2章 37 西門
西門ビャッコ陣営
波動派との戦闘が始まりしばらくすると波動派は逃げるように一旦その場から退いた。深追いしようとするビャッコをジュウクが必死に止め、現在は離れた場所での睨み合いが続く
「ジュウク!」
「ダメだよ姉さん。これは守る戦い・・・攻めて来ないなら無茶して攻撃するべきじゃない」
「ぬぅぅ・・・」
唸るビャッコを無視してジュウクは冷静に考える
敵は門を通って中に入りたいはず・・・それが退くとなると考えられるのは3つ
ひとつはただ単にこちらとの戦力差を感じこの門を諦めた
ひとつは増援を待っている
ひとつは元からこの門を通る気はなかった
「・・・あの人達の表情を見る限り焦っているようには見えない。これも作戦通りって事ならこのままだとまずいね」
「なら私が・・・」
「それも思うつぼかもしれない。試しに・・・」
ジュウクが手を上げて隊員達に指示を出す
それは撤退の合図であり、隊員達は動揺しながらもその指示に従い王都へと戻るよう動き出した
「・・・やっぱり・・・」
ビャッコ専属部隊が撤退を始めるとそれに合わせたように波動派が動き出す
そこでジュウクは確信した
「何が『やはり』だ?」
「押しては引いて引いては押す・・・端から決着するつもりは無いよ、あの人達」
「じゃあどうしろってんだ!」
「うーん・・・勝つ気がない相手に勝つのは難しい・・・」
「もういい!私がやる・・・お前達は喰い残しが門を通らないようそこで見張っとけ!」
「ちょっ!姉さん!」
「子鹿の群れが震えて待ってるんだ・・・ここで行かなきゃ虎じゃないだろ?」
「いや姉さん人間・・・って・・・」
ジュウクの制止は一歩及ばず、ビャッコの頭上に虎が形成される
気功で作られた虎・・・色はないがビャッコを知る者にはこう見える・・・『白虎』であると
「ええい!総員姉さんから離れろ!巻き添えを食らうぞ!」
降獣・・・気功をイメージした獣に変えてそれを取り込む技。身体能力が飛躍的に上がり強力な力を得るがひとつ難点がある
それは自我を失う事
まるで本物の獣になってしまったように動くもの全てに襲いかかる為に敵味方関係なくなってしまう。抵抗しなければ襲われても死ぬ事はないが、逃げたり抵抗したりすれば命の保証はない
降獣が完成する前にジュウクは隊員達を移動させ、固唾を呑んで姉であるビャッコを見守る。初動でこちらに来れば全滅も有り得る・・・緊張が高まる中移動し終えたジュウク達は身を潜めてビャッコがこちらに来ない事を願っていた
「うおおおおおおん!!」
獣の咆哮が辺りに響き渡る
グルルと喉を鳴らして睨み付けたのは波動派の者達の方向・・・ホッと安堵するがまだ予断を許さない
「決して動くな・・・喋るな・・・」
隊員達はジュウクの言葉に無言でコクコクと頷いた
隊員達も鮮明に覚えていた・・・ビャッコの暴れっぷりを
何が起きているのか理解出来ない波動派の者達は突然咆哮を上げるビャッコに驚き戸惑い、波動拳当主リウが落ち着かせているとビャッコは突然群れに飛び込んで来た
「くっ!・・・散!!」
リウが叫ぶと波動派は散り散りとなってビャッコから逃げ始める・・・が、ビャッコは手当り次第近くに居る者に襲いかかった
ある者は追いつかれて地面に押し付けられ、ある者は踏みつけられ、ある者は薙ぎ倒され・・・決してその場に留まらず次々に食い散らかしていく
追う順番に規則性はなく、ただ目に映った者に襲いかかるビャッコに波動派の者達は為す術なく戦闘不能に陥らされていた
「・・・バケモノめ・・・やはり正攻法では難しいか・・・投げろ」
リウは隣にいた者に何かを手渡すと、その者はジュウク達が身を潜めている場所へと何かを投げ入れる
「まずい!」
ビャッコが立ち止まり、投げた物を目で追っていた。それは回転すると音を鳴らす子供用玩具。笛吹音を鳴らし宙を舞うと部隊の近くにポトリと落ちた
ビャッコはまんまとその音におびき寄せられるとジュウク達と対峙する
緊張で汗が噴き出し頬を伝う
動けばやられる・・・実の姉に・・・
頬を伝って流れる汗が顎に到達し、玉になって地面に落ちようとしていた。もしかしたらその小さな動きさえもビャッコは反応して襲いかかって来るかもしれない・・・そう考えて腕を動かし汗を拭おうとした瞬間、ビャッコはジュウクに飛びかかってきた
「う、うわっ!・・・あ・・・え?」
目を閉じて全身に力を入れて耐えようとするジュウク
姉の唸る声は聞こえど姉の爪はジュウクには届かなかった
「おいおい、まさかのバーサークかよ・・・」
頭上から声がしてジュウクが見上げると、そこにはローブを着込んだ男が宙に浮いていた・・・
間に合った・・・のか?
