少女と龍の出会い
連載の息抜き?に、短編小説を投稿しようと思ったのですが、長くなりそうなので連載にします。
多分10話行かずに終わると思いますが、よろしくお願いします。
――それは、ある小さな村の物語でした。
村は、貧しく、小さかったけれど、争いから遠く離れ、都なんか見たことのある人は一人もおらず、小さな世界で完結している、そんな村でした。
そんな村に住む、一人の少女は、親を早くになくし、村全員の子として育てられていました。
「っ。お願いです、……この子を頼みます……立派な子に、育ててください……っ!」
――それが、少女の両親の最後の言葉でした。
愛情を受け、少女はすくすくと育ちました。生来のものか、あまり社交的ではなく、一人で本を読んだり、森へ散歩に行ったり、鳥を見たりすることを好む少女でした。
そんな少女は、悪くない人で、頼まれた事はやり通し、聞かれた事には真面目に答える、生真面目な子でした。
でも、何がきっかけだったのか、少女は少しずつ孤立していった。学校で、村で。そのうちに、両親のことについて、あることないこと、言いふらされたこともありました。
少女の両親は、夜、いなくなったかと思うと、血まみれになり帰ってきました。決して理由は聞かないでくれと、聞いたら自分たちのやったことが無駄になるからと、そう言い残したそうです。。
そのことをしつこくからかったり、うわさを流したのは学校の女子生徒たちでした。それを知って、見て見ぬふりをする人が一人、二人と増えていき、そのせいでいじめは余計にエスカレートしてしまったのでした。
それを知ってか知らずか、そんなことにはまったくもってかまわずに、今日も少女は、クラスで一人、窓際の席に座って、本を読んでいました。
それは、少し怖い、怪談系のお話で、神様の持ち物を持って帰った若者が、神様の怒りを買い、身の回りに
変な現象が増えていく様を、本人の手記のように綴ったものでした。
「何読んでるの?」
気の強そうな、髪を一つに束ねた少女が、威圧的に聞きました。周りには、取り巻きの少女たちが、少し少女から目をそらすようにして少女のほうに顔を向けています。
ふいに声をかけられても、顔を上げずに少女は答えました。
「怪談の、小説。」
相も変わらずそのまつげが動き、字を追っているのに気付いた一つくくりの少女は、
「そうなんだー。その怪談って、こーんなことでも起こるかなー?」
がたんっ。ばささっ。
机を勢いよく蹴り上げ、かららとむなしく転がった机を一瞥すると、一つくくりの少女は、本に向かってぱぁんっっと平手で攻撃しました。
「やめてよ!」
少女は立ち上がり、その少し上からの視線を真っすぐに受け止めました。初めて少女が、自分の感情を表した瞬間でした。
一つくくりの少女は、一瞬ひるんだものの、嘲るような笑みを浮かべ、
「はーい、振りかぶってぇ~……投げましたっ!」
小さな文庫本は、くるくると回転しながら教室の隅に置いてあるゴミ箱に、ぼすっと音を立てて入りました。
「きゃはは!入った入ったー!」
少女は、一瞬かっと目を見開きましたが、次の瞬間、ばしっと一つくくりの少女のリボンをむしり取りました。
無言で、無表情で。
ゴミ箱に向かって、見事なフォームで投げました。
着地音は、ごみに吸収されて聞こえませんでした。
少女は、ゆっくりと、区切るように、
「私も、入れたよ。」
そういうと、犬歯を見せて、笑いました。
「おっ、お前……」
今や完全に無様な髪となった少女は、肩を怒らせてずんずんと少女の方へと進みました。
少女は、すっとしゃがむと、倒れていた机に手をかけて。
ばぁーーんっ!
