1章 30 宿屋にて
「魔法使いだったのかよ・・・」
それらしく大蛇の首を切り落とした俺を見てザンサが呟く
意外と通じるな・・・まあ、魔法使いのエマが俺の念動力を魔法と勘違いするくらいだ・・・見るからに魔法の使えなさそうなザンサならそう思うと思ったが成功みたいだ
俺はその言葉に返事せず、切り落とした頭を眺め悩んでいた
さて、どうやって持って帰ろう
ザンサ達が見ている時に浮かせて持って帰るのはちょっと・・・でも手で持つには大き過ぎる。なにせ俺をまるっと呑み込む位の大きさだ・・・頭だけでも重さはかなりあるだろう
「て、手伝おうか?」
やはりザンサは見た目とは裏腹に優しい奴だった。お言葉に甘えて・・・そう思って振り返るとまだ抜き身の短剣を手にしているザンサに少し恐怖を感じた
「その・・・短剣・・・」
「あっ、ああ、すまねえ・・・別に他意はねえ!今しまうから・・・」
何を慌てているのかザンサは短剣を急いでしまおうとした。しかし手が滑ったようで短剣を落としそうになり、あたふたしている時に事件が起きた
「あ゛っ・・・ジンッ!!」
短剣の刃の部分に触れた瞬間、身体をピーンと伸ばし変な叫び声を上げて倒れてしまう。えっ・・・何これ
「ザンサ!!」
ウジナが急いで駆け寄りザンサに声をかけるが、ザンサは痙攣し泡を吹いている。もしかしたら短剣に毒でも塗ってあったのか聞くと、どうやら強力な痺れ薬を塗っていたらしい・・・マジか
「ダメだ・・・死にはしないと思うが・・・」
まさかの荷物追加・・・しかし助けに来てくれたかもしれないザンサを置いていくのは・・・でも討伐証明部位の頭が・・・悩んでいるとウジナが提案してきた
俺はザンサを連れて帰るから、お前はブラックパイソンを
いや、元からそのつもりだったし、何言ってんねんと心の中でツッコミを入れつつ無言で頷いといた
ウジナは背負っていた斧を下ろすとザンサを背負って斧を固定していた紐でザンサを固定する。そしてそそくさと洞穴を出て行った
結局なんだったんだアイツらは
そう思いながら念動力で大蛇の頭を浮かせ、ウジナが置いて行った斧を手に持つ
ここまで取りに帰るのは大変だろうと親切心で持ったまま外に出るとウジナはザンサを背負ったままあっという間に崖の上・・・ロープがあるとはいえ凄まじい速さだった
「おーい!忘れ物!」
ザンサを背負ったままでも斧くらい持てるだろうと崖の下からウジナに当たらないように斧を投げる。もちろん俺の腕力じゃ届かないから念動力を使って
斧はクルクルと回転してウジナの近くの木に突き刺さる。よし、これで一安心と思っていると予想外の言葉を投げかけられた
「お、覚えてろよ!」
それは感謝の意味で?・・・なんか言い方が・・・
斧を取らずに立ち去るウジナ
せっかく投げてあげたのに・・・まあ、いいか
気配が去ったのを確認すると崖上まで一気に飛び上がる。一応大蛇の頭は牙の部分を持っているが、俺の身体とは別に浮かせているので重みもない。そのまま飛んで行こうかと思ったが、ウジナより先に帰るのはどう考えてもおかしいだろうと森の中を歩いて帰った
町に戻るとギルドに一直線・・・しかし、手に持つ大蛇の頭が注目を集める。小声で「なんて力持ちだ」って聞こえてやっと気付いた・・・俺、自分の身体ほどある大蛇の頭を片手で持ってる事になってる・・・
浮かしているから重みが無い為、ついつい片手で持って歩いている姿を大勢に晒してしまった
今更両手で持っても遅いと思い「あー、なんて軽い頭なんだ」と呟きながら歩くが恐らく意味はないだろうな
そそくさと歩きようやく着いたギルドに入る
ザンサとウジナは居ないぽいな・・・ここでも注目を集めるが気にせず受付へと向かった
「すみません・・・依頼を受けてないのですが討伐したので・・・」
「は、はい!ブラックパイソンですね!少々お待ち下さい」
来るの?来るの?本当に来た!みたいなリアクションをしていた受付嬢が俺が受付の前に立つと一礼して裏へと消えて行った。恐らくサテートみたいなギルド職員を呼びに行ったのだろう
受付嬢は案の定ギルド職員を連れて戻って来た
そして、別の部屋に討伐証明部位である頭を運んで欲しいと言われて運び、別室にて鑑定結果を待つ
500ゴールドか・・・これで50泊は出来るな。大蛇に呑まれたけど、まあ、結果オーライ・・・200ゴールド寄付してシーナの足を治してもらおう
「お待たせしました。討伐確認出来ました。報酬はこちらになります」
おおー、500ゴールドゲット!袋を5袋、スっとギルド職員は俺の前に置いた
「牙はこちらで処分しても?」
「うん?ああ、お願いします」
「では、1本100ゴールドなので200ゴールド」
更に2袋・・・そうか、特記事項で書いてあったな・・・牙高額買取って
「ちなみにブラックパイソンは偶然遭遇したのですか?」
キラーンと目を光らせてギルド職員は尋ねてきた。おお?まさかの尋問タイム?
