3章 3 魔法大国ブルデン王国
「これからどうする訳?」
よるも更けてきた事なので結局一晩洞窟の前で過ごす事になった。近くでは男を失った2人が気絶して転がっている。さてどうしてくれようか
「あの2人の事じゃなくて・・・お尋ね者なんでしょ?」
そうだった・・・多分・・・いや、間違いなくジョブとチラスは俺の事を告げ口するだろう・・・そうなると俺は町に居られない・・・まあ、そんな長居するつもりはなかったからいいけど・・・
「疑いを晴らしたいけど・・・今はとりあえずブルデン王国に行こうと思ってる」
「えっ・・・なんで?」
あからさまに嫌そうだ・・・ちょっとショック
「魔法について知りたい事がある。それとこれはシュラ・・・シューリー国の王様に言われたんだが魔法に詳しい奴を国に連れて来いと・・・」
「シューリー国に?まだ言ってる訳?」
「本当だって・・・まあしばらくすれば分かると思うけど・・・とにかく魔法の事ならブルデン王国が1番なんだろ?」
「そうだけど・・・」
「嫌そうだな?」
「嫌って訳じゃ・・・貴方不思議な力を使ってたよね?気功・・・だっけ?文献ではシューリー国が独自に開発した闘法・・・それについては誰も興味無いわ・・・でも神聖魔法・・・その魔法を使えると分かれば・・・」
「分かれば?」
「勧誘が殺到する訳」
「・・・それだけ?」
「それだけって・・・組合の勧誘舐めるんじゃないわよ!今思い出しても鳥肌が・・・あの阿鼻叫喚の地獄絵図・・・毎年何名かの行方不明者を出すと言われている・・・」
大学のサークル勧誘か!どんだけ人手不足なんだよ・・・
「いい?神聖魔法使いはただでさえ希少なの・・・後天的にはまず覚えられないと思った方がいいわ」
「後天的って?」
「・・・ハア・・・最初に覚える魔法が先天的・・・2つ目以降が後天的・・・そんなの常識でしょ?」
魔法自体が非常識な世界からやって参りました
「ブルデン王国では神聖魔法を覚えてしまったら絶望する人が多いわ・・・自殺者まで出る始末・・・何せ研究の幅が一気に狭まるのだもの・・・それも仕方ないわよね」
恐るべし研究者魂・・・いや、狂ってる・・・
「・・・もしかして魔法とは?って聞かれて答えられない訳・・・ないわよね?」
「・・・それくらい知ってらぁ」
「良かった・・・話の腰を折られるの好きじゃないのよ・・・続きね・・・」
それからランラは神聖魔法使いがなぜ物凄い勧誘に合うか教えてくれた
そもそも希少な神聖魔法使い・・・引く手数多なのは当然なのだが、それ以外にと理由がある。それが他国からの勧誘だ。魔法使いが多いブルデン王国でも希少だと他の国はもっと少なくどうにか魔法使いを確保したい・・・そこでブルデン王国に誕生した神聖魔法使いを多額の報酬でスカウトしに来るのだ。各町1人は神聖魔法使いを確保したい国々・・・神聖魔法使いの流出を避けたいブルデン王国・・・国内外の対立が激化したのは最近の話ではないらしい・・・
「そんな取り合いされる立場なのになんで自殺する奴がいるんだ?」
「・・・魔法の発現はいつ起こるか分からない・・・研究に研究を重ね、魔法が発現したらやりたい事がいっぱい胸いっぱいの中、あなたは神聖魔法しか使えませんどうして言われても見なさい・・・死ねるわ」
死ねないだろ・・・研究者の気持ちは一生理解出来そうにないわ・・・
「で?神聖魔法使いを確保したいが為にみんな躍起になってると?」
「それもあるわ・・・でも、最大の理由は他にある・・・」
「他?」
「ええ・・・神聖魔法にはロマンが詰まっているの・・・神聖魔法使いの中で唯1人しか習得出来なかった・・・死者の復活」
「・・・唯1人・・・レーネ・・・」
勇者アイオンを生き返らせたと言う聖女レーネ・・・本当かどうか真相は分からないが・・・
「そう・・・どういった魔法なのか・・・老衰で死んだ者も?死んでからいつまで?五体満足でなければダメ?疑問は尽きる事がないのに試せない・・・こんな苦痛はない訳」
