学年旅行に、出発です?!
とうとう100話まで来ちゃいました……!
色々と気付いてしまった私とリュイ様は、複雑な心境ではあったが、ヴィオレッタ様とシーニー様は、チビッコ王子避けにサッサと入籍を済ませてしまい、幸せそうにしている。
式は、姉さんとモーブ様の結婚式から1年以上あける感じで、来年の冬を予定しているそうだ。
ま、まあ、幸せなら良いよね……。
リュイ様は……「なんかさ、僕ね、すごく年下の婚約者なんか出来て、内心はちょっと面白くない気持ちもあったんだ。まあ、歳が近いと前の彼女と比べちゃって、もっと拒絶反応があったかも知れないけど……。でも、みんな婚約者とイチャついてるのに、僕は子守かよ?!的なね……。だけどさ、メンタルの強さって大切だよね?……今の婚約者の子は、すごく明るいんだ。カラッとしてて、全然病まなそうな感じなんだよね?前の婚約者の方がどっちかって言うと、病みそうかも。シーニーみたいにヤンデレたりはしないと思うけど……でも、なんだか僕さ、吹っ切れた気がする!心の健康、すごく大切!」などと言っていた。
うん。……わかる。
ヤンデレと結婚するのは、リスキーだよね……。
……。
チビッコ王子は、ヴィオレッタ様が「私っ!入籍しましたのよ!!!既婚者ですの!!!」と婚姻証明を見せつけると、さすがにそれはポジティブに変換しようが無かったのか、大人しくなった。
……そして、気づくとお取り巻き連中の入っているグループに合流していた。どうやらチビッコ王子も鉄道好きだったらしく、今はヴィオレッタ様よりも、この国のちょっと珍しいカタチの機関車に夢中だ。
◇◇◇
……そうして、学年旅行の日がやって来た。
「シーニー、約束だよ。……ヴィオレッタは、もう付き纏いには遭ってないけど、でも協力はしてたんだ。……僕とジョーヌちゃんを、旅行中、自由時間は2人っきりにしてくれるんだよね?!」
旅行に行く汽車に乗るホームで、アーテル君はシーニー様を捕まえて聞いた。
……シーニー様は生徒会だけでなくクラス委員も押し付けられている。
本来は、クラスの男子に圧倒的人気のルージュ様が選ばれたのだが「俺、委員長とかガラじゃねーし、2学期は留学するからシーニーが良いんじゃね?」の一声でシーニー様に決まったのだ。
シーニー様は極めて苦労人なのだ。……ヤンデレだけど。
名簿を確認すると、切符を手渡してくれる。
どうやら、今は引率の先生のお手伝いをしているらしい。
引率の先生はというと、列車に興奮気味のチビッコ王子たちの一団を嗜めている。王子たちが、これから乗る予定の汽車を、一般客を押し除けて眺めたり、スケッチしたりと大騒ぎしているからだ。
……まあ、チビッコ王子に友達が出来たのは……良かったのかな???
「ええ。もちろんです。……私もヴィオレッタと新婚旅行気分ですから、別々に行動するのはやぶさかではありません。ただ、自由時間が終わったらちゃんと落ち合いましょう。引率の先生方のご迷惑になりますから。」
シーニー様はそう言うとチラリと王子たちの一団を眺めた。
……クラスでは大人しめなメンバーのはずなのに、みんな目の色が変わっており、先生も手を焼いている様だ。
「もちろん、それは分かってるよ!そうしたら、ジョーヌちゃん、もう僕たちは列車に乗ろうか。……あれ?ヴィオレッタは?」
「ああ、ヴィオレッタはもう列車に乗り込んでいますよ。寝不足気味らしく、着くまでウトウトしたいと言ってました。……アーテルとジョーヌさんと私と同じコンパートメントです。私は委員の仕事があるので、ギリギリに向かう事になりますが、良かったら早く行ってあげてください。いくら特別車両でも、さすがに熟睡していたら危ないですので。」
私とアーテル君は、それもそうだな……と思い、自分たちのコンパートメントへ急いだ。
「でも、ヴィオレッタ様、寝不足なんて可愛いね。……きっと旅行が楽しみで眠れなかったんじゃないかな?!」
「あはは!そうだね。……実は僕もさ、楽しみすぎてなかなか寝付けなかったんだよ。」
「私もだよ!夜中に目が覚めて、ガイドブックとかチラチラ見ちゃったりね!……あ、この部屋だ!」
私は切符に書かれた番号の個室を見つけてドアを開いた。
「ヴィオレッタ様!来ましたよ!」
声を掛けながら中に入ると、あまり広いとは言い難いコンパートメントの窓際でヴィオレッタ様は熟睡していた。
「……うわ。完全に寝てるね。……せめて列車が走り出すまで起きていれば良いのに、どんだけ眠れなかったんだよ。」
「ふふふ。でも、なんか可愛いですよ。……確かバッグにストールが入ってるんで掛けてあげようかな?」
私がそう言ってストールを取り出し、ヴィオレッタ様の肩に掛けようとした。不意にヴィオレッタ様がガクンと頭を揺らし、ハラリと髪が揺れる。
……え。
私はストールを持ったまま……固まってしまった。
なぜなら……ヴィオレッタ様は……。
死んでいたのだ!!!
