4章 1 シューリー国の場合
シューリー国王都メンクス
「で?何が言いたい?」
メンクス城の執務室で椅子に座り無表情で四星拳北のスザクの報告を受けたシューリー国国王のシュラの声色は怒りを多分に含んでいた
「心中お察ししますが国王様・・・これはメイザーニクス共和国との関係を悪化させない為にも受けるべきかと・・・」
スザクはシュラの顔色を伺いながら慎重に言葉を選び発言した。ひとつ言葉を間違えればせっかく進めていた外交も水の泡・・・それどころか戦争に発展しかねない状況に胃がキリキリと痛み出す
「勇者が神剣と使徒を探してる・・・だから国に入れろと言うなら勝手にしろ・・・だがそれ以上を求めるのは許さん。それと問題を起こせば叩き出す」
「・・・国王様・・・」
メイザーニクス共和国から親書が届いた
そこには勇者がシューリー国を訪れた際に丁重に扱えと回りくどく書いてあった。もちろんシューリー国としても魔王を勇者に倒してもらわねば国が滅んでしまう。なので以前ならシュラも普通に従っていたのかもしれい・・・だが・・・
「スザク・・・メイザーニクスが勇者を囲ってるのも気に食わんし、メイザーニクスの上から目線も気に食わん・・・が、それよりも我が国の四星拳に手を出しておいて謝罪の言葉がひとつもないのが一番気に食わん!」
「・・・勇者から謝罪があれば今回の話は受けると?」
「受ける訳ないだろうが!喧嘩を売ってきた相手に頭を下げる阿呆がどこにいる!謝罪した後に首を切り落とされるか自ら首を落とすかの二択だ!それ以下は飲めん!」
「勇者が死ねば世界は滅びますよ?ひいてはシューリー国の国民全てが死に絶えるのです・・・それでも勇者の首を切り落としますか?」
「・・・魔王なんざ俺が・・・」
「国王様・・・個人の感情ではなく国王としてお答え下さい・・・勇者を拒絶し国と共に滅ぶか苦渋を飲み受け入れ共に魔王討伐に尽力するか・・・」
「おいコラ・・・苦渋を飲むってのはどういう意味だコラ・・・俺に喧嘩売ってんのか?」
机を叩き椅子から立ち上がるシュラ・・・スザクは直立不動のまま喉を鳴らすと覚悟を決めてシュラに歩み寄り同様に机を叩いた
「それが!国王としての言葉ですか?感情で行動し国民を危険に晒す事も厭わないと?いい加減にしろ!」
「・・・てめえ・・・」
「・・・国王様・・・彼は救国の英雄と言っても過言ではありません。そして国王様にとって唯一無二の友かも知れません・・・今のシューリー国があるのも・・・彼のお陰です。彼と全国民を天秤にかけろとは言いません・・・が、国王として・・・どうか賢明な御判断を・・・」
暫く睨み合う2人・・・やがてシュラは椅子に腰掛け大きく息を吐くと天を仰いだ
「なあイーフォン・・・お前はどう思う?」
「クソ勇者を囲ってるメイザーニクスの野郎共をボコボコにして、クソ勇者を細切れにすれば良いと思っています」
「スザクとしては?」
「表向きは従うふりをして、裏では舌を出します・・・『魔王討伐後は覚えてろよ』と」
「ハッ賢明だな・・・俺に我慢出来ると思うか?」
「思いません・・・そう言えば新婚旅行とやらがまだでしたね。確かワッテート大陸にジュラ様の親戚が居るとか・・・どうでしょうか?この機に外の世界を見て来るのも王としての資質を高める事にも繋がるのでは?」
「・・・お前・・・最初から企んでやがったな?」
「苦肉の策ですよ。国王様が我慢出来ると判断した時は言わないつもりでしたし・・・」
「俺を試したか・・・」
「国王としては残念な結果なのでしょうね・・・ですが、心の中では『それでこそシューリー国国王シュラ様だ』と賞賛する私もいます・・・執務をこなす者としては複雑な心境です」
国の舵取りを一手に率いるスザクだからこそ国の発展を第一に考え今回はメイザーニクス共和国の言う通りに行動するのが吉であると判断していた。しかし反面、それをシュラに強いるのは酷であることも重々承知であるが為にシュラに耐えるのではなく国を離れるといった案を考えていた
「悪ぃな・・・恩に着る」
