3章 25ポイズンワーム決戦前
ヒーローか・・・確かに昔はヒーローに憧れた時期もあったけど柄じゃないな
ヒカリと話した後、俺はテントに戻って横になる。隣にはぐっすりと眠るロン・・・その奥から鋭い視線を送る人物がいた
「どこに行ってた訳?」
そう・・・テントの中にはロン以外にも1人居た。ランラだ
食事を終えた後、頑なに俺と一緒に寝ると言い張るロン。困って渋々分かったと言うとあれほど1人で寝たいと言っていたランラが自分も同じテントで寝ると言い始めた。そこまで信用ないか?俺は
「寝付けないから散歩に・・・ランラは眠れないのか?」
「隣にオオカミが居ると思ったら・・・ね」
「そのオオカミってのはロンの事か?それとも・・・」
「さっさと寝なさい・・・私の安眠の為に」
やっぱりオオカミは俺か
まあ寝ないといけないのは確かだ。ポイズンワーム・・・巨大な毒ミミズって所か。何事もなく討伐出来ればいいけど・・・
「ぐはぁ!」
ロンの目覚まし代わりのボディプレスで目を覚ます。朝のご起立している所にもヒットししばらく悶絶してしまった。未使用品なのに使えなくなったらどう責任取るおつもりだ!
ようやく痛みが収まり朝飯をたかりにウルフェンのテントを目指すが、何も朝飯だけが目的ではない。ランラは寝ていたテントに残し、ロンの案内でウルフェンのテントに向かっているのがミソだ。無垢なロンはウルフェンのテントに突撃するはず・・・寝起きもしくは着替え中のウルフェン・・・朝飯を食べてないけど俺は言うだろう・・・『ご馳走様』と
ウキウキしながらロンのあとを付いて行くと見えてきました巨大なテント。てか全員テント暮らしなのな・・・まあ、そんな事は気にせず近付くとおじゃま虫が現れた
「何の用だ?」
「チッ・・・いやぁ、朝ご飯でも一緒にどうかと思って」
「てめえ今舌打ち・・・姐さんはまだ就寝中だ!分かったらとっとと行け!」
立ちはだかるウォーク・・・コイツキライ
「確か狼って夜行性だっけか・・・と言うと早起きのお前はもしかして・・・犬か?」
「喧嘩売ってんのか?てめえ・・・」
「犬呼ばわりして喧嘩売ってるか尋ねる余裕があるって事は・・・さては本当に犬だな?」
「おもしれえ・・・てめえを朝食にしてやるよ」
「お兄ちゃん・・・ウォークはわたしたちと同じだよ?」
純粋無垢なロンが首を傾げるがそんな事は分かっているのだよ・・・ただの八つ当たりだから
ロンの頭にポンと手を乗せ微笑み、朝の運動の代わりに犬の調教を開始しようとウォークを見た。すると・・・
「朝っぱらからキャンキャンうるさいねえ・・・なんだってんだい」
テントの中からウルフェン登場。思った通りのお姿にウォークどころではなくすぐにガン見した。薄着にたわわに実ったものが二つ・・・おや?二つの実にボタンのようなものが・・・気になったので調査すべくロン調査員を派遣する
「ロン・・・ウルフェンお姉ちゃんに朝の挨拶を」
満面の笑みで伝えるとロンは大きく頷きウルフェンへとダイブ・・・よし!そこだ!シャツを引っ張れ!
