少女の終着点
こんな気まぐれで書きだした作品に付き合ってくださいました皆様、本当にありがとうございました。
ゆっくり、ゆっくり、周りの魔族が光になって消えていきました。
「これは……“浄化”……!?」
ライトは消えた魔族の近くにより、さらさらとした砂をすくい上げました。
「そんな……ありえない……」
やがて光は広がると、美しい波紋を残して枯れた木を、草を、地面を美しく緑に変えました。
「これが、お前の――力――」
ふいに、後ろからふら、ふらと魔族がやってきました。
足取りは心なしかおぼつかず、そのまま地面に倒れると、光となって、花を咲かせました。
「綺麗。――あ?」
レイラはそのままどさりと地面に倒れました。
「な……ん……だ……か…………あ、たまが……」
強い頭痛が、レイラを襲いました。
『レイラ!レイラ、聞こえる?お母さんよ。』
母さん?母さん、会いたかった。母さん、母さん。私、やったんだよ。
自分の声が自分のものではないようにもわりとくぐもります。
『ええ、そうよ。あなたはすごい。私なんかより、ずっとずうっとすごい。――だから、もう少し、もう少しだけ頑張ってね。私の力を、……あなたに託すわ。』
母さん!託すって、どういうこと!?行かないで。お願い。ここにいて!私を、おいていかないで――!!
『いいえ、あなたはやり遂げないといけない。私も、ここにとどまったことに意味があった。私は、私の力と共にいつもあなたのそばにいる。――レイラ、世界を。世界を救って――』
待って、母さん!母さん!母さ――
声が、聞こえないよ……。
もっと、もっと一緒にいたいよ――
『レイラ。分かるか。お父さんだ。』
父さん?父さんなの!?父さん!会いたかった!
『母さんから、聞いただろう。俺の力も、受け取ってくれ。』
父さんも、父さんも行っちゃうの?嫌だよ――。もっと、もっと一緒にいたいよ――。
『今まで、ずうっとレイラのことを見てたよ。頑張ってた。レイラは、凄い子だ。俺の、自慢の子だ。いや、俺たちの――父さんと、母さんの自慢の子だ――!』
嫌だよ、別れたくない。
『離れても、――父さんと母さんはレイラの中にいる。信じて、頑張れ。負けるな。レイラには、力がある。頑張れる子だと、信じてる――!』
頑張れる、子――?
そうだ。私にはやらないといけないことがある――!!
『そうだ。父さんと母さんは、ずっとお前の中で、見守っている――!』
……父さんも、行っちゃったんだね。
いいえ、行っちゃうことなんかないんだ。
ずっと、父さんと母さんは、私の心の中にいる――!
あったかい、光が、胸の中に入ってきた――。
「レイラ!目を覚ませ、レイラ!お願い、だ――。頼む。死ぬな――」
「ライト。私、やらなきゃならない。」
ライトの顔を正面から見て、起き上がる。
「私は、世界を、救うんだ――!」
まっすぐに立つと、そのまま枯れた大地が延々と続く世界へ、足を進める。
「力を、貸して――!」
レイラは、深緑色の剣を、大地に突き刺して、言葉にならない言葉を、叫んだ。
「父さん、母さん――!お願い――!」
水が、風が、葉が、すべてがレイラの叫びに呼応して空へと上がった。
「これは――!」
ライトは、レイラの隣に立つと、剣の柄にかけられたレイラの細い手の上に、自分の手を重ねた。
「私も、力を、貸す――!」
ごろごろと雷雲が取り巻いて、空を黒く染め、次いで白く染めました。
魔族が何匹も、何匹も二人を取り巻きました。
「――っ!!」
レイラは柄をぐっと握りしめて、天に向かって叫びました。
葉が、水が、大気が。
雷鳴が、雷雲が、稲妻が。
世界を覆って、白い光を発しました。
「こんな、綺麗なもの、見たことが、ない――」
ライトは、真っ白に染まる世界を見つめながら、魅入られたように言いました。
「母さん。父さん。これで、よかったのかな――?」
やがて、茶色い単調な世界は、だんだんと美しく緑に染まりました。
花が咲き、草が芽吹き、木は生えて、空は青く、雲は白く、川はみずみずしく。
全てが、美しく、光っていました。
境界が、すっと消えてゆきました。
「不死の呪いが、解けている――!?」
ライトは、手首に何も刻まれていないのを見て、愕然としました。
「そうか、もう、守る必要はない。子供を産んで、世代は交代して、いいんだ――」
ライトは、ふいに足元の草を抱きしめました。
「ありがとう、レイラ。ありがとう、世界――」
レイラは、はにかんだような笑みを漏らすと、小声で言いました。
「ライト。死ぬまで、どうしていたい?」
ライトが、何も言えないうちにレイラは言いました。
「私は、ライトと一緒にいたい。」
ライトは、目を見開いて、そしてレイラを抱きしめました。
「ありがとう。絶対に、幸せに、する――」
十数年の、年月が経ちました。
ここは、今では小さいながら都で、人口も少しずつ、少しずつ増えています。
あらたな土地が見つかった、という報を聞くたびに、老人たちは首をひねりました。
そして、レイラはやがて村長になっていました。
そして、レイラが遠くから来たという、ライトという男性と結婚したのは、今となっては有名な話です。
そして、レイラが決まって子供たちに話す昔ばなしがありました。
「祠には、龍がいて。私たちの世界を、救ってくれたんだよ――」
今日も、世界は、美しく光っている。
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