少女の初陣。
二日が立ち、レイラはまだここに入り浸っていました。
「はあぁぁぁあっ!」
考えた末に、レイラは剣の技を研究することに決めたのでした。
(もっと、もっとだ。もっとじゃないと、あの技に……奴らを一撃で倒せる技には届かない!)
気合と共に振り下ろされた剣は、当たり前のようにかかしを切り口から徐々にダメージを与えていきます。
「もっと多様な技が欲しいよね。」
レイラはまた、座って考え始めました。
「よし!」
立ち上がると、レイラは遠距離から右手を振りぬきました。
突如、かかしの首がすぽんっと飛んでいきました。
(刀を伸ばすだけじゃダメなのかしら。)
またレイラは考え、そして答えを出しました。
「輝け、――森羅万象!」
飛び上がると、そのまま振り下ろしました。
それだけにとどまらず、無数の斬撃を繰り出し、いったん飛びのくと伸びた刃で首を刈り取りました。
「ううん、時間がかかりすぎるかな?」
レイラのしたことは、合体。ただそれだけ。
「そうだなー、なんか、あんな稲妻みたいな演出したいよなー。」
レイラは、自らの持つ力が森林という、使い方がよくわからない力であることを謎に思いました。
ううん。
(このままじゃ、だめだ。)
レイラは、まず単純な剣技を磨くことを決めました。
(連撃だけど、まだ遅い。もっと速く、速く!)
「はああぁぁっ!」
掛け声とともに、十連撃。
「あとは、単純な……蹴・りっ!」
レイラは、膝を使って、あごを打ち抜きました。
「ううん、これだけじゃだめだ。あとはあれ、魔法のような遠距離攻撃!」
レイラは距離をとると、弓を出しました。
「これを応用っ!させる!!」
森林の葉という葉が、矢に従ってかかしに向かい、竜巻のように勢いよくかかしに向かって迸ります。
かかしは、音もなく崩れ去りました。
「うん、技名は、リーフトルネードでいいや。」
レイラは満足そうにうなずくと、また組み合わせ方を考え始めました。
しばらく、弓を出して引っ張ったり、剣で切りつけたりしていましたが、やがて呼吸を整えると、かかしより遠くに間合いを取りました。
「迸れ――葉竜巻!」
音を立てて葉が刃のように鋭くなり、かかしの全身を切り裂きます。
(よし、次は……連撃!)
弓をそのまま剣に変化させると、レイラは掛け声とともに大きく走り出しました。
「染まれ――|黒き森!《シュヴァルツヴァルト!》」
右、左。反撃されることを読んで、膝蹴り。
からの胴蹴り。
剣に引き付けておいて、見えないところから膝蹴りをするスタイルにレイラは決めたのです。
「最後は首筋っ!」
左から右に剣を振りぬくと、かかしは音を立てて壊れました。
「お見事。」
振り向くと、ライトが立っていました。
「それでいいんだ。」
「……どういうこと?」
レイラはゆっくりと振り返りました。
「そうだな、奴らと戦えるぐらいにはなっている、ってことかな。」
「本当に!?」
レイラは目を見開きました。
「なら、……連れて行って。」
ライトは片眉を上げました。
「無理だ。そんな急には。」
レイラはだんっと広場を踏み鳴らして言いました。
「いいえ、無理じゃない!絶対に言うことは聞くから、連れて言って!」
ライトは一瞬、否定するかに思えましたが、にやりと笑って言いました。
「いいだろう、でも言うことは聞けよ。退け、と言ったら退くんだ。いいな?」
そして、返事を待たずに一瞬にして空中へ飛び上がると、また降りてきてレイラを背中に乗せると、境界へ向かいました。
「ついたぞ、気を引き締めろ!」
ライトはさっと少年の姿になると、右手を真っすぐに境界線に向け、ゆっくりと小さな部屋を作るように線を描きました。
「さあ、安全地帯を作った。危なくなったら、ここに戻れ、いいな?」
ライトはその部屋にすっと入りました。
レイラは一瞬迷ったものの、まっすぐに飛び込みました。
「行くぞ!」
だっと地面をけると、ライトはすぐ近くにいた魔族の胴にいきなり一撃をいれました。その手には、両手剣が一本、握られていました。
「ウガアアアアアアッ!」
魔族が吠え、その長い腕を一振りしました。
「まずは戦い方を見ろ!こいつらの急所は人間と同じだ!」
ライトはその腕が戻るタイミングで腕に乗り、そのまま跳躍して首を切り落としました。
「が、うが、うがああぁぁぁぁぁ……」
魔族はその場に倒れると、霧となって霧散しました。
「こいつらは、人間を憎んでる。ふと、人のことを『死ねばいいのに』と思ったことはないか?そんな時、こいつらは生まれる。だから、こいつらは溜まり切った昔の人間たちのすさんだ心なんだ――よっ!」
振り向きざまに迫ってきた魔族の首に金の光が走りました。
「私も――行くよ!」
レイラは安全地帯から飛び出すと、そのまま弓を出現させて魔族に向かって放ちました。
「迸れ――葉竜巻!!」
それも、連射。
刀のように鋭くなった幾千枚の葉が、魔族に殺到して――眉間に突き刺さりました。
そのままレイラは、伸びる刃で遠距離から一撃、二撃と入れていきました。
その時でした。
一匹が、すさまじい速さで接近してきました。
「レイラ!」
ライトがすかさず背中を切りつけましたが、勢いは止まりませんでした。
「しまった……変異種だ!」
「はああああっ!」
レイラはひるまずに正確にかわします。
(――何っ!)
すぐ横には、すでに鋭い爪が伸びてきていました。
「――っ!」
腕を斬撃によって切り落とすと、そのままの勢いでレイラは跳躍しました。胸に一撃、両足蹴りを入れると、そのまま空中でレイラは今日完成させた連撃を発動しました。
「染まれぇっ――|黒き森!《シュヴァルツヴァルト!》」
そのまま右、左、もう一度右。
反撃の爪が飛んできます。
でもそれは。
(読み通りっ!)
そのまま腕を切り落とし、そのすきに首に回し蹴り。
敵が次のモーションに入る前に、胸を切る。
「ウガアアアアッッッ!」
レイラの斬撃が終わった瞬間に、切れた両手を敵は振り落としました。
「なっ……痛みを感じないのか!」
レイラはよけようとしましたが、境界に阻まれて避ける場所がありません。
(くそっ!受け身の体制を!)
その時、魔族が後ろに倒れました。
「ふん、一人でやろうとするからさ。周りが見えてなかったろ?」
ライトが立っていました。
魔族が倒れた後ろには、――魔族の死体が10体以上転がっていました。
「――っ!」
「お前、私がいて助かっただろう?私がいなければ、集団リンチにされて終わりだったな。さて、退くぞ?」
どこか見下したような口調に、レイラは悲しくなりました。
(まだ、ライトには敵わない、か。)
父と母のように、対等なパートナーとしてではなく、ただの小娘としてしか見られていないのが、どうしてもレイラは悔しく思いました。
その時、レイラは見えました。
倒れたはずの魔族が、一匹起き上がり、そのまま大きな手をライトに振り下ろそうとしているのが――。
「危ないっ!!」
レイラはとっさに右手を出して、剣を伸ばしました。
スローモーションのように、世界が回ります。
(足りない――お願いっ!)
その瞬間。
爆発的な光が、世界を揺るがしました。
深緑色に剣が輝くと、そのまま何本にも分かれて四方八方から魔族を襲いました。
「何、これ――」
世界が停止したような一瞬の中、一番驚いていたのはレイラ自身でした。
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