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性的倒錯ぴゅあ~らぶ  作者: なずとず
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第4話 白斗君は疑いを持っている

「白斗。白斗〜。どうしたの? さっきから、心ここに在らずって感じだけど」


 声をかけられて、白斗はようやく食べかけていた弁当の具を盛大に箸から全てこぼしている事に気付いた。


 そこは白斗の所属する大学構内の一角。四畳半ほどの物置部屋を借りて、「ネットアイドル同好会」を主催している部屋だ。とはいえ、そこは掃除用品やブルーシートが巻かれた不要な備品などが乱雑に置かれた物置であり、その上からカラーコピーしたネットアイドルヘドロちゃんの写真をマステで貼り付けているだけだ。同好会のメンバーは会長の白斗と、付き合いで入ってくれた友人の二人だけだ。


 そしてこのカビ臭い物置の中、隣でミニ椅子に腰掛け、コンビニのおむすびとカフェオレを握っているのが、その友人だ。


 名前を佐藤輝名さとうきらなと言った。キラキラネームの権化のような名前の彼は、白斗の唯一の友人であり、そしてイケメンでもあった。少し茶色に染めたおかっぱのような髪ではあったが、それがやけに似合っていて、眼鏡と相まって知的な印象を与える。しかし目は優しそうに少し垂れているし、喋り方も所作も優しさが滲み出ていて、女子人気はとても高い。

そんな彼は幼稚園から白斗の友人だから、同好会設立時も名を貸して、今でも所属してくれている。


「しろうとくーん」


「その名前で呼ばないでください!」


「あ、意識有った。どうしたの? またヘドロちゃんのちょっとエッチな妄想でもして勝手に盛り上がってたの?」


「人聞きの悪い、人を変態みたいに!」


 事実変態であることは頑なに認めず、白斗は改めて弁当に箸を伸ばした。


 考えていたのは、ヘドロちゃんのことでもあるし、昨日の『じげ ひすい』のことでもある。彼と約束した日時と、ヘドロちゃんが言っていた王子様との食事会は一致していた。まさか、まさか、とスマホに残っていた動画を見ても、そこに写っていたのは小さくて気弱そうな青年で、顔まではあまり写っていない。


「輝名……」


「ん〜?」


「もし、自分の好きな女の子が、実は男だったらどうしますか」


「え、白斗ダッサ」


「ぼ、ぼぼぼ、僕の話じゃないですよ! 例えばの話です!」


 慌てて否定したが、輝名は訝しげな目で白斗を見ている。「例えば!」と念を押すと、「ん〜」と輝名はカフェオレを一口飲んで考える。


「そうだなぁ。体目当てだったら、うわーってなるかもだけど」


「なんか生々しい言い方するのやめてください」


「え、生々しい話じゃないの、これ」


「僕がクソ野郎みたいに思えてくる」


「やっぱり白斗の話なんじゃないの」


「違います!!」


 噛み付く勢いで否定しながら、弁当のおかずを食べる。輝名は、「うーん」と真剣に考えながら、おむすびを食べている。


「アンタ、彼女がいるんでしょ、例えばその子が男だったら」


 輝名にはとても仲の良い彼女がいる、と噂されている。童貞ネットアイドルオタクの白斗とは雲泥の差だ。上はオレンジのパーカーで下はピンクの半ズボンにビーサンという壊滅的なファッションセンスでなければ、白斗もそこまで悪くない素材なのだが。


 ニットの春物セーターに綺麗目なスラックスを履きこなす、イケメン輝名は「俺ならそれでもいいかなあ」とイケメンな発言を返した。


「なんで! 男なんですよ! 女の子だと思ってたのに! 男!」


「だって、別にその子の事、女の子だから好きになったわけじゃないし……」


「何腐女子の妄想みたいな事言ってんだこのホモ野郎!」


「なんでキレてるの、白斗」


「だって騙されてたんですよ、女の子だと思って、妄想したり、キスしたりしてたのに、男だったんですよ!」


「騙されるレベルに努力して女の子になってたんでしょ、それなりに理由が無いとやらないよ、そんなこと」


「おま、おまえ性善説の人間か!! この砂糖野郎!」


 あまりに輝名が綺麗事ばかり言うから、白斗はキレ散らかしていたが、白斗が無意味にキレ散らかすのには輝名は慣れていたので、特段気にもせず、おむすびの最後の一口を放り込むと、鞄からおやつのチョコレート菓子を取り出しながら、言う。


「ん、だってさ、騙す方も悪いかも、だけどさ、別にさ、それでお金取ろうとかそういうさ、犯罪目的じゃ無いんだったら、そうしたかった理由があって、それを言えなかった理由があると思うんだよね、俺は」


「聖人か貴様」


「白斗はそうだとしたら許せないの?」


「当たり前でしょう、騙されてたんですから! 手のひら返しは許せません」


「手のひら返してるのはお互い様だと思うけどね。ん、食べる?」


 チョコレートを差し出してくる。頼んでもないのに菓子を分け与えてくる辺りまで、ナチュラルイケメンだ。輝名だけに、聖人っぷりにキラキラ輝いて見えてきた。白斗は「くっそ」と呟いて、チョコを受け取ると、弁当の残りをかっこんだ。






 もし。もし、ヘドロちゃんが、あの男だったりしたら。


 白斗は自室に戻って、ヘドロちゃんの写真を眺めていた。とろんとした眠そうな二重の眼。緑のカラーコンタクトがキラキラ光る愛らしい瞳。長い睫毛。色っぽい右の泣きぼくろ。緑のふんわりとしたショートボブ。細い体。覗く鎖骨。生足。水着姿。


 見つめているとドキドキしてきた。いかんいかん、男だったらどうしようと考えてたのに、普通に興奮している。白斗はブンブン頭を振って、また写真を見る。


 柔らかい笑顔、守りたくなるような細い肩、ここにいるよと言ってあげたくなる儚げな雰囲気、白い肌。下着姿。生の太もも。ムダ毛一本無い足に食い込むニーハイソックス……。


 ああーーーっ、ダメだーーーっ。


 白斗はスマホを放り出して、ベッドに仰向けに横たわった。


 最高に可愛い、そそる、興奮する。


 男かもしれないという疑念にも勝る、その倒錯した恋心に、白斗は成すすべがなかった。


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