1章 24 餞別
冒険者ギルド裏手にある闘技場
その中央に座り談笑する者達がいた
「いやー参った!レギンの女癖の悪さには・・・いっそう去勢するか?」
「そうですね・・・そうしましょう」
「ダルスさんにハムナさんまで・・・さっきまでの殺す殺さないの殺伐とした雰囲気はどこ行ったんですか!」
「バッカ!グモニ、それはアタルに怒られて終わっただろ?後は処分を決めるだけだ。なあ、ハムナ」
「え?解体してくれ?そうですね・・・人体を知るのは医学の大いなる一歩なので・・・」
「言ってない言ってない・・・奥さん、止めてくださいよ」
「まっ、捌くなら血抜きはしといてね!汚れるから」
「奥さーん・・・」
ここに常識人は居ないのか嘆いているグモニを見てピクトスは笑った後顔を引きしめ本題に入る
「さて、冗談はさておき、アタル君とシーナは旅に出てしまう事になるのかな?」
「ええ・・・そうなりますね」
「分かった。では当面の間、国から神聖魔法使いを派遣してもらうとしよう。戦力の方はどうです?ダルスさん」
「・・・そこそこの若者は沢山おる・・・最近は狩りばかりしておったから、育成に力を入れる・・・レギンの教育も含めてな」
「間に合いますか?」
「何もせんよりは良いだろう。それに穴が奈落に通じているのも不明だしな・・・繋がってると分かったら俺が突っ込んでってやるわい」
「それは頼もしい・・・ダルスさん?少し顔色が優れないようですが・・・」
ピクトスがダルスの顔を覗き込むと、ダルスは頬を掻きそのままドカッと座って胡座をかくとハムナを手招きした
「おう!俺の初めてをくれてやる!」
「え・・・ええ!?」
「勘違いするな!神聖魔法だ!・・・これでひとつ自慢出来るもんが減ったわい!ガーハッハッハッ!」
最近・・・目を覚ますと自室以外の事が多いような気がする。今も目覚めると知らない天井・・・そして横を見ると・・・あれ?シーナ?
「・・・おはよう」
「あ、ああ・・・おはよう」
椅子に腰掛け微笑みながらの挨拶をくれた。ありがとう・・・つい感謝したくなる光景だ
そして、ようやく思い出してきた・・・俺はクソジジイに負けた・・・まあ、勝てる気はしなかったが
旅の条件はレギンだ・・・つまり、シーナは俺と・・・
「アタルさんはあの時・・・何を言おうとしていたの?」
あの時?・・・あの時??
「ほら、川辺で・・・途中邪魔が入っちゃったけど・・・」
ああ!あの時か・・・
「その・・・荒唐無稽かも知れない・・・けど必死に考えたんだ・・・シーナは神聖魔法使いだから自由になれない・・・ならさ、神聖魔法使いを増やせばいいんじゃないないかと思って」
「え?」
「ほら!シーナが言ってたじゃん!人はみな魔法使いになれる素養はあるけど、使えるようになるのは偶然だって・・・もし、もしだよ?偶然じゃなくて魔法使いになれる方法があるとしたらさ・・・この町にも数人くらい神聖魔法使いが生まれてシーナも・・・」
「アタルさん・・・ありがとう」
「えっ?」
「確かに神聖魔法使いが増えれば私は・・・。でもね・・・誰もがそこに到達し、誰もが挫折してきた道なの・・・全ての人が魔法使いになる方法は。だから・・・」
やっぱりそうか・・・俺が考え付く事なんて、過去に誰かがやってるわな・・・でも・・・
「そうか・・・じゃあ、挫折しただけで、出来ないって決まった訳じゃないんだね?」
「そう、だけど・・・」
「なら、出来るさ。俺をぶっ倒した人が言ってたよ?出来ると思ったらなんでも出来るって・・・」
「ああ!なんでも出来る!」
くっ!このクソジジイ!人の憩いの時間を邪魔しやがって・・・
ノックもなく入って来たのはクソジジイことダルス。しかも盗み聞きまでしているエロ髭ダルマだ
「なんでえ、乳繰り合ってると思ったが、お子様は会話をお楽しみ中か?」
「チチ・・・ダルスさん!」
「相手にするなシーナ・・・疲れるぞ?」
「小僧!」
「なんだよ!」
「俺の弟子になれ!」
「断る!」
「鋼拳ダルスの一番弟子を名乗る事を許す!」
「人の話を聞け!そして、山に帰れ!山猿!」
「んだと!クソガキ!」
「あんだよ!クソジジイ!」
「・・・2人共・・・親子みたい」
「誰がこんなジジイと!」「誰がこんなハナタレ小僧と!」
むー、思わずハモってしまった。にしてもあんだけ空圧拳で殴ったのにピンピンしてやがる・・・本当に化け物だな
「んん!・・・なあ、アタル・・・実際の話、俺は国内外でそれなりに名が通ってるんだぜ?しかも弟子はとったことねえ・・・旅に出るなら役に立つと思うがな」
「アホか・・・一番弟子って事はクソジジイよりは弱いですって名乗ってるのと同じじゃねえか・・・名乗れるかんなもん!」
「実際弱いじゃねえか!」
「んなもんすぐに超えてやんよ!」
がルルルと喉を鳴らしながら睨み合う。名乗ってられるか・・・この町に残って本当に弟子になりたくなるじゃねえか!