!!!
……なーんて訳ではない。
先日、シーニー様がお勧めしてくれたミステリー小説ではそんな感じのシーンがあったが、ヴィオレッタ様は生きている。スウスウと寝息も聞こえてますしね。
ただ……。
髪の隙間から見えた白い首筋に、赤いアザが沢山付いているのを見つけてしまった……それだけだ。
「……寝不足の理由って……そっち。」
アーテル君もバッチリ見えたのだろう、苦々しげにそう言うと、私の代わりにストールをヴィオレッタ様にかけてくれた。
「……えーと……。なんか、ヴィオレッタ様は寝てるから良いけど、これから来るシーニー様と、顔が合わせづらいね……。」
「……ん。とんだエロ委員長だね。」
「エロ生徒会長でもあるよね?」
「うわ、本当だ!……シーニー、最低だな。……僕らもさ、うたた寝でもしてよっか???僕らの場合は『旅行が楽しみだー!』って言う健全な理由の寝不足だけど、やっぱり少し眠いし、なにより、エロシーニーと話さなくて済むだろ?」
私たちはそうして、少し笑ってから、席に座って目を閉じた。
◇
「……ジョーヌちゃん、もうすぐ着くよ。」
「え。」
アーテル君に優しく肩を揺らされて目を開ける。
……一瞬、ではないだろうか。
アーテル君とウトウトしていようか……って話をして、軽く目を閉じただけのはず。……うそ、寝てたの???
慌てて姿勢を正すと、ヴィオレッタ様はもう起きてお茶を飲んでおり、シーニー様も隣で涼しい顔で本を読んでいる。アーテル君は私が持っていたガイドブックを見ていたらしく、どうやら私だけが今しがたまで、爆睡していた様だ。
「えーと……???アーテル君は寝なかったの?」
「ん?ちょっとウトウトしたよ?……あ。ジョーヌちゃん、ハンカチ使う???」
……ハンカチ???
何となく受け取って、ボンヤリとアーテル君のハンカチを見つめる。シュバルツ家の紋章が刺繍された、お高そうなハンカチだ……。
「……アーテル、ジョーヌはまだ寝ぼけてるのよ。ハンカチの意味を分かってないわ。……ジョーヌ、口の端にヨダレの跡がついてるの。拭きなさい。」
「ひえっ!!!!」
慌ててハンカチで口の端を拭うと、アーテル君と目が合った。
「なんかね、間抜けで可愛い寝顔だったよ。」
……それ、褒めてるかな???
