1章 32 イヤーウィッグ
結局俺とシーナ2人とも討伐隊に加わる事になった
Bランク・・・冒険者ギルドで魔物をランク付けして報酬額を決めているらしい。Bランクは1000ゴールド以上・・・つまり土魔狼と大蛇はBランクの中でも最低金額だったって事か。なんでバレス達がそのBランクの魔物を俺が狩ったか分かったのかと言うとギルドカードの裏に記載されているらしい。カードの裏面をよく見たらBと書かれた所に点が2つ付いていた。その狩りで1番ランクの高い魔物の討伐がカウントされるらしい
とりあえずバレス達に認められたって事か?
討伐は明日
なので今日はバレスが手配してくれた宿屋で一泊する事となった・・・が、ここで問題が発生・・・気を利かせたのか、金を出し渋ったのか、2人で一部屋・・・つまりシーナと同室・・・
「ちょ、ちょっと別の部屋借りて来る!」
「別に・・・いいよ」
俺が焦って部屋を出て行こうとしたらシーナが服の裾を掴んで言った
いいよって何が!?いや、一緒の部屋でって事だよな・・・そう・・・だよな?
とりあえず出て行くのをやめて無言になる。下手に動けばやられる・・・そんな雰囲気に冷や汗をかいていると、シーナが口火を切った
「ごめんね・・・その・・・巻き込んじゃって」
巻き込む?
「アタルって結構無茶するし・・・」
あー、そういう事か。確かにシーナが居ない時って無茶してるかも・・・
「今回の討伐隊に私だけ参加したら・・・また前みたいに・・・」
前みたいに?いつの事だ?
「・・・ね?ローブの人」
うぐっ!やっぱりバレバレだったか・・・短剣の傷があるって嘘に引っかかってから何も言われなかったからそのままにしていたけど・・・
「・・・はい。その通りです・・・」
「ふふっ・・・だから、一緒に行った方が安心と思って・・・今回もアタルは陰ながら守ってくれるのかなって思ったらつい・・・」
行動パターンバレバレだった訳か
「シーナには返し切れない程の恩があるし・・・」
「恩だけ?」
「え?」
なんだこの展開は・・・どう答えれば正解なんだ?
「ふーん、そっか・・・ふーん」
俺が何も答えられずにいるとシーナは俺を下から見上げながらうろちょろする。何故か背筋を伸ばしてその視線から逃れようとするが冷や汗がダラダラ出て・・・
「あっ、明日の買い物でも行かない!?ほら、必要な物とか・・・」
この場に耐え切れず外に出る事を提案した。シーナは動きを止めて俺をじっと見つめた後、大きく息を吐くと俺の腕に手を回す
「まっいっか!行こ!」
何とか難局?を乗り越えたようだ。この後明日の必要な物以外も散々買い物に付き合わされ、どうなるものかと思った同室での一夜も買い物疲れであっさり寝てしまい次の日を迎えた・・・ちぇ・・・
「昨日はしっかり寝たんだろうな?」
集合場所である正門に着いた瞬間にアベランに肩を組まれてからかわれた。えーぐっすり寝ましたよ!何事もなくね!
シーナはどうだったんだろうか・・・まあ、朝も普通だったし同じようにぐっすり寝れたんだろう
町の外に出てから地図を広げ、前回前々回の遭遇場所と経過した日にちから割り出したイヤーウィッグの足取りを予測する。そして、予想した場所の近くの木が密集している場所で待ち伏せする事となった
昨日と違いバレスは大きい盾を持ち、バレットはボーガンを持っていた。作戦としてはバレスがおびき寄せ、イヤーウィッグの攻撃を受け止めた瞬間にバレットが痺れ薬付きの矢を放つ。痺れたイヤーウィッグをアベランがハンマーで下から叩き地中から引きずり出したらフートスの魔法でトドメ・・・よし!シーナ帰ろうか!
