2章 39 再び南門
南門
スザク達を行かせて残ったラカンとスザク専属部隊の半数の精鋭達
数でこそ崩月派に分があったが残ったスザク専属部隊の強さは崩月派の者達より上であり均衡が保たれていた
「スザクを行かせてしまった時点で作戦は失敗・・・まあ、螺拳の所から裏切りが出たんだ・・・文句は言わせないけどね」
ホムラが再び前に出るとスザク隊に緊張が走る
気功を使える者とそうでないもの・・・いくら修練を積もうが実力は雲泥の差がついてしまう。それほど気功のもたらす恩恵は計り知れないものがあった
崩月拳当主ホムラは気功が使えるだろう・・・そんな雰囲気を感じ取ったスザク隊の者達が物怖じしている中、一人の隊員が勇気を振り絞りホムラの前に出た
「国王様に楯突く愚行!死をもって償え!」
「偉そうに・・・償うべきは国王の方でしょう?国を衰退させている張本人なのだから」
「なに?どういう事だ!」
「そういう所だ・・・平和ボケ・・・いくつかの流派が攻めてきただけでこの体たらく・・・所詮は他国と競うことも戦う事もせず放棄した国だ・・・そんな国に未来があるとでも?」
「国王様にはお考えがあっての事!貴様らに否定する権利なぞない!」
「はん!じゃあそのお考えってのを聞いてみたいもんだね!他国と唯一渡り合える武術ですらこのザマでこの国に何が出来る?共存共栄は利のあるものとするものぞ!ならば武威を示せ!この国に利があるとすればそれは武力!それのみよ!」
「・・・そんな事を言って・・・ただ暴れたいだけであろう!」
「あっ、バレてる?そうなのよね~・・・一撃必殺がモットーの崩月拳・・・殺しはご法度の御前試合じゃ発散出来ないし、国も他国に攻める気ないしで流派は廃れていく一方・・・もう限界」
「一撃必殺?笑わせるな!そんなものが存在する訳が・・・」
「言うと思った・・・見せてあげるよ、我が崩月拳の真髄を!」
「なっ!?」
ゆったりとそれでいて流れるような動き
ホムラはいつの間にか拳を握り隊員の腹にそっと添える
「崩月」
おおよそ殴った時の音とは思えない破裂音
ホムラは拳を引くと、まるで遠くを見るように拳があった場所を覗き込む
「うん、ラモン殿に勝るとも劣らない・・・良い満月だ」
「ハ・・・ハギト!!」
名を叫ばれたハギト。果敢にもホムラと対峙した彼は名を呼ばれて我に返るとホムラの拳があった場所を覗き込む
「な、なんだこれ・・・」
そこにあるのはぽっかりと空いた穴
本来あるはずの腹はなく、反対側の地面が見えて混乱する・・・何が起きているのか、と
「ああ、動くな!せっかく綺麗に現れたのだ・・・崩れゆく姿も美しくあれ」
「な、何を・・・ごぷっ」
口から溢れ出る血・・・そしてぼっかりと空いた穴からも血や内臓が溢れ出る
「はぁ・・・いつ見ても美しい・・・儚く・・・切ない・・・。技を修得したからと言ってそう見れるものでは無い・・・が、此度の戦いに勝利すれば何度も・・・何度でも見る事が叶う・・・」
指先で唇をなぞると妖艶に微笑むホムラ
ハギトが絶命し倒れると視線は他のスザク隊に向けられた
「くっ!・・・ハギト!・・・おのれ・・・」
一瞬ホムラに気後れし引きかけるもハギトの亡骸が目に映りホムラを睨み返す・・・が、その視線をある男の背中が遮った
「・・・ふーん、やっぱり出て来るんだ・・・裏切り者め」
しばらくスザク隊と崩月派の戦いを傍観していたラカンが動いた。スザク隊が止める間もなくラカンは距離を詰めるとホムラを見下ろす
「今の一撃が必殺?そう思うなら俺に放ってみせてみろ」
