姉さんの結婚式と、両親の秘密?!・後編
……。
……。
「……あの、つまり父さんが居なければ、母さんはアーテル君のお母さんになってたって事なのかな……???」
私はあまりの衝撃に言葉が出ず、やっとの事で疑問を口に出した。
「それは違うんじゃないかな?……組合せが違うから、そうしたら僕は生まれて来てないハズだよ。」
アーテル君はそう言って、軽く笑う。
……でも、確か……。
アーテル君のご両親が不仲なのは、お父様が前の婚約者を忘れられなかったからって言ってたよね?……つまりは、母さんのせいって事なんじゃ……。
……。
それって……。
もしかして……私に近づいたのは……本当の目的は……。
私は唾をゴクリと飲んだ。
「もしかして、アーテル君は、父さんや母さんを恨んでるの?何も知らないで、のほほんと暮らしていた私の事も、本当は怒ってたりしてた?……その、我が家のせいで……母さんのせいで、アーテル君のご両親は不仲なんだよね?」
恐る恐るアーテル君に問うと、アーテル君は激しく首を横に振る。
「それは断じて違う!!!……だから、この話は絶対に僕の口から話したかったんだ。……僕は両親の不仲は両親の問題だと思っているし、僕の中では、とっくに終わった話しなんだよ。……その、僕がジョーヌちゃんに興味を持って、話しかけたきっかけにはなったけれど、僕は君も君のご両親も恨んだりはしていない。」
「……そう、なんだ。」
ちょっとだけホッとすると、アーテル君は私の手をギュッと握った。
「……両親の事もあったから、ジョーヌちゃんがショックを受けたり、そう考えちゃうかもって思って、言い出せなかった。君のご両親も自分たちの過去を打ち明けて無いみたいだったから特に……。……僕は、ジョーヌちゃんやアマレロ家に嫌な気持ちは微塵も持っていないし、それは信じて欲しい。」
「アーテル君……。信じるよ。ちょっと動揺しただけ。」
私は必死に訴えるアーテル君に、顔を緩める。
「……だけど、フラールさんがパールス侯爵家に入った事で、ご両親はもうバレても良いと決心されたのかも知れない。散々無視してきたこの国の社交界に、娘の披露宴というかたちとは言え、こうして現れたし……。」
アーテル君はそう言うと、父さんと母さんが居る方を見つめた。パールス侯爵が、父さんと母さんを親族の方々に紹介して回っている。
「でも……ずっと隠して来たんでしょ?何で今さら?」
「今さらだからってのもあるんじゃない?さすがに2人とも、子供も結婚するような年だし、バレても、もう連れ戻されたりしないだろうしさ。」
「それも……そっか。」
母さん……お姫様ってトシじゃないもんね。
「……それに、2人とも出は高位の貴族と王族だ。社交界の在りようもご存知なんだよ。……その、この国はアキシャル国との繋がりが欲しくてたまらないから、この事が明るみに出れば、アキシャル王家の血が流れているフラールさんが軽んじられる事はない。……フラールさんは、貴族である最低条件の魔術学園さえ出ていないから、いくらパールス侯爵家が総出で守ってくれても、きっと嫌な目には合ってしまうだろうし……。ジョーヌちゃんのご両親なりに、フラールさんを守りたいんじゃないかな。」
……。
昨日の晩、姉さんと父さん、母さんが深刻な顔で話をしていたのは、もしかするとこの事だったのかも知れない。
私と兄さんには、嫁入り前の『父さん、母さん……長い間、お世話になりました。』タイムかと思って、気を利かせて、さっさと寝ちゃったんだけど……。
「きっとお2人は、ジョーヌちゃんが僕と結婚する事になっても、そうして下さるつもりだった思うよ。」
「うち……親バカだからね……。」
私がそう言うと、アーテル君は「羨ましいよ。」と言って、少し笑った。
「あ!それとね、ジョーヌちゃんの持ってる、ギラギラネックレス。あれはね、アキシャル王家の宝の1つなんだ。……学園で君が軽んじられないようにと持たせたんだと思う。」
え……。
「え、え、え……。あ、あれ……か、家宝?」
「うん。正しくは、国宝になるのかも?」
「つ、つまり……あれ、コスチュームジュエリーではなくて……ほ、本物なの?!?!」
「もちろん本物だよ?……だから、学園の金庫に預けるように進言したんだ。……いやぁ、ボストンバックの底から雑な扱いで国宝が出て来た時は、僕でもビビったよ。」
うわわっ!!!ど、どうしよう。
国宝……ものすごーくテキトーに扱っていた気がする!!!