叩きつけるように、元の位置と一ミリほども違わない場所へ、戻しました。
びくぅっと女子集団の肩が跳ねるのを見て、確かに少女は嗤いました。
そして、すたすたと一つくくりだった少女の横を通り抜け、ごみ箱からすっと本を取り上げ、何事もなかったかのように本を読み始めました。
「あんたっ!ふざけてんのっ!?この方はねっ、この学校の女子全員を仕切る、ライノ姉さんなんだよ!」
取り巻きの一人がばんっと机を叩きつけるようにして言いました。
「へえ……」
少女の赤い舌が、ちろりと覗いて、言いました。
「初めて知ったよ。」
「あんた、なめてんの!?」
余計にいらいらしたように取り巻きのもう一人が言います。
「なめてるわけじゃないけど……」
そこで本から目を上げて、恐ろしいような、凄絶な笑みを浮かべて言いました。
「今度読書の邪魔をしたら、許さないから。」
その鋭い眼光を、受け止めきれなかったライノと取り巻き達は、大急ぎで教室を出ていきました。
その日の放課後、少女は森へと向かいました。
自然に囲まれ、自然の空気を吸える、この場所が、少女は一番落ち着く場所でした。
(あんなふうに言うってことは、私のことが嫌いなのだろうか?それとも、理由もなしにそんなことをいっているのだろうか。)
少女は、鼻を鳴らしました。
「くだらない……。」
こんなふうに、どこか人とずれていて、それでいて恐ろしいような一面もまた、少女の一部なのでした。
(そんなことをして、何になるというのだろう。おまけに、『この学校の女子をしきる』だなんて。笑わせるね。そんなこと、何の役にも立たないじゃない。)
少女は、綺麗な花、小鳥の鳴き声を追って、少しずつ森の奥へと入っていきました。
この森の名前は、龍ガ森。龍が出ると、噂になっている森でした。
森の中に祠があるだの、水を操れるから、出てくるときには霧が出るだの、脈絡のない様々なうわさが飛び交っていました。
少女はそれを、小耳にはさんだ程度に聞いていました。
ただ、信じていたわけではなく、伝説と同じように考えていました。
(こんなにこの森、霧濃かったっけ……?)
不思議に思いながらも、龍の噂を思い出し、少し好奇心がわきました。
(龍ってやつを、見てみたい。)
少女は、森の奥へ奥へと、進んでいきました。
ふいに、視界が真っ白になりました。
(なんだこれ!なっ、何も見えない……)
濃い霧で、視界がホワイトアウトしたのです。
ミルクが垂れ込めているような真っ白な視界に、頭がくらっとなるのを抑えながら、近くにあった木に、手探りで寄りかかりました。
すると、霧がそこだけ壁があるかのように、よりついていない場所を見つけました。
金色の光がそこに差し込んできらきらと光っているさまは、神秘的であり、同時にどこか恐怖を感じるようでした。
ゆっくりとそこを目指して、少女は歩き始めました。
そこは、広場のようなところでした。
床の小さなタイルの隙間から、苔が生えていて、とても古いもののような気がしました。
何よりも、小さな祠と、その上に置いてある、精巧な彫り物の龍が宝玉を持っている像が目を引き、思わず少女はみとれました。
「綺麗……もしかしてここが、龍の祠?」
もっとよく見ようと、龍の置物を取り上げた――瞬間。
金色の光が、ぐああっと空高く上りました。
思わず少女は、目で追いました。
ほんの一瞬でも瞬きをすれば、はかなく消えてしまいそうな危うさが、光にはありました。
金色の光は、やがて龍のような姿をなし、また勢い良く置物に戻ってきました。
「きゃ……」
思わず少女はぎゅっと置物を抱きしめてしまいました。
そう、抱きしめてしまったのです。
勢いよく戻ってきた龍は、ゆっくりと少女の前の地面すれすれで止まり、今度は目にもとまらぬ速さで回り始めました。
「何、これ……」
恐いものなどないと思っている少女でも、未知のものは、やはり恐怖の対象でした。
「まわっ、てる……?」
金色の光は、まわりながら緩やかに形を変え、少年の姿をなし始めました。
そのとき、ひときわ大きな虹色の光が少年から発せられ、少女はぎゅうっと目をつぶりました。
光が収まったのが分かると、そろりと少女は目を開けました。
すると、そこに立っていたのは、いままでに見たこともないような、美少年でした。
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