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悪役な令嬢ヴィオレッタの羨望◇ヴィオレッタ視点◇

「ねえ、シーニー。昨日、ジョーヌが指輪をして部屋に帰って来たのよ。」


最終日の自由行動でシーニーと2人きりになった私はシーニーに切り出した。


「そう言えば、アーテルも戻って来た時に指輪をしていましたね。……何でもジョーヌさんから頂いたとかで、嬉しそうに何度も見ては微笑んでいましたよ。」


「……ジョーヌもよ。……で、『ちょっと見せなさい!』って言って見せてもらったの。そうしたら、小さな珊瑚にやっぱり小さな真珠がついた、いかにもジョーヌっぽい地味で安物をしていてね……。」


私がそう言うと、シーニーは溜息を吐いた。


「ヴィオレッタ?……ジョーヌさんが喜んでいるのに水を差す様な事を言ったのですか?」


いつになく冷たい声でシーニーに叱られる。

シーニーは真面目で健気なジョーヌを信頼しているし、気に入っているのだ。


「言ってないわよ!そんな事!!!……『コレ、どうしたの?』って聞いただけよ!……どうせアーテルに貰ったんだと思ったけど、アーテルにしては珍しくケチ臭いなって思って、白々しいけど聞いてみたのよ。そしたらジョーヌが、『アーテル君がね、私っぽいからって選んでくれたんです!』って、そりゃーもう幸せそうに答えて……。」


「……そうですか。なら良かったじゃないですか。」


「はぁ?良くないわよ。……私がジョーヌなら怒ったわ。『え?つまり、コレって、私を安物だとでも言いたいの?!』ってね。」


シーニーは渋い顔をして「まあ、そうでしょうね……。貴女なら……。」と呆れた様に呟いた。……なんだかカチンとくる態度である。


「シーニー、話は最後まで聞きなさい!」


「何だか、それをヴィオレッタには言われたくないのですが。」


シーニーは私にベタ惚れなハズなのに、頭にくる事に、こうしていちいち冷静なツッコミは欠かさないのだ……。


「とにかく聞くのよ!!!良い???」


「はい……。」


「……コホン。……私ね、安物を貰ったジョーヌが、とても羨ましかったのよ。」


「はい?!?!」


いつも冷静なシーニーがポカンと口をあけた。

……うーん、その顔も、なかなかレアで可愛い!


「えっと……ヴィオレッタが安物が欲しいと???……今更ですが、庶民派に鞍替えですか???」


「違うわよ!!!」


そんな訳あるかい、ボケ!!!


「……あのね、よーく見せてもらったのよ、ジョーヌの指輪。……確かに安物なんだけど、アーテルの言う様に確かにジョーヌのイメージなのよね?悪い意味じゃなく、本当にジョーヌの優しげな雰囲気とか、ほんわかした感じを表現したみたいな指輪だったのよ。」


「なる程……。」


「でもね、アーテルの立場になって考えたら、これを選んでプレゼントするって、ある意味凄いなって思った訳よ。」


シーニーは意味が分からないのか、首を傾げる。


「凄いとは???」


「アーテルはさ、お金持ちな訳よ。高い指輪なんて、幾らでもジョーヌに買ってやれるの。そしてジョーヌもそれは知ってる。……なのにアーテルは、あえて安物を選んだ訳よね?……シーニーならどうする?高いけど、まるでイメージじゃなくて似合わなそうな指輪と、安物だけど、イメージにピッタリでとっても似合いそうな指輪……。大好きな子に、どっちを贈る???貴女がお金に不自由していない事はバレてるのよ?!」


「……それは……難しい質問ですね……。」


シーニーはチラリと私を見つめてから「無難に高い方で。」と言った。……そのチラ見、いる?しかも『無難』って、言い方がムカつくなー!!!


「……つまり、それよ!私が羨ましいと思ったのは、そこなのよ!」


「どう言う事です?」


「アーテルは、ジョーヌに安物の指輪を送っても、自分を馬鹿にしてるなんて誤解しないし、ちゃんと自分の気持ちが伝わるって思って、あえてあれを選んだ訳でしょ?……そしてジョーヌも、アーテルが安物を選んでも変な意味になんか取らないで、ちゃんと喜んでいる……。素晴らしい信頼関係だと思わない?」


「そうですね……。そう言われると、羨ましい気がします。」


私の言葉にシーニーはどうやら感心したらしい。

まぁね、これが人生二度目の観察眼ってヤツよ!!!