そう言えば、パーティーが終わると、必ずアーテル君のとこのメイド長が、早々にネックレスを受け取りに来てくれて、私の目の前で手入れしてから、直々に数名を伴い、金庫に預けに行ってくれてた。なんか大袈裟だな~って思っていたんだけど……まさか、そう言う事だったの?!
「あの……まさか……真ん中のいかにもオモチャなデッカい石は……。」
「うん、ダイヤだね。」
「うひっ!!!」
え、怖すぎてもう身につけたくない……!!!
「アレさ、ジョーヌちゃんのお母様のトレードマークだったんだよ。だから、あのネックレスを知ってる人は知ってたんだ。だから僕はジョーヌちゃんに、いつもあのネックレスを付けさせてたの。明言しないまでも、十分に匂わせにはなるからね?……ちなみに、ジョーヌちゃんに貸してる、あれと似たデザインのイヤリング……あれは僕の父が、お姫様が嫁入りしてきたら贈ろうとして作らせた品なんだ。……結局、お姫様は来なかったし、母もお姫様の為に作った品だと知ってるから受け取らなくて、家にずーっと保管されてたんだけど。……あれさ、一応我が家の家宝になるんだ。国宝に合わせて作らせたから、あれもかなり高価な物でね……。」
「うがっ!!!」
へ、変な声が出た……!!!
あ、あれも、ほ、本物?!
昔流行ったデザインで、たまたま対になるから貸してくれてるだけかと……!!!借り物だからネックレスよりは大切にはしてたけど、あっちもオモチャだと思ってて、何度かウッカリ落としかけてた気がするよ?!?!
「アーテル君?!……そういう大切な事は早く言って?!」
「いやいや、説明しにくいでしょ?!……ご両親も秘密にされてたしさ?」
そ、それは……そうかも……だけど。
今、ビビリなジョーヌは寿命がヒュンって縮んだよ。多分数ヶ月は短くなったからね?!
「……あ!……あとさ、あのネックレス呪われてるから気をつけてね?」
「へっ?!?!」
「あれね、アキシャル王家の女性だけが無事に身に付けられる事で有名なネックレスなんだよね?……だから、あれを無事に身に付けてるジョーヌちゃんは、お母様に似てないけど、アキシャル国のお姫様の娘なんだって、みんな思っていたんだ。フラールさんはお母様に生き写しだから、それもあって、あえて似てないジョーヌちゃんに譲ったのかもね?……それはさておき、あのネックレスは、他の人が身につけると呪われて死んでしまうらしいから、気をつけてね?」
……そ、それこそ早く言ってよ!!!
ウッカリで誰かに貸したりしたら、大変な事になってたじゃないっ!!!
……てか、母さんも渡すときに、ひとこと言ってよーーー!!!
帰ったら、母さんと父さんを尋問してやる!!!
事情があっての駆け落ちだったろうし、お姫様うんぬんはともかく、国宝だったり、死人が出るかもな呪いのネックレスを無言で押し付けて来た事は、絶対に文句言ってやるんだからっ!!!
