1章 22 決意
あれ・・・ここは・・・礼拝堂?・・・俺は確か・・・
「小僧は無事なのか?」
「ええ・・・傷はもう完全に回復しました。後は意識が戻るのを待つだけです・・・たまたまダルスさんが通りかかってくれなければ間に合わなかったでしょう」
「お前さんの娘も神聖魔法使いだろ?」
「あの取り乱しようではまともに魔法は使えなかったでしょう・・・相手は・・・」
「ああ、ウチのレギンだ。処分は俺が・・・」
「勝手な事を・・・すんなジジイ・・・」
「アタル君!」
「・・・アタル」
身体を起こした俺は会話を聞いて状況を把握した
レギンに斬られた後、気を失った俺はダルスによって教会に運び込まれハムナの治療を受けた・・・ってところか
「アタル君!傷は治ったが血が流れ過ぎている・・・安静にしていなさい」
「勝手な事ってのはどういう事だ?アタル」
「ダルスさん!」
ダルスを止めようとするハムナを押し退け立ち上がると、俺はダルスの前に立つ・・・これが貧血ってやつか・・・フラフラしてまともに立てやしない
「決まってんだろ?レギンに手を出すな」
「あ?斬られた奴がよく言うわい!放っておけばまた斬られるぞ?今回は俺がたまたま・・・」
「一勝一敗だ」
「あん?」
「レギンと俺の喧嘩は・・・まだ一勝一敗・・・勝負はついちゃいねえ」
「・・・死ぬぞ?」
「レギンがか?」
「お前がだ・・・アタル」
「・・・町で殺しは許さねえとか言ってたアンタの言葉とは思えねえな・・・なんであんな狂犬を狩ってやがる」
「腕が立つ」
「おい!そんな・・・」
「それにあいつは・・・死んだ親友の子だ・・・」
「ジジイ・・・てめえ・・・」
「だから俺が処分する・・・それが俺の責任だ」
「ジジイ・・・手を出しやがったら・・・」
ダルスは俺を見て何も言わずに教会を去って行った。最後の顔があまりにも寂しそうで・・・そんな顔すんなよ・・・ジジイ・・・
「アタル君・・・とりあえず座って!」
ハムナさんに言われて俺はすぐ近くにある椅子に腰かけた。身体が思い通りに動かない・・・目も回るし最悪だ・・・
「何があったんだい?」
「・・・シーナは?シーナは無事ですか?」
「あ、ああ・・・今は自室でレギーが看てくれている」
「そうですか・・・」
「本当に・・・鋼牙隊副隊長のレギンに斬られたのかい?」
「ええ・・・その・・・色々とありまして・・・」
「濁さないでくれるかい?君だけでなく、シーナも巻き込まれてるんだ・・・私にも知る権利はあるだろ?」
「・・・はい。その・・・状況ははっきりと分からないんですけど、どうやらレギンがシーナに絡んでて・・・それを止めようとしたテムラをレギンはボコボコにしてて・・・ちょうど俺が通りかかって止めようとしたらレギンの頬にいいのが入っちゃって・・・逆恨みって言うか・・・多分それでレギンは俺を狙って・・・」
「シーナが・・・レギンに?」
「俺が悪いんです!俺が鋼牙隊に用事があるって嘘ついて戻って来なかったから・・・シーナは鋼牙隊のレギンに声をかけて、俺の居場所を聞こうとしたのがきっかけなんです・・・俺が嘘をついてなければ・・・」
「なぜ嘘をついたんだね?」
「・・・俺・・・冒険者になって・・・稼いで・・・町を出ようとしてて・・・でも、シーナにその事を話したら・・・心配してつい来るかと思って・・・シーナは優しいから・・・でも、俺にはシーナを守れる自信がないから仕方なく・・・」
