2章 8 人身御供
くそっ・・・なんだコイツは!?一体何を考えてやがる!?
祝勝会の後、部屋で休んでいるとアイリンが訪ねてきた
ご褒美にたゆんたゆんさせてくれるのかと思いきや部屋に入ると正座して黙りこくってる。後ろからたゆんたゆんしてろうか!?
「・・・アタル・・・」
アイリンの後ろに立ち、指をわきわきさせていたら声をかけられる。仕方なく正面に回りベッドに腰掛けると平静を装った
「な、なに?」
「ありがとウ・・・アタルのお陰で私ハ・・・」
「ははっ、そんなの気にすんなよ。こうやって住ませてもらってる訳だし、武術まで習わせてくれて・・・」
「アタル」
「は、はい!?」
「どこまデ・・・思い出しタ?」
「・・・全て・・・」
「全てテ・・・あの時の事もカ?」
「・・・ああ」
「そうカ・・・」
また黙ってしまったアイリン。何が言いたいんだ?思い出しちゃ不味い事でもあったか?あ、そうだ・・・
「アイリン・・・あの時助けてくれてありがとう・・・あの時2人が助けてくれなかったら俺は今頃・・・」
「アタル!」
「へ、へい」
「なぜガンズの腕ヲ・・・」
ガンズの腕?・・・ああ、試合の時か・・・
「要らないだろ?」
「要らなイ・・・だト?」
「本当は存在自体が要らないけど、殺しちゃうと負けになるからな・・・仕方なく生かしてやった。腕を奪ったのはせめてもの報いだ。出来れば両腕欲しかったけど・・・さすがに出血多量で死んじゃうかも知れないからな」
「何もそこまデ・・・試合にはかていタ!もう奴は動けなかタ!」
「元気になれば復讐に来るかも知れない。俺の知らない所で俺の知り合いを傷付けるかも知れない。ならいっそうの事始末出来る時に始末するべきだろ?」
「なッ・・・なぜそうなル!?ガンズと会ったのは初めてだろウ?奴がそこまでするかなんテ・・・」
「試合中に何度も俺に殺してやるって叫んでたぜ?」
「それハ・・・」
「会ったことあるかないかなんて関係ない・・・誰かを暴力でねじ伏せようとする奴は総じてクズだ!そういう奴らはそうされても文句は言えない!そういう奴らを放っておいてる奴らもクズだ!何もしないと奴らは次々にぬかるみを追加してきやがる・・・俺はどんどん動けなくなって・・・でも気付いたんだ・・・俺の立っている場所には底がある・・・追加されるより早く・・・底を上げてやればいい!・・・底を見たら居たんだ・・・あのクズ野郎共が・・・俺を底上げしてくれる!」
「・・・アタル・・・」
「もう二度と・・・あんな悲劇は起きちゃいけない・・・ぬかるみを足すやつは・・・全て底に沈めてやる!」
「アタル!アタル!違うんダ!聞いてくレ!確かに奴らは・・・生きる価値のないクズ野郎共だタ・・・私がアタルでも同じ事をしただろウ・・・もしかしたら他にも同じような奴がいるかも知れなイ・・・でモ・・・アタルの考えは極端過ぎル!今回のガンズだてあそこまでのクズではないかもしれなイ!それなのニ・・・」
「かも知れない・・・そうかもな。でもクズかも知れない・・・だろ?もしジャクスの町であのクズ野郎が居ることを知っていても同じ事を言っていただろうな・・・クズかも知れないって・・・そして起こるんだ・・・あの悲劇が・・・なあ?誰が悪い?クズ本人か?クズと知っていて放置していた奴か?あの子を1人にしちまった俺か?・・・殺されたシーナか!?答えろよ!!どうすれば良かったんだ!?どうすれば守れた!?答えろ!アイリン!!」
「ッ・・・」
「・・・すまない・・・本当は俺がシーナを守れなかった腹いせだ・・・あまつさえ耐え切れず全てを忘れようとしてやがった・・・自分の都合のいい事だけ覚えて・・・悪い事は全部忘れて逃げるようとしたんだ・・・でも俺は思い出した・・・もう逃げるのはやめた・・・」
「・・・疑わしきは罰するのカ?その中には罪のない者もいるかも知れないゾ?」
「・・・そうだな・・・」
「口が悪いだけかも知れないゾ?人相が悪いだけかモ・・・」
「・・・そうだな・・・」
「もしそんな事を続けれバ・・・人類の敵になるやも知れないゾ?」
「・・・かもな・・・」
「アタル!」
「冗談だ。俺だって無差別殺人したい訳じゃない。だが、他人の意見は聞かない・・・俺は俺の判断で・・・」
「そんな事をしていたらいずれ周りは敵だらけになるゾ?」
「かも・・・な」
「このッ・・・分からず屋メ・・・ハア・・・私も1年前を思い出すと人の事は言えないカ・・・だが覚えておケ・・・お前には味方がいル・・・お前を理解しようとしてくれる仲間ガ・・・居ることを忘れるナ!私も含めてナ」
「・・・アイリン・・・」
アイリンはそう告げると立ち上がり出ていってしまった
ああ・・・くそっ・・・なんでこう・・・。でも、決めたんだ・・・もう後悔はしたくない・・・だから・・・
コンコン
部屋がノックされる
アイリンが戻って来た?・・・え?