「君達が来る前から立てていた作戦だ。この作戦は誰かが失敗しても成り立たない・・・なので申し訳ないがアタル君には何かあった時の補助となって欲しい・・・昨日今日で息の合った連携など不可能に近いからな。そして、シーナ・・・君は私の指示でホーリーヒールを使用して欲しい・・・2回と限られているので早々に使ってしまうと後がなくなる」
まあ、そりゃあそうか。いきなり俺を組み込むにしても技量を知らなきゃ難しい・・・それなら俺の役目は予定通りシーナの護衛に徹しようっと
「報酬は山分け・・・と言いたい所だが、私は辞退する。とにかくイヤーウィッグを倒そう!その為ならこの命・・・惜しくない!」
熱い・・・熱いな・・・バレス。でも、息子さんはすんごい冷めた目してますよ?ため息なんてついちゃってまあ
「さて!そろそろ行くとするか!目的地近くになったらなるべく足音は立てないように!話し声もだ!行くぞ!」
バレスの掛け声でみんな一斉に歩き出す
途中歩きながらイヤーウィッグの注意点などを聞いた
イヤーウィッグは普段は地中に潜っており、恐らく音で獲物を感知し、地中から尻尾に付いているハサミで攻撃を仕掛けて来る。恐らくというのは大人数で挑んだ時に恐怖して逃げようとした冒険者をイヤーウィッグが狙ったから。地中に潜っていれば地上の様子は見えないからほぼ間違いないだろうとバレスは言う
討伐証明部位は頭だが、それは普通のイヤーウィッグの討伐証明部位であり、今回のイヤーウィッグは新発見の上位種・・・ギルドからは倒せば何でもいいと言われているらしい。確かに討伐証明部位にこだわって討伐を失敗したらシャレにならないしね
目的地に近付くにつれてみんなの口数は減ってきた。予想以上に町に近付いているかもしれないし、緊張もあるのだろう。俺もいつ出て来るかと心配になり地面ばっかり見ていた
「アタル」
シーナの呼ぶ声で顔を上げると先頭を行くバレスが手をこちらに向けて止まれと合図していた
一気に緊張が高まり、手汗がじわりと染みてくる。今、手を繋いでと頼まれても余裕で断るほどだ
バレスは周囲を伺うと左腕にベルトで固定された盾を構え、右手で剣を引き抜くと突然剣の腹で盾を叩き出す
カーンカーンと甲高い音が鳴り響く
バレスが音を立てる度に心臓の鼓動が早くなる。目と首を忙しなく動かし、周囲を見渡しているとシーナが服の裾を引っ張った
振り返るとシーナの顔色は今にも倒れそうなくらい蒼白で服の裾を掴んだ手からは震えているのが伝わって来た
そうだ・・・そうだよな・・・彼女は優しい子・・・困っている人を見て見ぬふりを出来ない優しい子なんだ。ここにいるのも決して望んだ訳ではなく、だいぶ無理しているんだ。俺が落ち着かないでどうする・・・彼女にまで動揺が伝わってしまったら、彼女は誰を頼ればいい・・・
汗ばむ手をギュッと握り締め、俺はシーナに力強く頷いた
大丈夫・・・必ず守ると意志を込めて
「!来るぞ!!」
バレスが叫ぶ
俺は慌ててバレスの足元を見ると地面が盛り上がり、黒い突起が2つ姿を現した
一瞬・・・一瞬で地面から巨大なハサミが飛び出しバレスに襲いかかる
バレスは盾を突き出す・・・が、いとも簡単に盾ごと腕を切り落とし地面へと潜ってしまった
もちろんバレットがボーガンを打つ暇もない。あの作戦はたったの数秒で失敗に終わってしまった
「ち、治療を・・・」
「く、来るな!!」
シーナが駆け寄ろうとしたが、バレスは切断された腕を押さえシーナが来る事を拒んだ
「ぐぅ!・・・クソッタレ・・・ここまで・・・」
イヤーウィッグの切断力を見誤った
ホーリーヒールでも腕が生えてくる訳では無い。切り落とされた腕を元の位置にくっつけながら治療しなければならないらしく、そんな事をしている暇は今はない
ドバドバと血を流すバレス。しかし、全員身動きが取れずにいると恐怖に耐えられなくなった者が現れた
「ひぃや・・・もうダメだぁ!!」
フートスが叫び背中を向けて走り出す。すると地面からズズズと音が聞こえ、フートスの逃げた方角に向かうとしばらくしてフートスの断末魔が聞こえた
木で見えなかったが恐らくもう・・・この隙に全員逃げれば助かったかも知れないが、誰も動けなかった
襲われるのは動いた者・・・逃げなきゃと思うが身体が竦んで動けない
ザッ!
