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捕虜奪還作戦-5

 10月26日 0511時 スーダン 捕虜収容所


 グラント・ウォーマーズは矢継ぎ早に指示を出した。施設の電源が突如として全て落ちてしまい、あらゆる機能が喪失された。まだ日は昇っておらず、周囲は真っ暗だ。

「急げ!急げ!非常電源を作動させろ!」

「くそっ!一体、何処に何があるんだ!?」

「ダメだ!全く見えん!暗視装置を使え!」

 やがて、北の空の方から重低音が聞こえてきた。恐らく、エジプト空軍のヘリ部隊が飛来してきたのだろう。

「ヘリだ!」

「スティンガーは何処だ!?」

「くそっ!わからん!」

「早く持ってこい!全く、戦闘機は何をやっていたんだ!?」

 真っ暗な中で奔走する兵士たちに別の連中が襲い掛かった。エジプト空軍のAH-64Dアパッチ・ロングボウと"ウォーバーズ"のAH-64Eアパッチ・ガーディアンだ。30mmチェーンガンが吠え、歩兵が次々とミンチになった。そして、AGM-114Lヘルファイアが放たれ、装甲車が炎に包まれる。

「畜生!」

「くそっ!くそっ!」

 テロリストが自動小銃を上に向け、ヘリを撃ち落とそうと躍起になるが、頑丈な装甲板に守られたアパッチにとって、5.56mm弾は豆鉄砲の弾同然だった。逆に、30mm機関砲の弾を食らい、あっという間に細切れにされる。もはや、ウォーマーズの部隊に反撃する術は無いに等しい状態だった。


 ワン・シュウランは、独房の中で爆発音とヘリの音を聞いた。そして、遠くから銃声も聞こえてくる。味方が助けに来たのだ。そう思うと、アドレナリンが全身を走り、心拍数が上がるのを感じた。そして、目の前の看守がAKを手に、上を見てキョロキョロし始めた。

 今度は、独房がある建物に凄まじい衝撃が走った。それと同時に、何と、ワンが収容されている独房の格子扉の鍵が外れ、勢いよく開いた。その扉は開いた時、看守の頭に激しく衝突する。看守は頭から血を流し、自動小銃を取り落として、思わず地面に四つん這いになった。

 ワンはこのチャンスを見逃さなかった。今まで憔悴しきっていたのが嘘のようにワンの体は素早く動いた。頭を打ち、フラフラになっている看守の頭に、追撃のように蹴りを入れた。看守はたまらず気絶し、独房の床に横たわる。ワンは、AK-47を拾い上げ、看守の体をまさぐり、手に入れた3つの予備弾倉を、捕虜となった日からずっと着続けていた飛行服のポケットにねじ込む。

 あとは、敵に見つからないように逃げつつ、味方のヘリに拾って貰わねばならない。それから、味方に敵兵と勘違いされて撃たれたら元も子も無い。なので、ワンはできる限り身を隠しながら逃げなければならないと自分に言い聞かせた。


 10月26日 0516時 スーダン 捕虜収容所


 4機のAH-64Dアパッチが、テロリストの兵士を30mm機関砲で撃ち始めた。元々、軽装甲車を撃つために使われる巨大な弾丸は、人間をあっさりと真っ二つに引き裂く。上空では、味方の戦闘機が飛び、制空権をすっかり確保しているため、安心して敵を撃つことができる。但し、捕虜となっている味方を撃たないように注意するべきだ。そのため、パイロットとガナーは、極めて慎重に、ターゲットを見極めて引き金を引いていた。


 デイヴィッド・ベングリオンはアパッチ・ガーディアンをゆっくりと飛ばし、地上を走り回る人間を慎重に見ていた。敵兵と間違えて救出すべき捕虜を撃ってしまっては、元も子も無い。もし、ワン・シュウランを誤射してしまったら、それはもう一生もののトラウマになるに違いない。なので、自分たちに明らかに武器を向けている人間に標的を絞って攻撃していた。


 10月26日 0519時 スーダン 捕虜収容所


 グラント・ウォーマーズは暗視ゴーグルをかなぐり捨てた。そこら中て建物が燃えているため、ほぼ必要なくなってしまったからだ。ウォーマーズは怒りに燃えていた。折角スーダンまでやって来て、ここの天然資源を手中に収め、更にはエジプト南部の資源も手に入るところで、エジプト軍によるとんでもない妨害に遭った。

 たった今、部下から知らされた情報によると、航空基地もエジプトから放たれた弾道ミサイルで破壊されたらしい。畜生!ここで終わってなるものか!ウォーマーズは、怒りに任せてアサルトライフルのボルトを引いた。聞きなれた音と共に、7.62×39mm弾が、薬室から1発蹴り出され、弾倉から代わりの1発が薬室に入る。そして、後ろを振り返ると、一人の部下がブローニングM2重機関銃の銃座につき、空に向けて銃撃を始めた。アパッチをこれで撃墜できるとは思えないが、ブラックホークくらいならば、コックピットに直撃させることができれば撃墜できるかもしれない。だが、ハイドラ70ロケットが命中したのか、その部下は機関銃ごと爆発で吹き飛ばされた。