「・・・老師」
「すまぬのう、こんな時間に・・・」
「い、いえ!むさ苦しい所ですが・・・あ、いや、老師に借りてる部屋でした・・・」
「気にするでない・・・我が流派を救ってくれた者にこんな事は言いたくないのだが・・・出て行ってもらえぬか?」
・・・さあ、行こう・・・さあ、行こう・・・さあ、行こう・・・
──────ああ、行こう──────
「何の用ですかな?ラコン殿」
対抗試合から一夜明けた早朝
螺拳派の者達が流拳道場へと押し寄せて来た
修行を始めようとしていた者達が急いでリュウゲン達を呼びに行き、二つの流派は再び対峙する
「何の用?なーに、再試合の日取りを相談しようと参ったまで・・・そちらも昨日の試合で怪我人が出てるでな・・・お互い万全を期して戦うにはいつ頃がいいかと思ってな」
「それは配慮に感謝する・・・出来るだけ間隔を空けてもらえると助かるのですが・・・」
「はて?これは聞いていたのと違いますな・・・そちらはいつでもよいのでは?」
「仰りたいことが理解出来ないのですが・・・」
「そうですか。私が今回お伺いしたのは先にも言ったように日取りの相談でしたのですが、あらぬ噂を聞いたものですから・・・昨日大怪我をした者がピンピンしていると・・・」
「それはそれは・・・どこから聞いたかしりませんが、不思議な話ですな」
「ええ・・・不思議で不思議で・・・ただ引き分けたとはいえ実質負けたに等しい我々としては気が気でありませんでして・・・もし宜しければ確認させて頂きたく存じますが・・・如何でしょうか?」
「・・・その話と日取りの話は別ではありませんか?もし仮にウチの者が怪我が治っていたとしても・・・」
「別?確かに・・・日取り以前の話になりますからね・・・治っていたとしたら」
流拳派の門下生達がザワつきリュウゲンとラコンを見る。リュウゲンは顔を顰め、ラコンは嗤う
「以前とはどういう事ですかな?」
「ほう?お分かりになられないと?我が先鋒ジャタンと次鋒ラカンがあれだけ痛めつけたにも関わらずピンピンしている・・・それが何を示すか本気で分からないと?」
「何を仰りたいのか全く・・・」
「とぼけおって・・・皆の者!昨日の先鋒と次鋒の者を探し出せ!」
「ラコン殿!!」
「黙れ!何もやましい事がなければ隠す必要ないはず!」
「むっ・・・」
ラコンの言葉にリュウゲンは返せず、螺拳派の門下生達は道場の中へと入ろうとする。しかしそれを阻む者達が現れた
「うるせえなぁ・・・おちおち眠れもしねえ・・・何の騒ぎだ?」
「せっかくもらった休みゆえ読書でも・・・と思ったのですがね」
ジンガとハナンが現れた
ラコンはその姿を見てほくそ笑み、リュウゲンに向き直る
「これはこれは・・・昨日の怪我が全くないとは・・・ウチのガンズは今も生死をさまよっていると言うのに・・・」
「鍛え方が違ぇからな!」
「一晩寝ればあの程度の怪我・・・」
「ならば証明してくれるか?手足を折り、我らの前で治して見せよ・・・どうせ出来ぬだろうがな」
「なにぃ!?」
「ジンガ・・・控えよ。ラコン殿・・・何が言いたい?」
「何が言いたいだと?とぼけるのも大概にしろ!あれほどの怪我が一日で治るはずがない・・・だとすると答えはひとつ・・・魔法に頼ったな・・・流拳よ!」
魔法に頼った・・・その言葉で空気が張り詰める
シューリー国は魔法を忌避する
その度合いは尋常ではなく、使用者はおろか魔法を受けた者も処罰の対象になるほどであった
当然シューリーに住むリュウゲン達もその事を知っていた
「・・・」
「反論なしか・・・ふむ・・・そう言えば昨日ガンズと手を合わせた男がいないようだが?あの男には是非とも色々と聞きたかったのだがな・・・魔法を使うメイザーニクス共和国の出身者から見て一日で大怪我を治す魔法が存在するか否かを・・・な」
言い方からアタルを疑っているのは明白・・・そしてもしアタルが魔法使いとバレれば昨日の試合は無効になりかねない。それどころか流拳の存在自体が危ぶまれると門下生達は喉を鳴らす
「あ奴はもう居ない・・・昨日の晩に旅立った」
「ほう?それはおかしいな・・・あれだけの観衆を前に次は最初から出ると言うていたのに、舌の根も乾かぬうちに・・・旅立った?」
「そ、それは・・・」
「もういいヨ・・・爺ちゃン・・・」
「アイリン!?」
アイリンが道場の奥から現れる
リュウゲンが驚いて振り向き、ラコンは下卑た笑いを見せた
「これはこれは・・・もういいとは?」
「アタルは神聖魔法使イ・・・ハナンとジンガの怪我を治したのもアタルヨ・・・だけどアタルは試合では魔法を使てなイ」
「ふん・・・試合で使ったか使ってないかなどどうでもいい・・・問題は神聖なる対抗試合に魔法使いの助っ人を使ったかどうか・・・であろう?」
「・・・デ?」
「で?とはまた・・・。分かっているから隠していたのだろう?魔法使いを使えばどうなるか・・・流拳は取り潰し・・・首謀者は斬首が妥当か・・・」
「なっ!?」「そんな・・・」
門下生達から悲鳴とも取れる声が上がる。しかし、アイリンは動じずラコンを睨み続けた
「デ?とはその先ヨ・・・疑うなら国に申し立てればいイ・・・それをせずにわざわざ来たと言うことハ・・・」
「察しがいいな。この事実を知っているのは我らだけ・・・つまり我らが黙っていれば流拳派が助っ人に魔法使いを使ったなど恥べき事実は表に出ん・・・分かるな?」
「・・・ふー・・・」
「アイリン!!よせ!早まるな!!」
大きく深呼吸をするアイリンにリュウゲンが必死で止めようとする。しかし、アイリンは覚悟を決めラコンに告げた
「私達の負けヨ・・・この身・・・持ていくがいいネ」




