かき氷は毒の味
僕は彼女のことについて殆ど何も知りませんでした。だから、彼女の好きな食べ物なんかもわかりません。ただ一つ知っているのは、彼女は夏の間、毎日かき氷を食べるということだけでした。
「夏しかできないことをしなきゃね」
そう言って笑う彼女は、太陽のように輝いていました。僕は三日に一日、彼女と一緒にかき氷を食べました。そして三日に二日、彼女がかき氷を食べるのを見守りました。つまりはまあ、夏の間、彼女と毎日一緒にいたのです。夏休み、文化祭の準備やら部活やらで毎日学校にいて、タイミング良く一緒に帰っていただけですけどね。
駅前のかき氷屋さんの前のベンチで、たくさん話をしました。
「夏しかできないから、こうして毎日かき氷を食べているの?」
「そう。君も毎日食べればいいのに」
「僕はお腹が弱いから。それに、人工的なシロップの味があんまり好きじゃない」
ただただ甘くて、つくりものの味。まるで毒を食らっているようです。
「意外とはまっちゃうかもよ?」
彼女はにやりと笑いました。その綺麗さに、僕は胸が苦しくなりました。
僕は彼女に毒されていました。
彼女の手は、握れませんでした。
夏休み、毎日かき氷屋さんに行ってずっと話していたにもかかわらず、僕たちは二学期が始まってすぐに別れました。
「夏休みはすごく楽しかったんだけど、…これから先も続けていっちゃだめな気がするの」
僕は何がだめなのか全くわかりませんでした。あとから聞くと、彼女は別に僕のことを何とも思っていなくて、単に彼氏が欲しかっただけだったようです。「夏休みに非リアはさみしいから」と言っていたらしい、とも噂が立っています。なるほど、手を握れなかった理由が少しわかりました。
けどもう、そんなことはどうでもいいのです。
かき氷を見るたびに、思い出します。
ただただ甘くて、つくりものの笑顔。まるで毒のような彼女のことを。
そして、僕は未だに毒に苦しめられているのです。