不意に足元に剣が飛んで来て地面に刺さる。何が起こったか分からずに剣をよく見るとそれはバレスが持っていた剣だった
なぜ・・・バレスは剣を投げた?
俺を狙って?
違う・・・・・・音だ!
気付いた時には遅かった
地中を進んで来る音が大きくなり、下を見ると地面が盛り上がっていた
あ・・・ダメだ・・・何も・・・
トンと背中を押される
振り向く間もなく前のめりに倒れそうになり、数歩進むと音が聞こえた
ザクンと聞いた事の無い音
ひどく耳障りな音で何の音かと振り向くと両手を突き出した格好のシーナがいた
一体何を・・・と思った瞬間に離れた場所に彼女の下半身が倒れているのに気付いた
え?・・・え?
やっと・・・理解した・・・
彼女は・・・シーナは・・・
「シーナ!!!」
考えるより先に念動力で離れた場所にある下半身を引き寄せる。うつ伏せで倒れているシーナの上半身に合うように繋げるとシーナの肩を揺らした
「シーナ!!ホーリーヒールだ!!ホーリーヒールを自分に!!」
「・・・良かった・・・無事で・・・」
「何も良かない!!早く!頼むからホーリーヒールを!」
「・・・ごめ・・・んね・・・」
違う違う!何も謝る必要なんか・・・何を間違った!?一体なぜシーナが!?違うだろ!!こんなの・・・違うだろ!!
「シーナ・・・頼む・・・ホーリーヒールを・・・」
「コッチだ!!クソムシ野郎!!!ありったけの矢をぶち込んでやる!!!」
「バレット!!黙っとけ!ヤツが来るぞ!」
「うるせえクソ野郎!クソムシを始末したら次はお前の番だ!クソ親父!!」
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ・・・今はシーナが・・・
「・・・アタルなら・・・きっと・・・」
ダメだダメだダメだ!そんなのダメだ!!
「頼むよ・・・頼むからホーリーヒールを・・・」
ギュッと目を閉じ懇願する。きっと目を開けるといつもの笑顔で俺を迎えてくれる・・・そう信じてゆっくりと目を開けた
「・・・は・・・ははっ・・・」
奇跡なんて映画や漫画の中だけだと思ってた・・・でもそうじゃなかった・・・
目を開けるとシーナの身体が光り輝き傷口が塞がっていく。ホーリーヒールは見るの初めてだが、ヒールが放つ光よりも断然強く、瞬く間に傷口は完全に塞がった
すぐにシーナの首筋に手を当てると脈が確認出来た。弱々しいがシーナの息も手にかかる
生きてる
腰が砕け地面にへたり込む
数秒放心状態になっていると叫び声が聞こえた
「バレットォ!!!よせぇ!!!」
あーそう言えばまだ残ってたんだっけ?
見るとバレットがボーガンを下に向け足を踏み鳴らしている。何やってんだかと息を吐くとすぐ後ろに誰か居ることに気付いた
「何やってんの?アベラン」
「・・・すまねえ・・・」
?何で謝ってんだ?それに確かアベランはバレスの近くに居たはず・・・なのになぜここに?
「お前──────だったのか?」
よく聞き取れなかった。俺が何だったって?
まあいいや・・・その前にせっかくシーナが気持ち良さそうに寝てるんだ・・・安眠妨害する奴を・・・始末しようか・・・
「少しだけシーナを頼む」
動かなければ襲われる事は無さそうだ。寝ているシーナが襲われる事はないはず・・・とにかくアレを始末しないと・・・何故か頭がボーッとする・・・MP切れじゃない・・・初めての感覚だ
俺は大声を上げながら地面を踏み鳴らすバレットの元へ歩き始めた
アベランが呟いた言葉を考えながら・・・よく聞こえなかったが恐らくアベランはこう言った
──────お前神聖魔法使いだったのか?──────