用事を済ませて西門に来てみれば味方を襲おうとしているビャッコの姿
思わず念動力で止めたが・・・かなりキツい
ずっと鍛えて最初の頃に苦労した大岩でさえ自由に動かせる程の力があるはずなのに・・・なんつー力だこの獣は・・・
無理やり押し破ろうとするビャッコを何とか食い止め、どうにか正気に戻らないかと思案する
「お・・・い・・・セイリュウって奴とゲンブって奴が・・・裏切ったぞ?」
「え!?」
お前が反応するんかい!
ビャッコに襲われそうになってた青年が驚きの声を上げるが、ビャッコはピクリとも反応しない。言葉じゃ無理なのか?
「・・・このままだと・・・町が襲われる・・・ぞ?」
「そんな!」
お前はいい!
くそっ・・・ダメか・・・何か他には・・・
「シュラが・・・殺されるぞ!」
「・・・シュ・・・ラ?・・・」
おお!?反応あり!
「そうだ!セイリュウとゲンブが裏切って・・・もうシュラを護れるのは・・・お前だけだ!ビャッコ!」
「シュ・・・ラ・・・わ・・・か・・・・・・若!」
ビャッコは叫ぶとまるで糸の切れた人形のようにその場に跪く。咄嗟に念動力を解除して正気に戻ったであろうビャッコの元に降りるとかなり苦しそうにしていた
「・・・ハア・・・ハア・・・アタル・・・それは本当か?」
「アタル言うな・・・ローブの男と言ってくれ。本当だ・・・シュラは町の人を逃がして奴らを迎え撃つつもりだ・・・逃げる気なんてサラサラなさそうだぞ?」
「・・・若らしいな・・・くっ・・・セイリュウとゲンブめ・・・状況は?・・・どこまで・・・」
「兵士が抵抗しているが時間の問題だ。助っ人を急がせたが間に合うかどうか・・・ビャッコは早くシュラの元に!」
「・・・しかし・・・奴らが・・・」
ビャッコが後ろをチラリと見やる。あれは・・・シュラを暗殺に来た無口?
