2章 42 参戦
「育て方も鍛え方も間違えたとは・・・いやはや自信をなくすのう」
「くっ・・・ハア・・・ハア・・・」
そこそこやれる自信があったコクウだったが実際に戦ってみて父の偉大さが図らずとも確認出来た
道場をコクウに任せて四星拳ゲンブとなった父・・・憧れの存在は記憶にある強さよりも遥かに強くなっていた
「さて・・・もうお前も十分大きくなった。これから修正するには遅かろう・・・剪定するとするか」
「せんてい?」
「ワシという大木に生えた要らぬ枝を切り落とそうと言うのだ。ワシの息子と名乗られるだけでワシの格が下がるからのう」
「俺を・・・切ってでも叶えたい事とは?ただ暴れたいだけなどと年甲斐もない事を言うつもりはないでしょう?」
「ワシの望みはただひとつ・・・ダルスとの再戦よ」
「ダルスさんとの?」
「もう随分と前になる・・・お前も知っておろう・・・ワシとダルスが最後に戦った時の事を・・・」
数十年前、武者修行の旅をしていると言うダルスが客分として鋼拳道場に招かれており、年が近いコシンと共に切磋琢磨していた
コシンはすぐに門下生達と当時の師範であるコシンの父親コザンと打ち解けてしまったダルスを面白く思っていなかった。更には気難しく誰とも接する事を嫌う妹までとも仲良くなっていたことがダルス嫌いに拍車をかける
競い合うように修行し、初めはいがみ合っていた2人だが、いつしか友情が芽生え認め合うようになる
そんな中でダルスはシューリー国を出てメイザーニクス共和国に戻ると言い始めていた。それも妹を連れて・・・
コシンは反対するがコザンは止めなかった。結局父の意向に逆らえず旅立ちを認める事になる
だが、旅立ちの当日・・・コシンは最後の勝負を申し込む
コシンが勝てば道場に残り共に鋼拳を盛り立てろ、と
ダルスはその勝負を受け、2人の最後の勝負が始まった
・・・結果はダルスの圧勝
コシンはダルスに鋼拳の名を授け再戦を誓い合った・・・
「・・・今の鋼拳はまがい物・・・ダルスを倒してこそ真の鋼拳となる。名を取り戻す為ならワシは・・・悪魔にさえ魂を売るだろう」
「・・・父上・・・」
「いつまで経っても来ないダルス・・・ならばこちらから出向くしかなかろう?ただ行くのではない・・・戦わざるを得ない状況を作り行くのだ」
「それが・・・螺拳に加担する理由であると?」
「・・・国王様はお若いがしっかりとしたお方だ。そんじょそこらの甘言では動かぬだろう・・・ならば動く王にすげ替える他あるまい・・・」
「そんな事で・・・国を裏切ったか!!」
「そんな事となんだ!ワシにとって鋼拳が全て!!その鋼拳を取り戻す事がそんな事と言いよるか!!」
「戦争が起きれば沢山の人が死ぬ・・・兵士も・・・民間人も・・・」
「それこそそんな事よ・・・コクウ」
コクウはコシンの言葉に奥歯を鳴らす
「っ・・・止める・・・止めてみせる!」
「止まらぬよ・・・止まらぬのだよコクウ!!」
同時に踏み出し申し合わせたように拳を放つ
鋼拳は気功を一点に集めて威力を高める拳法。身体全身に満遍なく気功を纏う仁王拳とは対となる
集めた気功は拳より溢れ出て巨大な拳を作り出すがその大きさは単純に気功の量による。そして破壊力も・・・。コクウが出した気功の拳は人の上半身くらいの大きさ。その大きさは歴代鋼拳の中でも大きいと言われていた。しかし、そのコクウの拳をも遥かに凌駕する大きさをコシンは放った
老いてなお成長し続けるコシン
筋力では圧倒的にコクウが上・・・それでもそれを補って余りまるほどコシンの気功は巨大だった
コクウは吹き飛ばされ地面に身体を打ち付ける。地面に這いつくばり立ち上がろうとするコクウが目にしたのはその場から一歩も動かずにいるコシンの姿だった
その場から動かす事も出来ない自分の不甲斐なさに地面に拳を打ち付けるとコクウはフラフラになりながらも立ち上がる
「ホッ・・・一丁前に気勢を上げおって・・・それでもワシには到底及ばないがな」
「うるさい!行くぞ!コシン!!」
「親を呼び捨てにするなと・・・言っておろうが!!」
満身創痍のコクウが放つ渾身の一撃。様々な感情・・・気持ちを乗せた一撃は先程の一撃より巨大なものとなる。しかし、それでもコシンの気功には及ばずコクウは押し負けて宙に放り出された