「おいおい、ロン・・・って、あんたは何をしてんだい?」
くそっ、狼種の跳躍力を舐めていた。幼いとはいえロンも狼種・・・予想ではロンがウルフェンに抱きつくとシャツが引っ張られてなにかが起こると踏んだのだが、ロンは飛び上がると胸の辺りの高さまで行ってしまった。そうなるともう・・・台無し。ロンの肩越しからウルフェンの視線が突き刺さる
「一緒に・・・朝食でもどうかと思ってね」
「ふっ・・・たかりに来たか。ちょっと待ってな。今準備する」
「姐さん!コイツは・・・ムグッ!」
オオカミさんのお口は赤ずきんちゃんを食べる為に取っておきなさい。告げ口良くない
念動力で口を塞ぐとウルフェンが振り返り訝しげな目で俺を見つめて首を捻る。俺は何でもないと微笑みながら手を振ると抱きついたままのロンと一緒にテントへと消えて行った
「ンンン!ンンッ!」
自分の口を指差すウォーク。しばらく放置しておこうと思ったが、あまりにも必死な顔で訴える為に念動力を解いてやった。解いた途端に激しく呼吸する・・・どうやら短気な奴ほど口呼吸が多いらしい
「て、てめえ・・・」
「次に『てめえ』と言ったら舌を引っこ抜く。それと殺気を向けたら頭を吹き飛ばす。睨んだら目を潰す。敵意に対して敵意で返す・・・忠告してやるだけありがたいと思え」
「・・・」
うーん、睨んでる判定して目を潰してやるか?無言でジロリと見つめられると段々腹が立ってきたな
「て・・・アンタが強いのは分かった。でも姐さんには近付かせねえ・・・命を賭けてもだ」
「・・・惚れてるのか?」
「・・・答える義理はねえ」
「ほ・れ・て・る・の・か?」
「・・・」
俺が凄むとウォークは視線を泳がせ、意を決したように頷いた。テントが近くて聞かれたら・・・とか考えたのか?出会いは最悪だったけどなかなか可愛いやつじゃないか
少しテントから離れて狼種の恋愛事情に耳を傾けた
どうやらウルフェンは族長は族長なのだがみんなに認められた訳ではないらしい。昔はガムターナに狼種あり、と幅を利かせていたらしいのだが、ここ最近は数も減り、他の種族の台頭で肩身の狭い思いをしてるらしく、その状況でウルフェンが族長に就任。そしてポイズンワームが現れた。ガムターナと種族の者達に力を見せつける千載一遇のチャンス・・・が、狩りは失敗し今に至る
ウォークは昔からウルフェンに惚れており、族長になったウルフェンを支えようと必死だった。舐められちゃいけない・・・舐められたら終わりだと息巻いて俺らに因縁付けて・・・アホだなコイツ
「姐さんは随分落ち込んでた。ジルウの死、ロンの毒・・・みんなも言う事は聞いてくれるが心から聞いてくれてるかって言うと・・・微妙だ。やっぱりポイズンワームを倒さねえと認めてくれない・・・そう感じている。俺も姐さんも」
「獣人連合に金払ってるなら獣人連合に助っ人を頼めば良かったんじゃないのか?」
「俺らにもプライドがある。それに獣人連合を頼ってポイズンワームを倒しても誰も姐さんを認めちゃくれない」
「俺らに頼るのはいいのか?」
「認めちゃくれないだろうな」
「おい」
「だから俺は必死に止めたんだ。だが姐さんは・・・自分の族長としての威厳より俺ら種族の事を考えて頼んだんだ」
ウルフェンは族長として面子よりも仲間を取ったのか。なかなか出来る事じゃないように思える
「最初はそりゃあ姐さんも今の戦力で挑んだ・・・それが失敗に終わたのは別にいい。撤退した事を評価する者もいるくらいだ。ただ俺らが刺激したせいかポイズンワームが暴れているらしく、他の冒険者が動く可能性がある。もし犠牲を出したにと関わらずポイズンワームを他の冒険者に取られれば・・・姐さんには誰も付いてきてはくれないだろう・・・獣人連合に助っ人を頼む時間はねえ・・・かと言って俺らだけではまた犠牲が出る可能性が・・・だから頼ったんだよ・・・て・・・あんたらをな」
「もしかして掲示板の所で因縁つけてきたのも・・・」
「ああ・・・ポイズンワームの依頼から意識を逸らそうと・・・町の冒険者なら俺らが狙ってるのを知ってるから受けないがポイズンワームが暴れていると聞き付けたギルドが緊急依頼として再度ポイズンワームの依頼書を掲示板に貼ったんだ。一度失敗してる俺らは文句は言えねえし・・・」
まっ、つまり掲示板の前に立った時点でフラグは成立していた訳か。なるほどね。それよりも・・・
「なあ、いつからウルフェンを姐さんって呼んでるんだ?」
「ああん?なんだよ突然・・・族長になった時からだよ・・・」
「それ以前は?」
「・・・ウル・・・」
「じゃあ今から『姐さん』禁止な。自分から相手を遠ざけるような呼び方してどうする・・・いいな!『姐さん』禁止!」
「いや・・・だってよ・・・ウルは族長だし・・・」
「ウダウダ言うな!この俺が手伝ってやるって言ってんだ・・・大舟に乗ったつもりでいろ」
「・・・アンタ・・・」
「その過程でのエロいハプニングを期待しているなんて全然ない!本当だ!」
「・・・てめえ・・・」
「お?今また『てめえ』って言ったな?舌を引っこ抜いてやる!」
「上等だ!ぶっ殺してやる!」
念動力は使わずに朝の運動とばかりにウォークとじゃれ合っているとようやくウルフェンとロンがテントから出て来た
「朝っぱらから何してんだい?」
と、呆れて言うウルフェンの横で何故がダボダボの服・・・多分ウルフェンの服を着させてもらったロンが嬉しそうにはしゃいでいたのが微笑ましかった。なかなか出て来ないと思ったらそんな事してたのか
まだ身体中の斑点・・・内出血の痕が消えてないからウルフェンが気を使ったのか?ロンも小さいとは言え女の子だしな・・・てか、女の子なのにロン・・・ウルフェンも男っぽいし・・・あんまり名前に拘らないのかな?
