1章 23 VSレギンと・・・
さてと・・・状況を整理しよう
俺はレギンを滅多滅多のギッタギッタにして、クソジジイに教育的指導をお願いして、シーナと魔法探求の旅に出る・・・だったはず。それが・・・なんだこの状況は?
まるで天下一を決める武道会のような場所でレギンと向かい合う
周りにはシーナ、クソジジイ、ハムナ、レジー、ギルド長、課長、テムラ一行・・・どうしてこうなった!?
「隊長に言いつけるなんて酷いじゃないか・・・アタル君」
長髪をなびかせてニコニコ言うレギン・・・目はもちろん笑ってない
「訓練中に手が滑って背中を傷付けてしまったのは謝るよ・・・人を呼びに行っている間に居なくなるからびっくりしたよ」
ってストーリーな訳ね・・・そして口裏合わせろコラみたいな顔してる
「あー、なるほど・・・じゃあ、『何度でも同じ目に合わせてやる』とか『シーナをどうとか』も訓練中の独り言だったんですね。良かった良かった」
その言葉に凄い威圧が3つ・・・俺に向けられたレギンの威圧とレギンに向けられたハムナとテムラの威圧・・・魔法少女のエマはえっ?て顔してレギンを見ていた
「そう言えば彼女が10人いて、その内のチャコさんが来月結婚するから・・・シーナかエマのどっちかを狙っていいかって言うのも・・・訓練中に出た大きな独り言ですかね?」
「・・・」
あらー、目が座ってるよ・・・髪をかきあげる仕草を止めて、こちらを見てるけど、まだまだある事ない事言いふらしちゃろうか?エマの軽蔑するような視線が堪らん
「それにしても女に飽き足らず男まで手を出すとは・・・どんな訓練をしてたのやら」
ギリッと音が聞こえた・・・歯・・・割れるよ?そんなに食いしばると・・・
「・・・あんま調子に乗るなよ?てめえなんざ数秒で細切れにしてやんよ」
「あー、剣が抜けないとまたこの前みたいに殴られちゃうから・・・最初っから剣抜いてるのか・・・賢い!」
「シッ!」
おいおい、始めの合図もないのかよ
我慢の限界が来たのかレギンは俺に向かって真っ直ぐ突っ込んで来た。もちろん抜き身の剣を片手に
相当あの殴られたのがショックだったんだな・・・眉間のシワが凄いことになっとる・・・怖い・・・
5mくらい離れた場所から一気に間を詰めるレギン。やっぱり身体能力は段違いだ・・・あっさり斬られてしまいそう・・・念動力がなければ
考えたんだが、念動力って言葉の通り、念じて動かす力、なんだよな。で、力の上限は使ってると増えていく・・・今の俺なら大岩すら余裕だ。つまり何百kgの重さがある物も念じただけで動かす事が出来る
「ぐっ!・・・なっ!?」
当然レギンなんて余裕だ。軽過ぎて欠伸が出るよ・・・多分向かって来る突進力なんかも体重に加算されるんだろう・・・感じた重みは体重のそれよりだいぶ重かった・・・まあ、それでも余裕だけど
「てめえ・・・何しやがった!?」
無様に動けなくなったレギンが叫んでる。ここで面白い格好とかさせればウケるかと思ったが、課長とか居るのでおふざけはやめておこう
さて・・・『理力斬』と名付けたが、どうやら違ったようだ。MPを消費して・・・って意味では合ってるのだが、俺の超能力はあくまでも念じて動かす力・・・じゃあ、なぜスパスパ切れるのか・・・それは俺がある物を動かしてたからだ
それは・・・空気
クソジジイが金楼館で言ってた事がヒントになった
高位の風魔法を使った・・・風・・・つまり空気の流れだ。目に見えないが空気はそこに在る。それを念じて動かし鋭い刃のように切り刻んでたんだ。レギンを殴った時もそう・・・拳に痛みがなかったのも、殴る際に生まれた風圧を更に増幅させてレギンにぶち当てた
「魔法か!?・・・くそっ・・・汚ねえぞ!!」
何が汚いのやら・・・剣で武装しているレギンと超能力で武装している俺・・・対等だろ?