「アレは俺が相手しとく・・・早くシュラの元に行ってやれ」
「それではお前が・・・」
「いいから早く行けって。もちろん全員でな・・・あれくらいなら俺一人で十分だ」
「・・・」
「ビャッコ!ここを守ってるのは何の為だ?シュラを護る為じゃないのか?」
「・・・分かった。ジュウク・・・聞いた通りだ!急ぎ城に戻るぞ!」
「姉さん!?でも・・・」
「言うことを聞け!安心しろ!アタルは信用出来る!」
だからアタル言うなって・・・
ジュウクと呼ばれた青年は俺の事を見た後、渋々ビャッコの言う通りに兵士達に指示を出した
降獣だっけか?あれはかなり体力を消耗するようで1人で立ち上がれないようで兵士に肩を借りて立ち上がった
「急げ・・・早く城に・・・」
「はっ!」
ビャッコは命令した後、振り返り俺とそして無口達の方を見る
「・・・アタル・・・あとは頼んだぞ」
「分かった分かった・・・早く行け」
やっと行ったか・・・こっちは抑えるのに必死だったのに呑気なもんだ
「今あのローブの奴宙に・・・あっ、リウ師範!アイツら・・・」
「待て・・・あのローブ・・・」
どうやら無口の奴・・・俺に気付いたようだ。って、そりゃあそうか、ローブ姿で同じような能力を使う奴が早々居るわけないもんな
「お前らの相手は俺がする!さっさとかかって来い!」
「・・・貴様さえあの場にいなければ・・・」
おーおー、悔しそうにしやがって・・・あの場に俺がいなければシュラを暗殺出来たって言いたいんだな
一向に近寄って来ない無口達の元に俺が歩き出すと警戒してか身構える。ビャッコからは逃げていたけど俺とはやる気みたいだ
「なあ、螺拳派は何がしたいんだ?国を乗っ取ってどうしたいんだ?」
「・・・」
「なぜお前らは螺拳派に従う?乗っ取った暁にはおいしいポジションでも用意されてるのか?」
「・・・」
無口発動・・・どうやら俺と話をする気はないみたいだな
「まっ、どうせ大した理由もないんだろ?でもな・・・理由はどうあれシュラを暗殺しようとしたんだ・・・殺される覚悟もあるって事だよな?」
「!・・・散!」
「逃げるなよ!ぬかるみ共!」
逃げようとする無口達に念動力を使って動きを封じる
50人くらいいるがビャッコ1人を抑え込むより容易い・・・一人一人がそんなに力を必要としないからな
「ぐっ・・・こ、これは・・・」
さすがに無口だけ抵抗してくる。動き出す前にある程度数を減らしておくか
「ギャッ!」 「グエッ」 「ガッ!」
螺拳道場でやったように必殺首ポキ
呻き声を上げて倒れる者達を見て無口の顔色が変わった
「おのれぇ!」
「吠えるなよ・・・お前らがやろうとしていた事をし返しただけだ。誰かを犠牲にして何かを成そうとしていたお前らに、やられて吠える資格なんてない」
「ふざけるな!我らはこの国の為に!・・・」
「ばーか、国の為とか自分に酔ってんじゃねえよ・・・大義名分があろうがなかろうが・・・武力で来るなら武力で返されるって事を知っとけ!俺は・・・」
「グハッ!」 「ヒィブッ!」 「マ゛ッ!」
「お前らみたいな奴らが大っ嫌いだ!──────」
死屍累々の中、俺と無口だけが立っていた
無口は俺を呪い殺さんとばかりに睨み付けている
「なぜ睨む?お前のやろうとしていた事はこういう事だろ?」
「・・・」
「違うのか?シュラを殺して国を乗っ取るのとどこが違う?お前らがやろうとしていた事を逆にやられて恨むのは筋違いだ・・・それともそんな覚悟はせずにいたずらに人を殺そうとしていたのか?」
「・・・これは・・・戦いだ!理想を懸けた・・・戦いだったのだ!貴様のは・・・貴様のは違う!これではただの殺戮・・・戦いでは断じてない!」
「戦いだあ?暗殺を目論んでた奴がよく言うよ。それとも何か?その理想ってやつがあればなんでもありなのか?」
「・・・」
「都合が悪くなると無口になるか・・・随分高い理想だこと・・・もういい・・・聞くに値しない・・・そのまま永遠に口を閉ざせ」
自分の思い通りにする為に手段を選ばない・・・そんな奴がいるから・・・シーナは・・・もういい・・・死ねよ・・・
無口に手のひらを向ける
全員同時に念動力を使った時と違い、1人に集中して使えばまず動けないだろう。無口がビャッコ並じゃなければ・・・!?
