2章 19 強くなる為に
俺は今、指拳道場で汗を流している
と言うのもユンがこの国の王と話が出来るタイミングを探ってくれてる間、とりあえずあれこれ考えないように身体を鍛えてる
いやー汗を流すっていいなぁ・・・くっ、視線が気になる
誰の視線かって言うとその名もラカン
どうやらNTR作戦で除け者にされたのが気に食わないらしく無言でじっと見つめてくる
俺が見ると顔を背けるのだが・・・気になる・・・
「アタルさん!ほら集中集中!」
ヤクマルは何かと俺に構うようになった。あの後ユンとヤクモは晴れて公認の中となりそれが嬉しくて感謝の気持ちなのだろうが・・・ほっといてくれ
「本当にこれでユン姐さんに勝ったの?ダメダメじゃん!」
だからほっといてくれ!ヤクモを仕込む為に試合を見てなかったからかなり疑っている。そりゃあそうだ・・・念動力を使わなきゃ俺なんてズブの素人だからね!
少しは筋肉付いてきたけど、言ってみれば一般人レベルに近付いたくらいだろうな。もっと強くならないと・・・もっと・・・
強くなるのに貪欲になり、他の人を観察する事が増えた。それにより見えてきた事がある
みんな漫然と強くなろうと鍛えてるのではなく、何かに特化しようとしている事
ジャタンは柔軟を、ラカンは筋力、指拳の門下生達ですら指を鍛えるのもそれぞれだ。その中で気になったのが指は指でも足の指を鍛えている人・・・そう言えばユンと手合わせした時に瞬間移動かと思うくらいの猛スピードで距離を縮められた。もしかしたら指拳って足の指にも気功を使って・・・それならあの速さも納得出来る
流拳派でも指拳派でも同じだが、気功を使った技は一つも教わってない。やはり正式な門下生以外には教える事は駄目なんだろうな・・・秘伝とかそういうものなんだろう。だから一般の門下生達と上位の門下生は修行の場所を変えてたりする。流拳派の時はアイリン達は道場内で修行して、一般の門下生達は外で修行してたし・・・
午前中指拳派の門下生達に混じって修行し、午後は離れた場所で螺拳派の2人と修行する
基本的にはジャタンが俺に教え、ラカンは自らの修行の傍らで俺の事を見るって感じだ。ラカン曰く人に教えるのは苦手らしい
「気功を覚えたい?・・・喧嘩売ってんのか?」
「いや!その・・・ほら!他の人に教える為に・・・俺って天才だから何となく出来ちゃうけど、それだと教える時に苦労するって言うか・・・」
そう言えばジャタンって気功使えなかったんだ。ハナンを圧倒するくらい強いのに・・・気功も超能力と同じで偶発的に発現するものなのかな?
「アタル・・・お前の力は気功ではない・・・だろう?」
「うっ」
普段無口なラカンさん・・・少し黙ってなさい
「やっぱりそうか・・・俺もおかしいと思った。魔法でも無さそうだし・・・何者だ?アタル」
ジャタンまで・・・まあ、気付いてたけど突っ込まなかっただけか・・・でも念動力の事は・・・
「話せないなら話さなくてもよい・・・その不思議な力もアタルの実力の内・・・他人にペラペラと喋るものでもないだろう。気功と非なる力・・・その力を持っているにも関わらず気功を求める理由は?」
「そりゃあ強くなりたいから・・・その・・・上手く話せない俺の力には上限があって、使い過ぎるとしばらく使えなくなる・・・だから長期戦には向かないんだ」
「それを語るべきではなかったな。他人に話して何の利点もないただの弱点だ」
あっ・・・確かに・・・
「ラカン・・・そこは喜ぶべきだろ?アタルが俺らに教えてくれたのは少なからず認めてくれた証拠・・・じゃなきゃ自分の弱点をペラペラ喋るバカはいないって」
すみません・・・バカです
「認めてくれた?何を?」
「決まってるだろ?仲間としてだよ・・・仲間!」
「仲間・・・俺とアタルが?」
「そうそう。俺もな!ラカンは一人で何でも出来ると思ってないか?そりゃあラカンは強いが、時には人に頼るってのもいいもんだぜ?」
「仲間を・・・頼る・・・か」
「そうそう!だからほら!せっかくアタルが頼ってくれてんだから応えないとな!・・・俺はアレは勘弁だが」
え?何か話が変な方向に・・・アレって何だ?