「あ!!!……だから、チビッコ王子は兄さんに何となく似ていたの???私とは……まさか……親戚?」
「ご名答!……ジョーヌちゃんのイトコになると思う。」
……なんか複雑だ。
「あまり、嬉しくないな。」
「まあ……分かる……。」
ですよね。……嫌がるヴィオレッタ様をやたらポジティブに追いかけ回したり、最近は鉄道沼にドップリはまったり……王子として魔術を学びに来たはずなのに、なんか残念すぎだもんね……チビッコ王子。
「……なんか、アーテル君の話を聞いたら、さらに疲れちゃったよ……。」
私はソファーにパサリと倒れ込んだ。
「ごめんね。良い機会だと思ったから、お疲れなのに、つい話しちゃった。人伝に聞いて誤解されたくもなかったし……。そうだ、何が飲みものでも取ってくるよ、座ってて。」
アーテル君はそう言うと、席を立った。
◇◇◇
私とアーテル君が座ってジュースを飲んでいると、ヴィオレッタ様がシーニー様を連れてやって来た。
「ジョーヌ、貴女……アキシャル国のお姫様だったのね。さっきお父様たちから聞いたわ。……その……色々と失礼したわね。私、長いモノには巻かれるたちで、権力には逆らわない主義だから、今までの非礼を謝りに来たの。ごめんなさいね。」
ヴィオレッタ様は気まずそうな顔でそう言った。
清々しい程の保身の為の謝罪に、吹き出しそうになる。
別に、ヴィオレッタ様の事、好きだし怒ってもいないんだけどな……。
「えーと、違いますよ?お姫様なのは母さんだし、王家の責務を逃げた時点で、ただの庶民になったと思うんです。だから私はやっぱり男爵家の末娘なんですよ?……それに、ヴィオレッタ様の事、怒ってないし好きですよ。」
「ジョーヌ……。」
「私達、義理の姉妹になったんですよね?……これからも変わらず仲良くして下さい!」
私がそう言って笑いかけると、ヴィオレッタ様は深い溜息を吐いた後に、真剣な顔になり、私の両肩をグッと掴んだ。
あれ???……ダメ???
「……いい、ジョーヌ?……貴女、人が良すぎるわ。そんなだから、アーテルみたいな男に付け込まれてるのよ?そこは嘘でも、『分かったなら、今後は気をつけてね、ヴィオレッタ。』くらい言わないと!そうやってヘラヘラして何でも許してると、本当に社交界で食いものにされちゃうわよ?……シーニー、私……ジョーヌが心配よ。」
「そうですね……。私も……ジョーヌさんの今後は、非常に不安です。」
シーニー様はそう言うと顔を曇らせ、私たちを見つめた。
「今後、ジョーヌさんのご両親の秘密が明らかになれば、ヴィオレッタのように、手のひらを返して擦り寄ってくる下衆で卑劣な輩が増えるでしょう。……アーテルは今まで以上に、ジョーヌさんに下手な者が近づかないよう、気を張る必要があると思います。……それに、ジョーヌさんも、もっと警戒心を持つべきです。」
シーニー様、アドバイスは非常にありがたいのですが……。なんか、それ……どさくさに紛れてヴィオレッタ様を下衆で卑劣って言ってますよね?!
「シーニー、大丈夫だよ。……僕は、これからもずっとジョーヌちゃんを守るし、変な輩は絶対に近寄らせない。……そうだ!ジョーヌちゃん、これを機会に『安心・アーテル・サポートプラン』に加入しちゃわない?無料だし、24時間、365日、君のピンチには、いつでもかけつけるよ?」
アーテル君は、私を安心させるかのように、おどけて言った。
「うん。……ありがとう、アーテル君!それは是非とも加入しないとかな?!」
「じゃあ、ちょっと待って……。えーっと加入手続きとして、これにサインして欲しいんだよね?」
「あははは。……サインとか、なんだか本格的だね?」
「まーね。……えーっと……。コレね。」
アーテル君はそう言うと……内ポケットから、入学してすぐに私を騙して血判を押させた『婚姻届』を差し出した。
「え?」
「ん?……24時間、365日、一生、サポートするなら、コレしかないでしょ???無料だよ?先着1名様だから、早く、早く!」
やっぱり、アーテル君は……詐欺師だと思う!!!
いくらコッソリ探しても見つからないと思ったら、常に持ち歩いてたんだ、それっ!!!




