表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/84

空戦演習-1

8月17日 1000時 エジプト カイロ西空軍基地


「では、皆さん、集まったようなので、ブリーフィングを始めます」

 エジプト空軍大尉、アフマド・アリー・シャリクがキーボードを操し、ブリーフィング用の資料をスクリーンに映し出した。カイロ西空軍基地を中心とした地図のようだ。

「本日の訓練は空対空戦闘。"ウォーバーズ"がレッドフォース。つまり、侵攻側を演じ、我々はそれを迎撃するというシナリオです。我々のラファールには空対空ミサイルの模擬弾と増槽を搭載しますが、"ウォーバーズ"の航空機には空対空ミサイルと増槽に加えてスタンドオフ兵器を搭載しているものとします」

 そこで、エジプト空軍のパイロットの一人が手を挙げた。

「"ウォーバーズ"の機体に搭載されているもの。つまり、地対空兵器は何だ?爆弾か?ミサイルか?」

「今回、バリス大佐からは最悪のシナリオを用意するように、とのお達しがありまして、レッドフォース側にはタウルスKEPD、AGM-158JASSM、DWS-39を搭載するとしています」

「おいおい」

「冗談だろ?」

「無茶言うなよ」

 次々とエジプト空軍のパイロットから不満の声が上がったが、それをサイード・バリス大佐が鶴の一声で鎮めた。

「いいか。我々は常に最悪の状況を考えねばならんのだ。まさか、ウガンダで先日起きたことを忘れた奴はいないだろうな」

 ウガンダでは、突如として現れた武装組織から空爆を受け、都市部が壊滅的な被害を被った。しかも、その組織は、大胆にもソマリアからケニア領空を突き抜け、ウガンダをJ-10BやF-16Cで攻撃した。ウガンダ空軍のSu-30MK2が迎撃に向かったものの、撃退に失敗したばかりか、全10機保有しているフランカーGのうち4機を撃墜され、1機が中破させられるという大損害を被った。このことは、ウガンダ国内でも大問題になっており、高価で高性能な戦闘機を運用することに、空軍の能力そのものが追いついていないのではないかという評価を内外から下されてしまう結果となっていた。そのため、現在、ウガンダは傭兵部隊を訓練のために招き入れ、更に中古の戦闘機を新たに導入することを模索しつつ、空軍の戦力立て直しを図っている。

「アフリカ諸国は、天然資源が豊富だが、それを狙って良からぬことを企てる連中はごまんといる。実際、そういう連中に対抗できなかった結果、半ば国の土地や資源を外からやってきた連中に半分奪われているような国もある。我々は、絶対にそのようなことだけは防がねばならんのだ。彼らに来てもらったのは、その計画の一環だ。以上、解散」


 8月17日 1100時 エジプト カイロ西空軍基地


 エプロンで次々と戦闘機のエンジンが回り始めた。エジプト空軍の戦闘機がラファールBとラファールCで統一されている一方で、"ウォーバーズ"の航空機は、F-15CやSu-35Sなど、様々な機体が混在している。


 傭兵部隊では、使用する兵器を、それぞれのメンバーが現役時代に慣れ親しんできたものをそのまま使わせるか、それとも機材転換訓練を受けさせ、統一してしまうかで、度々議論が交わされている。前者は、長年慣れたものであれば、新たに余分な訓練を受けさせる必要が無く、すぐに戦力化できるというもの、後者は、機材を統一してしまった方が、戦力化に多少は時間がかかっても、後々、部品補給や整備の面で楽になる、という意見だ。これは、今だに決着がつかない問題ではあるが、両者共に一長一短であり、どちらの方がやりやすいのかで、部隊によって判断が分かれている。そして、"ウォーバーズ"は前者を選んだタイプの組織だ。


『こちらカイロタワー。"バイソン1"離陸を許可する。"バイソン2"は誘導路で待機せよ』

「了解。"バイソン1"、離陸する」

 ドミンゴ・ヴェガがゆっくりとスロットルを前に倒し、KC-46Aを離陸滑走させた。この機体に乗っての本格演習は初めてとなる。

「V1・・・・・・・V2・・・・・・VR、機首上げ」

 KC-46Aペガサスは、極めてスムーズに離陸し、訓練空域へ向かって飛んでいく。そのすぐあとに、KC-10Aが滑走路に進入を始めた。誘導路では、20機近い数の戦闘機とAEWが列をなし、離陸を待っている。

『カイロタワーより"バイソン2"へ。離陸を許可する』

「"バイソン2"、離陸する」

 ジェリー・クルーガーは、離陸中、窓越しに地上の様子をちらりと見やった。スフィンクス国際空港と、滑走路を共用しているため、色とりどりの旅客機が駐機またはタキシングし、離着陸するのが見える。訓練空域は、ここから南西に行った砂漠の真ん中だ。万が一、事故に遭ったら、最悪、ミイラとなって数千年後の考古学者に発掘されることになる。勿論、そうならぬよう、今日の訓練を、無事、安全に完了させ、基地に帰還することに越したことは無い。

「カイロタワーへ。こちら"バイソン2"。これより、所定の空域へ向かう。到達後は、事前計画通りのルートで滞空する。以上」

『カイロタワーより"バイソン2"へ。飛行計画に変更があった場合は、逐一報告せよ』

「"バイソン1"了解」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