2章 12 正義
ケリも着いた事だしリュウシ達の様子を見に外へ出た
邪魔にならないように外から眺めようとしたら不審人物発見・・・子供?屋根の上に?何してるんだ?
そーっと後ろに降りて様子を見ているとどうやらリュウシ達の戦いを見ている様子・・・黒い道着も着てないし近所の子供の可能性もあるか・・・いや、ないな
ブツブツと何か言ってるけど聞き取れない・・・もう少し近くに・・・と思ったら振り向きやがった
「あら・・・気付かれちゃった?後ろからキュッと首を締めようと思ったのに・・・」
驚いた様子の少年・・・いくつくらいだ・・・15歳くらいかな・・・夜中に1人で屋根の上・・・どう考えても怪しい
「びっくりしたよ・・・猫でも居るのかと思ったら・・・」
猫って・・・という事は気付いてた?むむむ
「そこで何してるのかな?少年」
「見学・・・かな?」
「なかなか物騒な見学だな・・・子供が見るもんじゃないよ?」
「うん・・・もう帰るよ・・・アタル君」
アタル君・・・ねえ。隠す気はないってか。俺の名前を知っているって事は螺拳の関係者・・・でも、それならなぜ戦いに加わらない?なぜ道着を着ていない?・・・怪しい
「仲間を助けないのか?」
「・・・助けても良いのかな?後ろからズドンはイヤなんだけど」
助けようと思えば助けられるって事か?よく見ると流拳派の方が優勢・・・リュウシがラカンをぶっ飛ばしてるし・・・その状態で助けられるって言ってのけるコイツの実力って一体・・・
「そんな事はしない・・・けどアイツらはダメだ」
「?どういう事?」
サイコメトリーって便利だよな・・・大人数で寄って集って・・・死んじゃえよ
「ギャァッ」「ゲボッ」「グダッ!」「アビィ!」
「な、何してるんだい?」
「首折り」
「・・・は?ちょちょっと・・・え?」
なかなか面倒だな・・・もっとペースアップしないと・・・夜が明けちゃう・・・もっと・・・もっと・・・
遠くからだとさすがに複数同時は厳しい・・・2人ずつが限度かな・・・流拳のみんなを間違って・・・なんて事になったら目も当てられないし・・・
異変に気付いたみんなが視線を彷徨わせ、ようやく俺の存在に気付いた
リュウシ辺りは止めに入ってきそうだな・・・早く・・・もっと早く・・・
「アタル!やめろ!」
やっぱり・・・でももう遅い・・・後10・・・8・・・6・・・4・・・2・・・0
「どうやって・・・」
「ねえ・・・少年は俺の味方?それとも敵?」
「味方・・・だと思うよ」
「そう・・・良かった。それなら誰かに今日の事を聞かれたらこう答えて欲しい、『ローブの男がこれをやった』と」
「・・・分かったよ・・・『ローブの人が・・・』」
「違う・・・『ローブの男』だ」
「・・・了解・・・『ローブの男』だね。あの死体はどうする?出来れば世間にはあまり晒したくないんだけど・・・」
「任せていいか?」
「贅沢言うと人手として何人か残しておいて欲しかったけどね・・・任せて。ラカンは・・・」
「任せる・・・本当は生かしておく理由もないけど・・・命を奪う理由もないから・・・勝手にしてくれ」
「怖いね・・・本当に・・・僕の名前はナハト・・・またいずれ・・・」
そう言うとナハトは消えていった
どうやら俺らが去った後に処理するみたいだな・・・晒したくないって言ってたから大丈夫だろう
怖い・・・か・・・俺は夜遅くに屋根の上に居て、ラカン達より立場が上っぽい子供の方が怖いと思うが・・・
っと、リュウシがずっと俺を見上げてる。その目はいつになく厳しい・・・普段でも仏頂面なのに更にひどい・・・仕方なく屋根の上から飛び降りるとリュウシの前に立った
「何故だ!・・・何故全員殺した!!」
「全員じゃない・・・ラカンと先鋒の・・・カマは見逃してる」
「そう言う事じゃない!」