「それで、私もシーニーと信頼関係を強化しようと思うのよ。」


「……え?」


えっと……いいかな、シーニー?『何言ってんだコイツ?』みたいな顔、バレてますからね?貴方、クールに見えて意外と顔に出るタイプなんですよ?!


「なので、今からシーニーは私をイメージしたアクセサリーを買って来なさい。私も入籍記念に、シーニーの本音が知りたいのよ!」


「……本当にやるんですか、それ?!」


「やるわよ!……言っておくけどシーニーには、アーテルと私を引き離す為に私に近づいたっていう前科があるの!……つまり私は極めて不安を感じているのよ、貴方の気持ちに!!!……ああっ!!!不安でたまらないわっ!!!」


「はあ……。そうですか。……そんな力強く言われても……。」


……なんでそんな気のない返事なのよ、シーニー?!


貴方の愛しのヴィオレッタ様が不安だと言ってるんだから、もっと心配すべきじゃない?!


あ!もしかして……。

シーニーって、実はヤンデレじゃなかったのかな???


ま、別にどっちでもいいけど……。それはそれで、ちょっと寂しい気が……いやいや、しない!寂しくない!……旦那様は、ヤンデレじゃない方が確実に良いに決まってる!!!


「だからね、シーニーが選んだアクセサリーを買って欲しいのよ!……ジョーヌみたいにね!!!」


「でも、ヴィオレッタは私が珊瑚や真珠を選んだら、文句言いますよね?たとえ似合っていても……。ジョーヌさんみたいに、何でも素直に受け取って喜んでくれるタイプではありませんよね?……アーテルの場合、信頼関係もあるでしょうが、そんな彼女の性格を知っているから、価格ではなく本当にジョーヌさんに似合う物を選んだだけでは?」


う。

……そうともいう。


「でも、いいかしら、シーニー?!……貴方こそ、私に安物の珊瑚や真珠が似合うと思う訳?!」


シーニーは考え込む。


「安物ですか……。うーむ……私は珊瑚も真珠も綺麗な宝石だと思いますよ?……そうですね、両方ともイメージ的には可憐で清楚な可愛らしい感じがします。柔らかな光り方が優しげな印象を与えますし……。……うん、ヴィオレッタとはまるで違いますし、似合ませんね!」


「……え。シーニー……もしかして、私に喧嘩売ってる?」


「いえ?……ヴィオレッタが珊瑚と真珠に喧嘩を売ってますよね?あと、それを喜んでるジョーヌさんにも。」


……ん?

言われてみると、そうかも知れない。


確かに、ダイヤやルビーなどより価値は低いが……好きな人は好きなんだよね。珊瑚も真珠も。キラキラ光らないが、綺麗だし、鉱石とはまた違った魅力がある。


ジョーヌの指輪は……とても似合っていたし、それ以上に彼女の笑顔を輝かせていた。……まあ、それも羨ましいかったってのもあるかも知れない。


「……じゃあ、珊瑚と真珠さん、ごめんなさい。ジョーヌも、ごめんなさい。好きな人に素敵な指輪を貰って、嬉しそうなジョーヌに、ちょっと嫉妬しました。……ほら、謝ったわよ。だからシーニー、私にも指輪を買いなさい!」


シーニーがクツクツと笑う。


……何が可笑しいと言うのだろうか???


「ヴィオレッタは……その、時々素直すぎて可愛らしいですよね?」


「そうかしら?……どっちかって言うと、私の事は『美しい』と称えるべきではないかしらね?」


シーニーは、ハイハイと呆れた様に言うと、私を宝石店に連れて行ってくれた。




◇◇◇




「見なさいジョーヌ!!!私もシーニーに素敵な指輪を買わせたわ!!!」


帰りの列車の中で私はシーニーから買って貰ったサファイアの指輪を見せつける。真ん中にデッカいサファイアが輝き、その周りをダイヤが囲むギラッギラのヤツだ。


どうだ!まいったか!!!