「可愛げのねえガキだ・・・まあいい、本題はこれだ」
ポンと俺が寝ているベッドの布団の上に置かれた物・・・これは手甲?親指を通して拳までスッポリ覆うタイプだ。金属で出来ているがちゃんと関節部分は稼働するようになってる
「急いで造らせたが腕はいい職人だから物は保証する。これでお前のヘナチョコパンチもヘナパンチくらいに格上げだ」
ヘナヘナはしてるのね・・・手に取って付けてみると意外としっくりくる・・・重量もそんなにないし・・・いつの間に・・・
「そんな薄い拳じゃ殴っただけで皮がめくれ骨を痛める・・・それを外して魔物を殴り殺せれば免許皆伝だ」
「弟子じゃねえ!・・・けど、ありがたく貰っとく・・・」
「ひとつ1000ゴールドな」
「高ぇよ!てか、金取るのかよ!」
「当たり前だ!金を払うか、弟子になるか、それとも・・・返しに来るかだ」
「・・・そんなの一択じゃねえか・・・返しに来る・・・」
「1日1ゴールドな」
「結局金取るのかよ!・・・熨斗をつけて返してやんよ」
「フン!その意気だ一番弟子よ!」
「・・・」
ツッコミ疲れた・・・シーナはクスクス笑ってるだけだし・・・
「・・・お前の家はここでなくとも、シーナの家はここにある・・・必ずシーナを親元に返せ」
「ああ・・・てか、この町は俺の町でもあるんだろ?」
「出てったら余所者だ」
シッシッと手首を振りやがった・・・このクソジジイ・・・
結局ダルスは手甲を渡したいだけだったのか、そのまま部屋を出て行った。ようやく嵐が去ったとため息をつくとシーナも同時にため息をつき、互いに見つめ照れ笑いを浮かべた
コンコン
また来客・・・今度は誰だと思ったら、テムラの所の魔法少女エマだった
「お邪魔?ちょっといい?」
「ええ。どうしたの?」
「・・・2人共・・・ブルデン王国に行くの?」
「え?どうして・・・」
「なんかシーナが出て行くような気がして・・・それにそこのローブの人はブルデン王国出身なんじゃないかと思って・・・あんな凄い魔法見た事ないし・・・」
ローブの人言うな。にしても超能力は魔法使いの目から見ても魔法で通じるのか?それなら楽でいいのだが・・・
「うん。私はアタルさんとブルデン王国に行く」
おお、いつの間にか確定してた。これはハムナ公認って事でいいんだよな?
「そう・・・かぁ」
「?・・・エマ?」
「いや、何でもない!お土産期待してるねぇ~」
「うん!・・・エマは隣の部屋に居たんだよね?・・・その・・・レギンは・・・」
「ダルスさんのパンチは当たってないから、気絶しただけみたい。ハア・・・本当に見る目ないわ、私・・・あんなのが良いって思ってたなんて・・・」
「仕方ないよ・・・私も本性表すまで優しい人だなって思ってたし、見た目は・・・まあら私は好みじゃないけど整ってるもんね」
「その言い方・・・フォローになってないよ・・・」
確かにフォローにはなってないな。見た目に騙されたなって追い討ちかけてるだけだし。それよりもエマの奥歯にものが挟まったような物言いに違和感を持つ。何か言いたいような・・・
「いつ出るの?」
「それは・・・」
シーナがこちらを見た・・・もうやる事ないし、レギンがちょっかい出して来たら厄介だから・・・
「明日・・・かな?」
「ええ!?急じゃない?」
「・・・そうかな?」
やっぱり急すぎ?チラリとシーナを見ると微笑んで首を振った
「いえ・・・明日、行きましょう」
力強く言うシーナ・・・決意の固さって言うより、楽しみで仕方ないって感じだ
「敵わないなあ・・・その決断力には。いつ頃戻る予定?」
「それは・・・」
再び俺を見るシーナ。行き当たりばったりだから決めてないってのが答えだけど・・・
「結果が出たら戻るつもり・・・もし結果に行き詰まっても、そんなに長い間滞在するつもりはないから・・・」
「結果?」
「全ての人が魔法を使えるようになるにはどうすればいいか・・・その結果」
「ぶっ・・・何それ・・・そんなの・・・」
「取っ掛りでもいい・・・魔法を使えるようになるのがただの偶然か、否か・・・それが分かるだけでもいい」
疑問に思ってた。偶然使えるようになるのに、なぜ全ての人に魔法を使える素養があると分かっているのか・・・そこが分かれば何かのヒントになるかもしれない
「凄いテーマの旅ね。でも魔法が使えるあなたが追う必要があるの?そのテーマ。魔法が使えない人が思い悩むならまだしも・・・」
「・・・神聖魔法が使える人が増えれば・・・色々と助かるだろ?」
「・・・あーね。お熱いことで・・・どうやらお邪魔だったみたいね。お土産、よろしくねシーナ」
「ちょっと!エマ!?」
エマは振り返らず部屋を出て行ってしまった。変に勘繰るなよな・・・意識してしまうじゃないか・・・女の子と2人旅・・・いや、考えるな・・・違う・・・違うぞ!アタル!
何となく気まずい雰囲気・・・ピーンと張り詰めた空気の中、ただただ時間だけが過ぎていった