「ラコンが死ぬ間際ゲロった。リュウリさんとジンって人を殺した時、ほぼ全員参加だったらしい。大勢で寄って集って・・・俺だけじゃないって言う集団心理が働いて罪悪感なんてこれっぽっちも感じてないんだろうな。そんな奴らを生かしといて何になる?これから罪を犯さないと言えるか?俺の大事な人を奪ったのはこういう奴らを放置したから起きたんだぞ?起きないと言うならその根拠を言えよ・・・なあ・・・リュウシ!!」
「・・・くっ・・・しかし無抵抗の人間を・・・」
「抵抗すれば殺して良いのか?わざわざ始末するのにこちらがリスクを背負う理由は?」
「我らが同じ事をしてどうする?汚い真似をする奴らに・・・真っ向から挑んでこそ正義ではないのか?」
「リュウシ・・・正義ってなんだ?お前はその正義とやらを貫いて悪を倒せば満足かも知れないが、お前の言う正義ってのは所詮後手なんだよ・・・そもそもリュウリとジンが死なない為にはどうすれば良かったと思う?見ず知らずの人質を盾に動きを封じてきた相手にどうすれば良かった?」
「・・・」
「人質を見捨てるか?」
「・・・」
「まあ答えられないよな・・・どう足掻こうと2人は死んでた・・・人質を見捨てられない限りな。さてそれならどうするか・・・芽を摘むしかないんじゃないか?こういう奴らが悪事に手を染める前に・・・大事な人を失う前に!」
「・・・アタル・・・それは極論過ぎる・・・誰だって闇に墜ちる可能性はある・・・人を傷付けてしまう可能性はある・・・」
「確かにな・・・俺だって人の事は言えない・・・だけどもう後悔したくないんだ・・・やらずに後悔するくらいなら・・・俺がやれる事を全てやる・・・」
「アタル・・・そんな事をしていればいずれ・・・」
「かもな・・・でも、もう後悔はしたくない・・・」
首が背中を向いた死体が乱雑に並ぶ。確かにリュウシ達も憎しみを持って戦っていた・・・けどどうやら殺すほどじゃなかったみたいだな。みんなの言いようのない視線が突き刺さる・・・多分こんな事を続けていればみんな俺から離れていくだろうな・・・それでも・・・
「!?ヒィ・・・ヒィ!・・・」
コハンと目が合った
今の話を聞いてて察したんだろう・・・ハナンに負けてボロボロだけど生かしはしない・・・コハンに向けて手を伸ばす。手のひらはしっかりとコハンを捉えるが、それを遮る者がいた
「ハナン・・・さん・・・」
「君がこの死体の山を作った事が未だに信じられない。共に汗水流し修行した日々を否定するようでな・・・。コハンは我らを裏切った・・・それは許される事ではない・・・が、殺してしまえばそれで終わり・・・コハンに・・・もう一度だけチャンスを・・・」
「甘いよハナンさん。コハンは負けたらどうなるか知っていて裏切ったんだ・・・自分の身可愛さにね・・・そんな奴が次も同じ事をしないとなぜ言い切れる?無駄だよ」
「・・・早朝の修行・・・覚えているか?誰もまだ来ていない朝早くに2人きりで修行して・・・アタルはどんどん皆についていけるようになって・・・」
「それとこれとは・・・」
「関係ある!人は変われる・・・最初は誰とも話さなかったアタルが皆と打ち解けて・・・笑うようになったじゃないか・・・」
「ああ・・・だから余計ショックだよ・・・その笑い合った中に裏切り者が居たなんて・・・な」
コハンに向けていた手を握る
するとハナンの後ろで何かが噴き出す音が聞こえた後に倒れる音が聞こえた
「アタル・・・なんで・・・」
振り向いたハナンが責めるように呟き再び俺を見た
泣いていた
それは亡きコハンを想ってか、躊躇いもなく人を殺してしまう俺を憐れんでか・・・その両方か・・・
「・・・アタル・・・」
「アイリン!」
建物の中からアイリンが出て来た
リュウシが叫びみんな一斉にアイリンの方を向く
「みんなありがとウ・・・助けに来てくれテ・・・私は無事ヨ。ラコンも倒しタ・・・デ、これは全部アタルガ?」
これとはコハンを含めたおびただしい数の死体の事・・・俺が頷くとアイリンは目を細めた
「そうカ・・・私も言えたギリじゃないガ・・・やぱり壊れてしまてたカ・・・薄々勘づいていたガ・・・」
壊れ?・・・何が?
