少女は“真実”を見る。
始めに、すぐ終わると書きましたが、なんだかプロットより話が膨らんできました。おかしいなー……もしかしたら、長めに続くかもしれません。温かい目で見守ってください。
「っこ、殺されたって、その……魔族、とかいうやつに!?」
「ああ、そうだ。そいつらは全員恐ろしい外見をしていて、とても強い。倒すことは、三人がかりでやっと一匹だったぐらいだ。」
……。
レイラは、突如沈黙しました。
ただ、その心のよどみが、揺れが、大きくなっていくのを、ライトは敏感にかぎとりました。
「嘘よ!こんなの嘘よ!嘘よ嘘よ嘘よ!」
堅く目をつぶり、レイラは叫びました。
そして、一瞬にして机から立ち上がり、ライトとの距離を詰めました。
「証拠を見せなさい!」
血走ったとび色の目は、金色のライトの眼光にも劣らない強い意志を秘めていました。
「ああ。でも、私の言うことには従うと、誓ってくれ。」
「誓うわ!」
間髪を入れずにレイラはテーブルをたたき、答えました。
「よかろう、“境界”へ連れてゆこう。ただ、くれぐれも私の言うことには従うんだ。」
少し、その手が震えているのをライトは見とがめると、
「大丈夫、私の背中にいれば安全だ。奴らは飛べぬ。」
「……え!?」
ぱあああっとライトの体が輝き、次の瞬間、レイラはライトの背に乗って空を飛んでいました。
「――っ、いつの間にっ……」
さっきまで少年の姿だったものの背中に乗っているからか、レイラの口元にはまぎれもなく恥ずかしさが浮かんでいました。
「はは、私の背中が恥ずかしいか?まあいまさら降りれないがな。はっはっはっは!」
ライトがそうからかうと、レイラは顔を真っ赤にして、
「こんのやろう……図ったわね!」
真面目に受け取りました。
「っちょおい!やめろ!死ぬぞ!こら!冗談!冗談だから!ちょっと!やめてくれえええ!」
レイラが角をつかんでゆっさゆっさとライトの頭を揺さぶったので、ライトは絶叫しました。
「何よ、冗談なら冗談と言ってほしいわ。ほんとにもう。」
(ほんとにもう、は君に言いたいよ……)
ライトは、やれやれと言いたげに加速しました。
「ついたぞ。」
ライトは、広い野原の上空で停止しました。
「え?ここ、ロレノ平原じゃない。何でここなのよ?」
レイラは、状況が呑み込めないといった様に、きょろきょろと辺りを見渡しました。
「気づかなかったのか?さっきから、進めど進めど同じ景色だったろう?あれは結解の近くに来たしるしだよ。」
ライトは、少し進みました。見える景色はまったくもって変わらず、ずっと同じ場所にいるかのようです。
「うそよ。ちょっと自分の足で歩かせてくれる?」
ライトは、少し考えてから、
「よかろう、許可する。」
と言い、ゆっくりと着陸しました。
「いちいち偉そうねー。」
軽くレイラはライトをからかってから、ふわりと地面に降り立ちました。
レイラが、一歩踏み出すと……。
地面が、するりと逆方向に動き、それ以上前には進みません。
「何これ。世界が……動いた?」
ちょっと首をかしげてから、ぴょんっと向こう側にジャンプしようとしました。
やはり地面が動き、ゆっくりとレイラをもとの位置に戻しました。
「何よっ……」
唇をかみしめ、レイラはライトの方を見ました。
既に少年の姿になっていたライトは、すっとレイラに近づくと、
「ここが、境界……。」
そう言って、ゆっくりとそこにある、見えない“壁”に触れた――瞬間。
すぅっ。
見る間に、遠くまで続いていた景色が、空が、揺らいで……消えました。
「今、境界を一部、透明化した。見えてくるよ。」
少しずつ、紫にそまった、空が見えてきました。
「何、あれっ……。」
レイラは、涙目になりながら、目をそらさないようにします。
「……っ!」
見えてきた、“魔族”は、両の手が極端に長く、目はアーモンド状に見開き、白目はなく、薄青い、気味の悪い色をしていました。
全身真っ黒で、あばら骨が浮き出ています。背中を曲げて、老人のように歩くさまは、恐怖の象徴、と言っても過言ではありませんでした。