「畜生!こんなことで終わってたまるか!」

 ウォーマーズは走った。どうせ、今日、自分は死ぬだろう。だったら、死ぬ前に、奴らに少しでも一矢報いてやる!やがて、視界の端に、飛行服を着た人間を確かめた。

「逃がすものか!」

 ウォーマーズは、アサルトライフルを構え、そいつを追った。そいつはかなり足が速く、狙いが定まらない。ウォーマーズは再び銃をスリングで背負うと、逃げようとしている捕虜を走って追った。


 10月26日 0522時 スーダン 捕虜収容所


 HH-60Wヘリが、捕虜収容所を低空で飛んでいた。もうすっかり敵の抵抗は止み、銃声は聞こえてこない。エジプト空軍のヘリからは、捕虜を回収し、帰還するとの報告が次々と入ってきている。

 だが、自分たちは、まだ帰る訳にはいかない。ここに、撃墜されて捕まり、テロリストに不当な扱いを受けていたはずの仲間がいるはずなのだから。


「どうだ?見つけたか?」

 ブライアン・ニールセンがスト―クリー・ガードナーに訊いた。HH-60Wには、パイロット2名とクルーチーフの他、救難隊員のバック・コーエンとトーマス・ボーンが乗っている。二人はヘルメットと防弾チョッキ、自動小銃、拳銃で完全武装していた。

「ダメだ、見つからない」コーエンがニールセンに返す。

「よく探して!ここにいるはずよ!」副パイロットのキャシー・ゲイツが言い返す。ゲイツはヘリと操縦しつつも、地上を注意深く眺め、ワンを探していた。


 ワン・シュウランはヘリの音を聞いた。聞きなれた、H-60の羽音だ。ワンは一旦立ち止まり、ヘリの音をよく聞いて、ヘリがいる方向を確かめる。そして、右に向かって走り出した。真っすぐ行けば、ヘリに合流できるはずだ。


 ヘリの音を聞いたのは、ワンだけでは無かった。グラント・ウォーマーズもそうだった。ウォーマーズは銃を一層強く握り、その音が聞こえる方向へと向かった。こうなったら、ヘリだけでも落としてやる!もちろん、このFNCでそれができるはずは無いが、パイロットを撃つことが出来れば問題無い。ウォーマーズは、銃のストックを肩に押し付け、しっかりと構えて歩き出した。


「見つけた!いたぞ!」スト―クリー・ガードナーが叫んだ。

「何処だ!?」ニールセンが訊き返す。

「左だ!俺が指示するから、その通りに飛ばしてくれ!」

「わかった!」


 ガードナーの言う通り、ニールセンは飛行場の西側へとヘリと向かわせた。すぐに離脱するために、ヘリは地上から約15cmのところで浮いた状態でホバリングする。ガードナーとトーマス・ボーン、バック・コーエンが手を大きく振って、ワンに合図をする。ワンもこちらに気づいたのか、手を振って、こちらに走ってくる。ヘリまであと200m。ワンが全力で走り、ヘリのキャビンのドアのふちに手をかけたときだった。突如として、ワンの体から力が抜け、ヘリのキャビンに倒れ込む。そして、その背中には、7つの銃創が空いていた。

 トーマス・ボーンはすぐに反応した。そして、自動小銃を持つグラント・ウォーマーズが100m先に立っているのを見つけた。ボーンはヘリのミニガンにとり付き、発射ボタンを押す。毎分4000発の速度で7.62mmNATO弾が放たれ、ウォーマーズの体の腰から上が消滅する。ヘリは一気に上昇し、離脱を開始した。


 10月26日 0527時 スーダン上空


「"ウォーバード1"より"ゴッドアイ"へ。ヘリの離脱を確認」

『"ゴッドアイ"より"ウォーバード1"へ。基地までヘリの護衛を頼む』

「了解です、ボス」

 敵の戦闘機の姿は、レーダーでも目視でも確認できない。空は薄い青色になりつつあり、朝が到来しつつあるのがわかる。

『隊長、ブライアンの奴、ちゃんとシュウランを拾ったんだろうな?』ジェイソン・ヒラタが訊いた。

「そうじゃないと離陸しないだろ」

『だよな。取り敢えず、確認してみようぜ』

 確かにその通りだ。

「"ウォーバード1"より"パイソン2"へ。シュウランは救助できたか?」

 返事が無い。どういうことだ?佐藤は怪しんだ。

「"ウォーバード1"より"パイソン2"へ。シュウランを救出したんだろ?状況を知らせてくれ」

 しかし、ブライアン・ニールセンも、キャシー・ゲイツも、基地に帰り着くまで佐藤の呼びかけに返事をすることは無かった。  

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