「分からないようだナ・・・何も感じないカ?人を殺して・・・心が痛まないカ?」
心が痛む?・・・俺は人を殺した・・・超能力を使って・・・抵抗は・・・ない・・・あれ?・・・人を殺した?
「私はラコンにトドメを刺しタ・・・あれだけ憎く思っていたラコンを殺した時でさエ・・・胸が痛んダ・・・虚しかタ・・・苦しかタ・・・アタルはこれだけの人を殺め・・・苦しくないカ?何も感じないカ?」
何を言って・・・ラコンなんて死んで当然だろ?こいつらだって・・・殺して当然の奴を殺して・・・どうして胸を痛める必要があるんだ?だってこいつらを生かしておけばいずれ・・・
「アタル・・・ここに倒れているのハ・・・人ヨ?魔物じゃなイ・・・人なのヨ」
魔物・・・人・・・魔物は殺して良くて・・・人は・・・ダメ?・・・なんでだ?
「アタル・・・人は誰でも間違いを犯す・・・コハンの件は俺も許せないと思った。俺らの信頼を踏みにじったのだから・・・でも・・・殺してしまうのは違う・・・赦さないのは・・・違うんじゃないか?」
リュウシ・・・赦す?・・・どこまで・・・
「お人好しだな・・・2人共・・・どうして・・・『だから死なせてしまった』と考えられないんだ・・・」
「ハナンが言っていたろう?人は変われる・・・変われるんだ・・・アタル」
「変わるのを期待して・・・もし裏切られたら・・・もう堪えられないよ・・・リュウシ」
「アタル・・・」
何だろう・・・俺の顔を見てみんなが驚いている・・・不安だよな・・・俺みたいなのが近くに居ると・・・不安だよな・・・この世にクズが居ると・・・大丈夫・・・多分俺がこの世界に来たのは偶然じゃない・・・日本じゃとてもじゃないけど出来ない事を・・・俺はこの世界でやってみせる・・・そして・・・
「アタル!・・・どこ行くつもりネ?」
立ち去ろうとするとアイリンが呼び止めてきた。どこに・・・か。まだ色々整理出来てないけど・・・やる事は決まってる
「悪者退治」
「アタル!」
「冗談だ・・・とりあえずメイザーニクスに戻る・・・やり残した事があるし・・・アイリン、リュウシ・・・2人があの時・・・来てくれなかったら・・・ここに連れて来てくれなかったらどうなっていたか・・・ありがとう。みんなも・・・俺なんかに構ってくれて・・・ありがとう・・・さよなら」
「待て!アタル!」
「アタル!」
「短い間だったけど楽しかったよ・・・じゃ」
「楽しかただト?だたらなんデ・・・なんであんな悲しそうな顔してるんダ!!」
アタルが去った後、地面に拳を叩き付け叫ぶアイリン。リュウシはアタルの去った方向を見つめ、ジンガ達は地面を見つめ口を真一文字に結んだ
「お取り込み中ゴメンね。ちょっといいかな?」
「誰だ!」
アタルと入れ替わるように現れた少年ナハト。尋ねるリュウシを無視して道場の柱に背を預けるようにして座っているラカンとその傍に居るジャタンに近付いた
「お待たせラカン。帰るよ」
「・・・ナハト・・・」
「ほら!早く立って!これから死体の処理とかもしなきゃならないんだから・・・大した怪我じゃないでしょ?」
「ナハト・・・俺は──────」




