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捕虜奪還作戦-3

 10月26日 0431時 スーダン北部 臨時飛行場


 グラント・ウォーマーズが建設させた臨時飛行場は、巨大なエプロンと3000メートルの滑走路、そして移動式の管制レーダーと防空兵器で成り立っていた。そして、エプロンのすぐ隣では、重機が置かれ、鉄筋コンクリート製の掩体壕の建設が始まっているところだった。

 そんな飛行場であったが、俄かに整備兵やパイロットが慌ただしく飛行場の中を駆け回り始めた。つい15分前、別の臨時飛行場が攻撃され、更に、北部を警戒飛行していたKJ-200早期警戒機が撃墜され、レーダーサイトが爆撃されたとの知らせが入ったばかりだった。


 ここにある戦闘機は多種多様だった。Su-30MKやミラージュ2000、F-16CM、Su-27。そのうち、アラート待機に入っていた6機のSu-27SMが滑走路へ向かい、2機が真っ暗な夜空にアフターバーナーの航跡を引きながら離陸していく。

 エプロンでは、次々とAUPが回る音が鳴り、一部の戦闘機はまだ燃料と弾薬の搭載を受けている最中だ。おまけに、これらの機体は翌日、エジプトの南部を空爆するために、パイロンにはボムラックを多く搭載させ、空対空ミサイルのランチャーを取り付けている機体は少なかった。

 最初、テロリストの整備兵たちは、迎撃のためにボムラックを空対空ミサイル用のランチャーレールに取り換え、できるだけ多くの空対空ミサイルを搭載させようとしたが、基地司令官は、とにかく出撃させろと命令した。そのため、短距離空対空ミサイルを2発だけ搭載して出撃する機体がほとんどだった。


「畜生!なんでもいいからミサイルを搭載させるんだ!そこのスパローとR-77は放っておけ!パイソンとR-73だけでいい!」

 5人の整備兵がR-73を抱えて持ってきた。急ぐ必要があるとはいえ、それでも重さ100kgを超えるミサイルを人力で運ぶのは至難の業だ。ここで、思わぬ問題が起きた。灯火管制が敷かれていて、基地全体の照明が最低限しか点いておらず、ほとんど真っ暗に近い状態だったこともあり、整備兵のうちシーカーの方を持っていた男が、足元にあった、タンクローリーからSu-27P1Mにケロシンをどんどん送り込んでいる太いホースにつまずいてしまった。その男は、背中から仰向きに倒れ、更に、コンクリートの地面に頭を強く叩きつけられて気絶した。その結果、ミサイルを支えていた人間のバランスが崩れ、R-73が地面に転がる。更に悪いことに、他の4人の整備兵もこの時に手を滑らせ、その結果、ミサイルは前方に滑るように落ち、シーカー部分が気絶した男の胸部に叩きつけられ、そいつの肋骨を砕き、肺と心臓を押し潰した。

 4人の整備兵は、慌ててミサイルをどかそうとしたが、無駄だった。ミサイルの下敷きになった男は即死し、更に、ミサイルのシーカー部分のガラスカバーが粉々に砕ける。

「くそっ!くそっ!」

「はやくそれをどけろ!」


 10月26日 0436時 エジプト南部上空


 スーダンとの国境に沿って、10機の輸送機が飛行していた。"ウォーバーズ"のKC-130RとC-17A、そしてエジプト空軍のC-130Hだ。この10機は、エジプト空軍のF-16Cの護衛を伴ってスーダン国境から300km北、高度7000mの空域を飛んでいた。


「よし、投下まであと15分だ!」

 C-17Aのカーゴマスターであるスティーヴン・コールが右手を挙げた。コールの相棒である、クリスティーン・ミッチェルが、積まれている荷物を丹念に点検している。

 この荷物はラピッド・ドラゴンと呼ばれている代物で、簡易式のミサイルランチャーだ。これは、AGM-158B JASSM-ER巡航ミサイルを投下するランチャーである。

 12機の輸送機は、スーダンに配備されている防空兵器の射程外からJASSM-ERをばら撒き、それが終わったら、エジプト北部の安全な空域までとんずらするということになっている。

「投下まで15分!」

「スティーブ、気を付けて!カーゴランプを下げるわよ!」

 コールは、改めて、自分の体と輸送機の床のフックを引っかけるハードポイントを繋いでいるモンキーハーネスを確認し、ミッチェルに親指を立てて見せる。

『投下10分前だ!』

 機内無線から聞こえてきた、機長のハワード・コーベンの声と共に、ミッチェルはカーゴランプの操作ボタンを押した。ジリジリジリジリとけたたましい警報が鳴り、ゆっくりと開き、凄まじい風が機内に吹き込んできた。その下には、月明かりに照らされた、くらい夜空が広がっている。分厚い防寒服を着ていなければ、コールもミッチェルも、あっという間に凍えてしまっていただろう。

