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剣と魔法・・・時々超能力  作者: しう
アタルの章
291/447

終章 18 ジャハーン

剣を取り上げられ腕を後ろに回せと言われて言う通りにしたら手首を縄で縛られた


そんでもって突然蹴られてさっさと歩けと怒鳴られる


夜で人は少ないがこの格好で歩くのは充分罰になっているような・・・市中引き回しの刑ってやつだ


「ダンナ・・・許して下さい・・・ほんの出来心で・・・」


「うるさい!我々に剣を向けたのだ・・・その場で処刑されないだけマシと思え!」


「ううっ・・・あっしはどこに連れて行かれるんで?」


「牢屋に決まってるだろ!いいからキビキビ歩け!」


よし!狙い通りだ


ちょっと楽しくなって『捕まったこそ泥』風の演技をしてみたが思いの外上手く出来た・・・捕まってる間はこのキャラでいこう


「隊長・・・この仮面・・・外れないです・・・」


顔バレしないように咄嗟に付けた仮面・・・警備兵が外そうとしているが外れず隊長に泣きついた


「馬鹿な事を・・・お前も酔ってるのか?」


隊長はため息をついて俺の手首に巻き付けられた縄を引っ張った


後ろに転びそうになるのを必死で堪えるといつの間にか隊長が俺の前に・・・そして両手で仮面に手をかけて思いっきりひっぺがそうとする・・・が、仮面は外れない


「な・・・なんだこの仮面は・・・」


「でしょ?ビクともしないのです・・・おい!お前!なんだこの仮面は!」


「あっしもとんと分からんのです・・・突然かぶってて・・・あっ、このままでもご飯は食べれるので心配は・・・」


「そんな心配しておらん!もういい!このまま連れて行くぞ!」


念動力で押さえてるからな・・・そりゃあ外せないさ


諦めた警備兵達に連れられて昼間に有栖から聞いていた地下牢へと辿り着く


牢屋は地下・・・これは決まり事らしい。なんでも精霊は地下を好まないらしく魔法使いを捕まえた時に牢の中で魔法を使わせないようにする為だとか・・・なるほど


「ご苦労様です!そいつは?」


「街の外壁に穴を開けようとしていたふてえ野郎だ。明日傷の度合いを調べてから報告して刑期を決める。それまで牢にぶち込んでおけ」


その後警備隊長は守衛に何か耳打ちすると守衛は笑みを浮かべて頷く・・・何の話をしているのか分からないが嫌な予感がする・・・


「はっ!よし来い貴様!」


警備兵が牢屋の守衛に縄を渡し労せず牢屋に侵入成功。これで中にジャハーンが居るかどうか調べられる


中に入るといきなり下に降りる階段があり、その階段で地下へ・・・そして1番手前の牢屋の前で縄を引っ張られたので立ち止まると守衛は鍵を取り出して牢屋の施錠を解除して俺を放り込んだ・・・あれ?縄は?


「おいお前ら・・・コイツの仮面を外せば明日の飯に肉を入れてやる!期限は朝まで・・・朝になったら外した奴は申告するように!以上!」


は?お前ら?・・・薄暗い牢屋の中、目を凝らして見ると今の守衛の声で目覚めた奴らがのそのそと起き上がって来た


守衛はそれだけ言うとまた上に・・・俺はこの牢屋に入れられてる奴らに囲まれてしまった。しかも後ろ手に縄を縛られたまま・・・


「へへ・・・肉・・・肉・・・」「仮面を外すだけで肉かよ・・・美味しいな」「おい俺にやらせろ!すぐにひっぺがしてやる!」


うわぁー犯罪者面した奴らが続々と俺に近付いて来やがる。誰か助けてーっと後退ると奴らは動きを止めた


「俺様を差し置いて肉だぁ?もちろん出たら献上するんだよな?その肉は」


誰だ?声がした方を見てみると座りながら片膝を立ててこちらを見るスキンヘッドの男がニヤリと笑いながら俺を見ていた。すると近寄って来ていた奴らはガッカリした様子で項垂れる


「おいおい早く剥がせよ・・・ほらどうした?」


どうせ苦労して剥がしても肉が奪われるなら・・・そんな感じで意気消沈する奴らを見てスキンヘッドの男は仕方ないと立ち上がり自ら俺に迫って来た


「こんな事も出来ねえのか・・・おいお前・・・自分で外せ。そして明日の朝になったらグルボック様に外されたと言え」


「そうしたいのは山々なんですが・・・見ての通り手首が縛られてて・・・」


「チッ!面倒くせぇ」


そう言いながらのそのそと迫り来るスキンヘッド


近くで見るとかなり大きい・・・2mくらいあるんじゃないか?