さて、身動きの取れない優男をどう処理しようか・・・別に殴らなくても空気を操ってボコボコにする事は可能だし、切り刻む事も・・・でもそれだと残忍ショーみたいで気が引ける・・・徹底的に力の差を分からせるには・・・うーん
倒し方を考えているとレギンはワキワキと指を動かしていた。完全に相手の動きを掌握出来る訳じゃないんだな・・・まあ、喋ってる時点でお察しか・・・うん?そうだな・・・これを使うか
俺はレギンの手に持つ剣を奪い取る・・・と言っても手で奪い取るのではなく、あくまで念動力で。近付いて万が一動かれたら斬られてしまう・・・それは避けなくてはならない。なんてったって今回は本来の力のお披露目・・・圧勝が条件だ
レギンの手から離れた剣はひとりでに動き出しクルクル回ると剣先をレギンに向ける。まるで剣に裏切られたーみたいな顔をしているが、剣に意思はないよ
「さて、俺も訓練中に誤ってお前のどこかに当ててしまいそうだが・・・どこだと思う?」
「・・・これを・・・お前が・・・一体どうやって・・・」
「会話が噛み合ってないな・・・俺はどこだと思うか聞いているんだが・・・」
必要ないがわざと人差し指を立ててさもそのゆびが操っているように見せる。まあ、こうやった方がイメージはしやすいし、全く必要ないかと言われればそうでもないが
「調子に乗るな・・・こんなもの・・・」
おーおー、頑張っとる・・・ふと周りに視線を向けるとみんなの顔が恐怖で歪んでいるように見えた・・・そりゃあそうか・・・こんな得体の知れない力を使われたら・・・な
でも2人は違った。シーナとクソジジイ・・・真剣な眼差しで俺を見てる・・・シーナ・・・そうだ・・・コイツは下手したらシーナを・・・
沸々と湧き上がる感情・・・怒りに支配されそうになるが、首を振ってかき消した。怒りに任せて力を使えば・・・俺はレギンを殺してしまう・・・それはダメだ・・・なら・・・
俺は無言で近付くと剣を操り手に取った。念動力で動かしただけだと罪悪感も薄い・・・俺の自らの手で・・・
「ぐあああああ!」
ズッと手に持った剣を腹に押し込む・・・たかが数cmなのに情けない奴だ・・・
「お前が・・・シーナを狙った事は・・・許せない」
更に奥へと押し込む・・・感触が伝わって来る度に激しい嫌悪感を感じる。でも、コイツは・・・コイツだけは・・・
「そこまでだ、アタル」
いつの間にかダルスが俺の腕を掴んでいた。デカい図体してる割に素早いし気配も全く感じなかった・・・
「ダルスさん!俺は・・・」
まだコイツに・・・二度とふざけた事をしないように恐怖を植え付けられていない!
「てめえシーナを・・・狙ったってのは本当か?」
「あぐ・・・ああ・・・」
いつものダルスじゃない・・・怖い・・・身が竦むような怒気・・・気付くとダルスは拳を握っていた・・・その腕からメキメキと音が鳴る
「ちがっ・・・そいつが・・・」
「アタルの傷を見てもしかしてと思ってた・・・だが、お前に対する甘えがその思いを否定しちまった・・・女はダメだ・・・泣かせちゃ・・・傷付けちゃダメなんだよ」
「ヒィッ」
ダメだ!俺じゃあダルスの拳を止められる気がしない・・・どうする・・・このままじゃダルスは・・・くそっ!
「死ね」
ボッと音と共に何が俺の前を通過した。風が起こり前髪が浮き、身体すら仰け反らせる。この突きを食らって生きていられる人間なんて居るのかったくらいの迫力・・・食らえばだけど
「アタル・・・てめえ・・・」
殴り掛かる前にレギンの身体を下に動かしていた。結果、レギンは意志とは関係なく仰向けに寝そべり、ギリギリでダルスの拳から逃れる
「うるせえしゃしゃり出て来んじゃねえ!クソジジイ!」
ジジイにレギンは殺させない!