「は?・・・本気で言ってるのか?今の見てな・・・」
「御託はいいから拳で語れ。それとも話し合いに来たのか?」
「このっ!・・・自分の腹見て後悔すんなよ!!・・・崩月!」
ハギトにやった時のようにラカンの腹に拳を添えて一気に気功を放つホムラ
誰もがハギトと同じようにと目を背けるが、先程した破裂音は一向に響かなかった
「き、貴様ぁ・・・」
「拳を添えて穿つ事に特化した気功を放つか・・・確かに強力だが威空拳のように飛ばす事は出来ないようだな」
ホムラの拳とラカンには隙間があった
ホムラが崩月を放つ瞬間、ラカンは少しだけ後ろに下がり隙間を作り出していた。ホムラにとって放つ瞬間に動かれる事は百も承知・・・そうさせない為にホムラは全神経を集中させ動く相手に合わせるのだが、その反応速度をラカンは見事に上回る
「寸での所で逃げおって!」
「逃げる?放ってみろとは言ったが受けるとは言ってない。避けられたお前が間抜けなのだろう?」
「おのれぇ!!」
ホムラが叫び動き出すより先んじてラカンが拳を突き出し寸止めされた拳の風圧でホムラの髪が揺れた
「崩月だったか?流れの中であの威力を放てればいいが、止まらなければ放てぬのならばいつまでも三流のままだ・・・出直して来い」
「くっ・・・」
崩月の威力は申し分ないのだが、発動時に一瞬動きが止まる。威力を重視するあまりにその致命的な弱点は無視され続けてきていた。これも対外試合など皆無であり、実戦で使う事などなかった弊害だとホムラは唇を噛んだ
「ラモン殿にも指摘されたさ・・・だがそれもこれも・・・」
「確かに試せる相手が居なくては研鑽のしようもないな。決まれば必殺・・・試し打ちするにはあまりに危険な技だ。門下生を減らす訳にもいかず、誰彼構わず試す訳にもいかない・・・そこにラモンが現れて誘われたか・・・暴れてみないか、と」
「・・・だったら何よ?」
「何故矛先を国に向けた?その一撃を何故ラモンに向け続けなかった?活躍の場がないのだろう?国に楯突くラモンを・・・螺拳を倒す事こそ待ち望んだ活躍の場ではないのか?」
「それは・・・ラ、ラモンを倒したとてそれで終わりなら意味がない!混沌と混乱を起こすラモンの思想に乗り、いずれ崩月拳は天下に名を轟かせ・・・」
「なるほど・・・で、名を轟かせてどうするのだ?」
「なに?」
「俺は強くなる為にだけ生きてきた。強くなる事以外に価値を見い出せなかったからな。だが友は言った・・・強くなる為に強くなるのではない・・・何かを成し遂げる為に強くなるのだ、と。貴様は名を轟かせてどうしたい?まさか名を轟かせる事が目的とは言うまい」
「・・・見返してやるのよ!たったひとつの技を磨く事をバカにした連中を!」
「?ならば直接その連中を叩けばどうだ?」
「だから!それが出来ないから出来る国にしようとしてるの!」
「?一撃必殺を謳う割には随分と遠回りをするのだな。誰かのくべた火に寄り添ってばかりでは得られるものも得られないぞ?俺は最近それを知った」
「・・・」
「父の言いなりになりある程度は強くなった・・・が、真の強さには敵わなかった・・・負ける事で強くなれると思っていたが違った・・・何かを成したいという気持ちが己を強くする・・・周りを動かす・・・貴様は本当に周りを見返したいのか?それだけの為にあれほどの技を身に付けたのか?」
「ワタシは・・・」
ホムラは崩月拳当主ホウトウの娘として生まれた。そして父ホウトウから聞かされた戦争時の崩月拳の活躍・・・だが、現在の崩月拳はその話とは裏腹に衰退していった