「着てください。私は国王様が留守の間にクソ勇者の相手をしなくてはならないのですから・・・」
「おいおい、イーフォンが出てるぞ?」
「おっと・・・気を付けます。それとランラさんの事ですが・・・」
「連れて行く訳には・・・いかないか・・・スザク・・・ランラに聞いてもし・・・」
「いけません・・・そればっかりは・・・」
「だよな・・・くそっ・・・胸糞悪いぜ・・・」
「ケアは全力で行います・・・今もゲンブとヤクモが当たっておりますし・・・」
「・・・後で俺も行こう。・・・やっぱりランラも連れて・・・」
「ダメです」
キッパリと言うスザクにシュラは項垂れた。ランラは精霊王・・・9人の使徒の1人である。それは勇者と行動を共にする事が逃れられない運命である事を示していた
シュラは顔を上げるとランラの事を慮りながら窓を見る。ちょうどその方向にはつい最近建設を終えて運営が開始された魔法学校があった──────
「・・・のように精霊に願い魔法を行使する精霊魔法と自分の魔力を使用して放つ属性魔法に分けられます。どちらも魔力は消費しますが、精霊魔法はほんの少し・・・属性魔法は放つ魔法によりけりですが、精霊魔法と比べ物にならないくらい消費してしまうのです」
「先生!なら精霊魔法だけで良くないですか?」
「そうですね。近年はその考えが強く、ブルデン王国でも精霊魔法が主流となっていました。精霊魔法ならば魔力の量が少ない人でも大魔法が使える・・・と。しかし精霊は気まぐれで好き嫌いが激しく、必ず言う事を聞いてくれる訳ではありません。居酒屋魔物の前で精霊にそっぽ向かれたら・・・そう考えると精霊に頼りっきりは危険だと言わざるを得ません」
「魔力の消費を抑える為に精霊魔法を・・・いざと言う時は属性魔法を・・・って感じですか?」
「それが最も効率が良いと思います・・・そろそろお昼みたいですね。午後からは外に出て実際精霊にお願いしてみましょう。では解散」
「ありがとうございました!」
まだ木の香りがする真新しい教室でランラが午前の授業の終わりを告げると生徒達は立ち上がりランラに向かって一礼した
生徒は老若男女様々であり、子供以外はみな仕事を休んでランラの授業を受けに来ている。その為毎日授業を受けれる訳ではない為に週に2度だけ学校を開き授業を開催していた
「私が聞いてもさっぱりだな・・・本当に私も使えるようになるのか?ランラ」
教室の外でランラの話を聞いていたユンが生徒達と入れ替わりで教室へと入って来た。ランラは授業で使った教材を片しながらユンの方をチラリと見る
「いつから来ていた訳?・・・そうね・・・獣人族は無理だとしてもそれ以外の種族は使えるはずよ」
「ふーん・・・私も習ってみようかな」
「特別料金で教えてあげようか?」
「いや、授業は無料だろ・・・ったく・・・ランラ、少し時間あるか?」
「・・・午後の授業までの間なら・・・」
「・・・今日の朝、メイザーニクス共和国から手紙が届いたらしいの・・・内容は勇者が残りの9人の使徒と神剣を探しにシューリーにやって来る・・・って事が書かれてたって」
教材を片していたランラの手が止まる。それを見てユンは一瞬言葉を詰まらせるがランラの様子を伺いながら話を続けた
「勇者はメイザーニクスを拠点として魔王討伐の準備を進めている・・・アンテーゼという町に出現した『奈落』・・・そこから這い出てくる魔物は日に日にその数を増しているらしく・・・未だ準備が整っていない事に焦りを感じているのか手紙の内容はかなり高圧的だったらしいわ」
「・・・そう」
「正直・・・シューリー国としては受け入れ難い・・・勇者を国に入れる事さえ嫌悪感ありまくりなのに国を挙げて勇者に助力するなんて・・・」
「・・・魔王討伐の為には仕方ないんじゃない?」
「・・・なら、ランラは・・・なぜ勇者の元に行かないの?9人の使徒として・・・」
「時が来れば行くわ・・・全て揃わなければ魔王は倒せないはず・・・私が今合流しても最後に合流しても結果は一緒・・・なら私以外の全てが揃った時に行けば・・・」