 ミッチェルとコールは、荷物を投下するまでの最終チェックを終えた。ラピット・ドラゴンにもJASSM-ERにも、異常は無い。ミッチェルは、パレットを輸送機の貨物室の床に止めているブレーキパッドに手をかけた。そして、C-17Aがやや機種を上げながら旋回し、やや上昇気味の姿勢をとった。

『投下5分前!』

 C-17Aが、投下ポイントに向けて、ややエンジンの出力を上げたのか、貨物室から聞こえるエンジン音のピッチが変わる。

 ミッチェルとコールは、再度、モンキー・ハーネスの固定位置を確認した。フックは、ラピッドドラゴンを載せたパレットから見て、機体前方の位置に固定してある。そうしておかないと、ラピッドドラゴンをリリースした時に、落下するミサイルランチャーがモンキーハーネスを巻き込み、カーゴマスターを機外に放り出されることになってしまうだろう。

『投下10秒前!・・・・・5、4、3、2、1、投下!』

ミッチェルがカーゴパレットのリリースレバーを引いた。ゴーッという音と共に、ラピッドドラゴンが次々と虚空へと滑り出していく。

全てのランチャーが投下されたのを確認したミッチェルは、すぐにカーゴドアを閉めるボタンを押す。

「ジョン!荷物のお届けは終わりよ!早く帰りましょう!」

『よしきた!』


 ジョン・グラントは、C-17Aのエンジン出力を上げ、北に向けて飛行機を飛ばす。空は、まだ真っ暗で、外の様子はほとんど伺い知ることはできない。

 グラントは、ちらりと自己防衛システムの状態を表示している多機能ディスプレイを見た。今のところ、対空ミサイルや戦闘機のレーダーに捕まった様子は無い。

 もちろん、AMRAAMとサイドワインダー、HARMで武装したエジプト空軍のF-16が護衛についてはいるものの、やはり油断はできない。

 窓の外を見ると、護衛しているF-16のパイロットの姿が見えた。エジプト空軍のパイロットも、グラントに気づいたのか、安心させるかのように軽く翼を振って見せた。敵に傍受され、戦闘機や防空ミサイルに捕まるのを防ぐため、無線の使用は最小限に抑えるよう命令されていた。

 

 10月26日 0440時 スーダン国内上空


 輸送機から投下されたラピッドドラゴンは、パラシュートを開き、垂直の姿勢になってゆっくりと空を漂い始めた。そして、それぞれのランチャーからAGM-158B JASSM-ERがスルスルと滑り落ちる。そして、放たれたミサイルは、予めインプットされた標的へ向けて飛んで行った。


 10月26日 0447時 スーダン北部 臨時飛行場


 武装組織の飛行場は大混乱に陥っていた。それも、攻撃された訳では無く、一人の整備兵が転んでミサイルの下敷きになって死んだことにより、戦闘機を全く出撃させることが出来なくなっていた。

 基地の司令官は、早くミサイルと死体を退けろとガミガミと怒鳴りつけたが、そうしたところで、事態が好転する訳は無い。

 やがて、甲高い風切り音が聞こえてきた。何事か、と一人の警備兵が空を見上げる。ロシア人の兵士が、戦闘機が低空飛行して空爆しに来たと判断し、近くにあったトラックの荷台の中を見る。しかし、そこに目当てのものは無かったのか、その隣のトラックの荷台を見る。そこに目当てである、スティンガーミサイルが入ったコンテナを見つけた。兵士は大急ぎでそのコンテナを開け、記録的な速さでバッテリーを取り付け、肩に担ぐ。そして、ランチャーを北の方に向けた。


 勿論、この基地に向かっているのは、エジプト空軍のF-16でもラファールでも無く、JASSM-ERだった。やがて、甲高い音と共にJASSM-ERが落下し、エンジンを回して離陸準備をしていたSu-30MKが入っていた掩体壕を直撃した。ミサイルの爆発に巻き込まれ、パイロットと整備兵が死亡し、更に、飛び散った金属片が、タキシング中のMiG-35Sを直撃する。

 基地にいた要員は、最初、戦闘機が空爆しに来たと判断し、MANPADを構えたが、ミサイルのシーカーは当然ながら、何も捉えることはできずにいる。その間にも、巡航ミサイルが次々と着弾し、滑走路を穴だらけにして、掩体壕ごと戦闘機を破壊し、弾薬庫や燃料タンクを焼き払う。

 ウォーマーズの組織が2ヶ月以上かけて建設した臨時飛行場は、僅か20分程で完全に破壊され、基地そのものが"消滅"してしまった。  

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