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性的倒錯ぴゅあ~らぶ  作者: なずとず
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第1話 白斗君はネットアイドルオタクの21歳DT

 ネットアイドル♡ヘドロちゃん @hedoro_chan

 はじめましての人は、はじめまして! はじめてじゃない人は、こんにちは! ボク、ネットアイドルの、ヘドロちゃんだよ!



 ネットアイドル♡ヘドロちゃん @hedoro_chan

 今日はコンビニで買ってきたプリンを食べるよ! ほうじ茶プリンだって! 最近何でもかんでもミックスするよね! ボクは変なアレンジしてまで食べたい方じゃないんだけど、食わず嫌いってよくないからね、食べてみるよ!



 ネットアイドル♡ヘドロちゃん @hedoro_chan

 頂きまーす! ……うん! なんだろな……うん……そう! 絵の具! アクリル絵の具のプリン食べてるみたいで、おいしいです! みんなも食べてみてね!



 ネットアイドル♡ヘドロちゃん @hedoro_chan

 それじゃあ今日も、元気に毒って生きて行くよ! みんなも頑張って生きようね!




  +++

 



  その部屋は、一言で言えば、ヤバかった。


  一人暮らしのワンルームであるのをいい事に、やりたい放題しているのだ。壁という壁には、大小様々なポスターが貼られているが、その全てが同じ美少女の姿。


  明らかにウィッグだろう緑のショートボブ、とろんとした緑の瞳、右の泣きぼくろ。うるうるとした唇。少々色白に過ぎて顔色は悪いが、確かにそれは美少女の類だった。


  彼女の顔のアップはもちろん、オシャレに着飾ってポーズを決めているものも、パジャマや、水着や下着、中には過激なセクシーなもの、更には手作業でいけない写真に顔写真を貼り付けたものまで貼られている。


 天井にもいわゆる抱き枕カバーに描かれる、まるでベッドで誘っているような姿のポスター。もちろん抱き枕も有るし、そちらのカバーにも彼女が描かれている。


  それ以外にはコートハンガーが有って、色とりどりの個性的な、悪いように言えば、どこで買ったんだか知らないがダサい服がかけられている。


  床にはゴミが散乱し、そしてその床に転がっている一人の男がいる。スマホの画面を食い入るように見つめて転がっている彼は、名前を只野白斗ただの しらとといった。


  身長は170センチ前後、やや細く、筋肉の欠片も無い体で、虹色のボーダーの部屋着に縦縞の青いズボンを合わせるという破滅的なファッションセンスだ。顔立ちは悪くない。切れ長の目で、鼻筋は通っている。しかし髪は変に伸びてバサバサで、何もかもが彼の容姿を台無しにしていた。


  白斗はスマホをじっと見つめている。画面にはSNSが表示されていて、そこにはやはり、緑の髪の美少女が写っていた。


「あぁ……っ、ヘドロちゃん、今日もかわいすぎるぅ……っ」


  はぁーーっ、と目を閉じて、耐えられないといった風にスマホを抱きしめて、白斗は身悶える。


  白斗はネットアイドルオタクの21歳だ。そして、皆がからかうように、「素人」だった。この年まで彼女の一人もできず、魔法使いまであと一歩だ。しかし、これだけの属性を合わせ持てば、彼女ができにくいのも当たり前だろう。


  そんな彼が今、熱烈に愛しているのが、ネットアイドルのヘドロちゃんだ。


  彼女の詳細は不明。何処かの事務所に所属しているわけでもなく、SNSに突然現れて、写真をアップし、ブログを更新する。年齢も略歴も不明で、とにかく毎日のように自撮り写真を載せたり、日々のちょっとしたことを、毒と共に配信している。彼女の不思議な魅力に、ファンは意外といるようだ。


  そんな彼女の顔も体型も、驚くほど白斗のタイプそのもので、夢中で追いかけている。写真は全て保存し、とにかく印刷し、どんどん飾って毎日眺めた。どれも最高に愛らしく、そして最高にそそられた。


  毎晩彼女をおかずにした。それはいろんな意味で。そしていつも彼女の投稿を待ちわびるようになった。ついに彼女へのストーキングを画策し始め、犯罪者への道を歩もうとしている。


  しかし本人は「たまたま近くに住んでいるような投稿が多いから、彼女が行きたそうにしているお店に出向いて、たまたま会えたらいいなと思っているだけ」などと供述している。とにかく自分がヤバイということに、無自覚な男だった。


「あっあっ」


  じっと見つめていたSNSに更新が有り、白斗は喜びの声を上げて内容を見る。彼女は今日は包丁を持った物騒なくまのぬいぐるみを抱いた写真をアップしていた。


『ボクは、寂しがりやなんだよ! いつもぬいぐるみのくまさんと一緒に寝るんだ! くまさんはこう見えて、正義の味方なんだよ! お釣りを多く貰ってラッキーって黙ってるお客さんに、トイレの紙がちょうど切れてる天誅を下すよ!』


「あっ、かわいい……ぬいぐるみと一緒寝てるヘドロちゃん……かわいい……」


  あーーーー、と悶えている。はたからみたらどうしようもない光景だ。今日はぬいぐるみを抱いたヘドロちゃんがおかずだ……と思いながらまたスマホを見ると、更に投稿が続いていた。


『ボクの好きなタイプは、正義の味方だよ! このクソみたいな世の中に輝くヒーローだよ! でもそんな人いないよね。だからボクの恋人はくまさんなんだ!』


「そんな寂しいこと言わないで〜、ヘドロちゃん〜! 世の中にはいい人もいるって〜!」


  とてつもなく大きな独り言を口にしながら、白斗はゴロゴロしている。この気持ちをヘドロちゃんに伝えたい、と、SNSのハートボタンをタッチした。もう23もカウントされている。なんだかんだいって、ファンは付いているし、みんな彼女に夢中なのだ。そんなファンの一人に過ぎない白斗は、おまけにチキンだったので、これまで一度もSNSで声をかけたことがない。


  他の連中が「ヘドロちゃん俺がついてるよ!」とか「僕は悪いことする奴を許さないよ!」とか返信しているのを、指を咥えて見ているだけである。変に返信をして、ヘドロちゃんに気持ち悪がられたくないのだ。もう既に気持ち悪いことしかしていない自覚は無い。


  と、投稿が更に続く。


『ヘドロねえ、明日お休みだから、ずっと気になってたカフェに行こうと思うんだあ。もしばったり会ったら声かけてね! ヘドロ、サービスしちゃうからね!』


  そして、カフェの写真が貼られている。それを見て白斗はピンときた。


  それは白斗の大学の近くのカフェだ。しかも、白斗も明日は授業も何も無い。


「明日、一日中この周辺を張っていれば、生のヘドロちゃんに会えたりするのでは?」


  白斗は興奮してスマホを握りしめた。言っていることも計画していることも大変にまずいが、とにかく本人に自覚は無い。「好きになったら追いかけるのは男の性」などと供述している。


  白斗は大興奮でスマホの画像をプリンターに送信して、印刷した。すぐに出てきたヘドロちゃんの写真を持って、いそいそとベッドに入り、布団に潜る。それから白斗は大いに励んだ。励みながら、明日絶対に生のヘドロちゃんに会うんだと考えてた。


  とにかく、一言で言えば、ヤバかった。

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