「確かにそうね。でも勇者は9人の使徒に関しては自らの足で来いと言ってるの・・・煩わせるな、と。他の使徒は知らないけど精霊王は自分が使徒だと分かっているはずだから向かわなければ立場が・・・」
「立場なんてどうでもいい訳・・・私には私の都合がある・・・ただそれだけよ」
「そう・・・よね。でも勇者がここに来たら・・・どうするの?」
「・・・」
「ごめん・・・嫌な質問をしているって言うのは分かってる。彼は私にとっても国にとっても大恩人・・・彼が居なかったらシューリー国は螺拳のものになってたし・・・私はヤクモと結婚も出来なかったはず・・・考えるだけでゾッとする・・・その彼を勇者は・・・だけど・・・」
言葉を詰まらせながら言うユンを見てランラは教材を机の上に置いた。そしてフッと短く息を吐くとゆっくりと首を横に振る
「ユン・・・勘違いしているわ・・・彼は勇者になんかやられない」
「え?・・・でも・・・」
勇者がメイザーニクス共和国を通じて大陸中に発表した
聖女候補と思われる少女を殺した罪で、ある男を始末した、と
なぜその事を大々的に発表したかは不明だが、彼を知る者には衝撃的であった。正義の象徴とも言われる勇者がなぜ、と。特にシューリー国には動揺が走る。広く知られた彼の存在があたかも悪であったとされたのだ。中には勇者は偽物だと言う者まで出ている
「私は・・・シューリー国やユン達が恩を受けたと同様に数え切れない程の恩を彼から受けた・・・それをひとつも返してないのに・・・居なくなるなんて許せない・・・無責任よ」
「・・・ランラ・・・」
「彼は絶対生きている・・・ひょこっと現れて魔王を討伐した後の勇者をけちょんけちょんにする訳・・・その時は私も手伝うわ・・・もちろん彼のね」
「同感だ」
「・・・!国王様!」
ユンが振り返ると教室の入口にシュラが立っていた。ユンはすぐに片膝をつき頭を下げる
「よい・・・して、ランラよ・・・その時は俺も参加したいのだが、構わないか?」
「もちろんです・・・役割分担を決めとかないとですね・・・そうでなければすぐに終わってしまいそうで・・・」
「確かにな・・・頭と心臓は後回しにして先ずは四肢から・・・」
「国王様もランラも・・・そんな不気味な笑みを浮かべて物騒な話を学び舎でしないで下さい・・・国王様はスザクに話を?」
笑い合う2人に頬を引き攣らせながらユンは立ち上がるとシュラに聞いた
「ああ・・・クソ勇者が来るから俺にどっか行っとけと言いやがった。まあ実際会ったら殴りかかりそうだから助かるが・・・ランラは大丈夫か?」
「はい・・・魔王を討伐した後の事を考えると・・・今からワクワクしているくらいです」
「・・・強いな・・・」
「そうでもありませんよ・・・虚勢が半分くらいです」
笑う2人を見てユンは少しだけホッとした。シュラが現れる前のランラは張り詰めた様子だったのが、シュラが現れてから少しだけ険が取れた。実は似たもの同士なのではと考えているともう1人教室に入って来た
「おや・・・これは国王様。なぜこちらに?」
入って来たのはヤクモ。ユンと結婚した後、国から神聖魔法使いをまとめる機関『神聖院』の初代院長に任命されていた。四星拳に並ぶ権力を持ち、国全体を病気や怪我から守る重要な機関となっている
「ヤクモか・・・お前こそどうして・・・ってそう言えばスザクが言ってたな 」
ケンブとヤクモにランラの心のケアをお願いしたとスザクが言ってたのを思い出し1人納得するシュラ。ランラは意味が分からずに首を傾げていると、その様子を見たヤクモは微笑んだ
「どうやらお呼びではなかったようで・・・国王様も昨日までとは違うみたいですが・・・何かありましたか?」
「そうか?・・・そうか・・・ふむ・・・多分同じ考えの者にようやく会えたから・・・かな?」
「同じ考え?」
ヤクモが首を傾げるとシュラとランラは視線を合わせ苦笑する。そしてずっと前から示し合わせたように口を揃えてこう言った
アタルは絶対生きている、と──────