「師範!今です!」
ちっ・・・まだ生き残りがいたか
突然後ろから羽交い締めにされ念動力が解けると無口は素早く懐に潜り込んできた
「死ね!・・・ガァッ!?」
俺の胸に手を添えて気功を流そうとしていた無口
でも、残念・・・
「手のひらを向けないと能力が使えないと思ったか?」
無口の気功を流そうとしていた腕を念動力でへし折り、背後にいる奴の拘束する腕を跳ね除けると再び手のひらを無口に向ける
「・・・化け物め・・・」
折れた腕を押さえながら憎々しげに言う無口・・・もうあだ名通り喋るなよ
上半身を右回転に、下半身を左回転に力を加える。当然無口の身体は捻れそして・・・捻じ切れた
「ヒャ・・・ひぃい」
後ろを振り向くと俺を羽交い締めしてた奴が無口の無惨な最後を見て腰が砕けたのかへたり込み情けない声を上げる
俺が無言でそいつに手のひらを向けるとそいつも俺に手のひらを向けてきた・・・まさかこいつも・・・なわけないか
「ま、待ってくれ!み、見逃してくれ!頼む!」
「?・・・後ろから俺を羽交い締めにして殺させようとしていたのに何言ってんだ?」
「あ、あれは・・・」
「・・・やり直せ」
「え?・・・あ、ああ!やり直す・・・もう二度と・・・」
「生まれ変わってな」
「生ま・・・そんな・・・待ってくギャッ」
なに助かったみたいな顔してんだ・・・許すわけないだろ
ようやく全員の始末が終わっ・・・ん?
「・・・」
「・・・」
ハア・・・まだ居たか。倒れているフリをしているが、様子を伺おうとしている所でバッチリと俺と目が合う。気付かれてないと思ったかそっと目を閉じるがバレバレだって
「今・・・目合ったよな?」
「・・・」
あくまでしらばっくれるつもりか・・・なら・・・
「うわああああ!!」
念動力で持ち上げたらあっさりと声を出した。拳法家に限らずだが人は身体を浮かせてしまえば基本何も出来なくなる。シュラに使った時は随分文句を言われたもんだが・・・殺し合いに卑怯もクソもないし楽をさせてもらおう
「ちょ、ちょっと待ってくれ!お、俺は仕方なく・・・そう!師範が決めた事に仕方なく付いてきただけなんだ!」
「・・・仕方なく?」
「そ、そうなんだ!君にも分かるだろ?上の命令には逆らえない・・・それが師範なら尚更だ!」
「・・・なるほど・・・確かに上から命令されたら断れないよな」
「あ、ああ・・・分かってくれて嬉しいよ。・・・だから・・・その・・・」
「・・・お前は仕方なく上の・・・師範の言う事を聞いて仕方なくここに来た」
「そうだ!」
「で、仕方なく邪魔する奴を殺そうとした」
「そう・・・ち、違う!俺は殺そうとなんて・・・」
「仕方なく・・・そう・・・あの場にいた奴らも仕方なく・・・」
「あ、あの場?一体何を・・・」
誘い込んだ奴?襲った奴?こ・・・殺した・・・奴?・・・守れなかった奴?・・・全部だ・・・全部壊れちゃえよ・・・
「お、おい・・・下ろして・・・」
「ああ、すまん。下ろしてやるよ・・・仕方なく上まで上げた後にな」
「えっ?ちょちょっと!まっ・・・」
そう言えば学生の頃、超能力を隠さなきゃと思って体力測定の時に砲丸投げでしくったよな・・・変に力んじゃって真上に砲丸を投げちゃって・・・
ズドン
そうそうこんな音が目の前でしてチビりそうになったもんだ
さてと、だいぶ時間をロスしたな・・・次はどっちに行くべきか・・・
「ん?」
考えながら歩いていると目の前に巨大な木の扉・・・あー、ビャッコ達が町に入った後に閉めたのか
「し、失礼しました!すぐに門を・・・」
「いや、いい」
飛んだ方が早い
今はローブで被って顔を隠してるし目立っても良いだろう・・・逆に目立ってローブ姿を印象付ければ俺の正体に辿り着きにくい・・・はず
浮き上がり目指す方向を見つめるとそのまま一直線に次の門へと向かった──────