平和な世に一撃必殺の拳法など必要ない
突き付けられる現実。人と争う事のない時代に人を一撃で葬り去る技など学びたいと思う者は少なく門下生は日に日に減っていく
それでもホムラは一心不乱に唯一の技である崩月修得に情熱を注いだ。いずれ訪れるかもしれない戦乱の日々で活躍する為に・・・崩月拳を世に知らしめる為に・・・
しかしやって来たのは理不尽の塊とも言えるラモン
道場破りに来たラモンを返り討ちにしようとした父ホウトウは崩月拳のお株を奪う圧倒的な一撃で自らの身体に月を出現させられた
ホムラが憧れ思い描いた一撃・・・それを実現させたのは父ではなく突如現れた道場破りのラモンだった
その一撃に魅入られたホムラはラモンに従う事を決意する
父ホウトウの亡骸の横で跪きながら・・・
「・・・父の死よりも崩月拳が何も出来ずに負けた事が悲しかった・・・あれだけ打ち込んでいた拳が届かない事実を悲しみ、どうにかしたいと心の奥底から願った・・・父の命を奪った奴を利用しようとも・・・崩月拳が高みに行けるなら・・・」
「似てるな・・・」
「は?似てるって・・・」
「アタルに出会う前の俺と似てる・・・ただ強くなる為に・・・それだけの為に生きてきた俺と、な」
「どこが似てる!?・・・それにそのアタルって奴と出会ってあんたは何が変わったって言うんだい!」
「・・・何となく・・・楽しく思う・・・」
「はあ?楽しいって・・・お前はガキか!」
「ガキ・・・か。そうかもしれんな・・・強くなる事に全てを費やしてきた俺には全てが新鮮だった・・・弱いと思いきや強かったり、非情と思いきや涙脆かったり、何も出来ないと思いきや誰も成し遂げる事が出来なかった事を成し遂げたり・・・強さとはなんだと考えさせられた」
「・・・どんな奴だよ・・・」
「貴様も会ってみれば分かる・・・一貫する意志・・・それは今でも尊いと思っている・・・が、それではあまりにも見えてこない事が多すぎる・・・貴様の悩みが解決出来るか分からぬが会うて話してみるといい・・・」
「っ!・・・」
不器用に笑い手を伸ばすラカン
手を伸ばしかけたホムラはすぐに手を引っ込めて視線を逸らす
「話してみろだと?・・・もう遅い・・・ワタシは・・・」
「何をしている・・・さっさとこの裏切り者を倒し合流するぞ」
悩み始めたホムラを見て今まで後ろで静観していた崩月派の1人がのホムラに囁く。それを聞いてラカンはピクリと眉を上げた
「?・・・貴様が当主ではないのか?」
「ワタシ?・・・はっ、確かに崩月拳当主はワタシさ・・・ただ本当の門下生はもういない・・・ここにいるのは螺拳派から送られてきた形ばかりの崩月派・・・言うならばワタシのお目付け役さ」
元から少なかった崩月拳の門下生はホウトウの死により全員辞めていった。残ったのはホムラと道場のみであった
「こいつらを連れて時間稼ぎをしろ・・・それが今回命令された内容だ。元々ワタシに期待などしていない・・・少しでも長くスザクを足止めするのが今回のワタシの役目だった・・・それもお前のせいで失敗に終わったがな・・・」
「おのれベラベラと・・・なっ!?待て!何を・・・」
計画の内容を喋るホムラを止めようと1人が前に出るとホムラはそっと拳を突き出し胸の部分に添えた
「・・・崩月」
気功がホムラの拳から放たれる
胸の部分にポッカリと穴が空き自身の胸の穴を見た男がホムラに掴みかかろうとして数歩前に出るがそのまま倒れ絶命した
「う、裏切る気か!ホムラ!!」
「雑魚が人を呼び捨てにすんじゃないよ・・・ラカンだっけか?手伝えるか?」