「次に生まれてくる時はもう少しまともに育つのだな・・・!!?」
宙に舞うコクウに狙いを定めて拳に気功を練るコシン。いざ飛び掛かろうとした瞬間、視線の端にある人物を捉える
練っていた気功を解き、ゆっくりと顔を動かすと見間違えかどうか確かめる為に目を何度か擦る
「久しぶりにカミさんを故郷に連れて来たら・・・何盛大な親子喧嘩してんだ?コシン」
「・・・ダルス・・・なぜここに・・・」
長年思い描いた再会が期せずして実現し動揺するコシン。まだ夢ではないかと疑いながらもゆっくりとダルスへと近付いて行く
「老いたなコシン・・・まっ、俺もか!なんでって言ったろ?カミさんを・・・エリゼに故郷の空気を吸わせてやりたかったんだよ。随分と待たせちまったがな」
「エリゼも・・・帰って来てるのか?」
「ああ。見覚えあるだろ?この綺麗な栗色の髪の毛・・・こっちじゃ髪を切るのは縁起が悪いんだろ?髪を切るが神を斬るだとか・・・」
「・・・死んだ・・・のか?・・・」
「・・・お前に嘘をついても仕方ないか・・・エリゼは死んじまった・・・子と引き換えにな」
「そうか・・・エリゼが・・・」
「悪ぃな・・・妹を守れなくって・・・」
妹の死を聞いてなお表情を変えないコシン。真っ直ぐ見つめ今にも飛び掛って来そうな雰囲気を持ってダルスの前に立つがダルスはコシンではなく倒れているコクウに視線を向けた
「うっ・・・ダルス・・・さん・・・」
コシンに吹き飛ばされた後、少しの間気を失っていたコクウが顔を上げる。会いたかったダルス・・・色々と話したい事はあるが、その前にやらなければならない事がある
「成長したな!コクウ!ひと目で分からなかったぞ!で?道場を空っぽにしてここで何やってんだ?」
「ダルスさん・・・父を・・・父上を・・・止めてください・・・」
「ああ?止める?」
「父上は・・・ダルスさんと戦う為に・・・メイザーニクスに・・・」
「メイザーニクスに?」
「戦争を・・・仕掛けようとしています!」
「ほう・・・そいつはまた・・・くだらないな」
コクウの必死の訴えを聞き、ダルスは眉を上げて視線をコシンに移す
「・・・くだらないじゃと?」
「俺と戦う為に戦争を起こそうとしてるのだろう?くだらないの言葉以外浮かばないな」
「・・・幾年も・・・鋼拳の名を取り戻そうと必死に鍛えた。お主が来るのを待って・・・それを・・・」
「ああ、くだらねえな」
「ダルス!!」
「戦いてえならてめえの身ひとつで来い!巻き込もうとしてんじゃねえ!」
「お主の本気を出させる為なら何だってしてやるぞ!何ならエリゼの死と引き換えに生まれたお主の子をこの手で殺してやろうか?」
「コシン!!」
ダルスが足を踏み出すとコシンは待ってましたと言わんばかりにダルスに合わせて拳を放つ
コクウに向けて放ったよりも巨大な気功を纏った拳・・・それなりに巨躯なダルスをも越える大きさに対してダルスは自らの拳を包む程度の気功で対抗する
「フン!」
ダルスが拳を横に払うとコシンの気功は呆気なく消え去った
「なっ!!」
「なんだこの気の抜けた拳は!」
「気の抜けただと!?あれだけの気功を一瞬で消し去るお主が異常なんじゃ!常人なら・・・」
「うるせえ!!グダグダ言ってねえでかかって来い!」
「お主が・・・くっ、後悔しても知らぬぞ!」
コシンは気功を練り、再びダルスへと踏み込むが気付いた時には顔の近くにダルスの拳があった。てっきりかかって来いと言うからダルスは受けに回るものだと勝手に勘違いしていた。そして思い出す・・・この男はそういう男だと・・・
「おぬっ!!!」
自由奔放・・・縦横無尽・・・鋼拳の次期当主として当たり前のように過ごしてきたコシンには直視出来ないほど眩しく見えた。周りはそんなダルスに惹かれていく・・・もちろんコシン自身も・・・
妹であるエリゼを連れて旅立つと聞いた時、最初に脳裏に浮かんだのは祝福の言葉ではなく『なぜ自分ではないのか』という叫び
意識を失いながらコシンはようやく理解した。名を授け取り返すというのはただの口実・・・本当の所はもっとダルスと共に居て、共に学び、共に遊び、共に──────