「ジョーヌさん、あと30分くらいで着く予定です。お茶でもいかがですか?目が覚めますよ。」
シーニー様はそう言うと、お茶を頼んでくれた。ヤンデレてなければ、気の利くナイスガイなんですよね……。
「ふぁあ……。列車で読もうと思ってたのに、ガイドブック読めなかったな。」
「僕、借りて見ちゃったよ。……ジョーヌちゃん、色々なお店に印が付いてるけど、コレ行ってみたいとこなの?」
「違うよ。それヒミツ君が付けたの。……この間の休みに泊まりに来てたじゃない?その時に、このお店のコレ買ってきて、アレ買って来てって……。」
今回はヒミツ君とグライス先生はお留守番なのだ。だから、余計にアレコレ騒いでいたんだと思う。猫って出かけようとすると、急に甘えてくるから……きっと、そんな感じ。
「これから向かう街は、この国が発祥したと言われる地であり、大聖堂やら昔の王宮跡に、古い城下町の残る、この国有数の観光地です。一方で、長く栄えている街でもあるので、魅力的な老舗が沢山あるんですよね。」
シーニー様はそう言って、アーテル君の持っているガイドブックを覗き込む。
「シーニーは、気になるお店とかあるの?」
アーテル君が興味深げに聞く。
「ええ。……あ、印がもう付いてますね。さすがアーテルの猫です。……実は、この老舗専門店でステッキを買いたいなって思っていました。ここのステッキは、デザインが洗練されているんですよ。父が愛用していて、憧れていたのです。」
「へえ、それは僕も気になるな。……ジョーヌちゃんは、気になるお店、あった?」
「私はね、この洋菓子屋さんのガレットが気になってるよ?……あと、こっちのカフェも素敵だなって……。あ、このお店の焼きプリンも美味しそうだなーって思ってる!」
そう言って、食べ物屋さんのページを開いて説明していると、ヴィオレッタ様が呆れた声を出した。
「ジョーヌ、貴女ってば食べ物ばかりじゃない!!!……この街はね、宝飾品の加工でも有名なの。……せっかく来たんだから、アーテルに高い宝石でも買わせないと!貴女、パーティーではいつも同じネックレスばかりじゃない?!たまに違うのを身につけていると思ったら、アーテルのお母様からの借り物だし……。」
「うん、そうだね。……せっかくだから一揃い買おうか?」
アーテル君が身を乗り出すように言うが、私は首を横に振る。
「え、いらないよ!……ギラギラネックレスはもはや私のトレードマークだから、あれでいーの。それに、アーテル君のお母様も快く貸して下さるし、特に必要ないよ。」
それにね、私は……アーテル君のお母様からアクセサリーを借りるのを気に入っているのだ。
それまで、アーテル君とお母様はあまり接点も無く疎遠だった。でも、私の為にアクセサリーを借りると言う口実が出来て、2人は以前より親しくしているらしい。『とても喜ばしい事です!』と、メイドさん達が言っていた。
アーテル君は何も言わないけれど、それでも借りる時は必ずお母様からだ。……だから、私はあのギラギラネックレスだけで充分なのだ。
「ジョーヌさんは無欲ですね。……私はヴィオレッタにきっと集られます……。」
シーニー様が渋い顔で言う。
「当たり前でしょ!ローザが帰ってきたら『シーニーから貰ったのよ?!素敵でしょ?』って自慢するんだから……!……って、最近、ローザから手紙が来ないのだけど?……ジョーヌはラランジャさんから手紙、来ている?」
「あ、いえ……。かなり減りましたよ。なんでもラランジャが選んだ薬師学部は学院に泊まり込みになるのもザラらしくて……。すっごく忙しいみたいです。」
そう、ラランジャからの手紙は短くなったし、減ってしまった。どうやら薬師学部はとても忙しいらしく、手紙を書く暇が無いらしい。
「あー……理系あるあるね?……ローザは文学部だったハズだけど?……まあ、それでも忙しいのかも知れないわね。こっちより進んだ国だし……。」
「ヴァイスやルージュからの連絡も少なくなりましたよ?……ルージュの騎士学部では野営なんかの実地があるらしいですし、政治経済学部のヴァイスは学ぶ事が多いと興奮気味でした。ご学友も意識の高い方が多いそうで、負けてられない!と手紙には書いてありましたし、忙しいのでしょう。」
……さすが、進んだ国なんだなぁ。
みんな国を背負って行っているし、頑張って学院での勉学について行こうと必死なのだろう。
……。
ん???
んーーーんん??。
……い、いいのかなぁ、うちの学園に留学中のチビッコ王子と、そのお取り巻き一行は……。魔術より、はるかに鉄道に邁進してる気がするけど???
蛮族の国なのに……落ちこぼれちゃうよね……???
そんな事を考えている間に、列車は駅のホームへ滑り込んで行った。
100話まで来ましたが、まだしばらく連載は続く予定です。長いお話になってきていますが、良かったらこれからもお付き合い下さい。よろしくお願いします!