「・・・いいだろう」
ラカンの返事にホムラはニヤリと笑うと螺拳派の群れに飛び込んだ
それに合わせてラカンも近くにいた者を吹き飛ばす
突然の出来事にスザク隊の面々はただ呆然とその戦いを眺める他なかった・・・
「ふぅ・・・満足満足~」
ホムラが額にかいた汗を手の甲で拭う。その足元には無数に転がる螺拳派の者達・・・結局ラカンと2人だけで100名に届く人数を倒してしまっていた
「いいのか?裏切って」
「それを貴方が言う?散々人を口説いてたクセに」
「口説いてはいない・・・ただそれでいいのかと言っていただけだ」
「・・・それもそうね。いいのよ・・・ワタシの道はワタシが照らす・・・ラモンという巨大な灯りの傍にいたら崩月拳は霞んで消えてしまう・・・そう思い直しただけよ」
ホムラが微笑むとラカンはそんなものかと呆れ顔で納得する・・・だが、納得出来ない者達がいた
「ふざけるな!町を攻め、ハギトを・・・ハギトの命を奪っておいて!」
スザク隊は敵意を持ってホムラに向けて構える。当然そうなる事を予想していたホムラだったが、間にラカンが入るとスザク隊に向けて言い放つ
「貴様らは何を望む?ハギトとやらの弔いか?町の・・・国王様の命を守る事か?」
「・・・それとこれとは話が・・・」
「一緒だ。今は少しでも戦力が欲しいはず・・・そして時間もな。ここでもし弔い合戦でも始めようものなら俺は手を貸さないぞ?それでもやると言うなら止めはしないが・・・今の戦いを見て迅速に、無傷で勝てると思うならやるがいい」
「くっ!・・・しかしまた裏切る可能性も・・・」
「それを言うなら俺も怪しいものだな・・・螺拳派の象徴である黒い道着に身を包み、螺拳を使う俺は裏切る可能性がないか?」
「・・・」
「ホムラとハギトは戦いホムラが勝った・・・それだけだ」
「しかし!」
「あー、そのハギトだっけ?殺しちゃった罪は後で必ず償うわ・・・さっきまで国を裏切って攻めたのは嘘じゃないし、死刑になるのは構わない・・・ただ自分に嘘をついて流れに任せたままなのが嫌なだけ」
「・・・自分に嘘?」
「ラカンに言われて気付いちゃったの・・・ラモンに従ってたのは強さに惹かれた訳でもやろうとしている事に賛同した訳でもない・・・圧倒的なラモンの力で崩月拳がこの世から消される事が怖かっただけだと・・・」
怖いから従うのではない・・・そう自分に言い聞かせていた事をホムラは思い出していた。目の前で父が殺された時、怒りよりも恐怖に支配された自分を偽る為に・・・
「・・・スザク様にはありのままを報告する・・・もしまた裏切れば命を賭してでも殺す・・・」
「!・・・ええ、その時は好きにしていいわ。それに命を賭けなくても万が一裏切ればそこのラカンが殺しに来るでしょうね・・・」
ホムラは言いながら倒れている螺拳派の者達を見た
倒れている八割がラカンの手によるもの・・・それなりの実力があると自負していたホムラもラカンの強さには敵わないと悟っていた
「ああ、その時は俺が責任もって相手しよう・・・で、そろそろ戻らなくていいのか?敵は四方から攻めているのだろう?」
「!・・・半数は東門へ!残りは俺と共に城へ!・・・ラカン殿は?」
「・・・城へ」
ラカンの言葉にスザク隊の者が頷くと閉じている南門へと向かった
「ホムラは?」
「当然城よ!」
「・・・当然・・・か。ラモンには手を出すなよ?ラモンは・・・俺が討つ」
「出来るの?」
「その為に強くなった・・・今の俺なら・・・」
スザク隊の後を追うように2人は南門を目指し走り出した──────