「そ、そうか・・・じゃあ研究する為に神聖魔法使いが必要って事か・・・」
「そうよ。もし死者の復活魔法が解明出来たら・・・歴史が変わるわ」
でしょうね・・・俺も・・・胸が熱くなる・・・
「それなら尚更自殺者の意味が分からない・・・それだけロマン溢れる研究が自分で出来るのに・・・」
「脳みそ膿んでるの?確かに研究は出来るわ・・・でも周りからして見れば研究者じゃなくてただの研究対象よ・・・私達は産まれてから散々神聖魔法使いの末路を見てきたわ・・・好きな研究も出来ず、ただ毎日神聖魔法・・・回復魔法を使ってるのに感謝などされない・・・ただ自分を傷付けたりわざと傷付いた人を治す日々・・・みんな魔法が発現した時に思う訳・・・ああ、神聖魔法じゃなくて良かった・・・って」
酷い・・・あんまりだ・・・
「そんな環境だから次々に神聖魔法使いは流出してしまい・・・今では極小数の神聖魔法使いしかブルデン王国に居ないわ。その状況で貴方が神聖魔法使いとバレてみなさい・・・最悪生涯モルモット生活よ?」
嫌過ぎる・・・想像してた魔法大国と違う・・・
「まあ、勧誘されない手段がない事もないけどね・・・」
「それは?」
「さっさと組合に入る事・・・不文律として他の組合員は勧誘してはいけない訳・・・だからさっさと組合に入ってしまえば勧誘地獄は抜け出せるわ」
「それって自らモルモットになれって事じゃ・・・」
「そうでもないわ。組合にはそれぞれ目指すものがある・・・大雑把に分類すると一番多い魔法を極めんとする組合、次に精霊に関する組合に最後に私の所属する魔物の生態に関する組合の三つよ」
「一番目と三番目は何となく分かるけど・・・二番目の精霊に関するって・・・何すんの?」
「精霊との交信よ。正確には交信しようとしているだけどね」
「出来てない?」
「出来てる人もいるけどほんのひと握りね。研究のテーマ自体が『精霊と交信するには』な訳・・・誰でも交信出来るようになればそれこそ世界がひっくり返るわ」
何回世界をひっくり返す気だ・・・でもなんか俺が一時期目指していた『誰でも魔法使いになれるように』ってのと似てるな・・・交信か・・・どっかで聞いた事あるような・・・
「『魔導』『精霊』『魔物』の略称で呼ばれてるのだけれど・・・実験台になりたくなければ『魔物』一択ね」
「もしかして・・・勧誘してんのか?」
「正解。正直貴方の強さは『魔物』にとってかなり魅力的な訳。って言うのも魔物の調査にいちいち冒険者を募集していたらかなりの時間のロス・・・加えて今回みたいに襲われる可能性もあるわ・・・貴方が組合に入ってくれればその心配はない訳でしょ?」
確かに野良でパーティを組もうとすれば危険は伴う。襲うのは論外だが実力も分からない相手と組むのはリスクが高い・・・そう言った意味ではジョブとチラスは最悪なパーティメンバーだった訳・・・あっ、口癖移った
とにかく初めっから俺を『魔物』の組合に誘うつもりでデタラメを教えていた可能性もある・・・神聖魔法は希少と言うのは聞いていたが、そんな勧誘地獄なんて起き得るのだろうか・・・と言うかどっちかって言うと勧誘されたい!必要とされたい!
「・・・考えさせてくれ」
「そうか・・・地獄に落ちろ・・・」
これでもかってくらいにキメた顔で言ってやったぜ・・・ちょい渋だぜ・・・え?今なんて言った?
「まあ道案内ならしてあげるわ・・・どうせその口ぶりだとブルデン王国には行ったことないんでしょ?」
「え?いらない」
「任せておきなさ・・・は?今いらないって言った?」
「ああ。必要ない」
気ままな一人旅を邪魔されたくないし、飛んで行けばすぐだろうし・・・
「貴方ねえ・・・人が親切で言ってあげてるのに断る訳?」
「厚意は有難く受け取っておくけど・・・必要性が全くと言っていいほど感じなくて・・・」
「・・・これだけ丁寧に教えてあげたのに?・・・」
「俺から聞いた訳じゃ・・・」
あれ?ヤバい?・・・なんか俯いてプルプルし始めたぞ?