「そうか・・・そうだな。アタル・・・気功を覚えたいのだったな?」
「あ・・・いや、何か今日はもういいかなーなんて・・・」
イヤな予感がする・・・かなり・・・いや物凄く!
「気功は誰しもの体内に必ずあるもの・・・ただ扱えてないだけ・・・扱えるようになるには気功とはどんなものか身体で知る事・・・」
えーと・・・聞いてます?もしもーし
「故にもっとも早く覚えるには・・・他人から気付きとなるきっかけを与えられる事・・・分かるな?」
分からん!いや、想像はつくけど分かりたくない!
「安心しろ・・・三日三晩寝れば回復する」
「俺は五日寝込んだけどな」
いやマジ怖すぎる!なになに・・・何なの!?
ラカンは無言で俺に前に立つ。俺と同じくらいの背丈なのに迫力がそうさせてるのかすごい大きく見えた
何も説明する事もなく両手を俺の胸に当て・・・
「フン!」
フン!じゃねえ!・・・衝撃が身体を駆け巡る・・・意識が持っていかれる・・・これが・・・気功・・・こ、これは・・・
「ホ・・・ホーリー・・・ヒール・・・」
何とか意識を失う前に魔法を使えた・・・これは・・・アカン・・・全身がバラバラになるかと思った・・・こんなの覚える前に死んでまう!
「ほう・・・魔法とは便利だな。これは捗る」
何が!?ちょっと・・・まっ
「フン!」
再びの衝撃・・・痛みじゃない・・・身体の中で・・・何かが暴れ・・・回る・・・倒れ・・・ホ・・・
「ホーリー・・・ヒール!」
回復したはずなのに膝をつく・・・怪我とかじゃない・・・何かが根こそぎ持っていかれるような・・・どっちかって言うと疲れたみたいになってる・・・
肩で息をしているとその肩にポンと手が乗る・・・嘘でしょ?
「その調子だ・・・フン!」
張り切り過ぎ!ちょ・・・また・・・ホー・・・
「ホーリー・・・ヒール・・・」
アレ?・・・魔法が発動しない・・・もしかして・・・俺の限界って・・・二発──────
「やあ、ようやく目を覚ましたみたいだね。足で失礼するよ?」
ヤクモさん?・・・俺寝て・・・ここは・・・俺の部屋?
ベッドに寝かされヤクモが俺の腹に足を乗っけてる。何してんだコイツと思ったが、どうやら魔法を使って回復してくれてたみたいだ
「無茶をするね。気功の打撃を食らって回復しまた食らう・・・回復が万能じゃないのは君の方が知ってると思ったけど?」
「ええ・・・知ってるつもりになってました。まさかホーリーヒールが2回しか使えないなんて・・・」
「上位の回復魔法だ。そう何度も使えるものじゃないよ・・・僕なんて一度使ったら動けなくなってしまう・・・ユンに出した時以外には出した事ないけど、恐らく最初に出したのがホーリーヒールなんだろうね」
ああ・・・確かユンが大怪我をした時ってやつか・・・
「今じゃその時の話は僕がこうなってしまったからタブーになっているみたいだけど・・・そもそもユンが大怪我したのは・・・僕のせいなんだ」
そう言えば怪我をした原因までは聞いてなかった。ヤクモのせい?それってどういう事だ?