「そうか・・・親としては・・・複雑だよ。確かに君の言うようにシーナは心優しく育ってくれた。恐らく危険が伴う場所に君が行こうとしたら、止めるか同行するか選択しただろう・・・だから君の嘘が優しさなのは分かる・・・が、君は嘘をつきシーナの心を傷付けた・・・レギンどうこうは関係なく・・・君はシーナを説得する事から逃げ、その場凌ぎの嘘をつき、結果シーナの心を傷付けた・・・君の思いも分かるけど・・・複雑だね」
そう・・・俺は逃げてしまったんだ。守れる自信がなかったっていうのもただの言い訳・・・レギンとの揉め事がなければ・・・シーナが俺を探しに来なければ・・・俺は何食わぬ顔して嘘を突き通していた・・・
「話は分かった・・・それで君は今からどうするつもりだい?まさかあのレギンと再戦するつもりじゃ・・・それとも町を出るのかい?」
「・・・」
言うべきか・・・俺が町を出ればシーナが・・・ただの脅しとも考えれるが、もし万が一・・・やはり俺は・・・
「レギンと・・・決着をつけます」
「そうか・・・まあ、ダルスさんにも言ってたしな・・・私としてはこのまま町を出ることをおすすめするが・・・それとダルスさんが君の傷を見て怒りを顕にしていた・・・なぜ背中に?逃げようとしたのかい?」
「違います!あれはレギンがシーナを・・・」
あっ・・・しまった・・・
「シーナを?」
「違うんです・・・多分俺が庇うのが分かってて・・・それで・・・」
「レギンは・・・シーナを斬ろうとした?・・・それを君が庇って・・・斬られた?」
「その・・・あの・・・はい・・・」
「君は!なぜ・・・なぜその事をダルスさんに!・・・・・・もういい・・・分かった・・・私が町長に掛け合う。私達かレギンか・・・どちらか一方を取れと・・・」
「ハムナさん!俺に・・・もう一度俺にチャンスを下さい!」
「チャンス?君がレギンを殺すというのかい?」
「いや・・・殺しは・・・」
「だったら!いずれ居なくなる余所者が口を出すんじゃない!今レギンを叩きのめしても・・・いずれ逆恨みしてシーナに被害がないと言い切れるか!?その時・・・ここにいない君はシーナを守れるのか!?」
「・・・」
「部外者は黙っててくれたまえ・・・私はシーナを守る為に全力を尽くす・・・それだけだ・・・」
初めて・・・ハムナの怒った顔を見た・・・当然だよな・・・怒って当然だよ・・・あのクソ野郎は死んで当然・・・でも・・・
「ハムナさん・・・奈落ってご存知ですか?」
「・・・何を唐突に・・・もちろん知っているが、それがどうしたと言うんだね?」
「先日・・・町長とギルド長、ダルスさんと食事した事は話しましたよね?」
「ああ・・・聞いているよ・・・」
「その時・・・森の中に奈落に通じる穴を発見したかも知れない・・・そう言ってました」
「まさか!・・・森の中で?そんな・・・」
「まだはっきりと分かった訳ではありません。国に調査隊の派遣をお願いしたと言ってました・・・そしてこの町の防衛を固めると・・・」
「何が言いたい?」
「恐らく・・・事が大きくなれば・・・レギンかハムナさん・・・どちらかが街を出ることになれば、十中八九レギンが出ることになるでしょう。ですが、ダルスさんが・・・この件で黙ってると思いますか?俺は思いません・・・多分ダルスさんはケジメをつける為に鋼牙隊を解散なり、レギンと共に町を出るなりすると思います」
「ダルスさんが?・・・そんな馬鹿な・・・」
「ダルスさんの去り際の顔、見ましたか?寂しそうな・・・思い詰めた顔をしてました・・・俺はそれだけレギンを大事に思ってるんだと思ったんです・・・背中の傷を見て全てを察したのに・・・あの威風堂々としたダルスさんが卑怯な手を使ったレギンを罰し切れずに思い悩んでたんです・・・もしダルスさんがレギンを処罰するなら・・・ダルスさんはレギンを殺して自らも罰すると思います・・・奈落に通じる穴があるかもしれないという状況で!」
