2章 10 それぞれの戦い
「いっちょ妖怪退治と行きますか」
妖怪ぬらりひょん・・・どれくらいの実力か分からないが、ラカンより強いって事は・・・ないよな?
「アタル・・・分てるナ?」
「ああ、俺は手を出さない・・・奴が叫んだ声に反応してお仲間の妖怪が現れるかも知れないから、それの相手をするよ」
「・・・ヨウカイ?」
と、言ってる傍から現れたのは・・・妖怪ナ〇パ・・・表に出てなかったから、死んじゃったかと思ったが生きてたか・・・
「フハ・・・フハハハハ!!老師の声がしたので来てみれば・・・何という幸運!!まさか昨日の今日で会えるとは思わなかったぞ!!」
随分嬉しそうだな・・・昨日落としたのは左腕・・・利き腕はどうやら右だったみたいだ。片腕でも充分やれると意気込んでいる
アイリンはもうラコンしか見ていない
さて・・・部屋は広いが暴れるにはちぃと狭いか・・・
両手を広げ左右の壁に空圧拳を放つ。壁は脆く崩れ去り、合計3つの部屋が繋がった
「・・・何をした?」
「・・・気功」
うん、やっぱり便利!全部気功説!
「お兄ちゃん!どう?」
「まだ始まってないよ・・・無能の集まり特有のグダグダ展開さ」
道場の屋根の上に座っていると妹のクライネがやって来た。監視役の仕事も今日で終わりになるかな?結局この村は落とせないで終わるだろう
「ふーん・・・全員でかかれば流拳なんてすぐなのに・・・なんで?」
「プライド・・・かな?安っぽいよね、そういうの」
「あのジジイはプライドなさそうだけど・・・事前に強そうな子殺しちゃったしさ」
「ジン君か・・・彼が生きていたなら1敗は確実だったからね・・・小物の動きとしては100点満点・・・でも、その後の行動が小物過ぎたね。流拳相手に3勝する為、内通者まで用意するなんて・・・バレたら螺拳の恥晒しもいいとこだよ」
「バレたんじゃない?あそこにその内通者も居るし・・・」
「うん、さっきやり取りしてたよ。この裏切り者ーとか・・・まっ、今回の敗因は事前にラカンを納得させられなかった事だろうね・・・彼が加担していれば事はスムーズだったはずだよ」
「・・・お兄ちゃん・・・」
「おっ、アイネおかえり。ラコンは?」
「邪魔がいたから戻って来た」
「邪魔?」
「ガンズの腕を奪った奴・・・名前は・・・」
「アタル君☆」
「そう・・・それそれ」
「クライネ・・・妙に彼の名前を楽しげに言うじゃないか」
「だってー、なんかドキドキしちゃってー」
「鋼拳の一番弟子か・・・本当かどうか知らないけど、確かに興味あるね」
「顔は平凡だけどー、なんか危なげな感じー」
「気功とも魔法とも違う能力・・・だね。彼なら僕達の代わりに処分してくれそうだね」
「全員?」
「いや、出来ればラカンは持ち帰りたいかな・・・磨けばちょっとは使えそうだからね」
「じゃ私達はもういい?」
「うん、いいよ。後は僕がやっとくから」
「はーい!じゃっ、あと宜しくー、ナハトお兄ちゃん!」
「よろしくー」
「気を付けて帰るんだよ?アイネ、クライネ」
さてと・・・おー、ようやくやり合うみたいだ。当然リュウシにはラカン・・・後は・・・ほー、なかなか面白そうだ。雑魚同士だけど実力わきまえてるね・・・ラコンは見えないけど、アイツは勝っても負けても処分するから良いとして、ゆっくり観戦させてもらいますかね・・・流拳NO.1と螺拳分家NO.1の戦いを・・・
「知らないで済むと思ってるのか・・・人が2人も死んでるのに・・・」
「興味ないな」
リュウリとジンの話をしても『知らない興味ない』と淡々と返すラカンに憤る
リュウゲンにアタルの言っていた事を伝えても動かず、リュウシは単独で螺拳道場へと行こうとすると門下生達は全員ついて来た。結局は全員きっかけが欲しかったのだ
止めることなくリュウシは門下生達を連れて螺拳道場へ
着く頃にはすっかり日も暮れていた
リュウシ達を迎えたのは修行を終えたばかりのラカン達。ひとつの影が建物の中に侵入していく姿を確認すると、リュウシは目の前の仇敵に集中する
アタルから聞いた話を問い質し、2人の死に対して糾弾するがラカンは眉ひとつ動かさずにあっさりと『知らない』と答えた
しかし、ラカンそして隣に居たジャタン以外は目を見開き驚いた後、ニヤニヤと笑い始めたのですが確信する。疑いもなく犯人はコイツらだと
「興味ない・・・か。本当に知らなかったかも知れないが、貴様も同罪だ・・・真ん中と言いながら卑怯にも俺との戦いから逃げやがって・・・」
「逃げた?心外だな。真ん中が何を指すか聞いたか?戦う順と勘違いしたのはお前の早合点だろ?流拳のリュウシ」
「そうだな・・・正々堂々と勝負すると・・・そんな幻想を抱いた俺の責任だ・・・螺拳と言う卑怯の塊の手段の言葉を鵜呑みにしてしまった俺の・・・な」
「卑怯卑怯と・・・負け犬の遠吠えにももう少し品があるぞ?」