「動くな・・・動けば首をへし折るぞ」


んな無茶な・・・手を伸ばしながら明日の肉を想像してかニヤケるグルボック


「勘弁しておくんなまし・・・この仮面は外れねえんでさ・・・ちょ・・・まっ・・・」


「黙れ・・・そんな訳あるか!」


そう言って仮面に手をかけた瞬間に股間を蹴り上げる・・・が、両膝を閉じて蹴りを受け止められた


「てめえ・・・逆らいやがったな?」


この中を牛耳ってるだけあってそこそこ強いか・・・守衛が様子を見に来る前に片付けないとな


蹴り上げた足とは反対の足でグルボックの鳩尾に蹴りを放ち身体を回転させてその間に手首を縛っていた縄を解いた


「ぐっ!・・・てめえ・・・よくも・・・」


「悪ぃな・・・ってここに入れられてるって事は犯罪者だから気にする事はないか。遊んでやるからかかって来い・・・全員でな──────」





「・・・はい・・・すみません、他の牢に誰か居るかは知りません・・・」


代表してグルボックが答えると全員が何度も頷いて知らないアピールをする


まあここで嘘を付いても意味だろうし知らないのは本当なのだろう


話を聞くとここは軽犯罪者が入れられる牢屋らしく奥に行くほど刑が重くなるらしい


「あの・・・アナタは一体・・・」


「知りたいか?命と引き換えになら教えてやってもいいが・・・」


そう言うとグルボックは腫らした顔をブンブンと横に振った


牢屋の中には15人居て一斉にかかって来ても難なく撃退出来た。しかも超能力も気功も魔法も使わずに。そりゃあ魔王とかリヴェンとかと比べると屁みたいな相手だがヒキニート時代の俺には考えられない・・・この中の1人でも瞬殺でやられてただろう。強くなったな・・・俺・・・


「それで・・・何と呼べばよろしいですか?」


これまでボス気取りだったグルボックは他の奴より徹底的に痛め付けたからかなり従順になった・・・けどこのままここで新たなボスをしているつもりは無い


「えっと・・・そこのお前・・・服を脱げ」


15人の中から1人を指して言うとソイツはビクッとした後ガタガタと身体を震わせた。周りの奴らはソイツに憐れみの表情を向けるが・・・何か勘違いしてないか?コイツら・・・


「服を替えるだけだ・・・お前は俺の服を着て守衛の目を誤魔化せ。背格好も俺に似てるし守衛は俺の顔を知らないからな・・・腫れてる顔を見ただけなら何とか誤魔化せるだろ?」


グルボックと同じく俺の指名した奴も顔を腫らせているから牢屋の薄暗さも手伝って何とかなるだろう


「・・・あの・・・その間ボスは?」


「ボス言うな・・・少しこの地下牢を散歩してくる」


「へっ?散歩?」


服を交換し着替え終えると鉄格子に歩み寄る。そして念動力で鉄格子を曲げて人1人が通れるくらいの隙間を作るとそこから抜け出しまた鉄格子を元に戻す


「なっ・・・」


「しー・・・じゃ、頼んだぞ」


指を口の前に立てて静かにするように指示すると地下牢の奥へと歩き出した


仮面のせいで視界が悪い上に薄暗い地下牢・・・壁に手を当てながら奥へと進むと何個かの空っぽの牢屋を通り過ぎた


そして最奥に辿り着くと格子ではなくドアがあり、ドアには覗き窓が付いていた。そこから中を覗くと・・・居た・・・あれがジャハーンか?


椅子に縛り付けられて俯いている人物が。服は着てるが所々が裂けていてそこから血が滲んでいる。ムチか何かで拷問されていたのか?ドアノブを回して中に入るとそいつはゆっくりと顔を上げた


「・・・随分と早いじゃないか・・・もう朝か?」


「朝?今は夜だぞ?」


「とうとう朝夜2回になったか・・・いや・・・お前は・・・誰だ・・・」


「先にこちらの質問に答えてもらおう。お前は・・・ジャハーンか?」


俺の質問にコクリと頷く。やはり捕らえられていたか


「ヴェルテの頼みで様子を見に来た・・・一体何があった?」


「ヴェルテ・・・殿?・・・そうか・・・!・・・そのドアは・・・」


うん?ドア?