「うわぁ。素敵な指輪ですね。綺麗です!」


ジョーヌはニコニコと答える。


褒めてはくれるが、まるで羨ましがっていなくて、ちょっとイラつく。


「ダッサぁ……。夜会でも無いのにそんなギラギラなヤツ付けてどーすんの。制服にもまるで似合ってないよ。」


アーテルが面倒くさそうにチラ見すると、呆れた様にそう言って、列車の窓に寄りかかり外を眺め始めた。……窓から入って来た光が、アーテルの指にはまった、あまり大きくない指輪をキラッと輝かせる。


!!!


「アーテル、その指輪見せなさい!」


「ちょっといきなりやめろよ、何すんだよ!」


アーテルの手を無理矢理引っ張って指輪を確認する。

……これが……シーニーが言ってた、ジョーヌがアーテルに贈った指輪。


その指輪はあまり大きくないブラックオパールが真ん中に付いた、ごくシンプルな物だが……アーテルには非常に似合っていた。


……しまった。


自分の指輪を買ってもらうのに夢中で、シーニーに指輪を買うなんていうのは思い付かなかった。


なんだか急にションボリしてしまう。


少しして、シーニーが学級委員の仕事で先生に呼ばれ、ジョーヌが洗面所に席を離ると、コンパートメントはアーテルと2人きりになり……私は遂にどよんと落ち込んでしまった。


「うわっ!何だよ!……何でいきなり落ち込んだんだよ!……そんなに僕と2人になるのが嫌?!」


「違うわよ!……指輪よ。」


「え?」


アーテルはそう言うと、自分がジョーヌから貰った指輪を眺め……ふわりと笑った。


チッ!!!

堪らなくイラッとくる!!!


「……どうしたんだよ、ヴィオレッタ。君もシーニーから凄い指輪を貰ったじゃないか……?」


アーテルに不思議そうに尋ねられ……私は何だかポロリと涙が溢れた。


「うわっ!!!怖っ!!!何で泣くんだよ!!!ヴィオレッタが泣くとか怖いんだけど?!」


「煩いわねっ!!!……ジョーヌとアーテルが羨ましいのよ。……その、2人で素敵な指輪を交換したでしょう?」


「まあね……。」


へにゃりと笑うアーテルが……マジでぶん殴りたい顔すぎる。


「私、ジョーヌが羨ましくてシーニーに指輪を買って貰ったけど……アーテルには『ダッサぁ。』って言われるし、自分の事ばっかで、ジョーヌみたいに自分も指輪をプレゼントするなんて考えも浮かばなかった……。」


「いやぁ……。僕のジョーヌちゃんてさぁ、可愛さのみで出来ているしぃ?!」


デレデレと言うアーテルに殺意がチラつく。


「……でも、その……。『ダッサぁ。』は言い過ぎたと思う。……ごめん。……シーニーが羨ましくて、その……酷い言い方した。素敵だと思う、その指輪。……制服には似合わないけど。」


「……シーニーが羨ましい???」


「ん……。その指輪……いかにもシーニーっぽいだろ?シーニーの色だしその直線的なデザインも、生真面目でカッチリなシーニーを思わせるよ。……なんか、好きな子に……いかにも『自分の分身!』みたいなリングをあげちゃうとか、さすがシーニーだなって。……僕はさ、そんなの出来なくて、結局はジョーヌちゃんに似合いそうなのしか贈れなかったヘタレだし。……しかも、そんな高価な物を平然と受け取ってくれるヴィオレッタも、羨ましかったんだ。……相思相愛だから出来るんだよ、それ。……まあ、君たちは入籍済みだし。……そんなん、羨ましいに決まってるだろ?!」


アーテルはぶっきらぼうにそう言うと、また窓の外を眺め始めてしまった。


なんだかジンワリとシーニーに貰った指輪に喜びが込み上げてくる。……そうか、これは相思相愛の指輪なんだな!!!


なんだかニヤニヤが止まらない。


……ん?


『相思相愛だから出来る』って……アーテルはまるで自分とジョーヌは違うみたいな言い方だったけど……???

どっからどう見ても2人は両思いの相思相愛だよね?何言ってんだろ???


そうじゃなきゃ、ジョーヌはあんな幸せそうに指輪を眺めて笑ってたりしない。……アーテルもだ。


……そう言ってやろうと思って、私はやめた。


何故って???

そんなの、アーテルが嫌いだからに決ってる。


だから私は自分の指輪を眺め、2人が戻ってくるまでニマニマと時を過ごす事にした。








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