「いや・・・とある情報筋で住処の場所を聞いたもんで・・・」
「・・・住処・・・その住処には入られましたか?」
「え、ええ」
「・・・中で卵など見かけませんでしたか?」
「み、見たような・・・見なかったような・・・」
「・・・」
「み、見ました見ました」
「もちろん割ってくれましたよね?」
おおう・・・なんだ?引っ掛けか?引っ掛け問題なのか?
「・・・い、いや・・・」
「なぜ!?」
「と、とある情報筋から割らない方が良いと・・・」
俺の言葉を聞き、ギルド職員は大きくため息をついて首を振った
「どこで何を聞いたか知りませんが、人を襲う魔物を倒すのが冒険者の主な仕事・・・そこに卵があるなら割って元凶を断つのが当然・・・ちなみに誰から聞いたか教えてもらえませんか?」
やっぱり普通そうだよな・・・あの野郎・・・
「ザンサに教えてもらいました。ブラックパイソンの場所と卵の事を。俺が討伐した時にウジナと共に住処に来てそこで・・・」
「・・・ハア・・・またですか。あの2人は新人や旅人にブラックパイソンの場所を教えて狩りに行かせ、ブラックパイソンがその者を呑み込み動けなくなった所を狩るという卑怯な手を繰り返してます。証拠がないので処分は出来ませんでしたが・・・これで処分出来そうです」
なるほどね・・・やっぱりそうか
ギルドでも怪しんでたが死人に口なし・・・で、ザンサ達はまた卵が孵った後に誰かを向かわせて・・・
ギルド職員は俺に礼を言うとブラックパイソンの住処を聞いて来た。俺は素直に場所を教えると合計700ゴールドを持ちシーナの待つ宿屋へ
起きて・・・ないよな?
なんだかんだでもう夕方・・・宿屋に着いたのは朝でそこから寝てるからもしかしたら・・・そう思いながらシーナの部屋をノックすると返事はない
そろりとドアを開けて隙間から部屋の中を覗くと・・・一気にドアが開かれた
「どこに行ってたのかな?」
あら?怒ってらっしゃる?
覗こうと屈んでた俺を仁王立ちで見下ろすシーナ。どうやら起きて俺が居ない事に気付いていたみたいだ
「ちょっと・・・暇を潰しに・・・」
「ふーん・・・凄い臭うけど・・・」
ぬはっ・・・そりゃあ大蛇の腹の中に居ましたので・・・
「ちょっと・・・まあ・・・その・・・」
言えない・・・信じてもらえないだろうし、言ったら物凄く怒られそう・・・
「アタルって・・・嘘つき?」
「・・・いや・・・その・・・」
嘘つきって思われたくないなあ・・・でも正直に話したら・・・
「私を信用出来ない?」
「それはない!・・・いや・・・今回俺が足引っ張って・・・無計画だわ、金はないわ、寝落ちするわ・・・足でまといになりたくなくて・・・名誉挽回っていうか・・・」
「・・・」
実際カッコ悪いよな・・・もっと俺がしっかりしてればシーナも足を痛める前に何か出来たかもだし・・・
チラリとシーナの顔を見ると何故かキョトン顔。うん?俺変な事言ったか?
「アタルが・・・足でまとい?」
「う、うん。実際そうでしょ?もう自分が情けなくて・・・何か自分に出来ること探したら・・・討伐くらいしか思い付かなくて・・・」
「・・・」
「いや、ほら・・・旅の資金を稼がないといけないなって思ったし・・・暇潰しを兼ねて・・・」
「・・・一緒かあ・・・」
「え?」
「何でもない!それはそうと何をして来たか細かく!正確に!私に話して・・・話はそれから」
シーナは何かが吹っ切れたように晴れた表情だった
俺を部屋に招き入れ、俺は何故か自然と正座をしてシーナが寝た後の事を細かく説明した。嘘偽りなく・・・・・・そして、烈火の如く怒られた