(怖い。)
初めて見る、両親を殺した存在。
恐怖と、憎しみがレイラの中で拮抗しました。
そのとき。
“魔族”は、ゆっくりとその両手を上にあげ、勢いよく地面へと、打ち下ろしました。
“向こう側”の、世界が、揺れました。
レイラが目を凝らすと、それは、とても小さい虫でした。
(虫でさえも。この世界では、生きられないのか……。)
それは、絶望でさえ、ありました。
地割れとともに、向こう側の世界で“魔族”は、満足げにどこかへと、歩いていきました。
「見ただろう。あれが、あいつらの発する、恐怖だ。」
(あれが……恐怖。)
レイラは、首筋の毛が一本残らず逆立つのが分かりました。
“魔族”の発するオーラのようなものは、恐怖だ、とライトはいうのです。
「いいか、もちろん、都とか、そういうところはある。だがな、そこもまた、我らの一族の守護によってしか、生きられないのだ。」
ライトは、目を細めて言いました。
「そして、お前の両親は、初め、山で暮らしていた。でも、本当に守護が危なくなっていた。それは、村の空気が、悪くなっていたからだ。そして二人は、村人としての生活をして、皆を支える役目をすることになったんだ。」
レイラは、ばんっと境界にある見えない壁をたたきました。
「じゃあ、どうして話してくれなかったの!?それで、私は今まで何も知らずに生きてきたのよ!守護の意味なんか分からなかった。みんな持っているものだと思っていた。ここは、普通の村だと思っていた……!!」
悲しそうに、ライトの金色の瞳が揺れました。
「それは、ここへ人々が来た時、すべてを忘れ、魔力を封印し、穏やかにくらすと決めたからだ。その、忘却のまじないをかけた人物の家系だけ、ずっと、このことを知っていた。」
レイラのとび色の瞳から、涙が零れ落ちました。
「私は、その家系ではなかったの!?」
ライトは、ゆっくりと言いました。
「16になるまでは、話してはならない決まりだった。でも、お二人は、お前が2,3歳の時に殺された。だから、知らなかったのだ。村の人に話すのは、一番やってはいけない禁忌だった。なぜなら、すべてを忘れて暮らす、と決めたからだ。それを邪魔してはいけなかった――。」
レイラは、なおも強く両の手を、握りしめて言いました。
「どうして!?もう数千万年も経っているのに――。」
「それは、二人が“舌なしの誓い”を立てていたからだ。それは、言葉をすべて魔力に変え、自らを強くする技だった。使っていたのは戦闘中だけだが、その誓いを解くことなく村に帰ってきてしまった二人は、2、3言しか言い残せなかったのだ。魔力で伝心はできたが、村人はそれはできない。」
レイラは、ついに泣き崩れました。
「どうしてよ……!」
ライトは、すっとしゃがみ込みました。
そして、正面からレイラの瞳をじいっと見つめると、
「でも、君は16になった。すべてを知る権利がある。そして……」
手を伸ばして、レイラの頬を包み込みました。
「その血に流れる、魔力を使えば、奴らを倒すことさえ、できる。まだ、儀式を行っていないから、今は使えないけれど、絶対に、お前は奴らを倒せる。」
レイラは立ち上がりました。
その瞳にあったのは、悲しみでも、後悔でもなく、ただ、憎しみと、決心だけでした。
「私、やるわ。この世界から、ひとつ残らず、あいつらを消し去ってやる――!」
その真っすぐな瞳は、まぎれもなく、境界の向こうにいる、“魔族”を射抜いていました。
(……。)
ライトは、目を見開きました。
(心が、硬くなった。そして、君の内面には、大きな魔力を感じる……!言いようのない、オーラが、今の君からは感じられる。父上とも、母上とも違う、強大な力が、君の内面にはある――!)
ライトもすっと立ち上がり、レイラを見つめました。
「私も、可能な限り手助けする。よろしく――!」
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