「ジンが怖くて卑怯な手に染めるしかなかった貴様に、我らを負け犬と断ぜる資格があるのか?ラカン!」
「資格があるかないか・・・その身で確かめてみろ・・・」
「望むところだ!」
ラカンとリュウシが構えるとジャタンがスっと動いてハナンの前に移動する
確かに四肢を砕いたはずと興味深げに観察する
「不思議だな・・・どういう事だ?」
「天は見ている。正しき者を」
「答えになってないな。正しき者は一晩で骨も繋がると言うのか?」
「悪しき者に屈しない力をくれる」
「なら我らが正しかったと言う事だ。その証明にもう一度砕いてやろう」
「おっと待った。お前さんの相手は俺だぜ?」
ジャタンとハナンの間に割り込んだのはジンガ
ハナンはその瞬間にジャタンから視線を切り、他の者を見つめていた
「正しき者は逃げるのか?」
「正しいから勝てるとは言ってない。今はまだお前には届かない・・・いずれ決着はつけてやろう。それよりも俺は後輩の指導を任されている」
「後輩?おっと!」
「適材適所ってやつだカマ野郎!NO.3同士遊ぼうぜ!」
更にハナンに突っかかるジャタンに対してジンガが攻撃を仕掛けると、ジャタンは後ろに下がりそれを躱した。冷静に対処したジャタンだったがジンガの言葉に目の色を変える
「誰がカマ野郎よ!ぶち殺すわよ!!」
「あれ・・・キレると本性が出るタイプ?普通逆じゃね?」
「黙らっしゃい!生きて帰れると思わない事ね!全身の骨を砕いてあげる!」
「・・・あー、ハナン・・・やっぱりお前やるか?」
「冗談を・・・生命の危機より貞操の危機を感じる相手なぞお断りだ」
「おい!ちょっと待て!」
ハナンは足早に去り、残されたジンガがジャタンを見る
指を鳴らしクネクネと近付く姿に脅威を抱き、これ以上近付かせるものかと構えた
NO.3同士の熱い戦いが始まる
ハナンの行先にはキョロキョロと視線を忙しなく動かす男が居た
挙動不審で、黒の道着の中1人だけ白の道着に身を包む男・・・名目上まだ流拳であるコハンだった
「見かけないと思ったらこんな所に居たか・・・サボりか?」
未だ信じたくないと思う心が何かを期待する。共に汗水垂らして修行した日々・・・才能は自分より上と認めていた・・・ほんの少しだけ修行する量がコハンより多く、実力はハナンの方が上とされているが、コハンが本腰入れれば抜かれてしまうだろうと思っていた
言わば実力の近いライバルのような存在
「ハナン・・・見逃してくれ・・・」
コハンは既に立場を失っていた
流拳を裏切り、螺拳派に付くも対抗試合は引き分けに終わり、汚名挽回のチャンスもラコンが放った偵察の者に邪魔され機会を失った。流拳道場に戻るに戻れず螺拳道場に居た所に流拳派と鉢合わせ・・・どちらが勝とうと立場のないコハンにはもうどちらからも逃げるしか道は残されていなかった
「残念だ・・・俺が先鋒で君が大将・・・2人して選ばれた時は本当に嬉しかった。流拳の次代を担うと思っていた・・・リュウシ、アイリンを支え・・・ジンガと共に・・・残念だ」
「くっ・・・ど、どうせ・・・どうせジンが居なくなった時点でいずれ流拳派は淘汰される!強い方に与するののどこが悪い!」
「・・・確かにジンは天才だった・・・我らの希望だった。しかしジンが生きていたとしてもジンは力を見せつけたり、他を蹴落としたりしなかっただろう・・・己を鍛えて流拳を極める・・・ただそれだけの為に汗を流したはずだ」
「だ、だからなんだってんだ!」
「自分を見つめ直せコハン・・・他を恐れるのは鍛えが甘いから・・・自らを鍛え、自身と向き合えば分かるはず・・・強い方に与するのは愚かな行為であり、恥ずべき行為であると」
「じゃ、じゃあお前は!・・・螺拳派が攻めてきて・・・ジンが、師範が殺されても怖くなかったって言うのかよ!?」
「怖くなどない。負けそうなら負けないくらい修行するのみ。天賦の才などいずれ凌駕してみせる・・・ジンガ・・・アイリン・・・リュウシ・・・ジンをも超えてみせる!それが俺が天から与えられた唯一の才だ」
「話になんねえよ・・・今まさに殺されそうになったら修行どころじゃねえだろ!」
「大丈夫だ・・・天は見ていてくれる・・・だからこうなった」
「・・・はっ、まるで流拳派が勝ったような言い草だな・・・まだこっちにはラカンが居る・・・ジャタンも・・・俺だって!」
「そうだな・・・では、語ろうか・・・武道家は口で語るに在らず拳で語れ・・・俺は昨日よりも強いぞ?コハン」
「うるせえ!ジャタンの代わりに俺がお前の骨を砕いてやる!!」
三つ巴の戦いが始まり、周囲も誰が合図した訳でもなく戦い始めた。数は圧倒的に螺拳派が優勢。それでも流拳派は怯まなかった
数の劣勢を覆しているのは士気
アイリンを救うという大義名分
ジンとリュウリの仇討ちという溜まりに溜まった思い
その2つが流拳派を支えていた・・・