「・・・だから嫌なのよ・・・野蛮人は・・・いや彼の場合は半野蛮人?・・・どっちも変わらないわね・・・魔力さえ残ってればこんな奴・・・あー研究したい・・・アシッドスライムの体内に捕らわれたなんて貴重な体験・・・今なら論文が書けそうだわ・・・溶かされる速度・・・痛み・・・中から見た視点なんてそうそう経験出来ない・・・そもそもレアな魔物だから研究の対象にはなりにくい・・・他の研究員を出し抜けるチャンスだったのに・・・クソボケが余計な事しやがって・・・あと数分もすれば服は全て溶けたかしら・・・となると次は肌?毛?・・・その考察だけでも飯3杯はいける・・・そもそもジャイアントクロコダイルも本当は徐々に削りたかったのに・・・タンクのボケが逃げ腐りやがって・・・何が君は俺が守るだボケェ・・・」
何この人・・・怖い・・・
「あ、あのー・・・」
「なに?」
「いや・・・前から疑問に思ってた事があるんだけど・・・」
「だから、なに?」
顔を上げて俺を睨みつける表情は今までに比べて冷たい・・・いや、勧誘を完全に断った訳ではないのだが・・・
「少し聞こえてきた『魔力さえ残ってれば』って所・・・実際魔力ってどうやって回復してんの?」
俺の質問を聞いた途端ランラは目を見開き驚くとその後少しの間を置いて思案顔・・・そしてニヤリと笑うと何故か手を差し伸べてきた
「組合に入れとまで言わないわ・・・教える代わりにブルデン王国まで同行しなさい・・・約束すれば教えてあげる」
「いや、じゃあ自分で調べるわ」
「ちょっと貴方ねえ!質問しといてそれはないんじゃない!?研究者に疑問を投げかけて自分で解決しますなんて・・・吐いた唾飲み込むのと一緒よ!?」
「・・・なんでそんなに同行したいんだ?」
「こちとら命懸けでブルデン王国から出て来てるのよ!少し楽して帰ろうとしてもバチは当たらないでしょ!?貴方はいたいけな少女を放置して恥ずかしくない訳!?」
行きは良い良い帰りは怖い・・・まあ、目的がない旅は苦痛に感じる人もいるけど・・・激しいな、おい。関係ないと突っぱねるのも・・・可哀想か・・・
「分かった分かった・・・じゃあ、魔力について教えてくれる代わりに護衛でもなんでもやってやるよ」
「・・・初めっからそう言えばいいのよ・・・さっさと紙とペンを出して」
「え?ないよそんなの・・・」
「はあ?貴方のちっこい脳みそに刻むって言う訳?・・・ハア・・・2度は言わないからしっかり刻みなさい・・・」
えらい言われようだな・・・心底野蛮人を馬鹿にしてんだろうな・・・俺は半だけど・・・
それからランラによる魔力の講義が始まった
魔力の回復は大方の予想通りだった。大気中に含まれるマナというエネルギーを吸収して魔力を回復する。それ以外には魔力を回復する薬・・・要はマナを貯めたものを飲めば回復するらしいが、マナを貯められる瓶は非常に高価で一般人はなかなか持つ事が出来ないらしい。つまり現状は自然回復が一般的な手段らしい
それに加えて前から知りたかった事も話してくれた
体内に蓄積できる魔力量を増やすには?
これはホーリーヒールが2回しか放てないので是非とも知りたい情報だった。魔力量を増やせればホーリーヒールを2回以上打てるようになる
「結論から言うわ・・・魔力量は増えない」
ガーン・・・何となくそんな気はしていたけどやっぱり・・・増えるならとっくにその方法が広まってもおかしくないと思ってたんだよなぁ
「でも・・・同じ魔力量でも魔法の使える回数を上げる方法はあるわ」
「えっ・・・どうやって!?」
「食い付き凄いわね・・・上手くすれば無限に魔法が使える方法・・・知りたい?」
「知りたい知りたい!」
ホーリーヒール打ち放題・・・そんな事が出来れば無敵じゃないか!
「精霊王になる・・・それだけな訳」
「精霊王?」
「そう・・・この世に存在する精霊・・・その精霊と契約して精霊の力を借りて魔法を放つ・・・ほぼ無限に魔法を使える者・・・それが精霊王な訳──────」




