2章 21 お買い物
ある晴れた午後
俺は螺拳の修行をサボり村を歩いていた
最近の体調はすこぶる良い・・・と言うのも常日頃から内気功を使って体調管理を行っているからだ
気功は凄い
超能力や魔法と違って消費するって事がない
ただ使っていて思ったのが気疲れが凄い。授業参観の日にちが出席番号と同じ・・・絶対先生に当てられるやつだ。それが続く感じ・・・
ゆっくりとケイズ村を見て回ると雰囲気は時代劇とかの町並みに似てる。服装は動きやすさを重視したシャツとズボン・・・メイザーニクスではたまに着飾った人も居たし女性はスカートが主流だったがこっちでは見てないな
発展の速度が国では違う?風土的な問題か?
この流拳道場でもらったカンフー服も汚れてきたな・・・お金もあるし新しい服を買うか
服屋にふらりと入ると意外と色々ある
カンフー服に刺繍が入ったものや裾が長いもの短いもの・・・おおっ!?チャイナ服のカラーも豊富だ・・・シーナが着たら似合うだろうな・・・
「いらっしゃい!何用で?」
「あっ・・・その服を・・・」
うげっ・・・店員に話し掛けられた・・・苦手なんだよな・・・店員と話すの・・・
「だから何用で?」
ええ・・・何用って・・・
「おいおい、冷やかしか?」
「いや・・・あっ、例えば王様に会うとしたら・・・どんな格好ですか?」
一応どんな形で会うにしろキチンとした身なりで行かないとな
「王様?・・・ガーハッハッハッ!お前さんが国王様に?そりゃあいい!国王様に会うとしたら・・・これくらいの服は着ないとな!」
大声出すなよ・・・で、見せてきたのは刺繍入りのカンフー服・・・礼服もカンフー服なのか?まあ確かに金色をふんだんに使って豪華には見えるが・・・うん?袖がゆったりとしてなくてピチピチだ。腕がギリギリ入るくらい・・・大体ゆったりしてるものだと思った・・・たまに邪魔だから腕まくりしてるけど・・・理由があるのか?
「うん?袖か?儀礼服は袖がゆったりしていると暗器を疑われるぞ。刺繍は派手な方が良い。覚えがいいからな・・・当代の国王様は龍が好きと聞いた事がある。そうなると・・・これなんかどうだ?」
これまたド派手な・・・龍が背中で絡み合って・・・袖の部分にまで龍が・・・裾も短い・・・これはちょっと・・・
「ん?気に入らないか?うーん・・・これなんてどうだ?」
虎!・・・なんだかなぁ・・・
「やっぱり普通の・・・国王様に会わないかも知れないし・・・」
さすがにこれはユンかヤクモに相談した方がいいな。今日は普段着ぽいのを買うとするか
「あん?・・・普通ってなんだよ?」
「しゅ、収納とか多い服ないですか?袋を持ち歩かなくてもいいような・・・」
「180度違うじゃねえか・・・ならこの様々な暗器を収納出来る服はどうだ?内側にポケット、バンドがいくつもある。武器を仕込んでもバレないようにゆったりとした造りをしてる。袖も広く裾も長い。刺繍もない無地だし汚れも目立たないよう灰色だ」
ほほう・・・これは・・・良いなあ
「上下合わせて100ゴールド。お買い得と思わないか?」
基準が分からないから何とも言えないが・・・買えるし買っちゃおう
「じゃあ1着お願いします」
「毎度あり!」
買ってしまった・・・衝動買いなんて何年ぶりだろうか・・・しかも店内で着替えて来てしまった
流拳道場の道着を手に外に出る
みんなの視線が集まっているような・・・いないような・・・
「アタル?」
おおっ!?まさか人生初逆ナンパ?・・・あれ?でも俺の名前を・・・
あ・・・ユン
「ちょっと何よその格好・・・何か催し物でもあったっけ?」
催し物?・・・一体何を・・・
「もしかしてその服・・・普段から着る気?本気で?」
なになに?もしかして何か問題が?
その後、ユンは大爆笑した後で説明してくれた。どうやらあの店は日本で言うコスプレショップ。つまり俺は白昼堂々とコスプレしていたって事になる
「なんで!そんな店がこの村に!?」
「ちょっと怒鳴らないでよ暗器使い!あのお店の主人が趣味で作ってるのよ・・・普通の服も売ってるけど暇を持て余してね。まさか買う人が現れるなんて思っても見なかったんじゃない?ちなみにいくらしたの?」
「・・・暗器使い言うな・・・100ゴールド・・・」
絶句された
い、いいさ・・・俺は灰色の暗器使いと言う2つ名で生きていくさ・・・・・・・・・穴があったら入りたい・・・・・・
ユンと道場に戻る事になり、その道中で聞き込みをした結果を話してくれた
王様に一般人が会う機会は聞いた限りでは三つ
一つ目はは国が脅威と認めた魔物を討伐した時。褒美を渡す時に謁見が許されるらしい
二つ目は御前試合に勝ち抜き優勝する事。優勝すれば将軍の地位が与えられるとか
三つ目は王様が慰霊碑を訪れる時。王様が唯一1人になる時らしいが・・・当然周囲は警護でガチガチに固められてるらしい
現実的なのは一つ目か・・・
「一つ目は難しいわね。最近それほど脅威となる魔物が現れてないわ。今って結構人材に恵まれてるのよね・・・そのせいで一昔なら脅威となり得た魔物も簡単に倒してしまう・・・アタルが知るところだと亡くなってしまったけど流拳のジンや螺拳のラモン・・・名前くらい聞いた事あるかもだけど威空拳のイエンに仁王拳のニコクも傑物ね」
全く聞いた事ないです
でも、そうか・・・メイザーニクスでも魔物の数が減ってるとか言ってたような・・・まあ、国が脅威と感じる魔物がしょっちゅう出てたら国は滅びるわな
「二つ目は論外ね。今年御前試合行われないし・・・この先も行われるか分からないわ」
「どうしてまた?」
「今の国王様で在られるシュラ様はちょっと変わっててね・・・自分が出られない試合など見ても仕方ない。出れないならやらないと言って御前試合を中止にしてしまったの」
接待試合強要?それとも王様も強いとか?