「つまり君は・・・来るかも分からない災害の為に我慢しろと?」
「違います・・・シーナの事を考え・・・なおかつ町の事を考えるなら・・・取るべき道はひとつ・・・それは──────」
俺は奈落何てものは知らない・・・町に愛着もないし、ぶっちゃけ知り合い以外がどうなったって・・・知ったこっちゃない・・・でも・・・シーナやクソジジイが悲しむ顔は・・・見たくないんだ・・・
「それは──────俺がレギンを真っ向から挑んでぶっ飛ばし、シーナを連れて町を出ます!」
「バカな・・・何も解決してない・・・そんなのは・・・」
「逃げてはいません!正面からぐうの音も出ないくらい叩きのめし、クソジジイ・・・ダルスさんに性根を鍛え直してもらいます・・・しかし、不安が残るのでしばらくシーナは俺と一緒に旅に出ます・・・ほとぼりが冷めるまで」
「帰って来たらレギンが改心している保証はない!」
「その時は・・・俺がレギンを殺し奈落とやらも埋めてやりますよ・・・」
「それが出来るなら今すぐやればいい!」
「レギンはともかく・・・クソジジイが仲間を求めている相手に出来るとは言えません・・・今は・・・でも、必ず・・・帰って来たら出来るようになってみせます」
「君は奈落を知らないからそんな事が言える!奈落から有象無象の魔物が現れ・・・この世は混沌に満ちる・・・それを君がどう出来ると?」
「出来ます!俺の本来の力が使えれば!」
「本来の・・・力?」
言っちまった・・・でも後には引けない・・・俺は・・・シーナを置いて行けない・・・でも、行かなくてはならない・・・なら・・・俺はシーナを連れて行く!
「・・・レギンとの戦い・・・それで証明してみせます・・・俺が奈落を相手に足るかどうかを・・・」
「・・・これ以上何を言っても無駄なようだね・・・見せてもらおう・・・君の本来の力とやらを・・・ただし私はダルスさんみたいにこの町を愛している訳では無い・・・少しでも私の家族が危険に晒されると判断したら・・・私は町を捨て他の町に行くだろう・・・それを忘れないでくれ・・・」
「・・・はい」
ハムナは俺の返事を受け取ると奥の部屋へと消えて行った
ハア・・・勢いでとは言ええらい事になったな・・・シーナの承諾を得ずに連れて行くと言ったり、奈落をどうにかすると言ったり・・・本来の力って・・・ハア・・・
はっ!お母たま!?
階段の所でじっと俺を見つめるレギー・・・もしかして全部聞いてた!?
「・・・シーナを連れて行くって?どこか安全な町に避難させれば済む話じゃないか・・・それかダルスさんに言えばもっと上手く解決してくれる・・・連れて行く意味が分からないねえ」
「それは・・・俺の横が・・・世界一安全になるからですよ」
「言うね・・・さっき傷付いて運ばれて来た男が言うセリフとは思えないね」
「ですよね・・・でも俺は・・・絶対にシーナを守り通してみせます!」
「なんだいその結婚の挨拶みたいな言い草は・・・アホらし・・・ほら、食事の準備手伝いな、シーナ」
へ?シーナ?・・・レギーが階段から出て来るとすぐ後ろにシーナが・・・え・・・嘘・・・しかも泣いて・・・えっ・・・泣くほどイヤとか??
「・・・期待してます・・・アタルさん・・・」
ドクン
泣きながら微笑んだシーナの顔を見て心臓が大きく高鳴った
『期待してます』・・・ここから・・・連れ出してくれる事を?
「嫁ぐにゃ早いと思うけどねえ・・・ワタシは」
「とつ・・・お母さん!」
顔を真っ赤にしてレギーに怒鳴るシーナ・・・俺はこの子に・・・外の世界を経験させてやりたい・・・そう改めて思った