さあ、そんな事より飯だ!
「あまり執拗いとウルフェンにさっきの事言うぞ?」
ウルフェンに聞こえないように小声でウォークに伝えるとウォークはすぐに攻撃を止めた。効果絶大・・・どうやら良いネタを仕入れたようだ
「クソッ・・・覚えてろ・・・」
悔しがるウォーク。残念だったな・・・これでお前は俺に一生頭が上がらない・・・ワーハッハッハッハッハッハ──────
一方その頃
ガムターナの町の冒険者ギルドにふらりと立ち寄った冒険者風の男。その男は真っ先に掲示板に向かい依頼を物色し始めた
「・・・緊急依頼?・・・」
男が呟くと近くで雑談していたガムターナの冒険者がそれを聞き男に話し掛ける
「兄ちゃん、その依頼はやめ時な。今、獣人族の狼種が必死こいて討伐しようとしてる・・・横槍入れると何されるか分かんねえぞ?」
「・・・狼種・・・か。忠告感謝する・・・俺はソロだからやるつもりはないが・・・一度俺の町の近くでもポイズンワームが出た事があり討伐に参加したが・・・狼種で手に負えるのか?」
「さあな・・・この町の伝統みたいなもんさ・・・ポイズンワームは狼種が倒す・・・例え相性最悪だとしても・・・そうやって狼種はこの町に君臨してきた・・・苦手な相手も倒せる強い種族であると証明してな」
「なるほど・・・」
「それに今回は助っ人も用意したって話だし・・・何とかなんだろ」
男に話し掛けていた冒険者が言うと黙って聞いていた冒険者の雑談相手の男が口を開く
「でもよ・・・その助っ人って昨日狼種と揉めてた奴だろ?」
「ああ・・・確かそう言ってたな」
「俺はちょうどその場に居て遠巻きに見てたんだが・・・似てんだよな・・・」
「誰に?」
「ほら?この前商人の護衛でメイザーニクス共和国に行ったって言ったろ?その時に寄った冒険者ギルドで見た張り紙・・・確か・・・『聖女殺し』・・・」
「ヒエー・・・本当かよ・・・聖女殺しって言ったら大罪人じゃねえか・・・んじゃあその張り紙は手配書か?」
「ああ・・・確か名前は・・・『アタル』」
「!?・・・すまない・・・その話・・・詳しく聞かせてくれないか?」
「え?いやすまない・・・手配書以外の事はさっぱり・・・」
「・・・そうか・・・ちなみにポイズンワームの出現場所は?」
「あ、ああ・・・それなら町の北門を抜けて真っ直ぐ行った森の中だ。中腹くらいに出没したと・・・お、おい!兄ちゃん!」
旅の男はそれを聞くとすぐに背を向けギルドを去って行く。呆然とする2人は顔を見合わせて男の行動に首を傾げた
「なんだってんだ・・・一体・・・」
「もしかしたら・・・ハンターか?」
「ハンター?それって犯罪者専門の・・・」
「ああ・・・魔物を狩る冒険者に犯罪者を狩るハンター・・・『聖女殺し』を追ってここまで・・・」
「・・・かもな。てか、あの兄ちゃんの背中の武器見たか?」
「ああ・・・あれは確か──────」