「す、凄い・・・これが鋼拳のダルス・・・」
全く歯が立たなかった父コシンをあっさりと倒すダルスを見てただただ感動するコクウ。そのコクウと同じように勝負を見ていたユンがダルスに近付き頭を下げた
「御助力感謝致します・・・鋼拳のダルス殿。私は指拳のユンと申します」
「御助力?俺はただ馴染みに会いに来ただけだ。まっ、何か約束してたみたいだからついでに果たしたまで・・・感謝する必要はねえよ」
「・・・それでしたら改めてお願い致します・・・螺拳派の暴動を止める為に御助力頂けないでしょうか?」
「断る!内紛に関わるなんて真っ平御免だ。国の揉め事は国で解決しろ」
「・・・螺拳のラモンはあまりに強力・・・恥ずかしながら他の力を頼ざるを得ない状況でして・・・」
「なら諦めろ。そうやって国ってのは変わっていくんだろ?受け入れな」
「ユン殿・・・ダルスさんの言う通りだ・・・俺らの力だけで何としても・・・」
ダルスの言葉にコクウも賛同する。だがラモンを知るユンはこのままでは負けてしまう可能性が高いとある賭けに出た
「・・・この件にアタルが関わっていたとしても?」
ユンが出た賭け・・・それはアタルがダルスの一番弟子でありダルスと良好な関係であるということ。アタルの事は信じているがダルスとの関係は一番弟子以外聞いていない。もし喧嘩別れだったとしたらやぶ蛇になりかねない賭け・・・
「ユン殿!それは・・・」
アタルがダルスの一番弟子であるはずがないと思っているコクウがユンを諌めようとした時、ダルスがユンを覗き込みユンの総毛を立たせる
「今・・・なんつった?」
「ユン!」
ラモンという圧倒的な存在と対峙した事のあるユンでさえダルスのプレッシャーで気を失いかける。それ程までに強力な圧力にヤクモがユンを庇おうとユンの前に出るもユンはそのヤクモを押し退け更に前に出た
「・・・私達はアタルに言われてこの北門に来ました。どう関わっているかまでは分かりませんが、関わっているのは事実・・・そしてアタルの性格なら一度関われば必ずラモンと戦う事になるでしょう・・・例え敵わないと分かっていても・・・それを私達は知っている・・・」
出会ったばかりのユンやヤクモの為に王に直談判しに行く男・・・その男が敵わない相手に尻尾を巻いて逃げるとは思えない。アタルが関わっていると知った時から感じていた言い知れぬ不安がダルスのプレッシャーを跳ね除けるほどユンを前に進ませる。アタルへの恩に報いる為に
「そんな戯言をダルスさんに吹き込んで何の意味が・・・」
「コクウ・・・てめえは黙ってろ。ユンとか言ったな・・・それは本当か?」
「え、ええ・・・彼はこの戦いに・・・」
「そこじゃねえ・・・アイツは俺の一番弟子と名乗ったかどうかだ」
「・・・はい」
ユンはゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりと頷いた。一瞬アタルが嘘をついていたら・・・そう考えてしまうもすぐにその考えを振り払う
「ガーハッハッハッ!そうか・・・アタルが・・・そうか」
突然ユンへのプレッシャーを解き大声で笑い出すダルス。その変化についていけずにポカーンとする3人に気付きダルスは笑うのをやめた
「悪い悪い・・・で?そのラモンって野郎とアタルが戦うのか?」
「い、いえ・・・そういう訳では・・・でももしかしたら・・・」
「ふむ・・・いいだろう。他所様の事情に首を突っ込むつもりはなかったがアタルが関わっているとなると話は別だ・・・少しだけ混ざってやろう」
「ほ、本当ですか!」
「ただし・・・アタルが関わっている部分だけだ。それ以外は自分らで解決しろ」
「は、はい!それはもちろん!」
完全な協力を取り付けた訳では無いがラモンに対する微かな光明が見えた気がしてユンはホッと胸を撫で下ろす
腑に落ちないのはコクウだ。ダルスの一番弟子・・・その触れ込みで訪ねてみたがニコクに一撃でのされ、コクウにも・・・とても一番弟子と名乗るに値しないと思えた
「ダルスさん・・・奴・・・彼は本当に・・・」
「おう!アタルは俺の一番弟子だ!そして俺の・・・息子だ──────」