「ある日この村に一人の拳士が現れた。その拳士は指拳道場に訪れ道場破り紛いの事をし始めた・・・その拳士の狙いはユンやシホウさんのような実力者・・・でもユン達は相手にせず追い返そうとしていた。実力者同士は手加減が出来ないからね・・・下手すれば大怪我では済まない時もあるから・・・で、その時に運悪く僕が道場に訪れて・・・その拳士は僕を吹き飛ばした・・・情けなくも気を失った僕が目を覚ました時には瀕死の状態のユンが・・・ヤクマルの話だと僕が殴られた後に激昴したユンが飛び出してきてその拳士と揉め・・・負けてしまったのだと・・・」
確かに・・・一般人であり恋人である人に手を出されたら怒るわな・・・それまでも散々門下生達がやられていて我慢してたから余計に・・・
「それで怪我を・・・でもそれはヤクモさんのせいじゃないと思いますがね。ちなみにその拳士ってどこのどいつなんです?」
「・・・螺拳のラモン・・・そう拳士は名乗ったらしい」
ええっ・・・もしかしてジャタンとかに対する沸点の低さも・・・螺拳だから?
「前に流拳派対螺拳派の対抗試合の審判の話が来た時も受けたのはラモンにリベンジするつもりだったのかも・・・まあ僕は恨んでないけどユンにとってはラモンが来なければ僕が両腕を失う事はなかったから・・・負けた事より僕に手を出した事を未だに根に持っているみたいだし・・・」
「殴った事を根に持ってる・・・もしかしてユンさんは・・・」
「うん・・・手も足も出なかったらしい。だから怪我をしたのは自分の実力不足と割り切ってはいるみたいだけど一矢も報えなかった事でわだかまりがあるみたいなんだ。1発でも殴れてれば違ったかも知れないけど・・・」
なるほど・・・怪我をしたのは自分が弱いから・・・だからヤクモに魔法を使わせてしまったのは自分が弱いせいとラモンを責めてはいないが、ヤクモを殴った事に対してはムカついたまんまだと・・・てか、ユンに圧倒するってどれだけ強いんだ?螺拳だと俺みたいに離れて対応出来ないだろうし・・・
「僕がその時ノコノコどうに顔を出さなければユンは耐えてやり過ごしていたかもと思うと・・・ね・・・。ところで話は変わるけどなぜわざと気功を食らって回復なんて無茶を?」
「あ、いや・・・気功を覚えるにはその方法が手っ取り早いって・・・」
「あーなるほど・・・確かに荒療治ではあるけど理には適ってるかもね。・・・君には恩もある・・・どうだい?僕の指導を受けてみる気はないかい?」
「えっ?指導って・・・」
「こう見えても僕は気功が使える・・・運動はからっきしだけどユンに点穴を学んでいる内に自然にね・・・」
何この人・・・武術やってればかなりの腕前になってたんじゃ・・・正に天才ってやつか?
「身体の仕組みは熟知しているし、気功の仕組みも自分が覚えた事で分かった・・・けどおいそれと教える事は出来ない・・・気功は使い方を一歩間違えれば凶器になる・・・だから自然に覚えるのは別として広めるのはやめておいた・・・弟のヤクマルにも教えていない。身体を鍛え、精神を鍛えてやっと修得したものと簡単に修得したものでは全然違うから」
「か、簡単に?そんなに・・・」
「うん・・・何せ誰でも体内に持っているものだからね・・・要は引き出し方さ」
この人は・・・本当にすごい・・・みんなが苦労して会得しているものをあっさりと・・・
「お、お願いします!」
「うん、分かった。でも、これは秘密だよ・・・さっきも言ったけど簡単に手に入れてしまえば・・・それこそ過去の過ちを繰り返しかねないから・・・」
シューリー国の全員が気功を手に入れたら・・・ホビット族の魔法を我がもののように使い戦争を起こした時と同じ事が起きる可能性を危惧してヤクモは言った
俺は頷くとヤクモはゆっくりと話してくれた・・・気功の仕組みを──────




