジェームス・マッカ

20位 アウルム・クリューソス


もちろん最下位がチビッコ王子だ。……17位〜19位、誰だよ?!って感じでしょうが、こちらはチビッコ王子の側近のお名前です。


……見事、アキシャル国勢力が下位を独占したカタチとなりました!!!


それはさておき、首位がリュイ様?!?!


「え。……まさか僕、リュイに負けると思わなかった。……シーニーやヴァイスなら、まあ……分かるけど……?そんなに僕、いつもと違ったかな???」


「そんな事はないと思うよ?……だって他は、ラランジャ達が居ないぶん、順位がそっくり繰り上がっただけな感じだし……。アーテル君がどうこうってより、リュイ様が頑張っただけじゃないかな?」


「そうか……そうだね。人に教えるって勉強になるしね。」


人に教えるのが勉強になるなら……チビッコ王子達にお勉強を教えたリュイ様は……相当勉強になったよね。


思わずアーテル君と遠い目になる。


それにしても、王子達が躓いてるのは基礎の基礎だから……リュイ様、めっちゃ頑張ったんだなぁ。


私とアーテル君が感心していると、リュイ様がやって来て顔を顰めた。


「クソっ……!アイツら……!!!」


珍しく、メチャクチャ怒っている。

1位になったのに、リュイ様……なんで怒ってるんだろう?


「どうしたの、リュイ。」


「あ、アーテル、ジョーヌさん。……この成績……不正なんだよ!」


「「えっ?!」」


「アウルム王子達が、先生の所に直談判に行ったらしくて。……その、王子達のせいで、僕が全然勉強できなかったって。だから、それを考慮して僕の成績は付けて欲しいって、テストが終わってから、ずーっと先生達に付き纏ったらしいんだ。」


……なんたるアツイ友情。


いや、素晴らしい忠誠心とも言える。……てか、側近3人組は、それをリュイ様ではなく、チビッコ王子に向けようか……。


「そうなんだ。……でも、良かったじゃないか、リュイ。1位だよ?」


「いや、良くないよ?!いわばインチキじゃない、コレ?!……アーテルは怒っていいよ?!本当に今回の僕ってば、そこそこしか手応えがなかったんだ!……王子達に赤点取らせないのを目標にして、そっちばっかで、まるで勉強できなかったしね!!!」


思わず、アーテル君と顔を見合わる。


個別の成績で、王子達はギリギリだが赤点はひとつも無かった。あの、落ちこぼれ4人組をここまで頑張らせたって……いやいや、ある意味、すごいよね?!それを考慮したら……確かに1位になるかも?!


「あの……リュイ様?……チビッコ王子達、ひとつも赤点取ってませんよ?!」


「まあね。僕、すんごーーーく、頑張ったからさ!そりゃ、そんなの取らせませんよ?!褒めて、おだてて、励まして、ご褒美あげて、たまーに叱って、アメ、アメ、アメ、アメ、ムチ……位な感じでさ、なんとか、ここまでやらせたんだよ!」


「えーっと……リュイ。あのさ……それが凄いって評価されたんじゃない?」


「え???」


リュイ様はポカンとしてアーテル君を見つめる。


「だってさ、この結果、かなりのモンだって。……僕には真似出来ないよ。きっとイライラしちゃうし、見捨てちゃう。こういっちゃナンだけど、犬に魔術を教えるより難しいと思うよ?……申し訳ないけどさ、アウルム王子達一行については、学園の先生方も匙を投げてて、まあ楽しく過ごしてお帰り頂こうスタイルだったと思うんだよね?……なのに赤点なしは凄いって。……ね、ジョーヌちゃん?」


「うん。私もそう思うよ。赤点取らないって……最低限は理解したって事だもの。良い成績ではないけど、及第点って事でしょ?……この国に来て魔術を学んだって、一応だけど言えるって事だと思う。」


私たちがそう言ってリュイ様を褒めていると、チビッコ王子が走ってやって来た。


「リュイ先生!1位、おめでとう!さすが先生だ!」


「いや、これは……。」


「俺、国に報告したんだ!この国で赤点も取らず、側近ともまあそれなりに仲良くやってて、友達も出来たって!」


チビッコ王子はそう言うと、リュイ様の手を握る。


「……父上も母上も泣いて喜んで下さった。どうしようもないアウルムが立派にやっていると!……全部、リュイ先生のおかげだよ。」


「アウルム王子……。」


リュイ様は感動したようにチビッコ王子の名を呼んだが……私とアーテル君は目を合わせて肩を竦めた。だって……やっぱり、どうしようもないって王様達に思われてたんだ……って。


「それで先生、俺な?もーっとイイ王子になるぞって父上と母上に言ってやったんだ!」


「そうですか!……では、国にかえられても、頑張って下さい!!!」


リュイ様は、チビッコ王子から解放されるのが嬉しいのだろう、晴れやかな笑顔を浮かべている……。


「ん???……いや?……帰らないぞ?……俺はリュイ先生のおかけで良い方に変わったからな!このまま、こっちで卒業まで居る事にした!……鉄道模型も志し半ばだしな!!!」


「……え。」


「側近達も残るそうだ!!!あいつらも、まだ学びたいし、模型もやりたいんだろう!!!……これからもよろしくな、リュイ先生!!!」


いや、それ……確実に鉄道模型やりたいだけですよね?


……。

……。


どうやら、リュイ様の苦労はまだまだ終わらない様だ……。








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