「チャンスがあるとしたら三つ目ね。幸運にも今回の慰霊碑訪問の際の警護に指拳も選ばれている。私達がこっそりアタルを通せば国王様の所まで行ける可能性は高い」
なるほど。それなら戦わずして意見ぐらい言えるかも・・・
「ダメだ!そんな事したら指拳道場が取り潰されるだけに留まらず・・・とにかく危険過ぎる!」
珍しくヤクモが声を荒らげている。道場に着いて先程の話をした結果なのだが、どういう事だろう?
「警護を任されている以上、抜かれたと分かれば厳しい罰があるのは分かるだろう?アタル君のやろうとしている事には協力は惜しまないつもりだが、ユンが危険に晒されるのは・・・」
「・・・ヤクモ・・・」
はいはい、熱い熱い・・・でも確かにそうだな。警護についた指拳派が俺を手引きした事がバレたら例え話が上手くまとまっても指拳派が処分される可能性はある
「そうなると三つ目も無理か・・・直談判が無理なら誰かに橋渡ししてもらうしか・・・」
王様に取り次げる人に知り合いなんか居ない・・・そもそも知り合い少ないしな・・・超能力の中でインビジブル・・・不可視化の能力があったけどそれなら大手を振って・・・あっ
「ねえ・・・その警護ってどんな感じでやるか知ってる?」
「どんな感じとは?」
「ほら・・・どれくらい王様と離れるとか時間帯とか規模とか・・・」
「以前警護についた時は慰霊碑のある墓地の周りを4つの流派が囲んでいたわ。時間はその時は夕暮れどき・・・毎回時間は変わるそうよ。国王様との距離は墓地の周辺から中心になるから結構距離はあると思う。それに私達は国王様の方を見てはいけない決まりがあるから警護を越えられれば邪魔する者は居ないと思うけど・・・」
「・・・ならもしかしたら行けるかも・・・」
「アタル君?」
「大丈夫。指拳のみんなには迷惑かけない・・・」
うん、いける・・・問題は王様が騒ぎ立てたりしたら話どころじゃないけど、試合に出たがってたりするくらいだから肝も座ってる・・・ということにしとこう。失敗したら次を考えればいい。その為には・・・
「ユンさん、その警護に行くのはいつくらいから?」
「来週には出る予定よ。国王様の警護だから遅れちゃシャレにならないし、かなりの大人数で行くからどうしても時間かかっちゃうのよね」
大人数・・・そうか、近くで警護するなら少人数で良いけど、遠巻きから警護するら人数必要そうだもんな。なら気付かれずに王様に会えれば少しは話が出来そうだ
「ちなみにその王様が慰霊碑を訪れるのっていつ?」
「1ヶ月後の終戦記念日・・・場所は王都メンクス」
1ヶ月後に王都メンクスか・・・よし!
「俺も同行していいですか?決して指拳の人達には迷惑かけないので・・・」
「迷惑なんて・・・アタルのやろうとしている事はヤクモの・・・私達を想っての事。他のみんなは巻き込めないけど私は何だってするわ」
「僕も同じだ・・・足でまといになるかも知れないがもし良かったら僕も同行したい・・・ここでのんびり待っているなんて出来ないよ」
「・・・ヤクモ・・・」
はいはい!そうやってすぐに見つめ合わない!
「ついて行くのに必要なものはありますか?」
「そうね・・・まずは道着かしら。その服だとさすがに・・・」
うっ・・・やっぱりダメなのね。結構気に入ったのに・・・灰色の暗器使い・・・
「道着はこちらで用意するわ。ヤクモの分もね。それと・・・」
「それと?」
「アタルには指拳についてもう少し学んでもらうわ。同行して何かあった時に1人だけ流拳使ったらおかしいでしょ?」
キラリとユンの目が光る。これは・・・ヤバいやつだ
「あの・・・お手柔らかに・・・」
「期限付き・・・少しはまともに出来ないと我が流派の恥になる・・・なんでこんな出来ない奴を連れて来たのかと・・・安心して、来週までに型を・・・その後は道中で色々と叩き込んであげるわ!」
何の安心なんだ?鼻息荒く宣言するユンに恐怖し顔をひきつらせているとヤクモが苦笑する
この時はまだ認識が甘かった
これから一週間の地獄の日々・・・いや、地獄すら生ぬるい日々が待っている事を俺は理解していなかった──────