振り向くとドアは閉まっていた。別に開ければ・・・と思ったけどドアノブがない・・・もしかして中からは開けられないようになってるのか?


「き・・・君1人かい?外に仲間は?」


「居るけどこの地下牢には来ない。まあ何とかなるだろう・・・その前に」


縛ってある縄を解きホーリーヒールで回復した


ジャハーンは自分の傷が癒えているのを不思議そうに見つめながら椅子から立ち上がり頭を下げる


「かたじけない・・・私の名はジャハーン・・・貴公はヴェルテ殿の?」


「知り合いだ。で?なぜ皇帝の息子が・・・いや、もう皇帝か・・・なぜ捕まってるんだ?」


「それは・・・」


ジャハーンは捕まった経緯を話してくれた


魔王討伐に参戦すべく侵攻を始めたリーシャル達に加わり共に奈落の近くまで来ていた。そこで間抜けな俺は魔王に捕まりリーシャルが連れて来たエルフ族とブルデン王国の兵士達を任され待機していたらしい


途中魔物に襲撃されるも何とか預かった兵士達を無事リーシャルに返しアブラム帝国に帰り着き復興に尽力していたのだが・・・


「余の従兄弟にあたるデュバーンにヴェルテ殿との手紙を見られた。特にやましい事はなかったがデュバーンは先のクルシス侵攻の時に父である元近衛将軍ハサムーンを殺されておりメイザーニクスに強い恨みを持っていた為に余が内通していると疑い・・・」


今に至るって訳か・・・まあ大体予想通りの展開だな


「話は分かった。ひとつ疑問が残るのだがなぜ前皇帝にクルシスが攻めて来る事を教えなかった?自分だけ逃げてればヴェルテとの手紙がやましい事が書かれてなくても疑われるのは当然だろう?」


「・・・前皇帝である父ダハーンは・・・元々クルシス教を受け入れようとしていた・・・」


「なに?・・・どういう事だ?」


クルシスはクルシス教をアブラム帝国が受け入れないから攻めて来たんだよな?ジャハーンの言う通りだとクルシスは攻めて来る必要が全くないような・・・


ジャハーンは途切れ途切れになりながらも経緯を話し始めた


ようは・・・ジャハーンの身勝手な行動が全てを狂わせたのだ


篠塚をクルシスに引き渡した事ずっと根に持っていたジャハーン・・・ヴェルテ伝いで篠塚の事を聞いていた時にヴェルテからクルシスが宗教を広めようとしている事を聞いた。そしてその話をダハーンに・・・当然断ると思っていたがダハーンは受け入れると言った。ジャハーンにとっては宗教よりも篠塚の方が大事・・・街の発展に貢献しただけではなく恐らく恋心も抱いていたのだろう・・・その篠塚を引き渡したのにも関わらず訳の分からない宗教は受け入れるなど言語道断・・・ジャハーンはクルシスが寄越した親書・・・つまりクルシス教を受け入れろという内容の書かれた手紙を無断でダハーンが受け取る前に受け取り断りの手紙を出してしまったのだ


それまでは各国は様子見・・・つまり明確な返答を出さずにいたにも関わらずアブラム帝国は明確に拒否してきた為にクルシスはアブラム帝国を見せしめにする事に決めたのだという・・・


「・・・何してんだ?アホか・・・」


「分かっておる・・・あの時はどうかしていた・・・それでクルシスが攻めて来ると言うので余は手勢を連れてカザムーンを離れ父が宗教なるものを受け入れたら反旗を翻そうと・・・が、結果は知っての通りだ」


「本格的な戦争にはならなかったが前皇帝ダハーンは話し合いをする為にカザムーンの城にクルシスを招き入れ・・・殺された・・・つまり結局ダハーンは自分の意思でクルシス教を拒んだって事か?」


「分からぬ・・・だがそれ以外に・・・むっ!」


部屋の外から誰かがドアノブを回す音が聞こえた。俺は仮面の前で指を1本立ててジャハーンに静かにするようにジェスチャーするとドアが開けられた瞬間に念動力で浮いて天井に張り付いた


「おや?もう起きていたか・・・もしかして待ちきれなかったか?」


「・・・デュバーン・・・」


部屋の小窓から見える外は明るみ始めていた・・・そうか・・・朝の拷問の時間って訳か・・・


俺は天井に張り付きながら二人の会話を聞いてから判断する事にした・・・ジャハーンを助けるか・・・それとも──────

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