山の中の一夜
結衣は意を決すると警察に通報する
「あの!すみません!山の中に子供が2人、迷子になって小屋で雨宿りしてるんです!」
「はぁ…山で雨宿り、どこの山です?」
「今豪雨の中心に近い大滝山です!」
「な…!?大体の位置はわかりますか?」
「すみません…電話で聞く限り目印になりそうな物が無くて…」
「了解しました、夜が明けたら直ぐに出れるよう、捜索隊を出しましょう」
「ありがとうございます!」
「いえ…ですが…時間が経つにつれて生存率は低くなってしまいます…特に濡れた状況だと…」
「あ、それは先に電話で言って体を拭かせましたので」
「そうなんですね、ならば少しは安心ですか…では、失礼します」
プツン
電話が切れる
不安は尽きないがまずは一安心したい所だ
車の進行方向を転換し自宅へと戻る
ーーー
「ただ今…」
「お帰りー…ってあれ…?樹は…?」
いいえ…
とでも言うように苦渋の顔をしながら首を横に振る
その様子を見た夏芽は何かを察したようだ
「…そっか…でも大丈夫、きっと無事だよ」
「そうね…えぇ、そう信じるほかないものね」
強い雨が屋根や窓を打つ
大きな音を立て、それらにぶつかる雨は自然と空気を重くして行く
心配で心配で心配でも
どれだけ心配でも
祈ることしかできない無力感
圧倒的な無力感が結衣を襲う
大切な息子を…
血が繋がってないとはいえたった1人の息子を…
失ってしまうかもしれない
そう考えただけで恐ろしさから身震いが止まらない
ーーー
その夜、珍しく夏芽が一緒に寝ようと言ってきた、
まぁこんな状況だ、無理もない
「お邪魔しま…す」
「いらっしゃい〜…でも珍しいわね、夏芽ちゃんから一緒に寝ようだなんて」
「ちょっと…最悪のことを考えると…一人じゃ眠れなくて」
…
……
………
沈黙が広がる
最悪の場合、それは看護師故に結衣も十二分に理解している
「……大丈夫、きっと無事よ…あ、そうだ」
「…?」
「樹の中学校時代のお話をしよっか」
いきなりすぎる提案に思考が付いていけない
だが1分ほどかけて無理やり理解する
「…はい」
「樹はね…中学校3年からの付き合いだけど、私が初めて会った時、顔にあざを作ってた、それも大きな」
「え…?」
「他の親戚の人から聞くに相当な腕白坊主だったから…逆はあってもいじめられることは無いと思ってたからびっくり」
「まぁ…ですね」
ふふ
っと軽く微笑むと話を続ける
「それでね、私なんで、って聞いたのよ、なんて答えたと思う?」
「…わからないです」
「彼奴らに仕返ししたら母さんと父さんが悲しむ、なんて」
「それって…」
「中学生が言うには幼いセリフかもしれないけど…それで私はわかったんだ」
「…?」
「樹が優しくて、強い男の子だって」
「なるほど」
「それからも樹は優しい子だって確信させられることばっかりでね」
「…」
「いつも道路の側歩く時、間違っても私たちが事故に巻き込まれないように必ず連絡側を歩いてくれるんだよ」
小さなことかもしれない、でもそれができる人間がどれだけ少ないか
「私も…なんやかんだ言って困ったときには樹を頼ってばっかりで…」
うんうん、とでも言うように結衣が相槌を打つ
「樹はね…今の時代少ない本当に良い子、あの子の今までの行いが樹を助ける、そう思いたいわね」
「…ですね」
「夏芽ちゃん…」
「はい?」
「……まだ、あの事を樹に言うつもりないの?」
再び沈黙が広がる
夏芽が口を開いたのは数分後だ
「…まだ…言えない…言いたくない、です、言ったら…樹は優しいからきっとすごい心配しちゃう」
そう…
結衣は続ける
「でもね、いつかは必ず言わなくちゃいけない事なの、タイミングを探すのはあなたよ」
「…はい」
夜の暗闇が広がる
サァー、サァー、と屋根に雨が打ち付ける音が連鎖する
ーーー
「うわ…しっかしいつ止むんだこの雨…」
一方樹は声を殺しながら会話をしていた
「うぇ……パパ…ママぁ……」
「だ、大丈夫だって!うちの母…結衣さんが警察呼んでくれたから、明日には助けが来るよ」
「ほん…とう?」
「あぁ、嘘はついてないぜ、だから今はここで休もう、ほら、俺の上着貸すから寝な」
「お兄ちゃんは…?」
「俺は大丈夫だ、それより、あんまり夜更かしすると怖い幽霊でるぞ」
「ひゃ…それは…いや、おやすみ!」
「おう、おやすみー」
小さい寝息を立てる少年
不安を隠していた樹の緊張が解ける
はぁ…ここ幽霊はいないけど熊とかいるんだろ…こんな小屋で大丈夫かよ…
警察早く来ないかなー
サァーサァーと雨が降る森、雨の勢いは収まる所を知らず勢いはますばかりだ
この季節になると毎年偏頭痛に襲われて寝込んでおります、
数日ぶりの投稿となります、やはりどれだけ気を付けていても偏頭痛には勝てませんね
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