「あんだと!?もう勝負はついた!後は鋼牙隊の問題だ!」
「ふざけんな!散々好き勝手やらせといて今更隊の問題だと!?」
「ああそうだ!」
「くぉの・・・レギンを殺して終わりか?」
「いや・・・隊は解散・・・俺は刑に服す」
だろうな・・・そうだろうと思ったよ・・・
「町に危機が迫るかも知れねえ時にか?」
「それとこれとは話が別だ・・・危機が迫ってるからと言って罪を償わなくていい理由にはならねえ」
「これまで散々放置して来たのにか?どうせ彼女が10人いることも知ってたんだろ?」
「数は問題じゃねえ。泣かせなきゃそれでいい」
「じゃあ、影で泣いてる人はいないんだな?」
「・・・」
「前に・・・レギンがシーナを連れ去ろうとした・・・それを止めたのはテムラだ・・・それが初犯でシーナを斬ろうとしたのが二犯目・・・そんな戯言が通ると思ってんのか?」
「・・・何が言いたい?」
「散々見逃しといて都合が悪くなったら殺して終わらせようとしてんじゃねえよ!親友の息子だァ?こっちにゃ全く関係ねえ!素行不良はアンタの責任じゃねえのか!逃げてんじゃねえよ!」
「言わせておけば・・・小僧!!」
よ、よし・・・怒りが俺に向いた・・・てか、何この迫力・・・チビりそうなんですけど・・・
「俺に上等切るからには覚悟は出来てんだろうな?」
「アンタの教育に対する覚悟よりは出来てんよ」
さて、どうしよう。直感的にあのパンチは止められないと思う・・・うん。多分ダルス自身も止められない・・・大岩より軽いだろうけど、力を加えたら大岩以上だ・・・となると先手──────
あれ?地面と天井が交互に・・・叩かれた?・・・なんつー速さだ・・・多分平手打ちが頬に・・・やばい・・・意識が飛びそう・・・このまま意識が飛ぶとどうなる?・・・分からん・・・分からんけど!
平手打ちを食らいクルクル回る自分の身体を操る。何とか回転を止めて出来るだけダルスのそばから離れて着地した
「ってぇ・・・ジジイ・・・」
親父にも打たれたことないのに的な発言をしようとしたが、誰も元ネタ分からないだろうから止めといた
口の中が切れたが意識はハッキリしてる・・・ただひとつ分かる事は、同じ位の打撃を食らえばもう起き上がれない・・・これだけは確かだ
それだけ強烈な一撃だった・・・化け物だな、やっぱり
「フン!口だけか!他愛もない!」
「アンタが強過ぎるんだよ!人類してろ!クソジジイ!」
口の中に溜まった血を吐き出し、どうするか考える。って、どうするもねえか・・・当たって砕けろだ!
「むっ!?」
空気を動かしダルスに離れた場所から打撃を与える・・・名付けて『空気パンチ』・・・いや、効きそうにないからその名はやめておこう・・・空気の圧力の拳・・・『空圧拳』・・・ま、まあ、こんなもんか
『空圧拳』は様々な角度からダルスを襲う。経験豊富そうなダルスも経験ないだろう・・・1体1なのに袋叩きにされる経験は
見ている者達には打撃音が聞こえるだけ・・・でも、実際は数多くの打撃がダルスにヒットしている・・・だが・・・
「ええい!邪魔くさい!男ならドンと来い!」
さほど効いてなくても絶え間なく打ち込まれるのはイヤみたいだな。では、ご期待に応えて・・・ドン!
「ぐっ!」
かなり力を込めてぶつけたが、それでも倒れない。腹部に当てて少しくの字になるが、すぐに体勢を戻し俺を見据えた
「いいぞ!もっと来い!」
マゾか!ダルスも口から血を出している・・・効いていない訳では無い・・・真っ向から・・・くそっ!
自分で自分の身体を操り、浮遊している時の要領で一気に間合いを詰める
遠くからの打撃じゃなくて、俺の拳でダルスの腹を打ち抜いた
「あ、相変わらず・・・へ、ヘナチョコパンチだな」
「ああ・・・にしても高い壁だな」
俺はその言葉を最後に意識を失った
「アタルさん!」
ダルスさんがアタルさんの背中に拳を振り下ろすとアタルさんは崩れるように倒れてしまった
私は我慢出来ずに駆け寄ると急いで意識を集中させる
「敬愛なるレーネ様・・・御力を私にお貸し下さい・・・ヒール」
意識は失ってるけど傷はこれで癒えたはず・・・後は・・・
「ダルスさん・・・ヒールを」
「要らねえよ!おい、そこの若いの2人!とっととこの2人をギルド内の休憩所に連れてけ!」
ダルスさんが指名したのはテムラとディジー。2人は困惑していたが、ダルスさんの迫力に押されて1人づつ担いで運んでくれた。テムラはどうしてもアタルさんを運ぶのがイヤだったらしく、嫌々ながらレギンを運んでた
私も彼らの後を追い、ギルド内へと向かう・・・施設に入る前にチラリと振り向くとお父さんと目が合った。お父さんは少し寂しそうに微笑む・・・私はその意味が分かり頭を下げてアタルさんの元へと急いだ




